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第37話ノーセット頑張りなさい
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美味しい!!
主菜たるビーフステーキが、絶品です。脂少なめのフィレの部分を使用し、塩コショウだけのシンプルイズベスト!!
好みの焼き上げにし、1口サイズに切ってくれたんだけど、これが、また絶妙な焼き方!
ナイフを入れた瞬間、じゅわっと肉汁が溢れ出す。
それだけで、もう幸せ。
口に入れると、柔らかくて、とろける。
噛むたびに、肉の旨味が広がって、塩コショウのシンプルな味付けが、肉本来の美味しさを引き立てている。
表面は香ばしく、中はピンク色の完璧なミディアムレア。
この焼き加減、本当に絶妙。
さすが、キャウリー様御用達のお店です。
だって、個室の上に、料理を目の前で作ってくれるんだよ!
シェフが鉄板の前に立ち、華麗な手つきで肉を焼く姿を見せてくれる。
ジュウジュウという音、立ち上る煙、香ばしい匂い。
すべてが、食欲をそそる。
出来たての上に、料理長の説明付き。
「こちらは、特選和牛のフィレ肉でございます。塩は岩塩、胡椒は粗挽きの黒胡椒を使用しております」
丁寧な説明を聞きながら、目の前で調理される。
これが、不味いわけがない。
「お好みで、赤ワインベースのデミグラスソースもご用意しております」
そう言って、小さな銀の器に入ったソースを差し出してくれた。
お好みで?
じゃあ、かけてみよう。
スプーンでソースをすくい、肉の上にとろりとかける。
濃い茶色のソースが、肉の表面を覆う。
パクリ。
「・・・!」
美味しい!!
このソース、絶品!!
濃厚で、深い味わい。
赤ワインの芳醇な香りと、じっくり煮込まれた野菜の旨味。
そこに、ほんのりとした甘みと酸味。
肉の旨味と、ソースの複雑な味わいが、口の中で混ざり合う。
塩コショウだけでも十分美味しかったけど、このソースをかけると、また別の美味しさ!
まるで、違う料理を食べているみたい。
こんなに美味しいソース、初めて。
何日もかけて作ったんだろうな。
手間暇かけた、愛情たっぷりのソース。
それが、肉の美味しさを、さらに引き立てている。
幸せ・・・。
付け合わせの焼き野菜も、完璧。
アスパラガス、パプリカ、ズッキーニ、マッシュルーム、ピーマン、等など。
どれも新鮮で、鉄板で焼かれて甘みが絶対ましている増している。
絶対美味しいやつだよ。
野菜をお皿に取り分けてもらい、
パクリ。
野菜の水分が、じゅわっと口の中で弾ける。
野菜にも、このソースをかけてみる。
うん、これも合う!
野菜の甘みと、ソースの濃厚さが、絶妙。
「シャーリー、美味しそうに食べるよね」
ノーセットが隣で、何回も聞いた同じ言葉を言う。
「美味しいもの。あら、それいらないの?」
鉄板にのっている焼き野菜であるピーマンチラリと見る。
「・・・だって・・・」
下を向く、ということは嫌いなのか。
では。
「じゃあ貰うね」
フォークで刺しパクリ。
うーん。美味しい。この苦味を感じながらも、サクサク加減を残し焦げ目のいいお味。
いくらでも食べれる。
ここでは私達しかいないので自由にしなさい、と御義父様が言ってくれたので、とても楽に食べれている。
マナーを気にせず、好きなように食べられる。
この幸せ。
今日は珍しく、御義父様が「今日は外食しよう。い美味い店があるんだ」と言ってくださった。
いつもは屋敷で食事をするのに。
その時から、何か特別なことがあるのかな、と思っていた。
でも、まさか、こんな素敵なお店に連れてきてくれるなんて、とても感激だ。
「なんか・・・シャーリーが食べてると美味しそうに見えるんだけど・・・」
「美味しいよ。まだまだ食べれるもの」
「ではノーセット、私のを食べてみるかい?」
キャウリー様が、優しく声をかけてきた。
「うん。食べてみる」
そう言ってパクリ。
「うっ、美味しくない・・・」
ノーセットの顔が、歪む。
キャウリー様と私は、思わず笑ってしまった。
食事は大変満足しました。
まず、キャウリー様が「
食事の時は無駄な話をするのはマナー違反だから、静かに食べよう。ただ、食事に関する、それも、褒める内容は幾らでも話してもいいよ」
と。
さすが!
誰かさんとは違いますね。
寝ていた演劇を根掘り葉掘り聞いて来て、料理を冷ましてしまう、誰か、とはね。
あの時は本当に腹が立った。
でも、今日は違う。
温かい料理を、温かいうちに。
美味しい料理を、美味しく。
それが、どれほど幸せなことか。
楽しく食事をし、最後のデザートも頂いた。
デザートは、苺のタルト。
サクサクのタルト生地に、カスタードクリーム、そして新鮮な苺。
苺の甘酸っぱさと、クリームの甘さが絶妙。
食後の飲み物は、紅茶。
芳醇な香りが、口の中をさっぱりとさせてくれる。
すべてが、完璧。
キャウリー様が、給仕の者たちを下がらせた。
「今日の出来事を説明しようと思う。2人ともよく聞きなさい」
「はい」
「はい」
では、と小さくキャウリー様が頷いた。
今日の出来事?
今日、御義父様が何処かに出かけていたのは知っていた。
朝、ハザードから
「今日はご主人様がお出かけになります」
と聞いていた。
でも、何処に行くのかは聞いていなかった。
だから、今日は珍しく外食しようと言われた時、何か特別な日なのかな、と思っていた。
「今日、サヴォア家にサインを貰いに行ってきた」
その一言で、世界が一瞬、遠のいた。
どくん、と心臓が大きく脈を打つ。
胸の奥を、冷たいものが一気に這い上がってくる。
サヴォア家。
聞き慣れたはずの家名なのに、今は刃物のように胸に突き刺さる。
指先が、わずかに震えたのが自分でも分かった。
分かっていた。
養女の話が出た時点で、いつかは必ずその時が来ると。
でも、それを実際に「行った」と告げられると、心の準備など何ひとつ出来ていなかった。
本当に、私を養女にしてくれるの?
途中で気が変わったら?
あれは夢だった、と言われたら?
そんな考えが、次々と頭をもたげ不安で心が埋め尽くされる。
サヴォワ家に、キャウリー様が、あの家に、行った。
養女ではなく、他の話しをしに行ったんじゃないのだろうか?
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……」
声を出そうとしても、喉が張りついたように動かない。
無意識に膝の上で手を握りしめる。
爪が食い込む痛みで、ようやく現実に繋ぎ止められている感覚だった。
「シャーリー。顔を上げなさい。心配するな。サインは貰ってきた」
まるで私の心を見透かすように、柔らかく、優しいキャウリー様の声に、ハッして顔をあげると、穏やかに微笑んでくれた。
大丈夫だ。
瞳がそう言っている。
ツン、と目頭が熱くなる。
ああ、だから、今日は外食してくれたんだ。
いい事があると、家族は外食する、と皆が言っていた。
今日は、いい日、なんだ。
「それと養女のサイン以外にサヴォワ殿からの提案もあり、金輪際、お互い関わることを禁ずる事を、当主の直筆のサインにて確約をしてきた」
「それは、どういう意味ですか?」
「つまり、何があっても声を掛けることをも禁忌する。もし、やんごとなき事情が発生した場合は、それぞれの娘が、つまりウインザー家ではシャーリーが、サヴォワ家ではシャーサーが土下座する事になる」
「・・・!」
言葉が、喉に詰まる。
・・・私が・・・。
それぞれの娘。
ウインザー家の、娘。
本当に、私は、御義父様の娘になったんだ。
心臓が、どきんと跳ねる。
嬉しさが、胸に込み上げてくる。
でも、同時に。
土下座?
もしかしてお父様が、何か無理難題を言ったの?
御義父様を、困らせてしまったの?
心臓が、早く打ち始める。
あの家で?
あの人達の前で?
また?
心臓が、ぎゅっと締め付けられる。
頭の中に、あの屋敷の光景が蘇る。
冷たい石の床。
見下ろす、お父様とシャーサーの顔。
「お前は何の役にも立たない」
「生きているだけで迷惑だ」
「消えてしまえばいいのに」
そんな言葉を、何度も何度も浴びせられた。
それでも、私は謝り続けた。
頭を下げ続けた。
でも、それでも、許されなかった。
また、あの場所に戻るの?
また、あの人達の前で、頭を下げるの?
土下座?
膝をついて、額を床につけて、許しを乞うの?
人間扱いもされなかった、あの場所で?
手が、震える。
息が、浅くなる。
視界が、ぼやける。
だめ。
だめ。
戻りたくない。
あんな場所に、二度と。
キャウリー様、ごめんなさい。
私のせいで、困らせてしまって。
私のせいで、面倒なことに巻き込んでしまって。
せっかく、娘にしてくださったのに。
「案ずるな。そんな事は絶対にさせない」
キャウリー様の声が、優しく響く。
顔を上げると、キャウリー様が微笑んでいた。
「まず、我が友人達を見ただろう?後ろ盾があれ程強固なもの達はいない。それよりも、ノーセット」
「は、はい!」
「サヴォワ家が必ずシャーリーに接してくる。それをお前は阻止するのだ。ウインザー家の当主となるお前が姉である、シャーリーを護るのは義務だ」
キャウリー様の声が、厳しくなる。
「ウインザー家の当主となるお前が、姉である、シャーリーを護るのは義務だ。いいか、ノーセット。お前は次期当主だ。当主とは、家族を護る者。そして、シャーリーは今日からお前の家族だ。血は繋がっていなくても、お前の大切な姉だ」
「はい、御義父様!」
ノーセットの声が、震えている。
でも、それは恐怖ではない。
決意。
そして、
私の事を想う、
気持ち。
「お前は、まだ子供だ。でも、いずれ大人になる。その時、お前が当主としてシャーリーを護れるか、それがお前の試練だ」
「はい!」
「サヴォワ家は、必ず隙を突いてくる。パーティーで、街中で、屋敷で、あらゆる場所で声をかけてくるだろう。その時、お前はどうする?」
「僕が、いえ、私が阻止します!」
ノーセットの目が、真剣になる。
「どうやって?お前はまだ幼い。力も知識も足りない」
「……」
ノーセットが、言葉に詰まる。
そして、少し考えてから、顔を上げた。
「ハザードを見ます!」
「ほう?」
キャウリー様が、興味深そうに眉を上げる。
「ハザードは、いつも周りのことを考え、御父様の上を行く時があります。きっと姉上が困る前に、先に動いています!僕も、ハザードみたいに、姉上のことをよく見て、何が必要か考えます!」
「それだけか?」
何となく当主としてリスられたけど、全く動じす、逆に嬉しそうだ。
ハザードはキャウリー様にとってどんな存在なのだろう。
「いえ!ハザードや御義父様の動きを、よく見て、よく考えて、勉強します。今はまだ子供だから、できることは少ないけど、でも、見て、学んで、覚えます。そして、いつか、御父様の似たな、と言われたいです」
ノーセットの声が、どんどん大きくなる。
「姉上が悲しまないように、僕ができることを、いっぱい考えます!今すぐじゃなくても、いつか、絶対に姉上を守れるようになります!」
「よく言った。それでこそ、私の息子であり、次期当主だ」
キャウリー様が、満足そうに頷く。
「ノーセット、お前はまだ幼いが、その心は立派だ。学ぶ姿勢、それが大切だ。ハザードを見て学べ。私を見て学べ。そして、シャーリーを護れる男になれ。それが、お前の使命だ」
「はい、御義父様!僕は、私は、必ず姉上を護れるようになります!」
ノーセットの拳が、強く握られている。
その小さな手が、震えている。
でも、その震えは、恐怖ではない。
強い、決意。
そして、
私が、
家族として認められた瞬間。
「姉上、僕、頑張るから!」
ノーセットが、私を見る。
その目は、涙で潤んでいる。
でも、笑っている。
「僕、まだ子供だから、今すぐには守れないかもしれない。でも、毎日、ハザードや御義父様を見て、勉強するから!いつか、絶対に姉上を守れるようになるから!」
「ノーセット・・・」
「だって、姉上は、僕の大切な姉さんだもん!」
涙が、ノーセットの頬を伝う。
私も、とうとう涙が頬をつたった。
でも、お互い笑顔だ。
「僕、強くなる!御義父様みたいに、強くて、優しくて、姉上を守れるようになる!だから、姉上、待っててね!」
「よく言った。それでこそ、私の息子であり、次期当主だ」
キャウリー様の言葉が、少しずつ心に染み込んでくる。
大丈夫。
護ってくれる。
キャウリー様が、
ノーセットが、
ハザードが、
みんなが。
私を、護ってくれる。
もう、一人じゃない。
深く息を吸う。
震えが、少しずつ収まっていく。
キャウリーは、ダメだったわけじゃない。
ちゃんと、約束を取り付けてくれた。
私のために。
私は、本当に、ウインザー家の娘になったんだ。
キャウリー様の、娘に。
ノーセットの、姉に。
「ありがとう……ございます……御父様……」
嬉しい涙が頬を幾つも流れていく。
「……いい響きだな」
噛み締めるようにキャウリー様、いいえ、御父様は呟いた。
はい。本当にいい響きです。
「それともうひとつ、2人に内緒にしていた事があるんだ」
御義父様が、なんだかお茶目な顔で楽しそうに笑う。
その笑顔を見て、さらに安心する。
ハンカチで涙を拭いながら、ノーセットと顔を見合わせ首を傾げた。
「先日から、騎士団の指導にあたっていると言っただろう?」
「はい」
それは、聞いているし、知っている。
「その件で、王より、戦術防衛大臣に就任する事になった」
ニヤリと得意げに笑う御義父様に、当然、
「え!!!」私。
「えーーーー!!!!」ノーセット。
こう声をあげた。
だって、だって、つまりは王宮の役付きになったということだし、戦術防衛とは、戦に備えての、頭脳を求められ、その為今の大臣の座は空席になっている。その席を埋める重責を担う者がいないからだ。
御義父様ってば凄い人なんだ。
私の、御義父様。
誇らしい。
「それと、もう1つ。数ヶ月後先にはなるが、王宮より、大臣の任命式を賜るのと、他にも賜わる事があるんだ」
またまた、意地悪な、笑いをする。
「それは、秘密にしておこう。楽しみにしておきなさい」
またまたノーセットと顔を見合せた。ノーセットも、不思議そうだったから、知らないようだ。
何かわからないが、楽しみだ。
家族で、迎える特別な日が沢山ある。
家族。
新しい家族。
本当の家族ではないけれど、
私の本当の家族だ。
心の底から嬉しかった。
主菜たるビーフステーキが、絶品です。脂少なめのフィレの部分を使用し、塩コショウだけのシンプルイズベスト!!
好みの焼き上げにし、1口サイズに切ってくれたんだけど、これが、また絶妙な焼き方!
ナイフを入れた瞬間、じゅわっと肉汁が溢れ出す。
それだけで、もう幸せ。
口に入れると、柔らかくて、とろける。
噛むたびに、肉の旨味が広がって、塩コショウのシンプルな味付けが、肉本来の美味しさを引き立てている。
表面は香ばしく、中はピンク色の完璧なミディアムレア。
この焼き加減、本当に絶妙。
さすが、キャウリー様御用達のお店です。
だって、個室の上に、料理を目の前で作ってくれるんだよ!
シェフが鉄板の前に立ち、華麗な手つきで肉を焼く姿を見せてくれる。
ジュウジュウという音、立ち上る煙、香ばしい匂い。
すべてが、食欲をそそる。
出来たての上に、料理長の説明付き。
「こちらは、特選和牛のフィレ肉でございます。塩は岩塩、胡椒は粗挽きの黒胡椒を使用しております」
丁寧な説明を聞きながら、目の前で調理される。
これが、不味いわけがない。
「お好みで、赤ワインベースのデミグラスソースもご用意しております」
そう言って、小さな銀の器に入ったソースを差し出してくれた。
お好みで?
じゃあ、かけてみよう。
スプーンでソースをすくい、肉の上にとろりとかける。
濃い茶色のソースが、肉の表面を覆う。
パクリ。
「・・・!」
美味しい!!
このソース、絶品!!
濃厚で、深い味わい。
赤ワインの芳醇な香りと、じっくり煮込まれた野菜の旨味。
そこに、ほんのりとした甘みと酸味。
肉の旨味と、ソースの複雑な味わいが、口の中で混ざり合う。
塩コショウだけでも十分美味しかったけど、このソースをかけると、また別の美味しさ!
まるで、違う料理を食べているみたい。
こんなに美味しいソース、初めて。
何日もかけて作ったんだろうな。
手間暇かけた、愛情たっぷりのソース。
それが、肉の美味しさを、さらに引き立てている。
幸せ・・・。
付け合わせの焼き野菜も、完璧。
アスパラガス、パプリカ、ズッキーニ、マッシュルーム、ピーマン、等など。
どれも新鮮で、鉄板で焼かれて甘みが絶対ましている増している。
絶対美味しいやつだよ。
野菜をお皿に取り分けてもらい、
パクリ。
野菜の水分が、じゅわっと口の中で弾ける。
野菜にも、このソースをかけてみる。
うん、これも合う!
野菜の甘みと、ソースの濃厚さが、絶妙。
「シャーリー、美味しそうに食べるよね」
ノーセットが隣で、何回も聞いた同じ言葉を言う。
「美味しいもの。あら、それいらないの?」
鉄板にのっている焼き野菜であるピーマンチラリと見る。
「・・・だって・・・」
下を向く、ということは嫌いなのか。
では。
「じゃあ貰うね」
フォークで刺しパクリ。
うーん。美味しい。この苦味を感じながらも、サクサク加減を残し焦げ目のいいお味。
いくらでも食べれる。
ここでは私達しかいないので自由にしなさい、と御義父様が言ってくれたので、とても楽に食べれている。
マナーを気にせず、好きなように食べられる。
この幸せ。
今日は珍しく、御義父様が「今日は外食しよう。い美味い店があるんだ」と言ってくださった。
いつもは屋敷で食事をするのに。
その時から、何か特別なことがあるのかな、と思っていた。
でも、まさか、こんな素敵なお店に連れてきてくれるなんて、とても感激だ。
「なんか・・・シャーリーが食べてると美味しそうに見えるんだけど・・・」
「美味しいよ。まだまだ食べれるもの」
「ではノーセット、私のを食べてみるかい?」
キャウリー様が、優しく声をかけてきた。
「うん。食べてみる」
そう言ってパクリ。
「うっ、美味しくない・・・」
ノーセットの顔が、歪む。
キャウリー様と私は、思わず笑ってしまった。
食事は大変満足しました。
まず、キャウリー様が「
食事の時は無駄な話をするのはマナー違反だから、静かに食べよう。ただ、食事に関する、それも、褒める内容は幾らでも話してもいいよ」
と。
さすが!
誰かさんとは違いますね。
寝ていた演劇を根掘り葉掘り聞いて来て、料理を冷ましてしまう、誰か、とはね。
あの時は本当に腹が立った。
でも、今日は違う。
温かい料理を、温かいうちに。
美味しい料理を、美味しく。
それが、どれほど幸せなことか。
楽しく食事をし、最後のデザートも頂いた。
デザートは、苺のタルト。
サクサクのタルト生地に、カスタードクリーム、そして新鮮な苺。
苺の甘酸っぱさと、クリームの甘さが絶妙。
食後の飲み物は、紅茶。
芳醇な香りが、口の中をさっぱりとさせてくれる。
すべてが、完璧。
キャウリー様が、給仕の者たちを下がらせた。
「今日の出来事を説明しようと思う。2人ともよく聞きなさい」
「はい」
「はい」
では、と小さくキャウリー様が頷いた。
今日の出来事?
今日、御義父様が何処かに出かけていたのは知っていた。
朝、ハザードから
「今日はご主人様がお出かけになります」
と聞いていた。
でも、何処に行くのかは聞いていなかった。
だから、今日は珍しく外食しようと言われた時、何か特別な日なのかな、と思っていた。
「今日、サヴォア家にサインを貰いに行ってきた」
その一言で、世界が一瞬、遠のいた。
どくん、と心臓が大きく脈を打つ。
胸の奥を、冷たいものが一気に這い上がってくる。
サヴォア家。
聞き慣れたはずの家名なのに、今は刃物のように胸に突き刺さる。
指先が、わずかに震えたのが自分でも分かった。
分かっていた。
養女の話が出た時点で、いつかは必ずその時が来ると。
でも、それを実際に「行った」と告げられると、心の準備など何ひとつ出来ていなかった。
本当に、私を養女にしてくれるの?
途中で気が変わったら?
あれは夢だった、と言われたら?
そんな考えが、次々と頭をもたげ不安で心が埋め尽くされる。
サヴォワ家に、キャウリー様が、あの家に、行った。
養女ではなく、他の話しをしに行ったんじゃないのだろうか?
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……」
声を出そうとしても、喉が張りついたように動かない。
無意識に膝の上で手を握りしめる。
爪が食い込む痛みで、ようやく現実に繋ぎ止められている感覚だった。
「シャーリー。顔を上げなさい。心配するな。サインは貰ってきた」
まるで私の心を見透かすように、柔らかく、優しいキャウリー様の声に、ハッして顔をあげると、穏やかに微笑んでくれた。
大丈夫だ。
瞳がそう言っている。
ツン、と目頭が熱くなる。
ああ、だから、今日は外食してくれたんだ。
いい事があると、家族は外食する、と皆が言っていた。
今日は、いい日、なんだ。
「それと養女のサイン以外にサヴォワ殿からの提案もあり、金輪際、お互い関わることを禁ずる事を、当主の直筆のサインにて確約をしてきた」
「それは、どういう意味ですか?」
「つまり、何があっても声を掛けることをも禁忌する。もし、やんごとなき事情が発生した場合は、それぞれの娘が、つまりウインザー家ではシャーリーが、サヴォワ家ではシャーサーが土下座する事になる」
「・・・!」
言葉が、喉に詰まる。
・・・私が・・・。
それぞれの娘。
ウインザー家の、娘。
本当に、私は、御義父様の娘になったんだ。
心臓が、どきんと跳ねる。
嬉しさが、胸に込み上げてくる。
でも、同時に。
土下座?
もしかしてお父様が、何か無理難題を言ったの?
御義父様を、困らせてしまったの?
心臓が、早く打ち始める。
あの家で?
あの人達の前で?
また?
心臓が、ぎゅっと締め付けられる。
頭の中に、あの屋敷の光景が蘇る。
冷たい石の床。
見下ろす、お父様とシャーサーの顔。
「お前は何の役にも立たない」
「生きているだけで迷惑だ」
「消えてしまえばいいのに」
そんな言葉を、何度も何度も浴びせられた。
それでも、私は謝り続けた。
頭を下げ続けた。
でも、それでも、許されなかった。
また、あの場所に戻るの?
また、あの人達の前で、頭を下げるの?
土下座?
膝をついて、額を床につけて、許しを乞うの?
人間扱いもされなかった、あの場所で?
手が、震える。
息が、浅くなる。
視界が、ぼやける。
だめ。
だめ。
戻りたくない。
あんな場所に、二度と。
キャウリー様、ごめんなさい。
私のせいで、困らせてしまって。
私のせいで、面倒なことに巻き込んでしまって。
せっかく、娘にしてくださったのに。
「案ずるな。そんな事は絶対にさせない」
キャウリー様の声が、優しく響く。
顔を上げると、キャウリー様が微笑んでいた。
「まず、我が友人達を見ただろう?後ろ盾があれ程強固なもの達はいない。それよりも、ノーセット」
「は、はい!」
「サヴォワ家が必ずシャーリーに接してくる。それをお前は阻止するのだ。ウインザー家の当主となるお前が姉である、シャーリーを護るのは義務だ」
キャウリー様の声が、厳しくなる。
「ウインザー家の当主となるお前が、姉である、シャーリーを護るのは義務だ。いいか、ノーセット。お前は次期当主だ。当主とは、家族を護る者。そして、シャーリーは今日からお前の家族だ。血は繋がっていなくても、お前の大切な姉だ」
「はい、御義父様!」
ノーセットの声が、震えている。
でも、それは恐怖ではない。
決意。
そして、
私の事を想う、
気持ち。
「お前は、まだ子供だ。でも、いずれ大人になる。その時、お前が当主としてシャーリーを護れるか、それがお前の試練だ」
「はい!」
「サヴォワ家は、必ず隙を突いてくる。パーティーで、街中で、屋敷で、あらゆる場所で声をかけてくるだろう。その時、お前はどうする?」
「僕が、いえ、私が阻止します!」
ノーセットの目が、真剣になる。
「どうやって?お前はまだ幼い。力も知識も足りない」
「……」
ノーセットが、言葉に詰まる。
そして、少し考えてから、顔を上げた。
「ハザードを見ます!」
「ほう?」
キャウリー様が、興味深そうに眉を上げる。
「ハザードは、いつも周りのことを考え、御父様の上を行く時があります。きっと姉上が困る前に、先に動いています!僕も、ハザードみたいに、姉上のことをよく見て、何が必要か考えます!」
「それだけか?」
何となく当主としてリスられたけど、全く動じす、逆に嬉しそうだ。
ハザードはキャウリー様にとってどんな存在なのだろう。
「いえ!ハザードや御義父様の動きを、よく見て、よく考えて、勉強します。今はまだ子供だから、できることは少ないけど、でも、見て、学んで、覚えます。そして、いつか、御父様の似たな、と言われたいです」
ノーセットの声が、どんどん大きくなる。
「姉上が悲しまないように、僕ができることを、いっぱい考えます!今すぐじゃなくても、いつか、絶対に姉上を守れるようになります!」
「よく言った。それでこそ、私の息子であり、次期当主だ」
キャウリー様が、満足そうに頷く。
「ノーセット、お前はまだ幼いが、その心は立派だ。学ぶ姿勢、それが大切だ。ハザードを見て学べ。私を見て学べ。そして、シャーリーを護れる男になれ。それが、お前の使命だ」
「はい、御義父様!僕は、私は、必ず姉上を護れるようになります!」
ノーセットの拳が、強く握られている。
その小さな手が、震えている。
でも、その震えは、恐怖ではない。
強い、決意。
そして、
私が、
家族として認められた瞬間。
「姉上、僕、頑張るから!」
ノーセットが、私を見る。
その目は、涙で潤んでいる。
でも、笑っている。
「僕、まだ子供だから、今すぐには守れないかもしれない。でも、毎日、ハザードや御義父様を見て、勉強するから!いつか、絶対に姉上を守れるようになるから!」
「ノーセット・・・」
「だって、姉上は、僕の大切な姉さんだもん!」
涙が、ノーセットの頬を伝う。
私も、とうとう涙が頬をつたった。
でも、お互い笑顔だ。
「僕、強くなる!御義父様みたいに、強くて、優しくて、姉上を守れるようになる!だから、姉上、待っててね!」
「よく言った。それでこそ、私の息子であり、次期当主だ」
キャウリー様の言葉が、少しずつ心に染み込んでくる。
大丈夫。
護ってくれる。
キャウリー様が、
ノーセットが、
ハザードが、
みんなが。
私を、護ってくれる。
もう、一人じゃない。
深く息を吸う。
震えが、少しずつ収まっていく。
キャウリーは、ダメだったわけじゃない。
ちゃんと、約束を取り付けてくれた。
私のために。
私は、本当に、ウインザー家の娘になったんだ。
キャウリー様の、娘に。
ノーセットの、姉に。
「ありがとう……ございます……御父様……」
嬉しい涙が頬を幾つも流れていく。
「……いい響きだな」
噛み締めるようにキャウリー様、いいえ、御父様は呟いた。
はい。本当にいい響きです。
「それともうひとつ、2人に内緒にしていた事があるんだ」
御義父様が、なんだかお茶目な顔で楽しそうに笑う。
その笑顔を見て、さらに安心する。
ハンカチで涙を拭いながら、ノーセットと顔を見合わせ首を傾げた。
「先日から、騎士団の指導にあたっていると言っただろう?」
「はい」
それは、聞いているし、知っている。
「その件で、王より、戦術防衛大臣に就任する事になった」
ニヤリと得意げに笑う御義父様に、当然、
「え!!!」私。
「えーーーー!!!!」ノーセット。
こう声をあげた。
だって、だって、つまりは王宮の役付きになったということだし、戦術防衛とは、戦に備えての、頭脳を求められ、その為今の大臣の座は空席になっている。その席を埋める重責を担う者がいないからだ。
御義父様ってば凄い人なんだ。
私の、御義父様。
誇らしい。
「それと、もう1つ。数ヶ月後先にはなるが、王宮より、大臣の任命式を賜るのと、他にも賜わる事があるんだ」
またまた、意地悪な、笑いをする。
「それは、秘密にしておこう。楽しみにしておきなさい」
またまたノーセットと顔を見合せた。ノーセットも、不思議そうだったから、知らないようだ。
何かわからないが、楽しみだ。
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