【完結】男のオレが悪役令嬢に転生して王子から溺愛ってマジですか 〜オレがワタシに変わるまで〜

春風悠里

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3.恋人

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 そうして、オレたちはあの部屋を出た。

 部屋では、少しだけ魔法の確認もさせてもらった。シルヴィアの記憶があるとはいえ、本当に使えるとは思えなかったが……普通に使えたことは感動した。バロン王子がすごく微笑ましい顔をしていたのにはムカついたが、失敗してもフォローしてくれるだろう奴が側にいるのは、正直安心した。利用できるところは、こっちも利用してやろう。

 今は少し時間も経ったものの放課後だ。部屋(当然王子が鍵をかけた)を出る前には、互いの寮へと戻るのだろうと信じて疑わなかったが……。

「あのー……、バロン様?」
「なんだい、シルヴィア」

 呼び捨てかよ。オレになる前はシルヴィア嬢って呼んでただろ。

「この手は……なんのおつもりかしら」
「君に夢中になっているんだから、仕方がない」

 しれっと言うな。

 部屋の鍵をかけてから、スッと手をつながれたままだ。どこかに連行したいのかと思ったものの、何も言われないまま一階まで降りて校舎の外へ出てしまった。

「どこかに連れて行きたいのかと。そして、私が逃げないようにかと思ったのですが」
「……外でも丁寧には話さなくていいよ。君は僕の愛しい人だ」

 やべぇ……このオレに夢中になってます設定、やべぇ……。言い方がわざとらしいから演技だと俺ならすぐ分かるが。

「逃げられないようにどこかへ連行するつもり、ではないの?」

 さすがに二人きりではないのに男口調では話せない。この程度の軽い口調でということだろう。既に生徒はそこら中にいる。
 
「君を逃がさないようにはしたいけどね。違うよ、寮に向かってはいるつもりだったけど……少しの間、どこかで語らう? 僕たちの仲睦まじさを皆に見てもらおうか」

 気持ち大きめの声で話してやがるのは、周囲の生徒に聞かせているんだろう。この手もそのためだな。

「……女よけのために?」
「ああ、君以外のね」

 含みを持たせて言うなよな……ほんっと性格わりーな。……でもなぁ。オレの心が壊れないようにって意味もあるそうだし、よく分かんねーな。

「いつまで、これを続けるおつもりかしら」
「さぁ、僕が飽きるまでかな。少なくとも君との関係が皆に知れ渡るまでだね。そのためだってさっき言っただろう」

 楽しんでやがる気もするな。

 王族も貴族も自由恋愛はオッケーだからな。こいつの場合は誰かとくっついちまうと、女の方が執着しちまって別れるのに苦労しそうだが。だから、オレなんだろう。面倒なことにもならず問題なさそーだと……って……。

「もしかしてなのですが」
「ああ。なにかな」
「このままだとバロン様と私は付き合っていると思われる気がするのですが……」
「今、気づいたのか。遅すぎるな。君が僕を好いていたことは貴族なら誰もが知っている。僕がその気になったということは、そう見られるに決まっているだろう。僕に片思いをさせるつもりだったのか」

 マジか……。

「それから、丁寧に話さなくていいと言ってるよね、恋人なんだから。中庭に寄っていく? 愛でも語り合おうか」

 うるせーよ。

「口調に気をつけようとすると、丁寧になってしまうんです。あまり気にしないでください。今日はもう戻りますわ。疲れました」
「ああ、そういえば君には一刻も早く部屋に戻ってやりたいことがあるんだったね」

 人の乳を見るな!

 バロン王子が突然オレの肩を抱いて耳元で呟いた。

「早く脱ぎたい?」

 うっせーよ。
 ダンッと思いきり靴を踏みつけてやる。

「いった……っ!」
「ごめんあそばせ。足癖が悪いもので」
「くっ……、思いっきり踏みつけたな」
「これくらいで先ほどのセクハラがチャラになるのなら、安いものでは?」
「ははっ」

 なんで痛がりながらも手をつないだままなんだよ。

「君といると、しばらく楽しめそうだ」

 やっぱり面白がっているだけかよ。そういえば、物語の中の王子ってやつは「おもしれー女」が好きなんだっけ?

 ま、オレの中身は男だがな!

「つまり、もう一度踏まれたいと?」
「それは勘弁してくれ。そっちの趣味はないんだ」
「……どっちの趣味ならあるのかしら」
「聞きたいんだ? それならやっぱり中庭で語り合わないと」
「結構です!」

 もう一度足をあげると、踏む前によけられてしまった。

「痛いのはやめてほしいな。次に踏んだら、お姫様抱っこして戻ってあげるよ。それなら安全だ」
「うざ……」
「シルヴィア、素に戻っているよ? 気をつけないと」
「あなたのせいかと」

 こうして、やいのやいの言いながら、オレたちは寮に戻った。当然ながら男女の寮は別れている。エントランスは同じだが、女の区域の入口までわざわざあいつはついてきた。

 見送られる立場――女であることをまた認識させられる。これからずっとそんなことが繰り返されるのかと思うと、げんなりした。
 
 
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