空飛ぶ大どろぼう

八神真哉

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第7話 ときめき

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「ちくしょう!」
給食室と校舎の間の中庭で空をあおぎ、そう口にしたとたん、頭と顔に何かがふれた。

何が起こったかわからなかった。
木の枝と枝の間に頭がはさまっていた。
ポプラの木だ。
こんな低いところに枝なんかなかったはずだ。

と……見ると、足の下に地面がない。
1メートル以上、ういていたのだ。

あわてて、枝にしがみつく。
興奮して、足に力がはいったことで、うきあがってしまったらしい。

見れば、体操服に着がえている。
そういえば、次の授業は体育だった。
考え事をしていて、ポケットに重しがわりの硬貨を入れ忘れてたのだろう。

幹を伝って地面におり、ポケットに砂をつめこんでいると、うしろから声がかかった。
「すごいジャンプ力ね」

おそるおそるふり返る。
そこには、転校生の岩崎美月が立っていた。
そして、「運動神経いいんだ」と、声をかけてきた。

「――見てたの……か?」
「ええ」

とんでもないところを見られしまった。
だが、おどろいたと言いながらも、ほほ笑んでいる。
宙にういたのではなく、本当にジャンプしたと思ってくれたようだ。

そっと、あたりをうかがう。
ほかには、だれもいなかった。
教室の窓からも見えなかっただろう。中庭には、ポプラの葉がおいしげっている。
これなら、なんとかごまかせるだろう。
運動神経には自信がある。

少々ひきつりながらも笑顔をつくった。
「得意なんだ。高飛びは」

「いいなぁ。転校早々、苦手な高飛びがあるっていうんで、気が重かったの」
「……今日、高飛びだったっけ?」
ポケットに砂をつめこんだとはいえ、地面をける加減がわからないのだ。
1メートル50ならごまかせるだろうが、10メートルも飛んでしまえばごまかしきれない。

「そう聞いたけど」
その答えに、ため息をつく。
名誉ばんかいのチャンスを放棄せざるをえなかった。

「あっ――頭痛くなってきた……今、ぶつけたせいかな? 休んだ方がいいかも」
美月は、少しおどろいたようだったが、すぐに翔太を見つめて、ほほ笑んだ。
「わたしも、体調が悪いから休ませてもらったの」

体育を休むぐらいつまらないことはない。翔太は、これまで、そう信じてきた。
だが、それも状況しだいだったのだ。
かわいい女の子が、自分の話に笑い、ほほ笑んでくれる。
それが、こんなにうれしいものだとは。

――その幸せも長くは続かなかった。

体育の授業をしているはずの先生が教室にもどってきて、翔太にたずねたのだ。
「きのうの夜、多家神社へあがっていっただろう? そこで、だれか――男を見なかったか?」

正直に答えるべきかどうか、少しだけ考えた。

「……遠くからだけど」
「それじゃ、校長室まで来てくれ」
なぜ、呼ばれたのか、すぐに見当がついた。

神社の近くで先生と別れてすぐに木津根の家に泥棒が入ったのだ。
木津根の家は神社のすぐそば。この学校も目と鼻の先だ。
警察が、目撃者を探しに来たのだろう。

きのうの夜、翔太が空を飛んだところを、だれも見ていなかったと言いきれるだろうか?
あの赤い実さえ残っていれば、これを食べればだれでも空を飛べるのだ、と説明できるだろう。
だが、ひとつだけ残っていたあの実は行方不明だ。

木津根は、はちあわせをした泥棒が、空を飛んだと言っている。
もちろん、だれも信じていないだろう。
ありえないからだ。

だが、翔太が空を飛べることがばれたら、話は別だ。
すぐに、犯人にされてしまうだろう。そんな人間が、幾人もいるはずがないのだから。
身長の違いは、木津根が酒を飲んで酔っぱらっていたのだ、と決めつけるに違いない。

気がつくと、漣と優斗が、翔太の肩に手をやり、にやにやしている。
体育の授業は途中で打ちきられたようだ。
「聞いたぜ、翔太。校長室だって? なにやったんだ、おまえ」
「いいなあ。このあとのそうじ当番を堂々とさぼれるってことだろ?」

美月が、こちらを見ていることに気がついたが、きり返す言葉ひとつ思いうかばなかった。
翔太が捕まったら、お母さんはどんなに悲しむだろう。
お父さんの店や家にテレビ局や新聞社が押しかけるのだろうか。

「うん……」
と、気のない返事をして、ゆっくりと校長室に向かう。

漣と優斗の会話が耳に入ってくる。
「らしくないなあ……本当に具合が悪かったのかな」
「転校生目当てで、さぼったのかと思っていたけど……」

「なに言ってんの。校長室に呼び出されたのよ!」
さくらの言葉に、漣が反論する
「そんなことで落ちこむやつじゃないよ」
なあ、と優斗に同意を求めている。
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