プライベート・スペクタル

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第三章

第四節

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「はあ…いよいよだな……」
送りつけたメッセージに記された座標【領域】。
雇った数十名の【星】が準備に励む様子を見ながら、溜息を吐く久弥。
続いてとある扉に視線を移す。
「送った座標。アレはあの扉に繋がる様になっている。あそこを抑えれば後手に回ることは無いだろう」
袋小路になる様に設置しておいた扉。開けた瞬間、そこに対【星】用重機関砲を四門、全て銃口を向けている。少しでも余計なことをすれば即座に肉体をハチの巣に変えるほどが可能である。
扉である故に一応奥にも空間は創り上げたが、その広さは一般家庭の物置サイズの僅かな広さ、とてもじゃあないが身を潜めることは出来ない。
「これだけでも十二分。だが念には念を入れて雇った【星】が固める」
『爆炎』のような【銘付き】程ではないが、それなりの手練れは集めておいた。それぞれが刀剣や銃火器で武装している。
仮に重機関砲が突破された場合でもすぐに対応できるだろう。
「まあこの戦いは、明らかにこちらが優位だからな…貰った機会で全力で叩き潰させてもらうさ」
呟く久弥。とそこに雇った【星】の一人が駆け寄る。
「久弥様。俺達は言われた通りの手筈でよろしかったのですね?」
「ああ、そうだ」
方針は実に単純である。
侵入して来る呉成・大和。彼に対して捕らえたエイプリルと奪われた『月下の雫』の交換の交渉を行う。大和が交渉に応じれば、『月下の雫』を受け取りエイプリルのいる位置の情報とと爆弾付き錠の鍵を渡す。彼らが開放に向かう間に自らの【領域】へ撤退、その後座標をかく乱して終わり。連中は尻尾を掴むことも出来なくなる。
逆に応じなければ火力で脅せばいい。
こちらが圧倒的に優位なのだ、それぐらいは出来る。
「君等は俺がやれと言った事をやるだけでいい…終われば報酬は君等のものだ」
「了解」
頷き足早に去っていく【星】。
その姿に溜息が出る久弥。
彼らは久弥を見ているのではない。彼の後ろにあるお金だけを見ている。
それ故に命令には従順なのだろう。だが信頼はすることが出来ない。
まあ久弥も久弥でそう割り切っている。きちんと命令通りに動いてくれれば、戦闘で死のうが再起不能になろうがどうでもよかった。
それと……。
(はあ…それにしてもイドの奴も勝手すぎるよな…)

「んじゃ☆俺っちはやることがあるから…ココは任せたからね~」
そう言って楽しそうな表情で去っていった相方。己の目的に理解を示し、手を貸してくれた事には感謝はする。だが何をやるのか、そんな事を一切言わずに勝手をするそのスタンスだけは嫌気が差す。
一応『爆炎』等一部の者達は置いて行ってはくれたが、彼女達は一切の干渉を拒んでいる。とても制御できる戦力ではない。
(でも……こちらの害になるようなことはしないだろう)
「はあ……それにしても、ちゃんとした信頼で協力してくれる奴はいないものか……」
全てが打算的、そんな関係に頭を抱える久弥。自然と口からため息が出る。
とそこで、雇った【星】の一人が叫ぶ。
「…ッツ!?扉の接続を確認ッ!来ます!!」
言葉を聞き一斉に武器を構える他の【星】達。銃口を向け、安全装置セーフティを外し、鞘から刃を抜き放つ。
ギギィ……。
ゆっくりと開かれる扉。緊張が一瞬にして駆け巡る。
その中、扉から現れたのはジェラルミンケースを携えた睦美であった。

「私は『創世神』所属の【星】春日・睦美。『龍王』呉成・大和、『鬼神』長船・門司の遣いとしてこの場にやって来ました」
「……久弥様?」
「……彼女は連中の参謀。同じ【星団】の関係者だ、そのまま続行…ただし警戒は十二分に行ったままで…」
「了解……よく来たな女ッ!早速で悪いが例のモノはきっちりと持ってきたんだろうな?」
【星】の一人に尋ねられ応じる様にジェラルミンケースを掲げた睦美。そのまま地面に置くと久弥達の方へ滑らせるように蹴り飛ばす。
そのケースを拾い上げる【星】中身を確認すると中にはボロボロの剣の柄が入っていた。
「良しッ、良いだろう!」
件の【星具】だと確信する【星】。久弥の元へと持って行く。
「………………ああ、本物だ」
中身を見た久弥。形状や微かな気配からこれが本物の『月下の雫』だと確認できる。
どうやら彼らは真面目に交渉の席につくつもりらしい。
「本物であると確認出来ましたか?…出来たなら、こちらの要求もきちんと呑んでいただきましょうか……」
「…久弥様?」
「言わなくても察しろよ…彼らに鍵を渡せ」
【星】の一人にそう命じる久弥。受けた【星】は久弥から受け取った鍵を睦美の元に投げ渡す。
「ふむ、確証は得ませんが何らかの鍵であることは確か……で、仲間の居場所は何処です?」
「………ああ、こっちだ」
手にした鍵を確かめる睦美【星】の案内を素直に受ける。
その光景を見て少し安堵する久弥。少々拍子抜けのような感も否めないが、こうも容易く奪われた【星具】が戻って来たのは何よりであった。
存外に仲間想いであった彼らに感謝と今後に関わりがあれば似た手口が使えると頭の中に入れておく。
「しかし、『龍王』や『鬼神』と銘がついている割には大したことが無かったな…こんな取引にきっちり応じるなんて…」
「ビビっているんじゃあねぇか?奴らに渡した座標じゃあ、あそこからしか侵入が不可能…明らかに分かる不利な状況。流石に【銘付き】と言えども軽々に突撃は出来まい」
「だろうがなぁ…それでも自陣の参謀を一人向かわせる程に腑抜けだったとは…」
「おいッ『龍王』に『鬼神』ッ!ヘタレてビビってんじゃあねぇぞ!!」
久弥と同じような気持ちだった【星】達。軽口を叩き始め扉に向け煽り「ぎゃはは」と笑う。
だがその数瞬後その笑顔は凍り付く………。
「来ちゃった☆」
何故なら笑っている彼らの背後に悪魔のような笑みを浮かべた大和が立っていたからであった。
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