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運命の番~運命の番との突然の出会い
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(いまの香り……)
すれ違った瞬間、びっくりするくらい心臓が飛び跳ねた。勢いよく振り返ると、相手も目を見開いて僕を見ている。そのまま訳もなく見つめ合いながら、気がつけば僕の右手は男性の左腕を掴んでいた。
途端に目の前がぐらりと揺れた。景色がぐるぐると回り出し、さらに視界がぼやけ始める。気持ちが悪くなるほどの状態なのに僕は段々と夢見心地になっていく。
(この香りは……のだ)
早く捕まえなくちゃ。そう思いながら必死に腕を引っ張った。
「ちょっと待って」
声をかけられても引っ張り続けた。そんな僕の両肩を掴んだ男性が「待って」とまた声をかける。
「どうして、」
僕は早く二人きりになりたいのに、どうして止めるんだろう。そう言いたいのに言葉にならなくて、代わりに縋るような目で男性を見上げた。
「わかっているから落ち着いて。近くに俺が宿泊しているホテルがある。定宿にしているホテルだから融通も利く。そこへ行こう」
「ホテル、」
「香りが段々強くなってきている。このままじゃ、ほかのαまで引き寄せられかねないからね。もしかして発情期が近いんじゃないかい?」
まさかと思った。三カ月に一度やって来る発情期は一週間前に終わったばかりだ。ついさっきまで何ともなかった。いまだって目眩はひどいけれど意識ははっきりしているし、僕がこの人の手を掴んだのは発情期だからじゃない。
「違う」
「それじゃ、やっぱり運命の番か」
運命の番という言葉にドキッとした。噂なら聞いたことがある。というより、僕のようなΩは誰だって運命の番に憧れを抱いているはずだ。
(運命の番が見つかれば、きっと幸せになれる)
なにより僕だけを愛してくれるに違いない。普通の家庭にうっかり生まれてしまった僕は、存在を喜ばれるどころか心配ばかりかけてきた。見た目も普通だから普段はΩだと思われることもないし、優秀なαに見初められることもない。そもそもそんなαと出会う機会すらなかった。よくて僕みたいに平凡な家庭にうっかり生まれたαか、Ωを食い物にする悪いαくらいだろう。
未来のない僕は、噂で聞いた運命の番に憧れを抱いていた。運命の番は生まれる前から固く結ばれた存在で、決して誰にも妨げられることのない強固な繋がりを持つのだという。
(僕の、運命の番)
腕を掴んでいた男性をじっと見上げた。僕よりずっと背が高くて、よく見たら高そうなスーツを着ている。顔立ちや雰囲気から年上のように見えた。なにより驚いたのは顔で、まるで人形のように整っていた。
「僕、が?」
つぶやいた声が震えてしまった。だって、僕みたいなΩの運命の相手がこんな素敵な人だなんてあるはずがない。それなのに「運命の番」と思っただけで心が震えて涙が出そうになった。
「間違いない。すれ違っただけでここまで強く香りを感じたのは初めてだ。発情期じゃないのにこれだけ感じるということは、間違いなく運命の番だろう。魂がこんなにも揺さぶられたのは三十四年間生きてきて初めてだよ。きみは?」
「十九年しか生きてないから、わからない」
震えながらも何とか答えることができた。
「一回り以上年下か」
男性が小さく笑っている。綺麗なその顔に心臓がドクンと震えた。
(この香りは、僕のだ)
気がつけば男性の大きな手が腰に回っていた。まるでどこかのお嬢様みたいにエスコートされながら歩いている。僕は男性の香りを嗅ぎながら、ただ必死に足を動かした。
「ここだよ」
到着したのは僕でも名前を知っている有名なホテルだった。エントランスに入ると制服を着た男性がすぐに近づいて来る。その人に「五時間後にルームサービスを頼む」とだけ告げた男性は、僕の腰に手を回したままエレベーターに乗った。そうして迷うことなく最上階のボタンを押す。
ドクン。
ボタンを押す指先を見ただけで体が一気に熱くなった。目眩よりも視界の滲みのほうがひどくて前がよく見えない。口からはハァハァと荒い息まで出ていた。
(この人がほしい。僕の全部をこの人に奪われたい)
気がついたら噛みつくようなキスをしていた。爪先立ちで男性の首に両手を回し、何度もキスをする。舌を絡め合い、お互いの口の中をぐちゃぐちゃに舐め回し合った。
「きみの香りはたまらないな」
唇が触れるかどうかの距離で男性がそう囁く。
「僕も、あなたの香りが好き」
「俺も発情に入るだろう。覚悟はいいかい?」
ポンと音がしてエレベーターが止まった。開いた扉の先には絨毯が敷かれた廊下があり、人気がないのかシンと静まりかえっている。廊下から視線を上げると、真っ直ぐ進んだ先にドアがあることに気がついた。滲んだ視線がますますぼやけていく。
フカフカの廊下を歩く短い時間で、僕は運命のαにぐちゃぐちゃにされることを想像した。それだけでお腹の奥が熱くなり、発情期でもないのにどこかがじゅんと濡れたような気がした。
すれ違った瞬間、びっくりするくらい心臓が飛び跳ねた。勢いよく振り返ると、相手も目を見開いて僕を見ている。そのまま訳もなく見つめ合いながら、気がつけば僕の右手は男性の左腕を掴んでいた。
途端に目の前がぐらりと揺れた。景色がぐるぐると回り出し、さらに視界がぼやけ始める。気持ちが悪くなるほどの状態なのに僕は段々と夢見心地になっていく。
(この香りは……のだ)
早く捕まえなくちゃ。そう思いながら必死に腕を引っ張った。
「ちょっと待って」
声をかけられても引っ張り続けた。そんな僕の両肩を掴んだ男性が「待って」とまた声をかける。
「どうして、」
僕は早く二人きりになりたいのに、どうして止めるんだろう。そう言いたいのに言葉にならなくて、代わりに縋るような目で男性を見上げた。
「わかっているから落ち着いて。近くに俺が宿泊しているホテルがある。定宿にしているホテルだから融通も利く。そこへ行こう」
「ホテル、」
「香りが段々強くなってきている。このままじゃ、ほかのαまで引き寄せられかねないからね。もしかして発情期が近いんじゃないかい?」
まさかと思った。三カ月に一度やって来る発情期は一週間前に終わったばかりだ。ついさっきまで何ともなかった。いまだって目眩はひどいけれど意識ははっきりしているし、僕がこの人の手を掴んだのは発情期だからじゃない。
「違う」
「それじゃ、やっぱり運命の番か」
運命の番という言葉にドキッとした。噂なら聞いたことがある。というより、僕のようなΩは誰だって運命の番に憧れを抱いているはずだ。
(運命の番が見つかれば、きっと幸せになれる)
なにより僕だけを愛してくれるに違いない。普通の家庭にうっかり生まれてしまった僕は、存在を喜ばれるどころか心配ばかりかけてきた。見た目も普通だから普段はΩだと思われることもないし、優秀なαに見初められることもない。そもそもそんなαと出会う機会すらなかった。よくて僕みたいに平凡な家庭にうっかり生まれたαか、Ωを食い物にする悪いαくらいだろう。
未来のない僕は、噂で聞いた運命の番に憧れを抱いていた。運命の番は生まれる前から固く結ばれた存在で、決して誰にも妨げられることのない強固な繋がりを持つのだという。
(僕の、運命の番)
腕を掴んでいた男性をじっと見上げた。僕よりずっと背が高くて、よく見たら高そうなスーツを着ている。顔立ちや雰囲気から年上のように見えた。なにより驚いたのは顔で、まるで人形のように整っていた。
「僕、が?」
つぶやいた声が震えてしまった。だって、僕みたいなΩの運命の相手がこんな素敵な人だなんてあるはずがない。それなのに「運命の番」と思っただけで心が震えて涙が出そうになった。
「間違いない。すれ違っただけでここまで強く香りを感じたのは初めてだ。発情期じゃないのにこれだけ感じるということは、間違いなく運命の番だろう。魂がこんなにも揺さぶられたのは三十四年間生きてきて初めてだよ。きみは?」
「十九年しか生きてないから、わからない」
震えながらも何とか答えることができた。
「一回り以上年下か」
男性が小さく笑っている。綺麗なその顔に心臓がドクンと震えた。
(この香りは、僕のだ)
気がつけば男性の大きな手が腰に回っていた。まるでどこかのお嬢様みたいにエスコートされながら歩いている。僕は男性の香りを嗅ぎながら、ただ必死に足を動かした。
「ここだよ」
到着したのは僕でも名前を知っている有名なホテルだった。エントランスに入ると制服を着た男性がすぐに近づいて来る。その人に「五時間後にルームサービスを頼む」とだけ告げた男性は、僕の腰に手を回したままエレベーターに乗った。そうして迷うことなく最上階のボタンを押す。
ドクン。
ボタンを押す指先を見ただけで体が一気に熱くなった。目眩よりも視界の滲みのほうがひどくて前がよく見えない。口からはハァハァと荒い息まで出ていた。
(この人がほしい。僕の全部をこの人に奪われたい)
気がついたら噛みつくようなキスをしていた。爪先立ちで男性の首に両手を回し、何度もキスをする。舌を絡め合い、お互いの口の中をぐちゃぐちゃに舐め回し合った。
「きみの香りはたまらないな」
唇が触れるかどうかの距離で男性がそう囁く。
「僕も、あなたの香りが好き」
「俺も発情に入るだろう。覚悟はいいかい?」
ポンと音がしてエレベーターが止まった。開いた扉の先には絨毯が敷かれた廊下があり、人気がないのかシンと静まりかえっている。廊下から視線を上げると、真っ直ぐ進んだ先にドアがあることに気がついた。滲んだ視線がますますぼやけていく。
フカフカの廊下を歩く短い時間で、僕は運命のαにぐちゃぐちゃにされることを想像した。それだけでお腹の奥が熱くなり、発情期でもないのにどこかがじゅんと濡れたような気がした。
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