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28.
ーー戦場。
騎士の剣が振るわれている。
だが――
切っても、切っても。
前から、次々と迫ってくる魔物。
息が荒い。
足が重い。
誰の目にも、疲労の色が浮かんでいた。
カイゼルも、それに気づく。
(……押されているな)
だが、退くわけにはいかない。
ここが崩れれば――その先は王都だ。
「守り抜くぞ!!!」
張り裂けるような声が、夜の戦場に響く。
「「「おう!!!」」」
騎士たちが応える。
その声だけで、まだ折れていないことが分かる。
その瞬間――
カイゼルへ、一気に五体の魔物が飛びかかる。
(来るか)
迷いはない。
踏み込み。
三体を、一息で斬り伏せる。
返す刃。
身を翻す――が。
(……っ)
避けきれない。
一体の爪が、左肩を掠める。
鎧ごと、肉に食い込む感触。
「……っ!」
熱が走る。
遅れて、鋭い痛み。
だが。
止まらない。
そのまま、残りの二体も斬り伏せる。
「カイゼル様!肩が……!」
近くの騎士が叫ぶ。
「問題ない、集中しろ!」
即座に返す。
痛みはある。
動かせば、確かに響く。
じんわりと、熱が広がっていく。
だが――
(この程度で、止まるか)
視線を前へ戻す。
その時。
――ふわり、と。
暗い戦場を照らすように。
淡い光が、広がった。
「……っ⁉︎」
誰かが息を呑む。
光は、一点ではない。
じわり、と広がり。
騎士たち一人一人を、包み込むように降りてくる。
薄く。
だが、確かに。
身体の周囲を覆う光。
暗闇の中だからこそ、分かる。
「なんだ……!?」
「おい!今の攻撃――!」
魔物の爪が、弾かれる。
牙が、逸れる。
確実に届くはずの一撃が、通らない。
「魔物を弾いたぞ!!」
「……これは、この間の……!」
ざわめきが広がる。
だが、カイゼルは違った。
「……」
何も言わず、ただその光を見る。
自分の周囲にも、同じように張られている。
左肩。
先ほど傷ついた場所。
そこにも、やわらかく光が重なる。
(……間違いない)
理解する。
(エアリス、か)
確信に変わる。
「行くぞ!」
剣を構える。
声が、再び戦場を引き締める。
「押し返す!!」
「「「おお!!!」」」
騎士たちが応える。
動きが変わる。
先ほどまで押されていた流れが――
止まる。
そして。
押し返す。
見えない守りに、支えられながら。
⸻
――その頃。
部屋。
――ふわり、と。
エアリスの周囲の空気が、わずかに揺れた。
ナートの目が、ぴくりと動く。
「……?」
何かを感じる。
だが、まだ掴めない。
視線を向ける。
エアリスは、椅子に座ったまま。
ぎゅっと目を閉じている。
呼吸が浅い。
苦しそうに、胸が上下している。
「……エアリス様?」
声をかける。
返事はない。
ただ――
「……かい、ぜる……さま」
「!?」
ナートの目が、大きく見開かれる。
確かに、聞こえた。
微かに。
絞り出すような声。
この部屋には、二人しかいない。
(まさか……!?)
すぐに動く。
椅子の前に膝をつき、エアリスの顔を覗き込む。
「エアリス様!」
顔は青い。
だが――
口が、わずかに動く。
「……い、や……」
かすれた声。
「……いた、い……」
「っ……!」
ナートの息が詰まる。
確かに。
今、声を出した。
今まで一度も出せなかった声を。
その瞬間。
――ふわり、と。
エアリスの身体が、淡く光る。
やさしい光。
だが、確かな力。
ナートの目が、それを捉える。
(……間違い、ない)
確信する。
(これ、エアリス様の力だ)
ぞくり、と背筋が震える。
恐れではない。
驚きと、確信。
そして――
ほんの少しの、畏れ。
目の前にいる存在が、
自分の知っている“弱い貴族の令息”ではないと、
はっきり分かってしまったから。
「……エアリス様」
小さく呼ぶ。
だが、届かない。
エアリスはまだ、目を閉じたまま。
ただひたすらに――
誰かを、守ろうとしている。
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