【完結】男のオレが悪役令嬢に転生して王子から溺愛ってマジですか 〜オレがワタシに変わるまで〜

春風悠里

文字の大きさ
23 / 30

23.誘惑

しおりを挟む
 シルヴィアが、コトコトと中身を机に置いた。ってそれは――!

「はぁ!?」
「彼らが栽培したものとは違いますよ。エーテルが用意してくれました」
「い、いや……」

 ど、どうしてそれがここにあるのかが問題なんだが!?

 媚薬として売り出されている滋養強壮によいとされるフラムの実が、透明な液体に漬けられている。おそらくウォッカか何かだろう。ガラスのコップも二つ……。水割りにして飲もうということか。

「エーテルにたきつけられたか」
「せっかくなので、飲みません?」
「また君は……」

 僕を誘惑するようにシルヴィアが微笑む。かなり毎日、ギリギリ耐えているというのに。

「そこに入っているのは酒なんじゃないか。学園で酒はまずいだろう」
「今日はお休みです。アルコールが抜けるまでここにいましょう」
「それもエーテルの受け売りか」
「…………」

 シルヴィアが瓶を開けようとするので、その前に魔法でこちらに引き寄せた。彼女が瓶を掴んでいたはずの手をギュッと握りしめた。

 虚空を見て、力なく呟く。

「やっぱり……オレじゃ駄目なんですか」
「え?」

 シルヴィアの瞳から一気に涙が流れ落ちる。

「シルヴィア――?」
「あれから、一度もキスしてませんよね。バロン様からって最初だけですよね。やっぱりオトコ女のオレじゃ、その気にならないですか。たまに抱きしめてもいいかなんて聞いてきたくせに――」
「ち、ちがっ」
「そういえばオレといるのが楽しいとか言ってましたよね。オレみたいな変なのといるのがってことですか。だから今日みたいに付き合わせて。別にそれ、女じゃなくてもいいですよね」
「ち、違うんだ、シルヴィア」

 また何かしてしまったら、止まらなくなる気がして……それに、僕に何かされるのが嫌ではないことにまだ元オトコとして抵抗があるようだったから……。

 心の準備が整うのを待つと僕はシルヴィアに約束をした。それとも、もう整っていたということなのか? そうか、こんな誘いをしてくるくらいだ。僕は見誤っていたんだな。彼女からキスをしてきた時点で期待されていたのかもしれない。

 僕はなんてことを……。

 抱きしめようとする僕をシルヴィアが強い力で突き飛ばした。

「……っ!」
「こんなのを用意しても、何も……っ、こんな身体しているのに。どうせオレなんて――」
「シルヴィア!」
「こんな記憶なんていらない。バロン様なんて、大っ嫌い!」

 ――!!!
 シルヴィアが扉から勢いよく出ていく。

 言われた内容がショックですぐに動けなかった。手に持っていた瓶を割れないように机に置いて、追いかけなくてはと扉を開ける。

「……いない……」

 窓が開いている。
 すぐにそこから外を見渡しても、どこにもいない。出遅れた。浮遊魔法でここから出ていったのだろう。

「ロダン、シルヴィアを探せ」

 ロダンが姿を現した。

「姿隠しの魔法を使われています。今は会いたくないんでしょう」
「それでも探せ」
「エーテルがついています。シルヴィア様に近づこうとすれば、その前に違う場所に移動されますよ」
「それなら、このままにしろと言うのか!」
「寮に戻る気はなさそうです。朝帰りが見つからないように、朝食の時間まで学園内でしばらく過ごすおつもりでしょう。一人になりたいようですし、またお話する機会もありましょう」
「こんな状態で一人にさせられるわけないだろう!」

 彼女の言う通り、あれから何もしなかった。ずっと抱きしめたくて仕方なかったけど、まだ早いのだと自分に言い聞かせて……。

 それに、王族には暗殺の危険性がある。彼女に手を出してしまったあとに僕に何かあれば、傷物になったただの貴族の令嬢だ。結婚してからでないと、地位を確保したままにできない。

 でも、ちゃんと愛していると態度で示すべきだったな。止められないかもしれないと躊躇すべきではなかった。

「きっと泣いている。側に行かないと」
「……いえ、どうやらリリアン様を呼ぶようです」

 ロダンが何かを「視て」いる目だ。猫に追わせているのか。

 ――どうして、リリアン嬢を呼ぶんだ。

 さっき、こんな記憶はいらないと言っていた。ベルナードに頼んで前世の記憶から何から何まで消して元のシルヴィアに戻ろうとでも考えているのか!? それは自分の存在ごと消すということだ。僕はなんてことを考えさせてしまったんだ!

「今すぐに彼女のところへ行かないと!」
「……リリアン様と話したいようなので、そっとしておきましょうよ」
「なんでさっきから僕に反対ばかりするんだ」
「冷静さに欠いていらっしゃるからですよ」
「冷静でいられるわけないだろう!」

 僕はどれだけ彼女を傷つけたんだろう。どれだけ言い訳を重ねても、あれから何もしなかったのは事実だ。

「元の関係に戻れるのか……」
「どうでしょうね」

 分からないという見立てなのか。ロダンから見ても、そこまで彼女は傷ついていたのか。

「今すぐに探したいんだが」
「リリアン様と話したいというご意思を尊重された方がいいかと思いますが」

 ここまでロダンが僕に反対するのは初めてだ。確かに今の僕は冷静さに欠いている。今は……動かない方がいいのかもしれない。

「はぁ……ロダン。学生結婚をするというのはどうだろうか」
「……なくはないかと。両陛下から軽く反対はされそうですが、強く訴えればできなくはないでしょうね。早く子供ができれば血筋は絶えませんから。そちらのが重要です」

 僕だって、早くシルヴィアが欲しい。
 あと三年半以上も待つなんて耐えられない。

「よし、その方向で動こう」
「……御意に。シルヴィア様のご意向を確かめてからのがいいと思いますよ」
「分かっている」

 今すぐにスケジュールを練ろう。
 シルヴィアは……今日、僕に会ってくれるかな。それまでに、日程をざっくりと考えておこう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...