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2 小さな異変
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魔術師ジルネフィの元には様々な依頼が来る。多くは魔族からのもので、魔術を施した魔道具や薬を作ることが主な内容だ。以前は人間の魔術師からの依頼も受けていたが、厄介ごとを避けるため受けるのをやめている。
その結果、以前よりも時間に余裕ができた。その時間の多くをジルネフィはスティアニーと過ごすことに使っていた。そのうち手伝いを教える時間が少しずつ増え、魔術師の師匠と弟子として過ごす時間が多くなった。
(スティはとても優秀だ)
弟子の仕事ぶりにジルネフィは感心しっぱなしだった。これなら魔術師になっても問題ないと考えたものの、「いや、なるかどうかはスティが決めることだけど」と思い直す。
(それにしても、正直ここまでになるとは思わなかったな)
スティアニーに魔術を教えるようになったのは小さな事故がきっかけだった。
スティアニーを拾ってからしばらくの間、ジルネフィは魔族だけでなく人間からの依頼も多く受けていた。元々気まぐれで受けていた仕事だったが、スティアニーを育てるにあたって人間をもっとよく観察しようと考えた結果だった。
ところが人間用となると魔力の調整が少しややこしくなる。ジルネフィの魔力過多が原因なのだが、魔力を抑え込みながらの作業は予想以上に手間がかかった。そのせいで珍しく疲労を感じ、ため息さえ漏れてしまう。
そんな養い親を助けたいと思ったのだろう。疲労回復の薬湯作りを間近で見ていたスティアニーは、見よう見まねで薬湯を作ろうとした。ところが薬草の分量がわからず、結果として薬湯は爆発してしまった。驚きのあまり呆然とするスティアニーはもちろんのこと、ジルネフィが驚いたのは言うまでもない。
このときジルネフィは「無知は危険でしかない」ということに気がついた。だからスティアニーに魔術を教えることにした。これ以上危ないことをしないようにという思いから始めたことだったが、いつの間にか弟子にしてもよいほどの腕前になった。いまでは薬作りの下準備はほとんどスティアニーが担っている。
(魔族用の薬や道具を触らせるのはどうかと思っていたけど)
薬湯の爆発が思いのほか衝撃的だったのか、その後ああした問題は起きていない。薬や道具の扱いも丁寧で、材料管理もスティアニーが担当するようになった。
そもそもジルネフィは人間がどうなろうとも興味がない。それでもスティアニーを心配するのは養い子だからだ。
(それとも、わたしの中の人間の血がそう思わせているのかな)
そう思ったものの、すぐに「あり得ないな」と否定する。
ジルネフィの母親は、元は人間だった。そのためジルネフィの半分は人間でできている。ところが残り半分の魔族の血があまりにも強く魔族そのものにしか見えない。誕生と同時に母親を失ったため人間らしい感覚もよくわからず、スティアニーの世話にも頭を悩ませることが多かった。
(そんなわたしに育てられたというのに、スティはこんなにも人間らしく育った)
正直に言えば、ジルネフィは人間をあまり好いていない。拾いはしたものの、すぐに飽きるだろうと思っていた。ところが放り出すこともせず、逆に弟子として育てている。「我ながら予想外のことばかりが起きる」とスティアニーの横顔を見ていると、視線を感じたのか菫色の瞳が師を見上げた。
「お師さま、どうかしましたか?」
「いや、随分と手際がよくなったと思ってね」
「ありがとうございます。あとは微調整で大丈夫だと思います」
スティアニーの言葉にかすかに自信のようなものが混じっている。満足そうな弟子を見ると師であるジルネフィも誇らしい。「これが師弟というものなのか」と思いながら調合済みの粉が入った瓶を手に取って中身を確認した。
薬の素材となる銀の粉は粒子が揃っていて変色もない。漂う魔力にも乱れや不純物は感じられなかった。
「これならわたしが調整する必要はないね。スティは本当に上手になった」
師の言葉に弟子が照れくさそうにはにかむが、そうした表情も悪くないとジルネフィは思った。
「これだけ難しい調合ができるようになったことは誇りに思っていい。もちろん師としても誇りに思うよ」
今回の調合は銀月の魔力を閉じ込めるという、薬の下準備の中でも特殊なものだった。以前は魔力を集めるための媒体となる宝石の用意や、魔力採取のための銀月の月齢計算を任せるだけだった。しかし今回は下準備まで任せることにした。
ほかの薬の準備はできても今回はどうだろうか。そう思っていたジルネフィだったが、見事な出来映えに感心するしかない。
(これなら魔族相手の魔術師としても十分やっていけるだろう)
人間相手なら、かつて大活躍した大魔術師マーリンの再来と言われるだろう。「それならもう少し褒めてやるべきか」と視線を向けると、スティアニーがあくびを噛み殺しているところだった。
「スティ、ちゃんと眠れてる?」
「ふぁ……っと、ごめんなさい」
慌てて目を擦る様子に「謝らなくていいよ」と言いながら瓶を置く。
「もしかして夜眠れていないんじゃない?」
「だ、大丈夫です」
スティアニーは慌てたように首を振ったが、ジルネフィは内心「そうだろうか」と思っていた。ここ最近、作業中にあくびを噛み殺すような仕草を何度か目にしている。夜も眠りが浅いようで、腕の中で何度も寝返りを打つような動きをしていることには気づいていた。
(少し前まではそんなことなかったのに)
突然始まった小さな異変は、一度気がつくとやけに気になって仕方がない。しかし、尋ねたところでいまのように何でもないと答えるだろう。
(わたしに迷惑をかけたくないと思ってのことなんだろうけど)
どうせ答えないのなら尋ねるよりも寝る時間を作ったほうがいい。そう考えたジルネフィは「休憩ついでに昼寝でもしようか」と提案した。
「昼寝ですか?」
「そう。きっと気持ちがいいよ」
作業部屋に置いてあるソファに腰掛けながら手招きする。カウチのようなソファは長身のジルネフィが横になっても十分余裕がある大きさで、ジルネフィの肩ほどの背丈しかないスティアニーと寝そべったところでびくともしない。
「さぁ、おいで」
もう一度声をかけると、目元を少し赤らめたスティアニーがゆっくりと近づいてきた。それでもなおためらう様子に、華奢な手を引き寄せ胸に抱き留める。
「お師さま、これはさすがに、」
師の上に乗っかる形になった弟子が慌てたように顔を上げた。「うん?」と微笑みかけると、頬を赤くしながら「あの、その」と視線を泳がせる。
「どうかした?」
「……何でもないです」
まだ何か言いたそうな様子は見せるものの、拒絶する気配はない。それなら問題ないだろうと優しくもしっかりと抱きしめた。すると、少しずつながら強張っていたスティアニーの体から力が抜けていく。
「さぁ、少し寝よう」
子どもの頃にしていたように背中をトントンと優しく叩く。しばらくそうしていると「すぅすぅ」とかすかな寝息が聞こえ始めた。
(十八になれば人間は大人になるのだと思っていたけど、まだまだ子どものようだ)
気まぐれから始まったことではあるものの、こうして成長していく姿や変わらないところを見るたびに感慨深くなる。「拾ったときはここまで懐くとは思わなかった」と、当時のことを思い出しながら目を閉じた。
拾った当時のスティアニーはうまく言葉を話せず、おかげで意思の疎通を図るのがとても難しかった。そもそも人間の子どもと触れ合ったことがないジルネフィに、表情や仕草から何かを推測することはできない。
(まぁ、猫と似たようなものだと思えばいいか)
ジルネフィは拾った猫と同じように接することを考えた。まずは自分の存在に慣れさせるため、食事を与えるときには「ご飯だよ」と声をかけ、寝るときも「寝るよ」と口にする。人間の言葉で話しかけていたからか、スティアニーは程なくしてジルネフィの言うことに反応するようになった。
次は体に触れることに慣れさせようと考えた。そうしなければ病気や怪我のときに手当ができない。ジルネフィは猫が頭を撫でたときに喜んだことを思い出し、まずはそこから始めようと行動に移した。
ところが手を伸ばすたびにスティアニーは体を震わせ顔を強張らせる。「大丈夫だから」と声をかけても怯えるような眼差しでジルネフィを見た。
(まさか体に触れられるまでに一年かかるとは思わなかったな)
だが、一度触れれば懐くのも早かった。手を繋ぐことも小さな体を膝に乗せることもすぐにできた。一緒に入浴し同じベッドで寝るようにもなった。その頃から話す言葉も少しずつ増え、食べる量も増えたように思う。おかげで体調もすっかりよくなり順調に成長していった。
(だからこうして寝るのが一番だと思ったんだけど)
それなのにスティアニーはためらった。もしかして成人した人間はこうした触れ合いをしないのだろうか。抱きしめたときのスティアニーの様子を思い出したジルネフィが、ふぅとため息をつく。
(やっぱり人間のことはよくわからないな)
それでもスティアニーは可愛い弟子だ。以前よりもはっきりとそう思うようになった。近頃は育ての親として行く先を見守りたいという気持ちも抱いている。
ゆっくり目を開き、腕の中で眠る弟子に視線を向ける。枯れ木のようにやせ細り血色の悪かった体は瑞々しい若木のように成長した。仄暗く表情のなかった顔には絶えず笑みを浮かべ、あの頃の表情が思い出せないほどだ。
(それに随分と愛らしく育った)
人間の美醜に興味はないが、スティアニーが愛らしい姿をしていることはジルネフィも理解している。弟に言わせれば“上玉”ということらしいが、魔族に混じっても美しい部類に入るだろう。
(話し方も歩き方も一生懸命学ぼうとする姿勢も、スティはたしかに美しい)
そう、弟子であり養い子である人間の子は美しく育った。人間たちにどう思われるかはわからないが、少なくとも人間を好む魔族にとっては魅力的に映るだろう。半分は同じ人間のはずのジルネフィも獲物として見ればそう感じる。そういうとき己の中に流れる父親の血を強く意識した。
(……わたしも少し寝るとするかな)
スティアニーの頬をひと撫でしたジルネフィは、ゆっくりとプレイオブカラーの瞳を閉じた。
その結果、以前よりも時間に余裕ができた。その時間の多くをジルネフィはスティアニーと過ごすことに使っていた。そのうち手伝いを教える時間が少しずつ増え、魔術師の師匠と弟子として過ごす時間が多くなった。
(スティはとても優秀だ)
弟子の仕事ぶりにジルネフィは感心しっぱなしだった。これなら魔術師になっても問題ないと考えたものの、「いや、なるかどうかはスティが決めることだけど」と思い直す。
(それにしても、正直ここまでになるとは思わなかったな)
スティアニーに魔術を教えるようになったのは小さな事故がきっかけだった。
スティアニーを拾ってからしばらくの間、ジルネフィは魔族だけでなく人間からの依頼も多く受けていた。元々気まぐれで受けていた仕事だったが、スティアニーを育てるにあたって人間をもっとよく観察しようと考えた結果だった。
ところが人間用となると魔力の調整が少しややこしくなる。ジルネフィの魔力過多が原因なのだが、魔力を抑え込みながらの作業は予想以上に手間がかかった。そのせいで珍しく疲労を感じ、ため息さえ漏れてしまう。
そんな養い親を助けたいと思ったのだろう。疲労回復の薬湯作りを間近で見ていたスティアニーは、見よう見まねで薬湯を作ろうとした。ところが薬草の分量がわからず、結果として薬湯は爆発してしまった。驚きのあまり呆然とするスティアニーはもちろんのこと、ジルネフィが驚いたのは言うまでもない。
このときジルネフィは「無知は危険でしかない」ということに気がついた。だからスティアニーに魔術を教えることにした。これ以上危ないことをしないようにという思いから始めたことだったが、いつの間にか弟子にしてもよいほどの腕前になった。いまでは薬作りの下準備はほとんどスティアニーが担っている。
(魔族用の薬や道具を触らせるのはどうかと思っていたけど)
薬湯の爆発が思いのほか衝撃的だったのか、その後ああした問題は起きていない。薬や道具の扱いも丁寧で、材料管理もスティアニーが担当するようになった。
そもそもジルネフィは人間がどうなろうとも興味がない。それでもスティアニーを心配するのは養い子だからだ。
(それとも、わたしの中の人間の血がそう思わせているのかな)
そう思ったものの、すぐに「あり得ないな」と否定する。
ジルネフィの母親は、元は人間だった。そのためジルネフィの半分は人間でできている。ところが残り半分の魔族の血があまりにも強く魔族そのものにしか見えない。誕生と同時に母親を失ったため人間らしい感覚もよくわからず、スティアニーの世話にも頭を悩ませることが多かった。
(そんなわたしに育てられたというのに、スティはこんなにも人間らしく育った)
正直に言えば、ジルネフィは人間をあまり好いていない。拾いはしたものの、すぐに飽きるだろうと思っていた。ところが放り出すこともせず、逆に弟子として育てている。「我ながら予想外のことばかりが起きる」とスティアニーの横顔を見ていると、視線を感じたのか菫色の瞳が師を見上げた。
「お師さま、どうかしましたか?」
「いや、随分と手際がよくなったと思ってね」
「ありがとうございます。あとは微調整で大丈夫だと思います」
スティアニーの言葉にかすかに自信のようなものが混じっている。満足そうな弟子を見ると師であるジルネフィも誇らしい。「これが師弟というものなのか」と思いながら調合済みの粉が入った瓶を手に取って中身を確認した。
薬の素材となる銀の粉は粒子が揃っていて変色もない。漂う魔力にも乱れや不純物は感じられなかった。
「これならわたしが調整する必要はないね。スティは本当に上手になった」
師の言葉に弟子が照れくさそうにはにかむが、そうした表情も悪くないとジルネフィは思った。
「これだけ難しい調合ができるようになったことは誇りに思っていい。もちろん師としても誇りに思うよ」
今回の調合は銀月の魔力を閉じ込めるという、薬の下準備の中でも特殊なものだった。以前は魔力を集めるための媒体となる宝石の用意や、魔力採取のための銀月の月齢計算を任せるだけだった。しかし今回は下準備まで任せることにした。
ほかの薬の準備はできても今回はどうだろうか。そう思っていたジルネフィだったが、見事な出来映えに感心するしかない。
(これなら魔族相手の魔術師としても十分やっていけるだろう)
人間相手なら、かつて大活躍した大魔術師マーリンの再来と言われるだろう。「それならもう少し褒めてやるべきか」と視線を向けると、スティアニーがあくびを噛み殺しているところだった。
「スティ、ちゃんと眠れてる?」
「ふぁ……っと、ごめんなさい」
慌てて目を擦る様子に「謝らなくていいよ」と言いながら瓶を置く。
「もしかして夜眠れていないんじゃない?」
「だ、大丈夫です」
スティアニーは慌てたように首を振ったが、ジルネフィは内心「そうだろうか」と思っていた。ここ最近、作業中にあくびを噛み殺すような仕草を何度か目にしている。夜も眠りが浅いようで、腕の中で何度も寝返りを打つような動きをしていることには気づいていた。
(少し前まではそんなことなかったのに)
突然始まった小さな異変は、一度気がつくとやけに気になって仕方がない。しかし、尋ねたところでいまのように何でもないと答えるだろう。
(わたしに迷惑をかけたくないと思ってのことなんだろうけど)
どうせ答えないのなら尋ねるよりも寝る時間を作ったほうがいい。そう考えたジルネフィは「休憩ついでに昼寝でもしようか」と提案した。
「昼寝ですか?」
「そう。きっと気持ちがいいよ」
作業部屋に置いてあるソファに腰掛けながら手招きする。カウチのようなソファは長身のジルネフィが横になっても十分余裕がある大きさで、ジルネフィの肩ほどの背丈しかないスティアニーと寝そべったところでびくともしない。
「さぁ、おいで」
もう一度声をかけると、目元を少し赤らめたスティアニーがゆっくりと近づいてきた。それでもなおためらう様子に、華奢な手を引き寄せ胸に抱き留める。
「お師さま、これはさすがに、」
師の上に乗っかる形になった弟子が慌てたように顔を上げた。「うん?」と微笑みかけると、頬を赤くしながら「あの、その」と視線を泳がせる。
「どうかした?」
「……何でもないです」
まだ何か言いたそうな様子は見せるものの、拒絶する気配はない。それなら問題ないだろうと優しくもしっかりと抱きしめた。すると、少しずつながら強張っていたスティアニーの体から力が抜けていく。
「さぁ、少し寝よう」
子どもの頃にしていたように背中をトントンと優しく叩く。しばらくそうしていると「すぅすぅ」とかすかな寝息が聞こえ始めた。
(十八になれば人間は大人になるのだと思っていたけど、まだまだ子どものようだ)
気まぐれから始まったことではあるものの、こうして成長していく姿や変わらないところを見るたびに感慨深くなる。「拾ったときはここまで懐くとは思わなかった」と、当時のことを思い出しながら目を閉じた。
拾った当時のスティアニーはうまく言葉を話せず、おかげで意思の疎通を図るのがとても難しかった。そもそも人間の子どもと触れ合ったことがないジルネフィに、表情や仕草から何かを推測することはできない。
(まぁ、猫と似たようなものだと思えばいいか)
ジルネフィは拾った猫と同じように接することを考えた。まずは自分の存在に慣れさせるため、食事を与えるときには「ご飯だよ」と声をかけ、寝るときも「寝るよ」と口にする。人間の言葉で話しかけていたからか、スティアニーは程なくしてジルネフィの言うことに反応するようになった。
次は体に触れることに慣れさせようと考えた。そうしなければ病気や怪我のときに手当ができない。ジルネフィは猫が頭を撫でたときに喜んだことを思い出し、まずはそこから始めようと行動に移した。
ところが手を伸ばすたびにスティアニーは体を震わせ顔を強張らせる。「大丈夫だから」と声をかけても怯えるような眼差しでジルネフィを見た。
(まさか体に触れられるまでに一年かかるとは思わなかったな)
だが、一度触れれば懐くのも早かった。手を繋ぐことも小さな体を膝に乗せることもすぐにできた。一緒に入浴し同じベッドで寝るようにもなった。その頃から話す言葉も少しずつ増え、食べる量も増えたように思う。おかげで体調もすっかりよくなり順調に成長していった。
(だからこうして寝るのが一番だと思ったんだけど)
それなのにスティアニーはためらった。もしかして成人した人間はこうした触れ合いをしないのだろうか。抱きしめたときのスティアニーの様子を思い出したジルネフィが、ふぅとため息をつく。
(やっぱり人間のことはよくわからないな)
それでもスティアニーは可愛い弟子だ。以前よりもはっきりとそう思うようになった。近頃は育ての親として行く先を見守りたいという気持ちも抱いている。
ゆっくり目を開き、腕の中で眠る弟子に視線を向ける。枯れ木のようにやせ細り血色の悪かった体は瑞々しい若木のように成長した。仄暗く表情のなかった顔には絶えず笑みを浮かべ、あの頃の表情が思い出せないほどだ。
(それに随分と愛らしく育った)
人間の美醜に興味はないが、スティアニーが愛らしい姿をしていることはジルネフィも理解している。弟に言わせれば“上玉”ということらしいが、魔族に混じっても美しい部類に入るだろう。
(話し方も歩き方も一生懸命学ぼうとする姿勢も、スティはたしかに美しい)
そう、弟子であり養い子である人間の子は美しく育った。人間たちにどう思われるかはわからないが、少なくとも人間を好む魔族にとっては魅力的に映るだろう。半分は同じ人間のはずのジルネフィも獲物として見ればそう感じる。そういうとき己の中に流れる父親の血を強く意識した。
(……わたしも少し寝るとするかな)
スティアニーの頬をひと撫でしたジルネフィは、ゆっくりとプレイオブカラーの瞳を閉じた。
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