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第三十四話 『鬼の棲む寺』
【輝夜】
寂れた右京の端の、うらぶれた邸に到着した。
わたしの突然の訪問に、遠い縁戚である男はうろたえた。
牛車があるにもかかわらず居留守を使おうとしたので、洛中にいられなくなりますよと、家人を脅すとようやく姿を現した。
まるで疫病神に憑りつかれたかのような顔色で、これから出かけるところで、と言い訳をする。
「人の手配はいりません。牛車二台と人数分の衣の用意をすれば、あなたの望みはかなうでしょう」
と、告げると、神の宣託でも受けたかのように興奮し、ショウリョウバッタのように何度も頭を下げ、そそくさと段取りをつけた。
一方、ついて来た女房や従者たちに着替えるように伝えると、一人残らず蒼白になった。
あらためて疫病神に仕えていたのだということを思い出したに違いない。
今日の、この邸の主人の狼狽ぶりも、不安に拍車をかける。
すがるように行き先を尋ねる女房二人に、
「写経の奉納ですよ」
と、言い捨て、一人で車宿りに向かった。
この邸の主人、敏次は地下(じげ)であるから、お顔は存じ上げまいが、親王様には念のため牛車に残っていただいていたのだ。
親王様は退屈そうにお待ちになっていた。
御身分にそぐわぬ安価な衣をお見せして、
「お忍びで洛外にお出でになりませんか」
と、ご提案すると、喜びを隠しきれぬご様子で、行き先を、お尋ねになった。
「千丈ヶ嶽を根城にする、鬼に会いに行くのです」
と、お伝えすると、怯えるでもなく、お顔を輝かされた。
そのお姿を見て、わたしが取ろうとしている行動が起こしかねない波紋と、この先ずっと親王様をお守りできるのだろうかという不安を一刻とは言え忘れることが出来た。
*
目的と行き先を聞いて怯える女房達をなだめ、牛車に乗り込んだものの、とうのわたしが不安になった。
先日とは道が違うように思えたのだ。
昼間と黄昏時の違いだろうと自らに言い聞かせた。
山賊どもは、先日、義守が退治してくれたばかりなのだから、と。
空には鷹らしき姿もある。
それを見て、義守は今、何をしているだろうと想った。
山を登っていく途中の川で、物見を開け放ち、二尺はあろう何とも奇妙な生き物を見た。
国司の娘として越前国に下向したことがある女房によると、山椒魚と言う名だという。
足もついており、とても魚には見えなかった。
しかも気味が悪い。
だが、親王様は女房を質問攻めにした。
何もかもが新鮮だった。
そもそも、我々は外出することさえ稀だ。
男であっても、殿上人ともなると都の外に一歩も出ぬまま一生を終える者もいる。
山頂へ向かう、つづら折りの道は思った以上に整備されていた。
それでも、山頂に近づくにつれ、勾配はきつくなる。
たどり着くことが出来るのだろうかと心配になったあたりで、身なりの貧しい男どもが大勢待っていた。
思わず悲鳴をあげそうになった。
女房が、車副に問うと、牛車を押して報酬を得ようという人足だと答える。
民とは案外逞しいものだと知った。
そうでもなければ生きていけないのだろうとも。
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