遠くない未来

星磨よった

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遠くない未来

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 遠くない未来に世界から孤立した国があった。孤立した国は、その時代からするととても遅れていた。この時代にはもう王様や教皇、天皇、ダライ・ラマなどの特権階級的な身分の人物は世界中でいなくなっていた。また、国家主席などの独裁的なトップなども存在しなくなっていた。ただし、政治的トップはどこの国にも存在するのだが、皆それほどの権限は持っていなかった。そういったことから、一人一人の個人の自由がかなり拡大していた。


 しかし、この孤立した国では、唯一絶対的な王様が存在した。それゆえ、どこの国も時代遅れだとこの国を批判し、様々な国際機関への参加を許さず、貿易なども規制をかけていた。だが、ガラパゴス現象とでも例えるべきか、この国は一致団結し、ある開発を驚異的な速さで進めていた。


 そして、ついにその国は最新鋭のロケットを完成させた。それも、宇宙に飛ばすためではない。どこかの国へ飛ばして着弾させ、その衝撃で甚大な被害を与えるロケットだ。地上型ロケットとでも言うべきか。この地上型ロケットは、水を燃料にして飛ばすことが出来た。なおかつ、とても安易に素早く作ることが可能だった。そのため、かなりの数を短時間で作れた。


 ただし、地上型ロケットは、自動的に狙った場所に着地させることは出来ないため、誰かが搭乗して着地する最後の時まで操縦を行う必要があった。操縦は決して難しいものではないし、レーザーや衛星の類にも映らず飛ぶが、着弾させるには操縦者の死を前提としていた。着弾さえすれば、多くの周りにあるものを粉々に吹き飛ばし、その周りのたくさんの人を殺せた。


 その国では王様を絶対とする考え方が古くから根強く先祖代々伝わって来ていたため、王様が計画を発表し、数千の操縦者を指名したとき国民は歓喜に包まれた。国民達はこの世界に対してとても不満を持っていたし、この現状を変えたいと願っていた。


 指名された操縦者達は英雄としての名声と、神のような尊敬を受けた。もちろん誰も拒否したり、反対の声を上げたりなどしなかった。皆、生まれてからこれまで生きて来た意味があったと、この計画を発表した王様に心から感謝し、敬服した。


 そして計画は実行の時を迎えた。彼らの国は手始めに15機を世界中の大都市に打ち込んだ。指名された15人の操縦者は、見事に任務をこなした。そして誰も正確に把握できない被害を与えることに成功した。


 その後、彼らはまだ何百発もロケットを打ち込む事が出来る用意があると表明し、ある条約を締結することを勧める声明を出した。
その条約の内容は貿易、技術開発、様々な世界的機関で行われる会議において、どれもかなり不平等なものになっていた。


 世界中の国がパニックに落ち行った。そこで、各国の代表が秘密裏に集まり、大規模な会議を行われた。各国の代表が列席する中、最初に議題に上がったのは核兵器を使用するかどうかだった。
 

 しかし、地上型ロケットを打ち込んだ国の王やその配下は、それが出来ないことを知っていた。この何十年かで地球温暖化は急速に進み、核兵器など使えば、地球は完全に崩壊するとの研究結果が世界の様々な国や機関で発表されていた。その思惑通り、この会議ではほとんどの国が核兵器の使用に反対したため、使用は禁止となった。


 それによって、次に核兵器ではない兵器であの国に報復をしようとなったが、これも難しかった。何故なら、平和によって軍縮が進み、すぐに使える兵器など無かったからだ。その兵器で攻撃する前に、あっちの国は既にあるロケットとこれから作るロケットで、国民の命と引き換えに世界中の国にとんでもない攻撃を行えるのだ。


 次にロケットをことごとく、どうにかして壊そうという意見も出たが、現状兵器がどこにあるか全く分からなかった。衛星で見つけようとしても地下にあるらしく、不可能だった。もし、壊せたとしても数日間で50発以上作れることが、ロケットの残骸を解析したことで予想されていた。


 また、同じロケットを作ることをどの国も検討したが、それは結局無意味なことだった。何故なら、自らの命と引き替えの操縦者を出すことなど、どの国も出来なかったからだ。


 個人の権限が世界で強まり、愛国主義なんて言葉はとっくに消え去っていた。他人や国のことなど考えず、自分を中心に物事を考える個人第一主義が世界の主流となっていたのだ。だから、任命してもきっと拒否されることや、志願者を募っても集まるはずが無いことは皆分かっていた。だからと言って、どの国も絶対的な権力を持った人物などいないため、誰かを強制的に操縦者にするのも無理な話だ。


 その昔、個人を犠牲にして戦争を戦った国も、今やそんなことはできない思想の国になっていた。


 さらに悪い知らせが舞い込んで来た。この会議に参加していなかった国が、ロケットを撃った国と既に条約を交わしたというのだ。それもどうやら複数の国らしい。会議の代表達は黙り込み、議論は進まず、結論が出ないまま解散となった。
 


 その後、巨大な複数の国が条約を締結したのを皮切りにほぼ全ての国もそれに続いた。そして、少し後になって、残りの国も条約を交わしたことで全ての国がロケットを撃ち込んだ国と条約を締結した。


 全ての国と条約を締結させた国は、当然兵器を捨てさせ、作らせないように監視させ合い、兵器を作った国や報告を怠った国には強い罰則を設けた。逆に、報告を怠った国を報告した国や、反抗する作戦を密告した国には条約を改正し、ほんの少し平等に近づけた。


 こうして何年もこの状態が続いた。だが数年後、ロケットを開発し、撃った国に同じロケットが撃ち込まれた。その国は条約によって貧困が増え、個人の権限が後回しになり弱まった。そして、革命を求める指導者が生まれ、人々がこの指導者に従い行動し、他国までもがこの指導者の命令に従った。


 さらに指導者に指名された操縦者は誰も拒否せず、反対の声など挙げなかった。皆生まれてから生きて来た意味があったと指導者に心の底から感謝した。
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