あさきゆめみし

八神真哉

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第八十一話  『封印』


【酒呑童子】

――這い出た死霊、悪鬼、物の怪どもは、雲や風に乗り、内裏のある洛中に向かって飛んでいく。

だが、先頭を行く、死霊どもは、その上空で何かにぶち当たったかのように消え失せた。
続いて飛んで行った悪鬼、物の怪どもも、見えない壁に跳ね飛ばされ回転しながら消えていった。

役職に胡坐をかいている宮廷陰陽師あたりにできる芸当ではない。
どうやら、一度、手合わせをしたいと思っていた、あの男が出張ってきたようだ。

だが、ひとたび黄泉の国の扉が開けば、稀代の陰陽師と呼ばれる男と言えど、なすすべもあるまい。
未曾有の呪力を持つ荒覇吐様でさえ制御できなかったのだ。

あれから、おおよそ四百年。
大きな飢饉に見舞われることもなく、荒覇吐様が残した広大な耕作地で収穫も上がり、暮らしも楽になったと聞く。

それにもかかわらず、民の数は当時と変わりがない。
つまり、あの戦いで、それほど多くの民の命が失われたのだ。

    *

――大勝利の後、壱支国は大和の大王に使者を送った。
次に、わが国に侵略を仕掛けてくるようなことがあれば、即座に大和の都に神軍を降り立たせると。

加えて、わが国の隣国である出雲国と伯耆国に兵と武器庫は置いてはならぬ、と。
その約定を護るのであれば、十種神宝は封印する、と。

あの日、師は、わしに声をかけた。
「腕を磨け、おまえならできよう」
十種神宝のことを指しているのだとわかった。

呪術師ならば、誰もが、おのれの力を試したいと思う。
壱支国の呪術師であれば、十種神宝を発動させたいと願う。
それはすなわち、救国の英雄、神として祀られた荒覇吐様と肩を並べるということだ。

壱支国としても大和の者どもに、いつでも発動できるのだ、と見せておかなければならなかった。
にもかかわらず、発動させた、とされる記録はない、のだと。

――ようは、荒覇吐様以降、発動させるだけの力を持った者が現れなかったということだ。

神宝が安置されている場所は、長とその後継者しか知らないと言われている。
師も試して見たのだろうか。
それとも試してみることさえ許されなかったのだろうか。

踏み込むことなどできなかった。
守袋と翡翠の玉を前に師が、淋しそうに笑ったからだ。
それはまるで泣いているように見えた。

師は口にしなかったが、九種の神宝に反応するこの玉こそ、失われたとされている神宝であろう。
師は、壱支国が隠し続けた秘事を打ち明け、わしに神宝を託したのだ。

師は、言った。
「精進しろ。お前には天分がある。だが、おのれの力だけで発動させなければならない。どのような誘惑にも乗ってはならぬ。他者の力を借りた時、お前は救国の英雄どころか国を亡ぼした鬼として未来永劫語り継がれることになろう」
と。

今となればわかる。
わしと師は、同じ結論にたどり着いたのだ。


     *
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