声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気

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ーー戦場。

騎士の剣が振るわれている。

だが――

切っても、切っても。

前から、次々と迫ってくる魔物。

息が荒い。

足が重い。

誰の目にも、疲労の色が浮かんでいた。

カイゼルも、それに気づく。

(……押されているな)

だが、退くわけにはいかない。

ここが崩れれば――その先は王都だ。

「守り抜くぞ!!!」

張り裂けるような声が、夜の戦場に響く。

「「「おう!!!」」」

騎士たちが応える。

その声だけで、まだ折れていないことが分かる。

その瞬間――

カイゼルへ、一気に五体の魔物が飛びかかる。

(来るか)

迷いはない。

踏み込み。

三体を、一息で斬り伏せる。

返す刃。

身を翻す――が。

(……っ)

避けきれない。

一体の爪が、左肩を掠める。

鎧ごと、肉に食い込む感触。

「……っ!」

熱が走る。

遅れて、鋭い痛み。

だが。

止まらない。

そのまま、残りの二体も斬り伏せる。

「カイゼル様!肩が……!」

近くの騎士が叫ぶ。

「問題ない、集中しろ!」

即座に返す。

痛みはある。

動かせば、確かに響く。

じんわりと、熱が広がっていく。

だが――

(この程度で、止まるか)

視線を前へ戻す。

その時。

――ふわり、と。

暗い戦場を照らすように。

淡い光が、広がった。

「……っ⁉︎」

誰かが息を呑む。

光は、一点ではない。

じわり、と広がり。

騎士たち一人一人を、包み込むように降りてくる。

薄く。

だが、確かに。

身体の周囲を覆う光。

暗闇の中だからこそ、分かる。

「なんだ……!?」

「おい!今の攻撃――!」

魔物の爪が、弾かれる。

牙が、逸れる。

確実に届くはずの一撃が、通らない。

「魔物を弾いたぞ!!」

「……これは、この間の……!」

ざわめきが広がる。

だが、カイゼルは違った。

「……」

何も言わず、ただその光を見る。

自分の周囲にも、同じように張られている。

左肩。

先ほど傷ついた場所。

そこにも、やわらかく光が重なる。

(……間違いない)

理解する。

(エアリス、か)

確信に変わる。

「行くぞ!」

剣を構える。

声が、再び戦場を引き締める。

「押し返す!!」

「「「おお!!!」」」

騎士たちが応える。

動きが変わる。

先ほどまで押されていた流れが――

止まる。

そして。

押し返す。

見えない守りに、支えられながら。




――その頃。

部屋。

――ふわり、と。

エアリスの周囲の空気が、わずかに揺れた。

ナートの目が、ぴくりと動く。

「……?」

何かを感じる。

だが、まだ掴めない。

視線を向ける。

エアリスは、椅子に座ったまま。

ぎゅっと目を閉じている。

呼吸が浅い。

苦しそうに、胸が上下している。

「……エアリス様?」

声をかける。

返事はない。

ただ――

「……かい、ぜる……さま」

「!?」

ナートの目が、大きく見開かれる。

確かに、聞こえた。

微かに。

絞り出すような声。

この部屋には、二人しかいない。

(まさか……!?)

すぐに動く。

椅子の前に膝をつき、エアリスの顔を覗き込む。

「エアリス様!」

顔は青い。

だが――

口が、わずかに動く。

「……い、や……」

かすれた声。

「……いた、い……」

「っ……!」

ナートの息が詰まる。

確かに。

今、声を出した。

今まで一度も出せなかった声を。

その瞬間。

――ふわり、と。

エアリスの身体が、淡く光る。

やさしい光。

だが、確かな力。

ナートの目が、それを捉える。

(……間違い、ない)

確信する。

(これ、エアリス様の力だ)

ぞくり、と背筋が震える。

恐れではない。

驚きと、確信。

そして――

ほんの少しの、畏れ。

目の前にいる存在が、

自分の知っている“弱い貴族の令息”ではないと、

はっきり分かってしまったから。

「……エアリス様」

小さく呼ぶ。

だが、届かない。

エアリスはまだ、目を閉じたまま。

ただひたすらに――

誰かを、守ろうとしている。









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