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セクション1『魔術学園2046篇』
第8話『Appearing Shadow -顕れし影-』
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「オォッラアッ!!」
「ヌゥン!!」
日向と獅堂が繰り出した拳撃が、轟音と共に衝突する。並の体格にも関わらず相当な筋力を有する日向だったが、獅堂の腕力はそれを遥かに凌駕するレベルだった。例え魔力で強化し補ったとしても、単純な身体能力の差は簡単に覆せるものではない。
「どっ……わアアア!?」
完全に押し負け吹き飛ばされる日向だったが、持ち前の強靭なタフネスですぐさま飛び起き再度突撃する。
「まさか頑丈なだけが、取り柄ってワケじゃねェだろォな……!!」
「ったりめェだッ!!」
獅堂は豪快なラリアットで迎え撃つが、両手から続け様に火炎を噴射し空間を跳ね回るように方向転換する日向。そしてその顔面へと飛び膝蹴りを撃ち込むが、獅堂はそれを額で受け止めていた。凄まじい膂力のみならず、日向以上の耐久力をも内包した岩盤の如き頑強な肉体。尋常ではない獅堂の身体強度に、大抵の攻撃ではダメージを与えられないと察する。
(クッソ硬ッてェな……!!)
「だったら……!!」
しかし能力で相手に劣っていようとも、機転次第でどうとでも攻略出来ると日向は知っていた。右腕付近へ魔力を集めながら、距離を取りつつ日向は術式を構築する。試した事は一度も無い技だが、実戦投入するなら今こそこの上ないタイミングだ。
――――着想を得た元は、伊織との戦いで天音が見せていた雷撃の槍。
火属性攻撃術式
『戟衝破』
拳を振り抜くようなモーションから撃ち放たれたのは、燃え盛る爆炎のレーザーだった。
あくまで格闘主体の戦闘スタイルだった日向が、少し前から感じ始めていた『遠距離攻撃』という手札の必要性。伊織や啓治のような自身と同格の『近接型』に優位を取るため日向が編み出した飛び道具は、獅堂との間合いを一瞬で潰す。
この距離で手は出せないと踏んでいた獅堂へ直撃した熱線は、その巨体を大きく後退させた。
「グッ……どォやら威勢だけじゃねェみてェだなァ……!!」
獰猛に笑いながらも獅堂は、その豪腕で戟衝破の炎を振り払い搔き消す。そして、全身から放出させていた魔力を明確に術式の形へと組み上げた。
遂に解禁されるその魔術の属性は、罅割れるような異音と共に空を駆け巡る黄金の『雷』。
強化術式×雷属性魔力
『轟雷撃』
(速ェ――――)
光属性と並び、八大属性中最速の展開速度を誇る雷属性。その電撃を纏った拳が、日向の防御を潜り抜け猛スピードで叩き込まれた。吹き飛んだ日向の身体は、スラムの壁を勢い良く突き破る。
「終わりかァ……?こンなモンじゃねェだろ!?」
それでもやはり、崩れた瓦礫の中から日向は飛び出して来た。自分で殴り飛ばしておきながら怒鳴り声を上げている獅堂へ、目にも止まらぬ連撃を繰り出す。
眼に黒色の光を宿した日向は、炎だけではない謎の魔力を纏い始めていた。
◇◇◇
生徒会執行部と並び、強大な権限を有する組織『風紀委員会』。治安維持を目的とした場合に限り学園内での魔術行使が認められている彼等は、多くの学生達から恐れられていた。
規則正しい隊列を組み粛々と廊下を進むその集団の姿に、生徒達は慄くような視線を向けながら道を開けている。
「あー奏さん、なんか一年がスラムで暴れてるらしいっスよ。しかも聞いたカンジ、大文字も出てきてるっぽいです」
その中の一人が、先頭を歩く女子生徒へと軽い口調で報告した。それを受け端正な容姿と冷淡な雰囲気を併せ持ったその少女は、一瞬だけ忌々し気な表情を浮かべると吐き捨てるように呟く。
「漆間の件と言い、今年の一年は異端ばかりか……」
眼鏡を掛け黒髪を束ねたこの人物の名は、神宮寺 奏。制服の上からでも分かる細くも鍛え上げられた肢体を備えた彼女は、精鋭揃いの風紀委員を束ねる高い戦闘能力を持った学園屈指の実力者だった。
「突入するぞ。今日こそ奴等を、一人残らず拘束する」
長たる奏の命を受け、風紀委員会もまた動き出す。スラムにて繰り広げられる戦いは、更なる激化の一途を辿ろうとしていた。
◇◇◇
(あの時と同じだ……!!)
獅堂へと猛攻を叩き込む日向の、瞳の色が変化している。伊織はそれを見て、日向と啓治が戦った時にも同じ事が起きていたと思い出していた。
更に今回はそれだけでない。黒とも紫とも違う『暗い色の魔力』が、日向の身体から漏れ出している。火属性とは明らかに性質が違う様子だが、彼から二つ目の属性魔力を有していると聞いた事は無い。闇属性と似ているように感じるが、それともまた別物に見える。
「なンだそりゃテメェ……闇属性も使えんのか?」
「あ?何言ってん、だァッ!?」
日向を相手取る獅堂もそれに気付き始めていたが、肝心の本人は一切気に留めていない。獅堂を打ち倒す事だけに、全ての力を向けているようだった。
鬩ぎ合う二人の魔力の余波が、雷火へと形を成し空間中へと張り巡らされていく。弾け回る電撃と荒れ狂う猛炎が、戦いを繰り広げる両者の周囲各所で暴発し続けていた。
「何つー戦いだよ……」
そんな怒涛の攻防に誰かが呟く中、獅堂は右腕全体へと渦巻くような雷を纏わせ渾身の手刀を振り下ろす。それを日向は、魔力を極限まで収束させた掌底で迎え撃った。
「ゼリャアアアアッッ!!」
「グッ……オオオオオオッッッ!!!!」
魔力が一際巨大な爆発を引き起こし、火柱のように巻き上がる。日向は今度は吹き飛ばず、その凄まじい威力を完全に受け止め切って相殺していた。
(何だ、今の一発……凄ェ魔力集まった気がする……!!)
その時日向は自分がたった今繰り出した一撃が、普段と明らかに手応えが違った事に気付く。通常の炎撃よりも多くの魔力を集中させ、遥かに高い威力を叩き出せた。
「……何か掴んだみてェだなァ。やるじゃァねェか」
獅堂もそれに気付いたようで、窮地の中で急成長を見せた日向へ純粋に称えるような言葉を放つ。
「この最高の戦い……もっと、楽しもォぜ!!!!」
「おォよ!!」
互いを強者と認め合いながら、彼等の戦いは際限無き高みへと登り詰めようとしていた。
「獅堂!」
スラムに響く、制止の声。獅堂と日向が目を向けるとそこには、眼鏡を掛けた一人の少年が立っていた。その生徒は不良達と違って制服を一切着崩しておらず、このスラムに見合わぬ優等生のような風貌をしている。
「神宮寺だ。……残念だろうが、今日はここまでだな」
「あー、そォか……………………クソがッッ!!!!………………分かった」
彼の名は、大文字一派"No.2"諸星 敦士。その口から告げられたのは、風紀委員長である人物が学園内戦闘を制圧すべくここへ乗り込んで来ているという事だった。
邪魔が入った事に対し、怒りのままに壁を蹴りつける獅堂。しかしやがて自分を落ち着かせると、スラム中に怒号を轟かせた。
「ハァーーー…………解散すッぞォ!!」
「はい!」
それを聞いて不良達は、各々が壁を越え、塀から飛び降り、一斉にこの場から散開していく。そして歩いて行く獅堂の後ろで、諸星が日向達へと声を掛けた。
「如月達が出て来たら面倒だ。お前達もついて来い」
「え、来いってドコによ?」
伊織に肩を貸していた日向は、諸星にそう訊き返す。
「抜け道教えてやるっつってんだよ。早くしろ」
振り返りながらそう応えた獅堂が、その足元にあったマンホールを力任せに蹴り破った。
◇◇◇
「おースッゲェ……ここに繋がってんのか!」
複雑に入り組んだ地下道を駆け抜けた日向達一行は、魔術都市の大通りへと続く裏路地に降り立った。風紀委員を撒いた事を確認すると、獅堂と諸星は路肩に停められていたバイクに近づいていく。
「今日はハンパなトコで止めちまったからなァ。近ェ内に仕切り直そォや」
「おー、いいよ。またやろォぜ」
喧嘩の中で完全に意気投合した様子の獅堂と日向。しかし日向の興味深そうな視線に気付いた諸星が、自身の物と思しきバイクヘ跨りキーを回しながら声を掛ける。
「……気晴らしと言っては何だが……お前達、どうする?」
「うっはははは!!!!超気持ちイイなァ!!!!」
「オイ暴れんなバカ!つーか立つな!」
日向は獅堂のバイクのリアシートに跨り、風を切り裂くようにして魔術都市を爆走していた。後方へと景色が吹き飛んでいくような爽快なスピードに、身を乗り出しながら大笑いしている日向。
「お前らの事は気に入ったぜ。何かあったら、オレが手ェ貸してやっからよォ」
「おーマジか!あんがとな!」
「つっても今回の件は、テメェらんトコの連中から手ェ出されたんだがな……」
獅堂からは頼もしい言葉が放たれていたが、諸星の後ろに座る伊織はあまり快く思えない様子である。
「司はケンカぐらいしか生き甲斐の無いヤツでな……面倒に巻き込んでしまって、悪かった」
「仲間なのに結構ボロクソ言ってんな……別に、アンタが謝る事でもねェだろ」
諸星はそんな伊織に対し、戦いを仕掛けた蛇島に代わって詫びを入れていた。更に蛇島の行動への釈明をするかのように、諸星は続ける。
「アイツは俺達の中でも特に、旧家の連中を嫌っていてな。腕の立つ人間を力で従えて、奴等や生徒会を攻撃しようと躍起になっているんだ」
「……アンタ達も同じ考えなのか?」
「……全てを否定はしない。些か強引だが、司のやり方が完全に間違っているとも思わないしな。単にアイツが暴れたいだけの時もあるだろうが……」
一度言葉を切った諸星は、揺るぎない意志を感じさせる声で伊織へと告げた。
「ただ……理不尽なルールで縛ろうとしてくる奴等には、俺達は従わない」
「ッ……!!」
歪んだ体制に抗う者達が、此処にも確かに存在している。その事実に、伊織は無意識に笑みを溢していた。
「まァ、細けェこたどォでもイイからよォ。コイツ倒したら次はオマエとも再戦だ、さっさとケガ治せや」
「待て待てなんでオレが敗ける事前提なんだコノヤロー」
「あ?俺に勝てる気でいんのか」
「やってみねーと分かんねーだろがい!」
そんな伊織とも決闘の約束を取り付けようとしている獅堂だったが、その後ろでは日向がやいのやいのと文句を言っている。
「あー、それとお前ら。誘われても生徒会には入んなよ?喧嘩はお互い、自由な立場じゃねェと楽しめねェからな」
獅堂が日向と伊織へと、そう忠告していたその時。
『コラァーそこのバイク二台止まれェーイ』
「チッ……管理局か」
サイレンを響かせながら背後から追走して来た緊急車両に気付き、諸星が舌打ちしながら更にアクセルを噴かし加速する。
『ノーヘル信号無視速度違反、今日も元気にやってんなァお前らー』
「……アンタらまさか常習犯か?」
「道交法は現行犯じゃなければ問題ないからな。掴まってろ、飛ばすぞ」
「バッカ、いきなりブン回すな……!!」
諸星の見た目に反して頭の悪そうな言い分に、啞然としている伊織。その横では獅堂と日向が、ゲラゲラと爆笑しながら危険運転を繰り広げていた。痛快なエンジン音を轟かせながら、無法者達のバイクは街を疾走する。
――――彼等の自由を奪う事は、何者にも出来はしない。
◇◇◇
『立入禁止』のバリケードテープが張り巡らされた事件現場。封鎖されたビルの前では、複数の男達が口論している。
「いきなり出て来て問答無用で追い出すとは……アンタ方ちょっと横暴が過ぎるんじゃないですか?」
「……ですがこれは決定事項です。この事件は、我々『魔術管理局』の管轄となりました。お引取り下さい」
刑事と思しき男達の抗議に淡々と返答したのは、黒のスーツを身に纏った謎の集団だった。
そして、建物内部にて。
部屋の天井まで血が飛び散っている凄惨な光景を目にしながら、一切動揺した様子もなく静かに視線を巡らせている一人の青年。『魔術管理局魔術捜査課』に属するその人物北斗 玲王は、床に手を当てると何かを探るように目を閉じる。
「はーいお疲れーお疲れー遅くなりましたァーッとォ……どうだー北斗、進んでるか?」
その時彼に背後から声を掛けたのは、遅れて現場入りして来た中年男性だった。北斗の上司であり、同様にスーツを着たその男の名は沢村 秀一。
「……お疲れ様です。軽く視てみましたが、これまでの事例と同様です。複数人の魔力痕がありました。組織的な犯行と見て間違いないかと」
「今月入ってもう三件目、か……ったく物騒な世の中だなァオイ。……んで、ホトケさんはどうだった」
冷静な口調でそう報告した北斗は、続けて沢村へと検証結果を告げる。
「今回も遺体に闇属性の残滓がありました。……恐らく、同一犯です」
「マジかァ~…………キナ臭ェコトになってきやがったなァ~もォ~~~」
それを受け沢村は、厄介そうに悪態を吐きながら乱暴に頭を掻いていた。――――その言葉が示していたのは、捜査線上に浮かび上がる『魔術連続殺人犯』の存在。
影に潜む『意思』が、その姿を顕すべく動き始めていた。
「ヌゥン!!」
日向と獅堂が繰り出した拳撃が、轟音と共に衝突する。並の体格にも関わらず相当な筋力を有する日向だったが、獅堂の腕力はそれを遥かに凌駕するレベルだった。例え魔力で強化し補ったとしても、単純な身体能力の差は簡単に覆せるものではない。
「どっ……わアアア!?」
完全に押し負け吹き飛ばされる日向だったが、持ち前の強靭なタフネスですぐさま飛び起き再度突撃する。
「まさか頑丈なだけが、取り柄ってワケじゃねェだろォな……!!」
「ったりめェだッ!!」
獅堂は豪快なラリアットで迎え撃つが、両手から続け様に火炎を噴射し空間を跳ね回るように方向転換する日向。そしてその顔面へと飛び膝蹴りを撃ち込むが、獅堂はそれを額で受け止めていた。凄まじい膂力のみならず、日向以上の耐久力をも内包した岩盤の如き頑強な肉体。尋常ではない獅堂の身体強度に、大抵の攻撃ではダメージを与えられないと察する。
(クッソ硬ッてェな……!!)
「だったら……!!」
しかし能力で相手に劣っていようとも、機転次第でどうとでも攻略出来ると日向は知っていた。右腕付近へ魔力を集めながら、距離を取りつつ日向は術式を構築する。試した事は一度も無い技だが、実戦投入するなら今こそこの上ないタイミングだ。
――――着想を得た元は、伊織との戦いで天音が見せていた雷撃の槍。
火属性攻撃術式
『戟衝破』
拳を振り抜くようなモーションから撃ち放たれたのは、燃え盛る爆炎のレーザーだった。
あくまで格闘主体の戦闘スタイルだった日向が、少し前から感じ始めていた『遠距離攻撃』という手札の必要性。伊織や啓治のような自身と同格の『近接型』に優位を取るため日向が編み出した飛び道具は、獅堂との間合いを一瞬で潰す。
この距離で手は出せないと踏んでいた獅堂へ直撃した熱線は、その巨体を大きく後退させた。
「グッ……どォやら威勢だけじゃねェみてェだなァ……!!」
獰猛に笑いながらも獅堂は、その豪腕で戟衝破の炎を振り払い搔き消す。そして、全身から放出させていた魔力を明確に術式の形へと組み上げた。
遂に解禁されるその魔術の属性は、罅割れるような異音と共に空を駆け巡る黄金の『雷』。
強化術式×雷属性魔力
『轟雷撃』
(速ェ――――)
光属性と並び、八大属性中最速の展開速度を誇る雷属性。その電撃を纏った拳が、日向の防御を潜り抜け猛スピードで叩き込まれた。吹き飛んだ日向の身体は、スラムの壁を勢い良く突き破る。
「終わりかァ……?こンなモンじゃねェだろ!?」
それでもやはり、崩れた瓦礫の中から日向は飛び出して来た。自分で殴り飛ばしておきながら怒鳴り声を上げている獅堂へ、目にも止まらぬ連撃を繰り出す。
眼に黒色の光を宿した日向は、炎だけではない謎の魔力を纏い始めていた。
◇◇◇
生徒会執行部と並び、強大な権限を有する組織『風紀委員会』。治安維持を目的とした場合に限り学園内での魔術行使が認められている彼等は、多くの学生達から恐れられていた。
規則正しい隊列を組み粛々と廊下を進むその集団の姿に、生徒達は慄くような視線を向けながら道を開けている。
「あー奏さん、なんか一年がスラムで暴れてるらしいっスよ。しかも聞いたカンジ、大文字も出てきてるっぽいです」
その中の一人が、先頭を歩く女子生徒へと軽い口調で報告した。それを受け端正な容姿と冷淡な雰囲気を併せ持ったその少女は、一瞬だけ忌々し気な表情を浮かべると吐き捨てるように呟く。
「漆間の件と言い、今年の一年は異端ばかりか……」
眼鏡を掛け黒髪を束ねたこの人物の名は、神宮寺 奏。制服の上からでも分かる細くも鍛え上げられた肢体を備えた彼女は、精鋭揃いの風紀委員を束ねる高い戦闘能力を持った学園屈指の実力者だった。
「突入するぞ。今日こそ奴等を、一人残らず拘束する」
長たる奏の命を受け、風紀委員会もまた動き出す。スラムにて繰り広げられる戦いは、更なる激化の一途を辿ろうとしていた。
◇◇◇
(あの時と同じだ……!!)
獅堂へと猛攻を叩き込む日向の、瞳の色が変化している。伊織はそれを見て、日向と啓治が戦った時にも同じ事が起きていたと思い出していた。
更に今回はそれだけでない。黒とも紫とも違う『暗い色の魔力』が、日向の身体から漏れ出している。火属性とは明らかに性質が違う様子だが、彼から二つ目の属性魔力を有していると聞いた事は無い。闇属性と似ているように感じるが、それともまた別物に見える。
「なンだそりゃテメェ……闇属性も使えんのか?」
「あ?何言ってん、だァッ!?」
日向を相手取る獅堂もそれに気付き始めていたが、肝心の本人は一切気に留めていない。獅堂を打ち倒す事だけに、全ての力を向けているようだった。
鬩ぎ合う二人の魔力の余波が、雷火へと形を成し空間中へと張り巡らされていく。弾け回る電撃と荒れ狂う猛炎が、戦いを繰り広げる両者の周囲各所で暴発し続けていた。
「何つー戦いだよ……」
そんな怒涛の攻防に誰かが呟く中、獅堂は右腕全体へと渦巻くような雷を纏わせ渾身の手刀を振り下ろす。それを日向は、魔力を極限まで収束させた掌底で迎え撃った。
「ゼリャアアアアッッ!!」
「グッ……オオオオオオッッッ!!!!」
魔力が一際巨大な爆発を引き起こし、火柱のように巻き上がる。日向は今度は吹き飛ばず、その凄まじい威力を完全に受け止め切って相殺していた。
(何だ、今の一発……凄ェ魔力集まった気がする……!!)
その時日向は自分がたった今繰り出した一撃が、普段と明らかに手応えが違った事に気付く。通常の炎撃よりも多くの魔力を集中させ、遥かに高い威力を叩き出せた。
「……何か掴んだみてェだなァ。やるじゃァねェか」
獅堂もそれに気付いたようで、窮地の中で急成長を見せた日向へ純粋に称えるような言葉を放つ。
「この最高の戦い……もっと、楽しもォぜ!!!!」
「おォよ!!」
互いを強者と認め合いながら、彼等の戦いは際限無き高みへと登り詰めようとしていた。
「獅堂!」
スラムに響く、制止の声。獅堂と日向が目を向けるとそこには、眼鏡を掛けた一人の少年が立っていた。その生徒は不良達と違って制服を一切着崩しておらず、このスラムに見合わぬ優等生のような風貌をしている。
「神宮寺だ。……残念だろうが、今日はここまでだな」
「あー、そォか……………………クソがッッ!!!!………………分かった」
彼の名は、大文字一派"No.2"諸星 敦士。その口から告げられたのは、風紀委員長である人物が学園内戦闘を制圧すべくここへ乗り込んで来ているという事だった。
邪魔が入った事に対し、怒りのままに壁を蹴りつける獅堂。しかしやがて自分を落ち着かせると、スラム中に怒号を轟かせた。
「ハァーーー…………解散すッぞォ!!」
「はい!」
それを聞いて不良達は、各々が壁を越え、塀から飛び降り、一斉にこの場から散開していく。そして歩いて行く獅堂の後ろで、諸星が日向達へと声を掛けた。
「如月達が出て来たら面倒だ。お前達もついて来い」
「え、来いってドコによ?」
伊織に肩を貸していた日向は、諸星にそう訊き返す。
「抜け道教えてやるっつってんだよ。早くしろ」
振り返りながらそう応えた獅堂が、その足元にあったマンホールを力任せに蹴り破った。
◇◇◇
「おースッゲェ……ここに繋がってんのか!」
複雑に入り組んだ地下道を駆け抜けた日向達一行は、魔術都市の大通りへと続く裏路地に降り立った。風紀委員を撒いた事を確認すると、獅堂と諸星は路肩に停められていたバイクに近づいていく。
「今日はハンパなトコで止めちまったからなァ。近ェ内に仕切り直そォや」
「おー、いいよ。またやろォぜ」
喧嘩の中で完全に意気投合した様子の獅堂と日向。しかし日向の興味深そうな視線に気付いた諸星が、自身の物と思しきバイクヘ跨りキーを回しながら声を掛ける。
「……気晴らしと言っては何だが……お前達、どうする?」
「うっはははは!!!!超気持ちイイなァ!!!!」
「オイ暴れんなバカ!つーか立つな!」
日向は獅堂のバイクのリアシートに跨り、風を切り裂くようにして魔術都市を爆走していた。後方へと景色が吹き飛んでいくような爽快なスピードに、身を乗り出しながら大笑いしている日向。
「お前らの事は気に入ったぜ。何かあったら、オレが手ェ貸してやっからよォ」
「おーマジか!あんがとな!」
「つっても今回の件は、テメェらんトコの連中から手ェ出されたんだがな……」
獅堂からは頼もしい言葉が放たれていたが、諸星の後ろに座る伊織はあまり快く思えない様子である。
「司はケンカぐらいしか生き甲斐の無いヤツでな……面倒に巻き込んでしまって、悪かった」
「仲間なのに結構ボロクソ言ってんな……別に、アンタが謝る事でもねェだろ」
諸星はそんな伊織に対し、戦いを仕掛けた蛇島に代わって詫びを入れていた。更に蛇島の行動への釈明をするかのように、諸星は続ける。
「アイツは俺達の中でも特に、旧家の連中を嫌っていてな。腕の立つ人間を力で従えて、奴等や生徒会を攻撃しようと躍起になっているんだ」
「……アンタ達も同じ考えなのか?」
「……全てを否定はしない。些か強引だが、司のやり方が完全に間違っているとも思わないしな。単にアイツが暴れたいだけの時もあるだろうが……」
一度言葉を切った諸星は、揺るぎない意志を感じさせる声で伊織へと告げた。
「ただ……理不尽なルールで縛ろうとしてくる奴等には、俺達は従わない」
「ッ……!!」
歪んだ体制に抗う者達が、此処にも確かに存在している。その事実に、伊織は無意識に笑みを溢していた。
「まァ、細けェこたどォでもイイからよォ。コイツ倒したら次はオマエとも再戦だ、さっさとケガ治せや」
「待て待てなんでオレが敗ける事前提なんだコノヤロー」
「あ?俺に勝てる気でいんのか」
「やってみねーと分かんねーだろがい!」
そんな伊織とも決闘の約束を取り付けようとしている獅堂だったが、その後ろでは日向がやいのやいのと文句を言っている。
「あー、それとお前ら。誘われても生徒会には入んなよ?喧嘩はお互い、自由な立場じゃねェと楽しめねェからな」
獅堂が日向と伊織へと、そう忠告していたその時。
『コラァーそこのバイク二台止まれェーイ』
「チッ……管理局か」
サイレンを響かせながら背後から追走して来た緊急車両に気付き、諸星が舌打ちしながら更にアクセルを噴かし加速する。
『ノーヘル信号無視速度違反、今日も元気にやってんなァお前らー』
「……アンタらまさか常習犯か?」
「道交法は現行犯じゃなければ問題ないからな。掴まってろ、飛ばすぞ」
「バッカ、いきなりブン回すな……!!」
諸星の見た目に反して頭の悪そうな言い分に、啞然としている伊織。その横では獅堂と日向が、ゲラゲラと爆笑しながら危険運転を繰り広げていた。痛快なエンジン音を轟かせながら、無法者達のバイクは街を疾走する。
――――彼等の自由を奪う事は、何者にも出来はしない。
◇◇◇
『立入禁止』のバリケードテープが張り巡らされた事件現場。封鎖されたビルの前では、複数の男達が口論している。
「いきなり出て来て問答無用で追い出すとは……アンタ方ちょっと横暴が過ぎるんじゃないですか?」
「……ですがこれは決定事項です。この事件は、我々『魔術管理局』の管轄となりました。お引取り下さい」
刑事と思しき男達の抗議に淡々と返答したのは、黒のスーツを身に纏った謎の集団だった。
そして、建物内部にて。
部屋の天井まで血が飛び散っている凄惨な光景を目にしながら、一切動揺した様子もなく静かに視線を巡らせている一人の青年。『魔術管理局魔術捜査課』に属するその人物北斗 玲王は、床に手を当てると何かを探るように目を閉じる。
「はーいお疲れーお疲れー遅くなりましたァーッとォ……どうだー北斗、進んでるか?」
その時彼に背後から声を掛けたのは、遅れて現場入りして来た中年男性だった。北斗の上司であり、同様にスーツを着たその男の名は沢村 秀一。
「……お疲れ様です。軽く視てみましたが、これまでの事例と同様です。複数人の魔力痕がありました。組織的な犯行と見て間違いないかと」
「今月入ってもう三件目、か……ったく物騒な世の中だなァオイ。……んで、ホトケさんはどうだった」
冷静な口調でそう報告した北斗は、続けて沢村へと検証結果を告げる。
「今回も遺体に闇属性の残滓がありました。……恐らく、同一犯です」
「マジかァ~…………キナ臭ェコトになってきやがったなァ~もォ~~~」
それを受け沢村は、厄介そうに悪態を吐きながら乱暴に頭を掻いていた。――――その言葉が示していたのは、捜査線上に浮かび上がる『魔術連続殺人犯』の存在。
影に潜む『意思』が、その姿を顕すべく動き始めていた。
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ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
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