声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気

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扉が、勢いよく開かれる。

「エアリス!!」

荒い息。

鎧のまま。

雪と血をまとったまま。

カイゼルが部屋へ踏み込む。

その視線は、一直線にベッドへ向かう。

「カイゼル様……」

ナートが声をかけるが――

届いていない。

カイゼルは、そのままエアリスの元へ。

ベッドの傍に立つ。

視線が、落ちる。

眠るエアリス。

顔色は悪い。

呼吸は浅い。

「……」

一瞬だけ。

ほんの一瞬だけ、表情が歪む。

だが、すぐに押し殺す。

「何があった」

低く、抑えた声。

ナートへ向けられる。

「……窓から外を見てて」

ナートが説明を始める。

「暗いのは怖いね、って話してて……」

そして、紙を差し出す。

「これ、エアリス様が書いたやつです」

カイゼルは、それを受け取る。

視線を落とす。

『くらい こわい』

『くらい みえない まものみえる?』

『よる あぶない かいぜるさま』

『いたい いや』

「……」

最後の文字で、指が止まる。

ほんの僅かに、強く握る。

だが、何も言わない。

「そのあと、目をぎゅっと瞑って……」

ナートの声が続く。

「しばらくして、『かい、ぜう、ま』って聞こえて」

「……」

空気が、変わる。

カイゼルの視線が、ゆっくりとナートへ向く。

「まさかと思って顔を覗き込んだら……」

ナートの声も、少しだけ低くなる。

「口、動かしてて」

一拍。

「『いや』『いたい』って、声出してました」

「……声を、出した?」

静かに問う。

「はい」

迷いのない返答。

「俺も驚いたんですけど、確かです」

「……」

カイゼルの視線が、再びエアリスへ落ちる。

眠っている。

何も知らない顔で。

額に、そっと手を当てる。

「……っ」

熱い。

明らかに異常な熱。

(……無茶をしたな)

奥歯を噛む。

そのまま、低く呟く。

「戦場で――騎士一人一人に結界が張られた」

ナートの目が見開かれる。

「皆、淡い光に包まれていた」

「!それって……」

ナートの声が震える。

「……ああ」

カイゼルは、迷わず言う。

「流石に、二回目ともなると――エアリスの力だろう」

沈黙。

部屋の空気が、重くなる。

ナートは、ベッドのエアリスを見る。

(……やっぱり)

分かっていた。

でも、確定すると――重みが違う。

「……」

カイゼルは何も言わない。

ただ、エアリスを見ている。

その細い体。

小さな手。

かすかな呼吸。

(……こんな身体で)

戦場全体を守った。

自分も含めて。

「……何してるんだ」

ぽつり、と零れる。

怒りのようで。

違う。

責めるようで。

違う。

感情が、混ざっている。

「……」

手が、無意識に動く。

エアリスの手を取る。

熱い。

だが、ほんの少しだけ力を込める。

逃げないように。

「……」

何か言いたい。

だが、言葉にならない。

代わりに。

親指で、そっと指先をなぞる。

「……使うなと、言ったはずだ」

低い声。

だが。

そこにあるのは命令ではない。

後悔と、焦り。

「……」

目を伏せる。

(守ると言ったのは、俺だ)

(なのに――)

拳が、わずかに強く握られる。

「……」

しばらくして。

小さく、息を吐く。

そして。

もう一度、エアリスを見る。

さっきよりも、少しだけ静かな目で。

「……休め」

届かないと分かっていても。

そう言わずにはいられなかった。






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