プライベート・スペクタル

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第一章

第四節

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「スゴい……スゴいです師匠!」
これまでの物静かさとは正反対、未体験な出来事に目を輝かせるエイプリル。
潜った扉をもう一度潜る。
だが先程の部屋はすでに消え、ごくごく普通の更衣室のような部屋があるだけであった。
「こうやって未知の場所に行くんだ。【星】なら何度もお世話になることだから忘れるなよ」
「うぃ」
「良い返事だ」
ピュアなエイプリルの反応に思わず笑みを浮かべる大和。
そこに睦美からの通信が入る。
『ふむ、移動は完了したようですね…重畳重畳』
「そんな言葉いらん鉄面皮。現在地は?」
『急かさなくても言いますよ馬鹿一号。現在地は作戦地域から数十キロ離れた地点にある駅のホームです』
「成程な…離れた位置に繋げたのは保険の為か?」
『ええ、先の大和が対峙した某国の兵士達とは異なり、敵は我々と同じ【星】であると考えます。そこからのリスクを考え目的地から多少離れた場所から向かった方が不測の事態に対応できると判断しただけです』
「それでこの場所か…確かに駅は人に混ざりやすいし、数十キロなんて距離は俺達の足があれば十数分で事足りる距離だ…」
「理解していただいて何より…」
「いや~数年ぶりの東欧だな~…なあ皆、仕事終わりに土産でも買わね?」
「うぃ」
「いいですねぇ~」
『…おいそこの馬鹿、旅行気分で話を脱線させない。あとそのガイドブックを今すぐ仕舞え。エイプリルとチェルシーも盛り上がらない』
緊張感の保てない馬鹿に自然とため息が出る睦美。話の軌道修正をする。
『兎に角、この現在地から東へ線路沿いに移動して下さい。十数キロ地点にある分岐点が見えるのでそれは左へ、さらに進めば作戦地域である廃操車場です…分かれば移動して下さい。この時間帯は列車の往来もありませんから』
「了解。んじゃ行くか」
そう言い線路沿いを駆けだした大和。門司とチェルシーも後へ続く。
「おーい、お前も早く来いエイプリルッ!ちったぁ速度落してやるから!」
「う…うぃ!」
もう遠くの方まで行ってしまった大和に追いつこうとエイプリルも後を必死に追いかけた。

そうして移動した大和達。
【星】としての超人的な脚力は即座に高速走行中の自家用車の速度まで達し、十数分程度の時間であっという間に目的地である廃操車場付近にまで辿り着いた。
「ふぃ~…到・着ッ!」
「良い準備運動だったな」
両手を突き上げ大きく伸びをする大和に首のネクタイを整える門司。
「はあ…はあ……。燃え尽きそうです」
「お疲れ様ですぅエイプリル様」
一方、肩で息するエイプリル。チェルシーは優しく背中をさすってあげた。
『ふむ、エイプリルもはぐれずに付いて行けたようですね…』
「ああ、スポーツカーのフルスロットル並みの速度を出したが、はぐれずにきちんと付いてきたぜ。上出来だエイプリル!」
「……うぃ、ありがとう……ございます……」
そんなやり取りの後、廃操車場を一望できる場所へと身を隠す大和達。
そこから廃操車場を眺める。
「どうだい睦美、婆さんから送られてきた情報との正誤の差の程は?」
『…ふむ、そうですね……貴方達の目視にハッキングした施設内の警報装置や監視カメラで確認しましたが、警備員としての情報の差はそれほど大きくありませんね…突撃銃クラスの火器で武装した人間百数十人に、軍横流しの装甲車両数両でがっちりと警備されています』
「【星】についてはどうだ?」
『情報では複数名の【星】が警備についているとされ、それも情報通り3名の【星】がいます。顔などで素性の方を探っておりますが、誰かというのはわからないですね…少なくとも【銘付き】ではないようです』
「それならご主人と門司様で大丈夫そうですねぇ」
『慢心は身を滅ぼすから程々に……それと今回の奪取戦。あまり時間はかけないで下さい』
「鼻からそのつもりはないが、何故だ?」
『今回の【星具】。どうやら【天使】も狙っているそうです』
「【天使】か?」
「師匠。【天使】って何です?」
「世界の防衛機構みたいなもんだ」

【天使】
【星】の他にいる人ならざる存在の内の一種。
世界そのものによって生み出され、世界を守る為だけに動く存在。
【星】やその他人外が動くとなれば、大なり小なり何らかの破壊や混乱等の世界というシステムへの乱れが生じる。
【天使】はその乱れを起きないように、または起こったとしても最小限に防ごうとする秩序の守護者なのである。

「超絶分かりやすい例えは、コンピューターのセキュリティソフトみたいなもんだ。世界というコンピューターを俺達みたいな【星】やその他有象無象から守る為のツールみたいなものだ」
「うぃ?…私達【星】はウィルスなんです?」
「そういう訳ではねーが、まあ世界を運営するとなれば、何をしでかすかわからない危険な存在なんだろうな…こちらとしても会いたくない連中だ」
「彼らは我々を制する為、基本的一般的な【星】に比べると強く、迅く、そして固い。何より…彼らは戦闘による死亡があった場合。即座に世界からの強化刷新アップデートによりさらに性能が増す」
「中から下クラスの戦闘力しか持たない【星】にゃあ連中に太刀打ちできずに殺され、中から上クラスでも逆にこちらが殺しちまったら強化だからな、出会えば結構面倒だぜ」
「それに連中はしつこくしぶとい一度標的にされれば、地の果てまで追っかけてくる場合もあるからな…」
「しかしそんな【天使】も出張るたァな……奴らが【星具】を奪いに来るなんてよっぽどの事態だぞ、悪用するなんて婆さんが言っていたが、連中一体どう使うつもりなんだ?」
「それは向こうから聞き出さないと駄目だな……そんな事より俺達はどう攻める?時間もかけれないとなればさぞかし立派な案があるんだろうな?春日参謀殿?」
『…ふむ、個々の戦闘力はこちらが圧倒しているでしょうが、とはいえ人数差では完敗ですからね…ここはやはり……』
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