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第四十二話 『子守唄』
【酒呑童子】
若君が、義守にまとわりついていた。
先ほどの力比べが、よほど気に入ったようだ。
義守に勝負を挑んでいる。
困惑気味の義守を横目に、姫が襟元から勾玉を引きだし胸もとに飾った。
まるで褒美をもらった女童が自慢したくてたまらぬように。
いまどきそのようなものを、これ見よがしにぶら下げているのは、腕に自信のない呪術師ぐらいだ。
違うのは、その価値であろう。
言葉に表せば、たちまち陳腐な物に成り下がる。
この世のものとは思えぬほど透き通った花緑青色。
凛としたその美しさは、目の前の姫君を思わせる。
「その珠玉は、何ぞいわれのある物ですかな」
そう問いかけると、姫君が輝くばかりの笑顔を見せた。
背を向けている義守にそっと目をやり、恥ずかしげにうつむいた。
「……借りているのです」
うって変わって、おなごの顔になった。
つまりは、誰かにそれを知って欲しかったのだ。
意外な言葉に、義守と呼ばれている若い男に目をやった。
「見かけによらず……おなごの頼みに弱いか」
そう口にすると、うろたえたのちに、
「わたしは涙で殿方を籠絡するようなおなごではありません」
と、柳眉を逆立てたあげく、何かを思い出したかのように黙り込んだ。
酒が入っているとはいえ、忙しい姫君だ。
もっとも、そのあわてぶりが、それに近いことがあったと告白しているも同然だったが。
この珠玉が、あの男を守っているのだろうか。
わしの法力は力に特化している。
まわりが霊験あらたかと吹聴しているだけで、占いの類は、からきしである。
それでも霊力のある無しぐらいはわかる。
その珠玉が、ただの勾玉でないことは一目でわかった。
確かに今は、ただの勾玉かもしれない。
だが、かつて、あの珠玉はとてつもない力を持っていたはずだ。
【輝夜】
「わたしとは戦えぬのか」
親王様が、眠そうな目をこすられながらも義守に詰め寄られている。
むずがられておられる。
普段は素直な方だが、時にこのような事がある。
皆が楽しくやっている時に眠気が襲ってきた時だ。
皆と一緒に楽しみたいからだろうが、それだけではあるまい。
うがった見方かもしれないが、頼るべき母后や叔母御が次々とこの世を去ったこともあろう。
幼い親王様の前で、お二方は二度と目を覚まさなかったのだ。
そのお姿を見て以降、眠ることに恐れを抱いていらっしゃるのではないか。
「さてさて、勇敢なる若君の挑戦とあらば、わたしは、いつでもお受けいたしますぞ」
酒呑童子は、義守の様子をうかがい、親王様を、その大きな手でひょいと抱き上げ、ゆるりと揺らした。
そして、子守唄を口ずさみ始めた。
見かけとの落差は言うにおよばず、その哀愁を含んだ朗々と響く声に魅了された。
義守は黙って見ている。
「寝入れ 寝入れ 小法師 縁の 縁の下に むく犬の候ぞ
梅の木の下には 目きららのさぶらふぞ ねんねん法師に緒をつけて
ろろ法師に引かせう ろろ法師に緒をつけて ねんねん法師に引かせう
御乳母は何処ぞ 道々の小川へ 襁褓濯(むつきすま)しに
ねんねんねんねん ろろろろろ」
※ 引用 祥伝社『「子守唄」の謎』
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