プライベート・スペクタル

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第三章

第二節

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「う……ん……」
ぴちゃりぴちゃりと天井から垂れる水滴の音。
不規則に響くその音によって、エイプリルは意識を取り戻した。
「あ…ぅ……ココは…?」
辺りを見回すエイプリル。天地には金属の板が四方には金属製の格子が張り巡らされた檻のようなモノに入れられている。
否、実際に檻なのだろう。それを証明する様にエイプリルの両手首には一部が檻と繋がっている鎖付きの枷が、首元には付けていた十字架の代わりに奇妙な首輪が巻かれている。
そして檻の外、格子の隙間から見えたそこは地下室のような日の当たらない湿った場所であった。
「あれから…いったい?」
場所を知ったエイプリル。次に何故こうなったのか自らの記憶をなぞる。
【星】である太蔵との不意の邂逅。そして戦闘、自らの秘めた能力により何とか勝利。息を吐かぬ間に晴菜と出会い。大和を侮辱されたことに腹を立て。戦いを挑み…。
「そしてアタシに敗れたというわけ…」
「ッツ!?」
「気がついたようね」
声の先。檻の外には晴菜がいた。
「もう一度順を追って言ってあげる。太蔵のゲスに襲われ、それを退けたアンタはアタシと出会った。戦う気は無かったのに、お師匠様のことを馬鹿にされたと感じたアンタはアタシに戦いを挑み。返り討ちにされた。そして捕らえられて今現在……アタシ達の『領域』に絶賛拘留中ってわけ……わかった?」
「うぃ…ありがとうございます」
壁にもたれかかりながらもご丁寧に説明してくれる晴菜。それを聞きエイプリルは俯く。
「あと一点。お節介として先に言っておいてあげる。アンタの狗やら兵隊やら出す能力。アレを使っての脱獄はオススメしないわ……入れられている合金製の檻ならもしかしたら破れるかもしれないけれど、そうするとアンタの首に巻かれた爆弾付きの首輪が爆発するわ…【星】にもきっちりと効く威力でね」
「……うぃ」
「つまるところ、アンタが無事でいる為ならその中で余計な事をしないことが賢明って事よ」
「…………うぃ……」
「…………やけに落ち込んでいるわね…もしかして仲間に迷惑を掛けているとか、そんなこと考えてる?」
「……うぃ」
晴菜の問いに頷いたエイプリル。これ以上ないぐらいに図星である。
折角、独力で【星】の一人を倒す大金星を挙げることが出来たのに、直後に敗れ囚われるなんて自分的に言語道断の愚行を犯してしまう始末。
ことそもそも冷静になって考えれば、第三者や敵対勢力に襲われた直後に『領域』を離れ出歩く行動自体が問題であった。
そんな軽率さによって、仲間に不利を与えてしまったのである。ここから自分は交渉材料に使われるのだろう。大和達に一体どれほどの迷惑をかけてしまうのか…。考えるだけで罪悪感と申し訳なさで胸が圧し潰されそうになる。
(もしかしたら…師匠も失望したかもしれません……これほどまでに不甲斐なく迷惑を掛けてばかりの私など……)
「うぐっ…ひっく……ひっく………」
「ちょっ、ちょっと泣かないでよッ!こちらは手を出さないって言ったのに仕掛けてくるからこんな目になるのよッ!」
「……ゔぃ……」
嗚咽を漏らすエイプリルに晴菜はバツの悪そうな顔をする。
「兎に角泣かないの…ほら」
「ゔぃ…」
見ていられなくなりハンカチを差し出す晴菜。
それを受け取りつつ晴菜にまで気を遣わせてしまったと感じたエイプリルは何とか涙を引っ込めようとする。
数分後、エイプリルはようやく落ち着くことが出来た。
「全く…こんなことになるなら倒した後に放置しておいておいた方が良かったかも…」
「あの……晴菜…さんって、とっても優しいんですね、もっと怖い人とばかり…」
「アンタみたいな幼い娘にそんなきつい態度なんて取れるわけないじゃないッ!」
おずおずとそう言ったエイプリルにそう叫んだ晴菜。言った後、少々不味いと感じ咳払いをする。
「まあ、元気が出てよかったわ……意気消沈している者を見ていたら気分が悪くなるもの…後はご想像の通り交渉の材料になるでしょうけれど…気をしっかり持つことね……それじゃあ」
「待ってくれませんか?」
立ち去ろうとする晴菜を呼び止めるエイプリル。晴菜は振り返る。
「なによ?」
「一つだけ尋ねしたいことが御座いまして…晴菜さんはどうしてそれ程までに師匠を嫌っているのです?…」
「………………」
「確かに師匠は、少々エキセントリックな方ですが、悪人には思えないのです」
「…………貴方に話す義理は無いわ…」
「……うぃ、そうですか…ですが相対の際に仰っておりましたよ…「あの男の最低さを教育してあげる」と…私は何も教えられておりません」
「うっぐ…意外と厚かましいのねアンタ…それと勢いでなに余計なこと滑らしているのよアタシ…」
頭を抱える晴菜。言おうか言うまいか少々悩み。決めるとエイプリルの元に踵を返した。
「いいわ教えてあげる。アタシが何故アレを憎んでいるのかを…」
「うぃ」
「アイツはねぇ…」

「何をやっているんだ『爆炎』」
話す直前に晴菜の後ろから声が聞こえる。
声の方向そこには黒いモヤと道化の覆面がいた。
「人質と雑談か…随分と暇なようだな……」
「まあまあ~いいじゃん☆晴菜ちゃんも息抜きは大事だって~」
頭を抱えるような動作の黒いモヤに楽観的な口調の道化の覆面。
その両者を見て晴菜は眉をしかめる。
「別に…暇なのは間違いじゃあないでしょ?メッセージへの反応待ちなんだから……それで何の用よ?一仕事終えたアタシの休憩時間まで口を出せるような契約じゃあなかったはずだけど」
「それは…そうだ…が……」
「あっは♪そうだね~」
晴菜の言葉が尤もだったのか否定する反応をしない両名。
そんな両名の間を晴菜はすり抜ける。
「それじゃ、アンタ等余計な連中が来たから…退散させてもらうわ。時間になったら動いてあげるから…それ以外は燃やす」
そう言って立ち去る晴菜。それに黒いモヤは溜息を吐き、道化の覆面は「それでいいよぉ~それじゃあねぇ~」と手を振って見送る。
そうして見送った後、入れ替わるような形でエイプリルの檻へと近づいた。
「それにしても…こんな子が『龍王』や『鬼神』のお仲間か……こんな幼子まで使うとは何ともまぁ…」
「うんうん、純粋で真っ直ぐな良い瞳だね!こんな純粋な子、昨今の【星】にもなかなかいないよ~」
顔を近づける両名。エイプリルは視線を得ることは出来なかったが、全身を舐めまわされるような気味の悪さだけは感じることが出来た。
「はぁ…何でこんな子が俺の周りにいないんだろうか…俺のようないい奴に…そう思わないか?」
そして何度目かの溜息を吐きつつエイプリルへと問いかけた黒いモヤ。エイプリルは何も応じない。
そんな中、急に道化の覆面は掌をポンと叩いた。
「あ、そうだ!君、僕らの仲間にならない?君みたいな子が『龍王』や『鬼神』にはもったいないし…今なら仲間になる特典で君の望むもの何でもあげるよ~」
「お断りいたします。私のいる場所は師匠達の隣です。それに囚われの私にすら正体の明かさない臆病者の貴方達とは信頼なんて築けるはずありません!」
「あっは♪だよね~」
そう断ったエイプリルに楽しそうな声を漏らす道化の覆面。断られることは最初から理解していたうえでそう尋ねた。そんな反応である。
「でも臆病者って言われるのはちょっぴり心外だな~…そうだ!だったら正体を明かそうかな!」
「…おい、今から正体を明かすのか?」
「そうだよ~…ここいらで目の前の少女にも誰と相対しているのかを知ってもらおう」
少々躊躇う黒いモヤにそう返す道化の覆面。
そしてほぼ同時にモヤと覆面を脱ぎ捨てる。
現れたのは2名の青年であった。
黒いモヤの方は、白のファーが付いた裾丈の黒のロングコート。中には襟元をはだけさせた黒のワイシャツと黒のズボンを身に纏っている。
足元には革のブーツ。そしてベルトには黒一色で彩られた装飾の剣を一振り差している。
そんな決めた格好とは裏腹に容姿は街をよく探せば数名はいそうなほどに平凡であり、気配も覇気のなさそうなモノを漂わせている。
もう一方の道化師の覆面の方はジャンパーに甚平、そしてスニーカーという格好。
そして容姿の方も歌舞伎役者のような白粉に隈取という奇天烈なモノである。
「ではでは~正体を明かした所で自己紹介を、俺の名前はイド。ナイスガイさ☆…そしてこちらが……」
「東郷・久弥だ……コレで良いんだろうイド?」
「バッチリさ☆」
サムズアップで笑みを浮かべるイド。それを見て久弥は溜息を吐く。
「まあ、コレで君も誰に捕まったのかと敵対したのは理解できたはずだね?」
「で?正体を明かしたがイド…これからどうする?」
「そんなの決まっているさ♪お暇するんだよ♪」
「何だそれ?」
言って去ろうとするイドに呆れる久弥。イドも「ほらほら~」と一緒に出ようとする。
「待って下さい」
そこで去ろうとする両名を呼び止めたエイプリル。イドは笑みを浮かべたまま足を止める。
「貴方達はあの【星具】を用いて、一体なにを起こす気なんですか?」
「はあ…やっぱり立場を弁えなくなるじゃあないか……それを真面目に答えると思うか?…仲間にもならない敵のお前に……」
「あっは♪そうだね流石に種明かしは少々早い気がするね~でも全くというのもアレだから動機ぐらいは語ろうかな……久弥?」
イドの言葉に「またそんな…」と不満を零す久弥。
だが、溜息を吐きつつもそれに従う。
「ひどく単純な動機……復讐だよ…」
そう言い残し、今度こそその場から去っていった久弥とイド。
「復讐……一体誰に対しての、ですか…?」
誰も居なくなった空間にて呟くエイプリル。その声に応じる者は無く、ただ滴っている水滴がぴちゃりぴちゃりと相槌を打つだけであった。
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