全寮制男子高校 短編集

天気

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副会長と不良

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廊下の向こう。
昼休み。
人の流れの中で、
あいつだけがやけに整って見える。

背筋が伸びて、
歩幅が一定。
周りがざわついていても、
あの人だけ、音がない。

(……生徒会って、そんなに暇なのか)

自分でも、
見ている理由が分からなかった。

見つからないように、
柱の影に立つ。

俺が隠れる側になるなんて、
笑えない。

「――衛藤くん」

……気づくの早すぎだろ。

振り返ると、
案の定、眼鏡越しに視線が合った。

逃げるのも癪で、
そのまま歩み寄る。

「また巡回か」

「業務の一環です」

律儀だな。

「で、今日は何だ。
ネクタイか? シャツか?」

「……」

一瞬、困った顔をした。

それだけで、
俺の勝ちだと思った。

「今日は」

千早は、
一度だけ、俺の足元を見た。

「靴下が、違いますね。白か黒だとお願いしてますが。」

「細けぇな」

「よく言われます」

またそれか。

でも。

前よりも、
返しが柔らかい気がした。

「直す気、ねぇ」

「でしょうね」

即答かよ。

「ですが」

千早は、
少しだけ声を落とした。

「体育館裏に行くなら、
今は生徒会の教員が来ます」

俺のこの後、どう行動するのか見透かされてる。
遠回しな助言。

しばらく黙ってから、
理解した。

(……逃がしたな、これ)

「副会長」

「皇です」

初めて、
はっきり訂正された。

名前。

「皇」

呼んでみる。

千早の肩が、
ほんの少し揺れた。

「……はい」

声が、低くなった。

(……あ、これ)

触れちゃいけないとこだ。

でも、
引く気はなかった。

「真面目だな」

「それは褒め言葉でしょうか」

「さあな」

正直、分からない。

ただ。

一緒にいると、
妙に落ち着く。

喧嘩腰にならない。
虚勢を張らなくていい。

「なあ」

気づいたら、
呼び止めていた。

「はい」

「……なんで、俺に構う」

千早は、
少し考えた。

すぐ答えないのが、
この人の癖らしい。

「…なんとなく、気分ですかね。」

「なんだそりゃ」

問い詰めるつもりはなかった。
ただ、知りたかった。

「……」

眼鏡の奥で、
視線が揺れる。

「…それに、規則を破っている生徒を見て、注意しない訳にも行きませんし。」

一瞬視線をずらした。

「何か理由がなければいけませんか」

静かな声。

逃げ場を与えない言い方。

「別に」

そう答えて、胸の奥がざわついた。

「では、失礼します」

去っていく背中。

気づいた。

俺は今、
“また会う前提”で、
この人を見送っている。

(……まずいな)

不良の一匹狼が、
生徒会副会長を気にしてる。

笑えない。

なのに。

次に会うのが、
少しだけ楽しみだと思った。

それが、
引き返せない一歩だとも、
知らないまま。






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