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4-1 秘密の共有
「大国イシュクナーダの美しき王は酔うことを知らない」
スフェンザードに関する噂話の一つにそうした内容のものがある。
オアシス周辺では大昔からワインが作られ、イシュクナーダでは身分に関係なく酒を好む人が多かった。王族や貴族の間ではワインをたっぷり用意した宴を開くことが富と力の象徴とされており、今でも国内のあちこちでそうした宴が開かれている。
王宮でも年に数回、盛大な宴が催された。しかしそうした席で国王が酒を口にすることはない。かつて酒に毒を盛られて死んだ王がいたからで、近隣国から客人を招いた宴でもそれは変わらなかった。
ところがスフェンザードは違っていた。どんな宴の席でも酒を飲む。それも周囲がギョッとするほどの量をだ。はじめは止めていた王宮伯たちも次第に諦め、今では客人たちがこぞって王の杯に酒を注ぐようになった。
そうやって浴びるように酒を飲む王だが、これまで誰一人として酔った姿を見たものはいない。そのため「美しき王は酔うことを知らない」と言われるようになった。
「そんなイシュクナーダの王がこのざまですか」
オンキースのため息にスフェンザードがムッとした表情を浮かべる。それでも酷薄に感じられないのは目元が赤くなっているからで、眼差しもどことなく気だるげだ。
「言うな」
「飲み過ぎですよ」
「うるさいぞ。こうして気兼ねなく飲めるのはおまえたちの前でだけなんだ。好きにさせろ」
「だからといって限度があるでしょう」
「相変わらず口うるさいやつだな」
「そうさせているのは陛下ですよ。まったく、昔からそうしたところは変わりませんね」
「言ってろ」
オンキースが呆れた眼差しで向かいに座る王を見た。オンキースの隣ではラリマーンが二人を交互に見ながらオロオロとし、王の隣ではセレンがわずかに頬を染めながら玻璃のグラスを傾けている。
この場で酔っていない者は一人もいなかった。王は弟と友の仲を取り持つことができたと機嫌良くグラスを傾け、オンキースは何かが吹っ切れたようにワインを口にした。スフェンザードも酔っているが、オンキースも口調が昔に戻ってしまうくらいには酔っている。
ラリマーンは久しぶりの面子に緊張していたからか飲む速度を見誤った。いつもよりグラスを空けるのが速く、顔はすっかり赤らんでいる。セレンは三人に視線を向けることなく玻璃のグラスを両手で持ち、ちびちびと中身を飲み進めていた。
「なんだ、セレンも酔っているのか。顔が赤いな」
「セレナイート殿が飲んでいるのは葡萄ジュースですよ」
「そうだったか?」
「用意したのは陛下では?」
「そういえばそうだったな。ということはセレンは葡萄ジュースで酔うのか。なんとも愛いやつだ」
そう言って機嫌良く笑ったスフェンザードは、グラスに半分ほど残っていたワインを一気にあおった。それにため息をつくオンキースの隣でラリマーンが「やはり飲み過ぎでは」と声をかける。
「問題ない。それにすぐに元に戻る」
「ですが……」
ラリマーンがちろっと隣を見た。もう少し強く止めたほうがいいのではとオンキースに助けを求めるが、オンキースは諦めたのか「言っても無駄だと思いますよ」と言って自分のグラスを傾けている。
「オンキースの言うとおりだ。そもそも酔いたくても酔えない体だから心配する必要はない」
「酔いたくても酔えない……?」
意味がわからずラリマーンがきょとんとした顔をした。説明を求めるように隣を見るが、視線に気づいているはずのオンキースは何も答えない。
「そういう体質なだけだ」
「体質、ですか」
「どんなに飲んでもすぐに回復する。今となってはありがたいことかもしれないがな」
「回復だなんて、まるで酒が毒のようなおっしゃりようです」
「酒も量が多ければ毒と変わらん。ま、本物の毒でも同じことになるだろうが」
「陛下」
オンキースがたしなめるように口を挟んだ。ちろっと友を見たスフェンザードは何も言わずに手酌でグラスに新しいワインを注ぐ。オンキースもそれ以上は何も言わず再びグラスを傾けた。入り込めない雰囲気に、ラリマーンはやや居心地悪そうにしながら残っていたワインをちびちびと口にする。
静かになった部屋にことりとグラスを置く音がした。静かに葡萄ジュースを飲んでいたセレンが空になったグラスをテーブルに置き、ジュースの入った陶器に手を伸ばす。
「注いでやろう」
「はい」
「葡萄ジュースは気に入ったか?」
「はい」と答えたセレンだが、少し考えるような素振りを見せたあと「とてもおいしいです」と言葉を続けた。再びの自発的な言葉にスフェンザードは大いに満足し、そんな二人の様子をオンキースが静かに眺める。
「やはり白いオアシス産は違うだろう? 近隣国ではワインだけでなくこのジュースも人気だと聞いている。ジュースだというのにワインのような芳醇な香りがするからだろうな。わかるか?」
「はい」
「イシュクナーダでは昔から白いオアシスの葡萄は神の恵みと言われている。そうか、だからおまえも酔っているような状態になったのかもしれんな。我らには彼の地の記憶が血肉に刻まれているのだろう」
そう言って笑ったスフェンザードが再び機嫌良くグラスを傾けた。それを見たセレンも倣うように葡萄ジュースを飲む。そんな二人から視線を外したオンキースはグイッとグラスを傾け、ラリマーンは気になることでもあるのかチラチラとスフェンザードを見ていた。
「どうかしたか?」
視線に気づいたスフェンザードがそう口にした。ハッとしたラリマーンが「えっ? あ、いえ」と口ごもるが、「言いたいことがあるなら言え」と促されて困り顔になる。
「おまえはわたしの弟だ。何を遠慮することがある」
弟という言葉にわずかに眉尻を下げながら、「では」とラリマーンが口を開いた。
「記憶が血肉に刻まれている、というのはどういう意味でしょうか?」
いつもなら気になることがあっても政務に関係ないことを尋ねたりはしない。そうやってわきまえるのが自分の生きる道だと思っているからだ。ところが酔っているからか、王のひと言が妙に気になって尋ねずにはいられなかった。
濃朱色の瞳がラリマーンを見る。やけにじっと見つめる瞳に、慌ててラリマーンが「余計なことを申しました」と頭を下げた。
「いや、かまわん」
スフェンザードの手が隣に座るセレンへと伸びた。今夜もセレンは目元を隠すベールを付けている。後宮に現れたときからベールを付けているからか「顔にひどい傷があるのでは」と噂する者もいた。それでも端正な鼻や口の形から「いや、美しすぎて王が隠しているのかもしれない」という噂もある。
そのベールを王が優しく剥ぎ取った。現れたセレンの双眸にラリマーンが息を呑む。
「その目は……」
群青色の目を見開き、言葉を詰まらせた。
「見てのとおりだ」
「……シャリアラ王族の血を引いているのですか?」
「最後の王の血縁者だろう。残念ながらセレンに記憶がないため詳しいことはわからん。肌の色からして異国の血が混じっているのは間違いないだろうがな」
驚いていたラリマーンだが、次第に眉間に皺を寄せていく。
「このことはほかにどなたがご存じなのでしょうか」
「宰相伯は知っている。あとはオンキースだけだ」
「そうですか」
指の背を唇に当てたラリマーンの表情が難しいものに変わった。考え込むような様子に、スフェンザードは肩をすくめながら「言ったとおりだろう?」とオンキースを見る。小さく頷いたオンキースは苦笑を浮かべつつもラリマーンを見る眼差しは優しい。
朱色の瞳がシャリアラ王族の証だということはイシュクナーダの民なら誰もが知っている。竜神王の血筋を示す瞳という古い伝承があるからだが、たびたび朱色の目の王族が生まれていたシャリアラ王国と違い、同じ竜神王を祖とするはずのイシュクナーダ王族には生まれなかった。そのためシャリアラ王族こそ正統な竜神王の血筋だとシャリアラの民は考え、それが長年イシュクナーダとシャリアラがいがみ合う原因になっていた。
結果的に民の数と豊かさで圧倒するイシュクナーダ王国がシャリアラ王国を飲み込んだ。そんなシャリアラ王族の血を引いていたのがスフェンザードの母親だった。
(あの人が玉座に執着したのは、シャリアラこそオアシスの正統な所有者だと知らしめたかったというのもあったのだろう)
シャリアラ最後の王の従姉妹の娘、それが母后の誇りだった。しかし自身は朱色の瞳を持っていない。ところが生まれた我が子は濃朱色の瞳をしていた。しかも竜神王と同じ金環眼だった。
スフェンザードが生まれたことで母后はあからさまに玉座を狙うようになった。初めて伝承が真実だと知ったイシュクナーダの貴族たちは母后の野心こそ正義だと思い、王宮は少しずつ分断されていった。
そうした王宮の様子を間近で見ていたスフェンザードは、自分を道具としか見ていない母后を拒絶した。そんな状況でも表のことに興味を示さない父王に失望した。
「陛下はセレナイート殿のことを公にするおつもりですか?」
「そのつもりだ」
「王宮が再び騒がしくなるかもしれません」
「だろうな」
「わかったうえで皆に知らせるということですか?」
「そうせざるを得なくなる」
王の返事にラリマーンが眉をひそめた。スフェンザードが粛清に踏み切ったきっかけの一つは「朱色の瞳」だと言われている。もっともつらい思いをしたスフェンザードが、なぜ危険を冒してまで朱色の瞳のことを公にしようとするのだろうか。
ラリマーンが王を見た。その顔は弟ではなく王宮伯の表情をしている。スフェンザードは弟の成長を心の中で喜びながら告げてもかまわないだろうと判断した。
「セレンを妃として迎えようと思う」
「え……?」
予想していなかった言葉にラリマーンが言葉を失った。
スフェンザードに関する噂話の一つにそうした内容のものがある。
オアシス周辺では大昔からワインが作られ、イシュクナーダでは身分に関係なく酒を好む人が多かった。王族や貴族の間ではワインをたっぷり用意した宴を開くことが富と力の象徴とされており、今でも国内のあちこちでそうした宴が開かれている。
王宮でも年に数回、盛大な宴が催された。しかしそうした席で国王が酒を口にすることはない。かつて酒に毒を盛られて死んだ王がいたからで、近隣国から客人を招いた宴でもそれは変わらなかった。
ところがスフェンザードは違っていた。どんな宴の席でも酒を飲む。それも周囲がギョッとするほどの量をだ。はじめは止めていた王宮伯たちも次第に諦め、今では客人たちがこぞって王の杯に酒を注ぐようになった。
そうやって浴びるように酒を飲む王だが、これまで誰一人として酔った姿を見たものはいない。そのため「美しき王は酔うことを知らない」と言われるようになった。
「そんなイシュクナーダの王がこのざまですか」
オンキースのため息にスフェンザードがムッとした表情を浮かべる。それでも酷薄に感じられないのは目元が赤くなっているからで、眼差しもどことなく気だるげだ。
「言うな」
「飲み過ぎですよ」
「うるさいぞ。こうして気兼ねなく飲めるのはおまえたちの前でだけなんだ。好きにさせろ」
「だからといって限度があるでしょう」
「相変わらず口うるさいやつだな」
「そうさせているのは陛下ですよ。まったく、昔からそうしたところは変わりませんね」
「言ってろ」
オンキースが呆れた眼差しで向かいに座る王を見た。オンキースの隣ではラリマーンが二人を交互に見ながらオロオロとし、王の隣ではセレンがわずかに頬を染めながら玻璃のグラスを傾けている。
この場で酔っていない者は一人もいなかった。王は弟と友の仲を取り持つことができたと機嫌良くグラスを傾け、オンキースは何かが吹っ切れたようにワインを口にした。スフェンザードも酔っているが、オンキースも口調が昔に戻ってしまうくらいには酔っている。
ラリマーンは久しぶりの面子に緊張していたからか飲む速度を見誤った。いつもよりグラスを空けるのが速く、顔はすっかり赤らんでいる。セレンは三人に視線を向けることなく玻璃のグラスを両手で持ち、ちびちびと中身を飲み進めていた。
「なんだ、セレンも酔っているのか。顔が赤いな」
「セレナイート殿が飲んでいるのは葡萄ジュースですよ」
「そうだったか?」
「用意したのは陛下では?」
「そういえばそうだったな。ということはセレンは葡萄ジュースで酔うのか。なんとも愛いやつだ」
そう言って機嫌良く笑ったスフェンザードは、グラスに半分ほど残っていたワインを一気にあおった。それにため息をつくオンキースの隣でラリマーンが「やはり飲み過ぎでは」と声をかける。
「問題ない。それにすぐに元に戻る」
「ですが……」
ラリマーンがちろっと隣を見た。もう少し強く止めたほうがいいのではとオンキースに助けを求めるが、オンキースは諦めたのか「言っても無駄だと思いますよ」と言って自分のグラスを傾けている。
「オンキースの言うとおりだ。そもそも酔いたくても酔えない体だから心配する必要はない」
「酔いたくても酔えない……?」
意味がわからずラリマーンがきょとんとした顔をした。説明を求めるように隣を見るが、視線に気づいているはずのオンキースは何も答えない。
「そういう体質なだけだ」
「体質、ですか」
「どんなに飲んでもすぐに回復する。今となってはありがたいことかもしれないがな」
「回復だなんて、まるで酒が毒のようなおっしゃりようです」
「酒も量が多ければ毒と変わらん。ま、本物の毒でも同じことになるだろうが」
「陛下」
オンキースがたしなめるように口を挟んだ。ちろっと友を見たスフェンザードは何も言わずに手酌でグラスに新しいワインを注ぐ。オンキースもそれ以上は何も言わず再びグラスを傾けた。入り込めない雰囲気に、ラリマーンはやや居心地悪そうにしながら残っていたワインをちびちびと口にする。
静かになった部屋にことりとグラスを置く音がした。静かに葡萄ジュースを飲んでいたセレンが空になったグラスをテーブルに置き、ジュースの入った陶器に手を伸ばす。
「注いでやろう」
「はい」
「葡萄ジュースは気に入ったか?」
「はい」と答えたセレンだが、少し考えるような素振りを見せたあと「とてもおいしいです」と言葉を続けた。再びの自発的な言葉にスフェンザードは大いに満足し、そんな二人の様子をオンキースが静かに眺める。
「やはり白いオアシス産は違うだろう? 近隣国ではワインだけでなくこのジュースも人気だと聞いている。ジュースだというのにワインのような芳醇な香りがするからだろうな。わかるか?」
「はい」
「イシュクナーダでは昔から白いオアシスの葡萄は神の恵みと言われている。そうか、だからおまえも酔っているような状態になったのかもしれんな。我らには彼の地の記憶が血肉に刻まれているのだろう」
そう言って笑ったスフェンザードが再び機嫌良くグラスを傾けた。それを見たセレンも倣うように葡萄ジュースを飲む。そんな二人から視線を外したオンキースはグイッとグラスを傾け、ラリマーンは気になることでもあるのかチラチラとスフェンザードを見ていた。
「どうかしたか?」
視線に気づいたスフェンザードがそう口にした。ハッとしたラリマーンが「えっ? あ、いえ」と口ごもるが、「言いたいことがあるなら言え」と促されて困り顔になる。
「おまえはわたしの弟だ。何を遠慮することがある」
弟という言葉にわずかに眉尻を下げながら、「では」とラリマーンが口を開いた。
「記憶が血肉に刻まれている、というのはどういう意味でしょうか?」
いつもなら気になることがあっても政務に関係ないことを尋ねたりはしない。そうやってわきまえるのが自分の生きる道だと思っているからだ。ところが酔っているからか、王のひと言が妙に気になって尋ねずにはいられなかった。
濃朱色の瞳がラリマーンを見る。やけにじっと見つめる瞳に、慌ててラリマーンが「余計なことを申しました」と頭を下げた。
「いや、かまわん」
スフェンザードの手が隣に座るセレンへと伸びた。今夜もセレンは目元を隠すベールを付けている。後宮に現れたときからベールを付けているからか「顔にひどい傷があるのでは」と噂する者もいた。それでも端正な鼻や口の形から「いや、美しすぎて王が隠しているのかもしれない」という噂もある。
そのベールを王が優しく剥ぎ取った。現れたセレンの双眸にラリマーンが息を呑む。
「その目は……」
群青色の目を見開き、言葉を詰まらせた。
「見てのとおりだ」
「……シャリアラ王族の血を引いているのですか?」
「最後の王の血縁者だろう。残念ながらセレンに記憶がないため詳しいことはわからん。肌の色からして異国の血が混じっているのは間違いないだろうがな」
驚いていたラリマーンだが、次第に眉間に皺を寄せていく。
「このことはほかにどなたがご存じなのでしょうか」
「宰相伯は知っている。あとはオンキースだけだ」
「そうですか」
指の背を唇に当てたラリマーンの表情が難しいものに変わった。考え込むような様子に、スフェンザードは肩をすくめながら「言ったとおりだろう?」とオンキースを見る。小さく頷いたオンキースは苦笑を浮かべつつもラリマーンを見る眼差しは優しい。
朱色の瞳がシャリアラ王族の証だということはイシュクナーダの民なら誰もが知っている。竜神王の血筋を示す瞳という古い伝承があるからだが、たびたび朱色の目の王族が生まれていたシャリアラ王国と違い、同じ竜神王を祖とするはずのイシュクナーダ王族には生まれなかった。そのためシャリアラ王族こそ正統な竜神王の血筋だとシャリアラの民は考え、それが長年イシュクナーダとシャリアラがいがみ合う原因になっていた。
結果的に民の数と豊かさで圧倒するイシュクナーダ王国がシャリアラ王国を飲み込んだ。そんなシャリアラ王族の血を引いていたのがスフェンザードの母親だった。
(あの人が玉座に執着したのは、シャリアラこそオアシスの正統な所有者だと知らしめたかったというのもあったのだろう)
シャリアラ最後の王の従姉妹の娘、それが母后の誇りだった。しかし自身は朱色の瞳を持っていない。ところが生まれた我が子は濃朱色の瞳をしていた。しかも竜神王と同じ金環眼だった。
スフェンザードが生まれたことで母后はあからさまに玉座を狙うようになった。初めて伝承が真実だと知ったイシュクナーダの貴族たちは母后の野心こそ正義だと思い、王宮は少しずつ分断されていった。
そうした王宮の様子を間近で見ていたスフェンザードは、自分を道具としか見ていない母后を拒絶した。そんな状況でも表のことに興味を示さない父王に失望した。
「陛下はセレナイート殿のことを公にするおつもりですか?」
「そのつもりだ」
「王宮が再び騒がしくなるかもしれません」
「だろうな」
「わかったうえで皆に知らせるということですか?」
「そうせざるを得なくなる」
王の返事にラリマーンが眉をひそめた。スフェンザードが粛清に踏み切ったきっかけの一つは「朱色の瞳」だと言われている。もっともつらい思いをしたスフェンザードが、なぜ危険を冒してまで朱色の瞳のことを公にしようとするのだろうか。
ラリマーンが王を見た。その顔は弟ではなく王宮伯の表情をしている。スフェンザードは弟の成長を心の中で喜びながら告げてもかまわないだろうと判断した。
「セレンを妃として迎えようと思う」
「え……?」
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