プライベート・スペクタル

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第三章

第十一節

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「………………」
『創世神』の【領域】を離れた大和。向かった先は、自宅であるアパートであった。
自室に戻るや否や床に大の字に寝っ転がる。
「……こいつを持たせておきゃあ良かったんだがな…」
取り出し天井に掲げた通信機を見ながら呟く大和。エイプリルに持たせていればこんなことは起きなかったのだろう…と過去の事ながら悔やむ。
そうした後、通信機をしまい。しばらくゴロゴロした大和。時計の短針が一つ動いたぐらいに起き上がってアパートを出る。
次に向かったのは、エイプリルと訪れた商店街であった。
「結構開いている店があるんだな」
自身が行った戦闘により半壊し、店のほとんどが閉まっている状況だったが、一部が開いていたのを見て呟く大和。
工事作業員や警察官、警備員、作業員に扮し修繕に就いていた『フツノミタマ』の者達が大和の姿に緊張感を高めていたが、大和にほどうでもよかった。
それからゲームセンター。建設途中の大型建造物の屋上。著名な寺社仏閣等々。様々な場所を巡った大和。特に何をするわけでも無いが、人の間に混ざり様々なモノを見る。
そうしてさまよい歩いた大和。
日も暮れる頃、最後として辿り着いたのは人里からやや離れた山の頂であった。
「どっこい、せっ…」
見晴らしの良さそうな場所を見つけ腰を下ろした大和。
日も暮れた夜の初め、徐々に灯っていく街の光を胡坐をかきながらぼうっと見つめる。
とそこで…。
「全く、あれですぐに出かけるなんて…救いのない程に大馬鹿ね……」
背後から声がかかる。
声の先、暗闇の中から現れたのは晴菜であった。
「…お前も大概だと思うけれどな……」
いることを知っていたのか、特に驚きもせず胡坐のまま街の方を見続けながらそう返す大和。
直後に付け加える。
「しかしま、お前の方がまだマシだな……喉から手が出るほどにやりたい俺の殺害をせず、ストーキングだけで留めたんだからよぅ。いや…ストーキングの時点でどっこいどっこいか?」
「アンタが人の多い場所に居たからよ。一般人の巻き添えなんて寝覚めが悪く鳴るったらありゃしない」
「一般人の巻き添えも厭わない苛烈さって言う逸話も何かしらの理由がありそうだな…」
「アンタには関係のない事よ…」
ぶっきらぼうにそう返す晴菜。大和に近づくと並ぶように隣へと立つ。
そんな晴菜の口調に大和は笑みを浮かべる。
「やっぱり根は昔と変わらねぇや、優しく他者への面倒見がいい…『爆炎』だのなんだの恐れられてはいるが…何も変わっていねぇ…最初に俺達を襲撃した時も誰も居ないというのを考慮したんだろ?」
「勘違いしないで、ただ邪魔になったら嫌だと思っただけよ」
「……そういう事にしとこうか、ココでふざけてエイプリルにきつく八つ当たられちゃあ、可哀そうだからな」
「そんな陰湿な事しないわよ…アタシが灰も残さずに消し去りたいのはアンタだけ…彼女とは出来れば戦いたくも無かったわ」
「そっか…」
「……本当アンタって大っ嫌い…」
見透かすような大和の態度。晴菜は悪態で応じる。
その後、二人の間に少しの無言の時間が流れる。
夜は増々深まり。天には星々が、眼下には人々の営みが、輝きを増し始める。
そんな光景を二人はただただ見つめていた。
「なあ晴菜……」
このまま続くかのように見えた中、それを破るかのように口を開く大和。
晴菜も「何よ…」と短く返す。

「ゴメンな晴菜…約束を守れなくって……」
「ッツ!!?」

「アンタと道が分かれた中学時代……何者かに攫われて、無理矢理【星】に覚醒させられ、望まない戦いに投じられたアタシの事を知らずに呑気に今まで過ごしたくせに…どんな事がっても俺が助けてやるって約束したくせに…アタシの「助けて」も聞こえなかったくせに…」

ソレが先の戦闘にて大和へと告げた晴菜の戦う理由。晴菜が大和を憎んだ理由であった。
「中学時代。晴菜の親父の都合で遠くに引っ越して、そこから疎遠になった」……それは大和と門司の共通の出来事、共通の認識。
だがそれは、真実では決してなかった。

幼き頃より【星】として数多の戦いへと身を投じ名を馳せてきた大和と門司。
そんな彼らに当時一般人でありながら付き合い潜り抜けてきた晴菜。
【星】や【星】を知る者達の多くは彼らのことを認知したのは間違いないだろう。
それと同時にある考えが浮かんだことも……。
……何も持たないただの一般人。それが若く強い期待の【星】である二名に苦も言わずに付き従っている…。
もしかしたら、彼女も恐ろしいまでの素質を有しているのではないだろうか……。
中学も卒業の頃、そんな考えに至った者達により連れ攫われた晴菜。彼女の両親には「彼女が存在していない」という記憶を何らかの【演目】で植え付け、周囲との差異を生じさせないように遠くに転勤させるという徹底ぶりで彼女を人の領域から遠ざけた。
そうして偽りの真実と【星】早乙女・晴菜が生まれたのである。
「俺が言った事なのに、俺はそれを守ることが出来なかった…お前の怒りは尤もだと思う」
「…………」
「だからこそ俺はその罪を全て受け入れる。この人のいない場所にはケジメの為に来たんだ」
「……………」
「もう一度言わせてくれ。ゴメン晴菜、約束を守れなくて…」
晴菜の方向を向き改めて大和は改めて頭を下げる大和。
「………………ょ…」
「………………」
「何で今になって、それを言うのよッ!」
その大和の態度に吼えた晴菜。
炎の拳銃を作り出すと即座に大和に向けて引き金を引く。
「今になって、アンタがそれを言うのは…それを言うのはぁあああ!!」
ひっきりなしに撃ち続ける晴菜。大和も全てを受け入れるかのようにガードも何もせずひたすら受け続ける。

【演目】『爆炎 炎銃 ウージー』

「卑怯者!卑怯者!卑怯者!卑怯者!卑怯者ッ!!」
拳銃から短機関銃に換装し引き金を引き絞る。
ゲリラ豪雨のような弾幕で展開される炎の弾丸。
とてつもない勢いだが、大和は踏ん張り声を上げることなくすげてを受け止め続ける。

「アンタがッ!そんなこと言ったらアタシは…アタシはぁああああ!!」

「師匠は、『龍王』と呼ばれ、知らない方には恐れられているのかもしれません…でも内は、仲間を大切に思い。ただ周りの幸せを何よりも考える優しい方です…まだわずかしか共に過ごしていない私でも理解できたことです」

大和の後を付ける前、エイプリルに言われた言葉が脳内に響いていた晴菜。
仲間を大切に想い。ただ周りの幸せを何より考える……。
(そんな事…そんな事……アタシが一番わかっているわよッ!!)
幼い頃、物心がついた時からつるんでいた目の前の男は己よりも何よりも仲間の為に動いていた。
幼稚園。初めて出会った時…いじめっ子に他愛の無い意地悪をされて泣いていた晴菜に手を差し伸べ、いじめっ子にもう二度と意地悪をしないように動いた。次はそのいじめっ子の悩みを見抜いた彼は彼に寄り添い彼の勇気を奮う形で解決した。その次の日にはまた別の子、また別の子と…彼は晴菜を含めて自分の周りにいる人の笑顔の為に動き続けた。
ある時には道化を演じ、ある時には心強い味方となり、いつもいつでも皆の支えとして生きていた彼の姿は超人と呼ばれる【星】でなくても英雄だと晴菜は思えるものであった。
彼に振り回され、巻き込まれる毎日は晴菜にとっては許す云々どころか誇りとも呼べるものであり、無茶苦茶でボロボロになっても「仕方がない」と笑みを浮かべ充足に足るモノであった。
このまま彼と共にこの気持ちのまま大人になり、そしてこれからも続いていくのだろうと晴菜は思っていた。
だが彼と一緒にいた事によって晴菜は連れ去られた。愛していた両親から自身の存在を消され晴菜は敵対する者達の【領域】へと連れ去られた。
そして大和や門司にに対抗する、敵対する為に【星】に覚醒する為の酷い実験と洗脳を受け続けた。
このままでは、これまで大切な彼らに牙を剝かされるという事実。何度も心が折れそうになる。

「お前が助けを欲しい時、俺を呼んでくれって、絶対にどんなことがあっても俺が助けるから」

その言葉を思い出し、彼が助けてくれるんだと信じ、心の中で晴菜の英雄に対して何度も助けを求め続けた。
だが結局、彼は来なかった…彼女の中の英雄は手を差し伸べることが無かった。
(そりゃ当然よッ!いくら強くてもあの時のコイツはまだガキんちょの年齢ッ、それに遠く離れたアタシの心の声なんて聞こえた方がオカシイに決まっているッ!!)
…だからこそ、これまで抱いた憎しみ、恨み。これが晴菜自身の自己満足の産物だということは、晴菜自身が一番理解している。
(けれど…そんな簡単に納得したくないのよッ!!)
傍から見ればなんて大きく醜いエゴなのだろう。自分勝手、自己中心的、迷惑千万と断じられても何ら否定をすることが出来ない。
ただ目の前の奴には知って欲しかった。小さな晴菜アタシ自身の我儘を目の前のアタシの英雄だけには受け止めて欲しかった。
いつの間にやら顕現させていた銃も消え失せ、ただただ火の玉をぶつけるだけになっていた晴菜。だが気にせずに目を閉じるほどに必死にぶつけ続ける。
とそこでふと目を開く。
大和はまだ立っていた。
衣服には焦げたような穴がいくつも空き、トレードマークのバンダナもボロボロの状態。
だが倒れることなく晴菜を見つめ続けている。
子供の頃と変わらない優しい瞳で…。
「………ッツ!?」
「悪かった。お前の辛さや苦しみに気づいてやれなくってよ…」
なおもそう言った大和。子供の頃、一緒にいた時と変わらない優しい表情に晴菜は思わず涙を流す。
「……ッ、大和ォオオオオオオォッ!!」
嗚咽交じりに振るった渾身の右ストレート。
拳は大和の顎を綺麗に撃ち抜き、何も言わずに大和は大の字で倒れる。
「はぁはぁはぁ…」
仰向けに倒れた大和を見下ろす晴菜。
乱れた衣服に乱れた髪の姿で荒い息を吐き続ける。
一杯一杯の状況。だが、その胸中には先程の優しい言葉と表情がぐるぐるとめぐり続ける。
大和に歩み寄る晴菜。手を伸ばす。
「はぁはぁはぁ……ッ…ばか…」
そのまま大和に触れようとしたが、手を引っ込めた晴菜。
聞こえない程に小さな声量で呟き。懐からあるモノを取り出す。
それは武器ではなく、自らが被っているキャスケット帽に装飾されているナンバープレートと同じものである。
指先へ炎を灯す晴菜。プレートへ押し付け何かを書き込んでいく。
「……今度は、きっちりとしなさいよ」
書き込み終えるとそう呟いた晴菜。そのままその場から立ち去る。
仰向けに倒れた大和の胸にはプレートが置かれていた。
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