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20.
次の日の昼。
いつも通り、部屋に昼食が運ばれてくる――はずだった。
だが。
今日は、少し違った。
テーブルの上。
並べられた皿は――二人分。
横並びに、きちんと用意されている。
「……?」
エアリスはそれを見て、わずかに首を傾げた。
視線が、皿と椅子を行き来する。
(……ふたつ)
戸惑いながらも、とりあえず席に着く。
その瞬間。
コン、と軽く扉が叩かれ――
「入るぞ」
聞き慣れた声。
カイゼルが、そのまま部屋に入ってきた。
エアリスの目が、ぱちぱちと瞬く。
「……」
言葉が出ない代わりに、驚きがそのまま表情に出ている。
「一緒に食べるぞ」
当たり前のように言いながら、向かいではなく――
隣に座る。
「……!」
エアリスの肩が、わずかに揺れる。
距離が近い。
だが、逃げはしない。
ただ、少し緊張したように姿勢を正す。
「……食べろ」
短く促される。
エアリスはこくりと頷き、スプーンを取った。
静かな食事が始まる。
食器の触れ合う音だけが、部屋に響く。
カイゼルは迷いなく食べ進める。
量も多い。
動きも早い。
対して、エアリスはゆっくりだ。
一口一口、確かめるように食べる。
量も、少ない。
やがて――
カイゼルが先に食べ終える。
カトラリーを置く。
それから。
隣へ、視線を向けた。
エアリスはまだ半分ほど。
だが。
手が止まりかけている。
「……」
(やはり、ここか)
黙って様子を見る。
スプーンが動かない。
視線が少しだけ下がる。
「エアリス」
低く、名を呼ぶ。
びくり、と肩が揺れる。
「もう食べないのか」
視線が揺れる。
少しの間。
それから――
こくん、と頷く。
(……変わっていないな)
量は、以前と同じ。
いや、それ以下かもしれない。
カイゼルは一瞬だけ考える。
それから。
「……食べないと、うまく魔法は使えない」
ぽつりと落とす。
「!」
エアリスの顔が、はっと上がる。
目が、明らかに反応した。
(……やはり、そこか)
カイゼルは内心で確信する。
「魔力は体力に依存する」
淡々と続ける。
「食事を取らなければ、制御も安定しない」
嘘ではない。
だが――
言い方は、選んでいる。
エアリスはじっとカイゼルを見る。
それから、少しだけ視線を落とす。
考える。
「……どれが好きだった」
不意に問う。
エアリスは少し驚いたように瞬く。
それから、そっと手を動かし――
スープを指さした。
「そうか」
カイゼルは頷く。
「では、スープは完食できるか?」
「……」
少しの間。
迷い。
それでも――
こくり、と頷いた。
「よし」
短く言う。
「ゆっくりでいい。食べろ」
命令ではない。
だが、逃げ場もない。
エアリスはスプーンを取る。
もう一度、スープを口に運ぶ。
一口。
また一口。
さっきよりも、ほんの少しだけ意識している。
カイゼルは何も言わない。
ただ、隣で見ている。
急かさない。
止めもしない。
ただ、そこにいる。
やがて。
器の底が、見え始める。
あと、少し。
だが――
ぴたり、と手が止まる。
「……」
スプーンが動かない。
呼吸が、少し浅い。
(……ここが限界か)
カイゼルは静かに見ていた。
無理に進ませる気はない。
「もう無理か」
穏やかに問う。
エアリスは少しだけ間を置いて――
こくり、と頷く。
「……そうか」
責めない。
失望も、ない。
「今日はここまでにしよう」
静かに言う。
「少しずつでいい。量を増やしていけ」
エアリスは顔を上げる。
それから――
こくこく、と頷く。
さっきよりも、少しだけはっきりと。
「……」
カイゼルはそれを見て、ふっと息を吐く。
そして。
無意識に、手が動いた。
ぽん、と。
軽く、頭に触れる。
「……っ」
エアリスの肩が揺れる。
だが、今度は逃げない。
驚いたまま、少しだけ見上げる。
カイゼルは気にした様子もなく手を離す。
「悪くない」
ぽつりと、それだけ言った。
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