神様、事件です!

因幡咲耶

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はるかぜこおりをとく(後編)

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 蛇骨様が僕を連れて降り立ったのは、この街で一番高い丘だった。

 こんなところに来てなにをするんだろう。僕にはまだなにも理解できていないけど、蛇骨様は、どうやら犯人の目星がついてるようだった。
 蛇骨様に降ろしてもらった僕は、風を感じて目を細めている彼を見上げる。

「蛇骨様。氷が溶ける原因がわかったんですか」

「わかるもなにも、こんなくだらないことをするのは風の精しかいないでしょう。なんで熱風を出せるようになったのかまではわかんないけど、いかにもあの意地の悪い種族が考えそうなことだし」

 確かに。風の精を含む精霊達は、皆無邪気ゆえにいたずら好きで、悪意もなく人間を振り回すことが多かった。
 丘に登ったのも、たぶん、ここが一番風が通るから。そう納得した瞬間、突如風が集まって、僕達の前に小さなつむじ風が現れた。

「だーれが意地が悪いって? 小僧」

 つむじ風から半透明の目玉がにゅっと出てきて、僕も蛇骨様も顔が引きつってしまう。
 でも、蛇骨様が顔を引きつらせたのは、風の精に驚いたからじゃなかった。この風の精が、恐らく古株の……蛇骨様の本心を代弁するのなら、面倒くさいタイプの精だったからだ。

 蛇骨様は、さりげなく僕を背中に隠す。蛇骨様は小柄だけど、僕をすっぽりと隠せるくらいの体格はあって、そのしぐさにちょっぴりドキドキしてしまった。

「生意気な小童が。神獣ごときが神様ぶって国を治めおって。国民にちやほやされて、ケツの青いひよっこがなにをイキがっているのか」

 風の精は、どうやら僕が皇帝だということには気付いていないようだった。老人のしゃがれ声でねちねち小言を言われて、蛇骨様の額に青筋が浮く。

 案外ケンカっぱやい蛇骨様が殴りかからないように押さえつけながら、僕は内心、この風の精はたいしたことないなと思っていた。
 だって蛇骨様は、見た目こそ青年だけど、本当はこの風の精よりうんと歳上だろうから。それに気付かない時点でダメダメだ。

「……いやあ、お厳しい! 貴方のような素晴らしい方にそうおっしゃってもらえると、背筋が伸びる思いでございます!」

 なんとか怒りを飲み込んだ蛇骨様が、営業スマイルで風の精を褒めちぎる。そのおかげで、風の精は少し機嫌が上向いたようだった。

「……うん? 儂の素晴らしさが、おぬしなんぞにもわかるのか?」

「ええ! 僕のような若輩者にも伝わってきますよ。そんじょそこらの風の精には、熱を帯びた風など生み出せるはずがありません。一体どんな秘密をお持ちなんですか……?」

 自尊心をくすぐりつつ声をひそめれば、風の精は半透明の顔をむふむふとにやけさせて蛇骨様の口車に乗った。

「ふふ、聞いて驚くなよ。……実は儂は、あの偉大なる五大精霊を食って力を取り入れたのだ」

「えっ」

 それって、普通に大罪なんじゃ。思わず口をついて出そうになったけど、すかさず蛇骨様に口を塞がれる。

「なんと、そのおかげで力が増してらっしゃるのですね……! ……なら、他の精霊の姿をとるのも可能なのですか?」

「ふふん。朝飯前よ」

 自惚れた顔が揺らいだかと思えば、空中に炎が浮かぶ。熱気にあてられて蛇骨様の背中に引っ込めば、炎の顔が馬鹿にしたように歪んだ。

「なんと素晴らしい! ぜひ他にも見せてください!」

 蛇骨様が称賛すれば、風の精は鼻の穴を広げて姿を変える。
 炎の姿から、根っこをぶら下げた土塊の姿へ。土塊の姿から、雫が滴る水の姿へ。
 ……そして、山盛りの金塊の姿に移り変わった瞬間、僕の視界は一面の白で覆われた。

「へ、」

 間抜けな声を漏らした風の精を、巨大な口が飲み込む。
 肥大した体に押しのけられてバランスを崩した僕の目に映ったのは、風の精を丸のみにする、真っ白な大蛇の姿だった。


「──はっはっはっ! ザマーミロ!」

 丘から転げ落ちそうになった僕は、大蛇……もとい、蛇骨様の尾に支えられる。
 勝ち誇る蛇骨様をぽかんと見てから、僕は大慌てでその蛇腹に飛びついた。

「じゃ、蛇骨様!? まさか、風の精を食べちゃったんですか!?」

 お腹壊しちゃいますよ!と絶叫する僕を押しのけて、蛇骨様はするすると元の姿に戻る。

「大丈夫ですよ、消化まではしません。そんなことより、早く水の都に行きますよ」

「み、水の都……? どうして……」

「決まってるでしょう。……この風の精を、氷魚に売りさばくんです」

 にまりと笑った蛇骨様の強欲さに、僕は絶句してしまう。こともあろうか、蛇骨様は、氷魚様が研究者気質なのをいいことにふっかけようとしているのだ。

「五大精霊の力を取り込んだ風の精。これは珍しいですよ。研究しがいがあるでしょう」

「じゃ、蛇骨様、本気ですか……!?」

「あったりまえよぉ! 一体いくらになるかなぁ~」

 ウキウキで水の都に向かおうとする蛇骨様を抑えようにも、金に目がくらんだ彼はもう止まらない。
 腰にしがみついたまま引きずられてしまい、僕は、せめて氷魚様の懐が空にならないことを祈る。

 隠居生活を堪能したい神様達と、そんな神様達にまた国を治めてほしい僕。
 何故僕なんかを皇帝にしたのか、その答えは教えてもらえない。神様達は秘密主義で、僕に優しいふりをして隠し事ばかりしている。
 それでも僕は疑問に蓋をして、こうして、神様達と攻防の日々を過ごすのだった。






遊兎(ゆうと)

 神様達により、国を治める皇帝に選ばれてしまった少年。神様達に育てられたため、彼らは親のようなもの。歳の割にしっかりしてるが、本当はまだまだ甘えていたいお年頃。
 神様達からの慈愛の眼差しに、時々違和感を覚えることがある。好物は桃。


蛇骨(じゃこつ)

 国を治めていた神様の一人。住処は金の都。非常に口が回る人物で、儲け話に目がない。しかし、金儲けの才能はあっても賭け事の才能はないようだ。
 実は子供好きで、よく民の子供達と遊んでいる。好物は桃まん。


備考・東風解凍(はるかぜこおりをとく)
東風が厚い氷を解かし始めること。
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