Wizard Wars -現代魔術譚-

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セクション1『魔術学園2046篇』

第12話『Believeable Friends -信じる友-』

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 父親は、母親や幼い自分に平気で暴力を振るう人間の屑だった。

 今では、不気味で得体の知れない力を宿した自分を、本能的な恐怖から虐待していたのだと分かる。しかし父親はある日、何がきっかけだったのかは分からないが一線を越えようとした。殴られ続けていた母親を守るために、初めて明確な意思で『魔力』を使った。

 必死だった。やがて父親だった男が動かなくなった時、母親はもう自分を見てはいなかった。





『――――この、化け物……!!』

 人と違う自分は、肉親にすら恐れられる存在だったのだと知った。



 そこから先は、碌に記憶が残っていない。

 程無くして自分は、少年院に入れられる事になった。見捨てられた事など、言われるまでも無く理解していた。





 半ば屍のように生き続けていたが、ある時転機が訪れる。自分を訪ねて来た、一人の男との出会い。サングラスを掛け常に飄々と笑うその青年は、『魔術師』と名乗っていた。

『――――お前が、漆間創来だな?』





 ◇◇◇

 叩き込まれた凪の蹴撃によって、創来の体勢が大きく揺らぐ。しかし剣を地に突き立て踏み留まり、反撃すべく魔力を拳へと集め撃ち放った。

 闇属性魔力×強化術式

『イヴルストライク』

 闇属性の一撃を凪は両足蹴りで受け止めるが、勢いを殺し切れず大きく吹き飛ばされる。空中に投げ出される凪だったが、そこへ『縛』を応用した魔力の帯を放つ陣。それを掴んで体勢を立て直した凪は、着地と同時に再び地を蹴る。

(俺も寝てる場合じゃねェ……!!)

 啓治は肩の傷を抑えながら、創来を翻弄する二人の高い戦闘技術に刮目していた。陣の卓越した支援サポート能力に、その即興の連携に難無く合わせる凪の対応力。しかし創来の武力は、それすらも凌駕しようとしていた。

 最短距離を超速で駆け抜けた凪が、懐へと入り込むべく肉薄する。そこに完全にタイミングを合わせて来た創来が魔剣を振り下ろすが、陣の方が一手速かった。事前に仕掛けていた魔力盾が、凪の前に展開される。

 防御を陣に任せた凪が創来の剣撃を掻い潜り、その鳩尾へと突き刺さるような肘打ちを炸裂させた。小柄な凪が創来の躯体を吹き飛ばす程の威力を叩き出すが、その時戦況に突如異変が生じる。

 創来の魔剣から、爆発的に溢れ出す魔力。黒く蠢くその魔力が、体表へと収束していく。

 その姿は、全身に刃を纏った漆黒の猛獣のように見えた。



 闇属性魔力×強化術式

『ダークナイトモード』



「なんだあの姿……!?」

 異様な変貌を遂げた創来は、目を見開いている啓治達へと襲い掛かる。その速度は、異常なまでに上昇していた。

「更科さん!」

 驚異的な加速に凪の反応が一瞬遅れるが、咄嗟に動いた啓治が彼女を突き飛ばす。腹部へ魔力を集中させるが、創来の剣撃は啓治の防御を易々と斬り裂いた。

「ッ、啓治……!」

 凪がここに来て初めて焦りの声を上げるが、彼女達を援護すべく陣が次々と魔力弾を撃ち込む。鬱陶しそうに陽動射撃を払い退け、創来は陣へと一瞬で距離を詰め斬り掛かった。

 陣の胸元へと、深々と突き刺さる漆黒の刃。

「「!!」」

 啓治と凪が息を呑むが、創来の前に立っていた陣の姿は『透き通っていた』。





「残念、ハズレや」

 そして創来の背後から聞こえてくる、たった今胸を貫かれた筈の少年の声。

 無属性魔力×形成術式

イリューズ

 魔力によって『幻像』を創り出していた陣は、それを囮にした隙に新たな術式を構築していた。陣の指から放たれる魔力の弾丸。しかしその速度は、通常の『ブラスト』を遥かに上回っていた。

 無属性魔力×形成術式

狙撃銃弾スナイプブラスト

 貫通力をより強化された一条の魔光弾が、剣を持った創来の右手を正確に撃ち抜く。そして右腕を抑えた創来は、遂に握っていた剣を地に落とした。



 しかし魔剣を取り落として尚、創来が纏っている異質なオーラは消えない。

「剣の影響じゃ、ねェってコトか……!?」

 夥しい量の血を流しながら、息も絶え絶えに啓治が呟く。落とした剣には目もくれず、咆哮を上げ本能のままに疾走する創来。陣が『シールド』を形成し啓治を守るが、創来はそれを素手で引き裂き突き破る。

 攻撃力、耐久力、速力、全てが強化されたその形態は、創来の戦闘能力を異常なまでに引き上げていた。凪は蹴りによって壁際まで吹き飛ばされ、陣は拳を胸元に叩き込まれ殴り飛ばされる。

「クソ……コレが、テメェの意思か……?」

 睨み上げながら啓治がそう問うが、創来が口を開く事は無くその瞳にも感情は見えない。彼等の願いも虚しく、その拳は無慈悲に振り下ろされた。




 水属性魔力×形成術式

水甲盾アクアシェルシールド

 闇を纏ったその一撃から、啓治を守る魔力障壁。創来の拳を防ぎ止めたその少女は、彼等の背後から姿を現す。

「ごめんね、皇君。遅れちゃって」
「空条さん……!!」

 更に沙霧の隣には、もう一人の少年の姿が見えた。

「連れて来てくれたみたいやな、沙霧チャン……!!」

 胸を押さえ血を吐きながらも、陣が勝機を見出したように小さく笑う。新たにその場に現れた少年、春川 日向は創来へと一歩ずつ踏み出した。

「創来……」

 啓治達が固唾を飲んでその動向を注視しているが、創来は日向の声に反応を見せない。

「……俺はさ、お前とは生まれも育ちも違う。……本当の意味で、お前の『理解者』にはなれねェのかもしれねェ」

 日向の歩みに合わせ、創来もゆっくりと進み始める。

「……けどな。もしお前が、道を踏み外しそうになったら……全力でブン殴って止めてやる。理解者としてじゃねェ……友達ダチとして、お前を絶対ゼッテェ引き戻してやっからよ」

 小さく笑った、日向。それと同時に、創来が最後の一歩を踏み込んだ。

「沙霧!!」
「はい!!」

 突進して来る創来に迎撃の構えを取りながら、日向が沙霧へと叫ぶ。名を呼ばれた沙霧は日向の眼前に、五つの魔力障壁を直列に展開した。

 水属性魔力×形成術式

甲盾シェルシールド五重クインタプル

 沙霧が発動した防御魔術は、創来の攻撃と鬩ぎ合いながらも一枚ずつ破られていく。しかし日向には、その数秒の時間が稼げれば充分だった。



 両腕へと収束する炎熱。幾度と無く戦う中で、日向は啓治の『技』を自身の型へと取り込んでいた。



 火属性魔力×強化術式

双烈破ソウレツハ



 最後の障壁を砕き割った創来へと、渾身の力を以て叩き込まれる二つの拳。啓治の『双拳』を模して編み出された爆炎の諸手突きは、豪快な威力で創来を吹き飛ばした。跳ねるように地を転がった創来の身体は、やがて仰向けになって止まる。



「……目ェ覚めたか?」

 激戦を繰り広げていた創来を下し、打ち倒した日向。彼の言葉に、創来は静かに応えた。

「…………あァ…………ありがとう、日向………」

 そして、己を顧みず自分を救い上げてくれた友へと、創来は伝える。

「……啓治……陣……凪……沙霧…………ありがとう……」
「……ケッ……感謝しろバカが……」
「ハハッ……ホンマやで……」
「一件、落着……疲れた……」
「うん……!!」

 啓治達は悪態を吐きながらも笑みを溢しており、沙霧は小さく涙を浮かべながら頷いていた。



 ◇◇◇



 それから。

 沙霧の回復術式で傷を誤魔化し、密かに魔術都市へ帰還した六人。啓治だけは相当な重傷を負っていたので仕方なく東帝の医務室へ運び込んだが、医務員の篠宮には陣が巧妙な話術で『乱闘騒ぎに巻き込まれた』と信じさせていた。とにかく多芸な男である。

 後日、包帯を全身に巻き付け登校した来た啓治は、意趣返しの如くニヤついていた『初代包帯野郎』伊織といつも通りに喧嘩を繰り広げていた。

 沙霧や陣はクラスの雰囲気が明るくなった事を手放しで喜んでおり、凪は普段通り机にヨダレを垂らしながら爆睡している。

 そして欠席せずに毎日姿を見せるようになった創来は、ある日恭夜に呼び出されていた。

 誰もが日常を取り戻しつつある中、日向はーーーー



 ◇◇◇



「なァ~もォ勘弁してくれよォ怜ちゃあ~ん」
「黙れ。今日という今日は逃がさないわよ。てか誰がそんな呼び方許した?」
「公認っつってたぞ?千聖ちーパイセンが」
「アイツ……!!」

 サボり常習犯だった日向は遂に冴羽に捕らえられ、椅子に縛り付けられた状態で強制補習の刑に処されていた。昼寝、脱走、無断欠席と罪状を重ね過ぎた故の自業自得である。

 一時間後。

「終わった!もう終わったから許してくれェエエエ!!」
「せめてドアから出て行け!!」

 死に物狂いで課題を終わらせた日向は、逃げるように窓から飛び出して行く。くたびれ切った叫び声を上げながら校舎の外壁をよじ登り、連絡通路の屋外テラスに降り立った日向。

 そこにはテーブルに着いて、魔術書を広げ勉強していた鎧の姿があった。

「補習お疲れ、春川君」
「おーお疲れ……怜ちゃんスパルタすぎて今回はガチで死にかけた……」

 鎧の向かいの席に腰掛けた日向は、机に突っ伏しながらそう返す。

「……最近、色々大変だったみたいだね」
「あー…………まァな。もう今は大丈夫だ。ちゃんと、一段落ついたから」

 啓治の大怪我や、創来の変化。自身の預かり知らぬ所で何かしらの事件が起きていた事を、鎧は周囲の空気から薄々察していたようだった。

「詳しくは聞かないけどさ。春川君が、解決の立役者だってコトは何となく分かるよ。流石だね」
「いやーハッハッハよせやいハッハッハまァそんなコトはあるんだけどなハッハッハ」

 日向はすっかり気を良くしていたが、鎧は至って真剣な様子で言葉を続ける。

「春川君には、皆に同じ方向を向かせる力があるよね。真性の『リーダー』としての素質があると思うよ」
「そうか~?リーダーねー……つっても、皆をまとめたりっつーコトなら天音とか伊織の方が向いてそうだけどな」
「確かにあの二人も実力的にはリーダーとして申し分ないね。けど、人を『巻き込んで』『引き寄せる』"影響力"は、春川君だけのカリスマリーダーシップなんじゃないかな?」

 神妙な雰囲気を感じ取った日向が真面目な表情になるが、鎧は新たな質問を投げ掛けた。

「春川君はさ……どうして東帝に入学したんだい?」
「んん?どォしたよ急に」

 唐突かつ意図の読めない質問に、軽く面食らっている日向。

「いや、最近色んな人に訊いてるんだよね。……この学園には、確かな志を持ってここに来た人が沢山いる。僕はいつも、その人達から学んでばかりなんだ。だから、その原点がどこに在るのかを知りたくてさ」
「オマエ普段からそんなコト考えてんのか。マジメだなァー……ボケっと過ごしてるよォなヤツだって沢山いると思うけどな」

 茶化すような日向に、軽く笑顔を浮かべる鎧。

「――――御剣君はね、剣を極めてどんな魔術師よりも強くなる事が目標らしいよ。そうして、この世界の『力』は魔術だけじゃないってコトを証明するって言ってたんだ」
「へェ……なんか、アイツらしいな」
「皇君は、魔術工学の知識をもっと深めて、より多くの人を助けられるような開発をしたいらしい。勿論、魔術師としてももっと強くなるつもりだってさ」
「あー、アイツ頭いいしケンカも強ェもんな。将来とかちゃんと考えてんだな~」
「空条さんは、もっと障壁術と回復術を磨いて、お姉さんみたいな多くの人を救える魔術師になる事が目標なんだって」
「アイツねーちゃん居んのか。多分スゲー魔術師なんだろォな~」
「一文字君は、海外で使える魔術師資格を取って、悠々自適に暮らしたいって言ってたね」
「ははっ、何だよソレ。とか言っときながら多分、アイツもどっかで何かしら人助けしてると思うぜ」
「……更科さんは、行方不明の友達を探す為に、魔術捜査官になろうとしてるらしい」
「!……そうだったのか。まァ、アイツにも色々事情はあんだろな」
「藤堂さんは、最強の魔術師になる事……それだけだって言ってた。皆、明確な目的意識を持ってたよ。……尊敬出来る人達だ」
「確かに、アイツらが皆スゲー奴ってコトに関しちゃ同意見だ。ところでよ」

 鎧が明かした彼等の行動指針に、日向も興味深そうに聞き入っていた。

「オマエはどうなんだ?何の為に学園に来たんだよ?」

 その時日向から返された問いに、鎧は微かな笑みと共に答えとなる言葉を紡ぎ出す。

「そうだね……僕が目指してるのは、簡単に言ってしまえば『魔術』を広める事だよ。魔術を知らない、『表』の世界にもね」
「ソレは……ルールを変えちまうってコトか?」
「理解が早いね。そうだよ、僕は魔術法を変えたいと思ってる」

 明かされた鎧の目的は、魔術法の改正による『魔術の公表』。それは、一人の学生が掲げるには余りにも大き過ぎる理想だった。



 強大な力である魔術の歴史には、これまで幾度となく戦争に利用されて来た負の側面が存在する。その為、術師による国際組織である『魔術師協会』は、魔術都市以外での魔術使用を禁じる『秘匿原則』を制定した。『魔術』の存在そのものを、一部の人間魔術師達を除いた世界の人間から隠したのだ。



「勿論、魔術の存在が明るみに出ればどんな事が起こるか、そもそもそれがどれだけ難しいのかも解ってる。けどそれ以上に、やる価値のある事だと僕は思ってるんだ」
「なーるホド……まァ、突拍子ねーなとは思うが、お前アタマ良いしな。なんか考えあんのは分かる」
「うん。魔術には、危険性以上の可能性が秘められてる。人々の未来を、より善い方向に向けられる力がある筈なんだ」

 人智を超えた神秘の異能には、人々を傷付ける以上に救う力が有ると力説する。かつて病魔を乗り越えた鎧は、現に魔術によって切り開かれた『未来』を生きていた。

「まだ僕に、それを実現するだけの力は無い……だから、S級魔術師ランカーウィザードを目指してるんだ」



S級魔術師ランカーウィザード』。

 魔術師協会が発行する『魔術師資格ウィザード・ライセンス』は、当人の能力・実績に基づくA・B・Cのランクに分けられている。しかしその上には、極めて高い魔術師としての能力を持つ者のみに与えられるもう一つのランクが特設されていた。S級資格を有する魔術師は、現在世界に15名存在している。そしてランク内での実力が拮抗しているA~C級と異なり、S級には明確な序列順位ランキングが設定されていた。

 絶対的に強く、優れた術師である彼等には、その圧倒的な武力に裏付けられた強大な権力が与えられている。その地位を手に入れれば、魔術社会に大きな変革を齎すであろう鎧の理想も現実味を帯びて来る。



「正直途方も無いけど、学園ここで皆から色んな事を学んでいれば、手が届く気がするんだ。皆は、僕には無い物を持ってるからね」

 不断の努力を支える伊織の『精神力』。
 夢を追い掛ける為の啓治の『知力』。
 慈愛の心の礎たる沙霧の『人徳』。
 一つの視点に囚われない陣の『自由さ』と『賢明クレバーさ』。
 目的の為の手段を編み出す凪の『独創性』。
 頂点に立つ者としての天音の『矜持』。
 そして、無自覚に人を束ね同調させる日向の『人間性』。

 伊織達の能力を吸収する事で、鎧は更なる自身の成長へと繋げようとしていた。



「へェ……なんつーか、壮大な夢だな。俺は爺ちゃんに言われて、高校くらいは出とくかって思っただけなんだけどなァ」
「……春川君は、そんな受動的な人間には見えないけどね。じゃないと、御剣君達と互角に渡り合える程強くなれる筈がない」

 日向は困ったような表情でそう告げるが、鎧はそれがこの学園に来た本来の理由ではないと即座に見抜く。日向の力は、強い意志の基に培われ鍛え上げられた物だと気付いていた。そして日向は、遂に観念したかのように口を開く。

「…………分かった、話してやるよ。俺はさ、――――」





 ◇◇◇

 魔術管理局から呼び出された創来は、取調室にて恭夜と相対していた。心当たりと言えば、日向達と戦ったあの件しかない。

「……言い訳はしねェ。俺はアイツらを傷付けた。……罪は、償う」
「バーカ、違ェよ。お前を呼んだのはそういう話じゃねーから安心しろい」

 しかし咎を受けるとばかり思っていた創来に、恭夜は愉快そうに笑いながら言葉を掛ける。

「オマエを暴走させてた『魔剣』も現場から回収したし、オマエがこれまでの連続殺人の犯人じゃねェっつーコトも調べは付いてる」
「……でも俺は、『表』で魔術まで使って――――」
「それも、魔剣に付加されてた精神操作術式が原因だって鑑識から聞かされたよ。だからお前は無罪、潔白だ。けどな、ソレ今回の件を未遂で止めたのは……日向や啓治だ」

 一度言葉を切った恭夜は、真摯に創来と向き合いながら続けた。

「アイツらは、お前が犯人な筈は無ェってバカみてーに信じてブツかって来てくれたんだ。そんな友達ダチ、そうそう居ねェモンだぜ?……だから、もしお前に後悔やら感謝やらがあんなら、今度はお前がアイツらを助けてやれよ」
「…………あァ。分かった」
「よし、それでいい。……そんじゃ、本題に入るか」

 小さく笑いながら頷くと、恭夜は一枚の写真を創来に提示する。

「単刀直入に訊くが……オマエ、誰からこの『剣』を受け取った?」

 そこに映っていたのは、創来を凶行へと走らせた一振りの剣。

「…………炎の模様が入った、仮面を被ったヤツだった。名前は、『陽炎ミラージュ』って名乗ってた」
「炎の、仮面か…………」
「『表』の東京で、魔力を持ってる人間を迫害してるヤツを殺す事を持ち掛けて来やがったな。仲間は近くに何人か居たけど、詳しくは思い出せねェ」

 創来へと接触した、『犯罪集団』の輪郭が浮かび上がって来る。これまで起こった事件の被害者が、"魔力を持つ人間を私的に虐げていた事"、そして"現場に複数の人間の魔力痕が残っていた事"も、創来の証言と一致していた。

 これらの事から『陽炎ミラージュ』というその犯罪者が、この連続殺人事件に深く関与しているのは間違いないだろう。

「それから、多分あの陽炎ってヤツはNo.2だ。ボスじゃねェ。アイツは、誰かから指示を仰いでた」

 更に創来から伝えられる、犯罪集団を統率する謎のリーダーの存在。姿を見せず犯罪者達を陰から指揮する、その狡猾な手腕は相当に厄介な物と推測出来る。

「成程なァ……だそうだぞサームラさん」

 一通り聞き終えた恭夜は、背後のドアへと声を掛けた。それと同時に扉が開かれ、一人の男が入室して来る。

「情報提供には感謝する。出前でも取ろうかと思ってたトコだが……ちっとばかし面倒な事になった。今日の所はオマエらもう帰れ」
「ん?何かあった?」

 管理局の魔術捜査課課長、沢村 秀一の登場に物々しい雰囲気を感じ取りながらも、恭夜は緊張感の無い声を上げていた。

「オマエにはもう視えてんだろ。……が出た。これ以上、悠長にしてる時間は無ェ」

 沢村から告げられたのは、新たな魔術殺人の発生。





 ――――終わりの見えない事件は、最悪の展開へと動き出そうとしていた。
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