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第18話 もう一人の容疑者
しおりを挟む裏口を探そうとペケをだいたまま奥に向かったが、その方向から警察の人がやってきた。
あやしまれないよう、近くにあったトイレに入る。
そこに、声が聞こえてきた。
お母さんの声だ。翔太をむかえに来たのだろう。
合わせる顔はなかったが、いつまでも隠れているわけにはいかない。
が、その内容に足が止まった。
「翔太に話しましょう。鬼山には利用されるなって」
「――おれには言う資格がない」
「そんなことないわよ! 当時、だれもが怖がって手をつけなかった土地開発公社の疑惑を調べてたのは、あなただけだったじゃない!」
「どうかな……証拠をつかめなかっただけじゃない。取材をやめさせようとした新聞社にいやけがさしてやめたんだよ、おれは……あの年ごろは、特に正義感が強いからな――大泥棒の正体が、おれだっていうなら納得してくれるんだろうが」
「なにいってるの。ここ最近、マスコミの風潮が変わったのも、あなたが調べた情報をテレビ局の友達に渡したからでしょ」
翔太は、お父さんの夢が、カフェの経営だった、ということを疑ったことはなかった。
一年ほど前に新聞社をやめる、と聞いた時から今の今まで。
まったくのうそというわけではないだろう。
お父さんは、楽しそうに仕事をしているのだから。
翔太は、二人が会議室に入ったころ合いを見て、トイレを出た。
だが、足は会議室の前で止まった。
それに気づいたお母さんが、名前を呼んで駆け寄ってくる。
お父さんは、ゆっくりと近づいてきた。
「おそくなってすまん。店で新しいメニューを考えていて、スマホの着信に気がつかなかったんだ」
「ごめんね。警察からうちに電話があったらしいんだけど、いつものように留守電にしてたの」
今でも、探偵団のことで取材をさせてほしいと電話がかかってくる。
なかには、夜おそくにかけてくる非常識な人もいるので、固定電話は、留守電にしているのだ。
「よかった……さあ、帰りましょう」
いっしょにいた女の子が誘拐されたかもしれない、という話を聞かされたのだろう。
これほどの騒ぎを引き起こしたにもかかわらず、怒るどころか、涙ぐんでいる。
だが、帰る気になれなかった。
何より先にやらなければならないことがあった。
「いっしょにいた美月……女の子の、お父さんとお母さんに謝らなきゃ」
「ああ……そうだな。お父さんたちもいっしょに」
お母さんも、うなずく。
会議室の入り口に立って、それを聞いていた若い警察官は、小さく片手をあげる。
「受付の者が、伝え忘れたみたいですね。女の子の家族は、ここには来ないそうですよ。あとは、警察にまかせてください」
「もう、夜中には遊びに出るなよ」
と、翔太の肩に手をやり、つけ加える。
「しかし」と、ねばる、お父さんにも声をかける。
「息子さんも疲れているでしょう。今日は休んでください。何かあれば、こちらから連絡しますよ」
そういって、向かいの部屋に入っていった。
困惑気味のお父さんが、お母さんをふり返った。
その拍子に、ジャケットのポケットから、ぽろりと、なにかがこぼれ落ちた。
黒地にメーカーの赤いロゴマーク。
翔太のカメラのストラップだ。
「お父さん、それ……」
興奮で声がふるえている。
翔太の目線を追ったお父さんが、ポケットからカメラを取り出す。
だが、それはカメラとしての原型をとどめていなかった。
液晶モニターが割れている。
ふたが壊れており、なかには何もない。
バッテリーどころかデータカードさえも。
「家に帰る途中で見つけたんだ。肩かけに特徴があったから、うちのだろうと思ってな」
翔太は、自分をふるいたたせるようにお父さんを見つめる。
「データは? データカードは?」
「……それよりも、おまえが事故でも起こしたんじゃないかと、そっちの方が心配でな」
翔太の姿がないか、見て回ることを優先させたらしい。
お父さんの話は続いていたが、頭に入ってこなかった。
なぜなら、翔太の全神経は、お父さんの差し出したカメラではなく、その手にくぎづけになっていたからだ。
その手には、白い包帯がまかれていた。
第一の犯行があった木曜日も。
第二の犯行があった金曜日も。
お父さんは遅くなって帰ってきた。
そして、美月の誘拐された今夜も……
「――その手?」
翔太の問いかけに、お父さんは少しとまどったように見えた。
「ああ、たいしたことはないんだ。ちょっと店でな」
「そう……」
翔太は、眠りからさめないペケをだいたまま警察の玄関に向かった。
お父さんが呼びかけてきたが、足は止まらなかった。
――会議室で待っていた翔太の耳に入ってきた情報。
靴についていた血液型はO型。
美月の血液型もO型。
翔太も同じ血液型だ。
そして、お父さんの血液型も。
風呂でのぼせた時のようにふらふらする。
頭から血の気がひいていった。
玄関を出た翔太は、壁に背中をあずけ、ずるずると座りこんだ。
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