10 / 124
010 ジゼル
しおりを挟む
コンコンコンッ!
強く叩くと壊れてしまいそうなほどボロボロなドアをクロエは遠慮なく叩く。意外としっかりしているのか、装飾も無いタダの木の板のようなドアは、硬い音を響かせた。
「はーいー」
中からまだ年若い少女の声が聞こえてくる。どうやら、本当にこんなボロアパートに住んでいるようだ。由々しき事態だな。クロエに友だちを選ぶように言いたくはないが、ここの住人とは関係を見つめ直さなくてはならないだろう。
「だれー?」
目の前のドアが開くと、小柄な人影が現れる。
「やっほージゼル」
「こんにちは、ジゼル」
「おぉー! クロクロにエルエルじゃん! やっほー!」
姿を現したのは、クロエよりも小さい少女だった。燃えるような赤い髪のポニーテール。大きな緑の瞳がキラリと意志の強そうな光を放っている。非常に活発な印象を受けた。
ジゼルの服は、少しきつそうなくらいのパツパツのミニスカートワンピース姿だ。言っちゃなんだが、小さい服を無理やり着てる感じだな。ワンピースにも繕った跡があるし、財政的に苦労しているのが分かる。なぜか、腰にベルトを巻いて剣を佩いているが、その剣も安物だ。
剣を佩いているのは予想外だったな。剣は安いものでもけっこうな金が必要になる。こんな所に住んでいる少女が持っているのは、少し予想外だった。
「およ? そっちのおじさんだれー?」
ジゼルと呼ばれた少女が、緑の瞳を大きく開いてオレを見つめる。見ているだけで好奇心の大きさを感じさせるワクワクした雰囲気を感じる瞳だった。
「ジゼル、こっちはアベル叔父さん。あたしの叔父さんよ。叔父さん、こっちはジゼル」
もうちょっと説明があってもいいのだがな。
オレはクロエの紹介に苦笑いをかみ殺して笑顔を浮かべる。
「アベルだ」
「あーしがジゼルだよっ! よろしくね、アベるんっ!」
「ほぅ」
まさか会って一発目であだ名呼びしてくるとは思わなかった。このジゼルという少女、面白いな。
「よろしく、ジゼル」
オレはジゼルに右手を伸ばすと、ジゼルは躊躇うことなくオレの手を取って握手した。やはり気が強い女の子だ。
オレは握手をしたままジゼルと見つめ合う。ジゼルはオレから目を逸らさない。やはりこの少女、気が強いようだ。剣を佩いているのだから、おそらく剣で戦うのだろう。前衛には、これぐらい気の強い奴の方がいい。
この少女は伸びるな。
そんな直感を感じていると、オレとジゼルの握り合った手に、軽く手刀が落とされる。
「もうっ! 2人ともなに見つめ合ってるのよ! ほらっ! 離した離した!」
クロエが、オレとジゼルの間に入るようにして割って入ったのだ。
「なーにクロクロ、妬いてるのー?」
「そんなんじゃないったら! もうっ!」
ジゼルのからかうような声に、クロエがふんすっ! と鼻息荒く言い返す。クロエも本気で怒っているわけではない。ただの少女同士の戯れだろう。怒った顔のクロエもかわいい。
「もう、ジゼルったら」
軽く息を吐いて、クロエの怒り顔が微笑みに変わる。少なくとも、このジゼルという少女とは冗談を言い合えるほど仲が良いことが分かった。これは、引き離すのは難しそうだな。無理をすれば、クロエに嫌われてしまう。そんなことは耐えられない。
「さて、どうするか……」
オレは小さな呟きを口の中で転がし、思案にふける。クロエが離れたくないのなら、無理に引き離すのは難しい。別の手段が必要だ。
「手が無いわけではないが……」
オレの期待に応えてくれるかどうかが疑問だが、いくつか手段を考えておこう。
「イザベルとリディはどうしたのでしょう? 外出中ですか?」
「そだよー。王都の外にお出かけしてるー」
エレオノールの問いかけに、ジゼルはなぜかつま先立ちをして、くるりと一回転して答える。軸のブレがない綺麗な一回転だ。体幹の強さが分かる。しかし、このジゼルという少女、頭は大丈夫だろうか? なぜ回ったんだ?
「いつ頃帰ってくるのか聞いていませんか?」
「聞いてないなー。たぶん、夜には帰ってくるだろうけどー」
察するに、このボロアパートに三人で暮らしているのだろう。そして、同居人の二人が外出中のようだ。いつ戻ってくるかは不明。
この狭いボロアパートに三人で暮らしているとは……。よほど金銭的に苦労していると思われる。
ジゼルには磨けば光るものを感じたが、残り二人はどうだろうか?
できれば、オレの期待以上の資質を持っていてほしいものだ。
「どうするクロエ? また明日にするか?」
パーティメンバーとの顔合わせは明日に持ち越すか。クロエに訊いてみる。
「うーん……。できれば早い方がいいのよねー。ジゼル、イザベルたちの居場所は分かる?」
「うんっ。たぶんあそこだと思うよー」
「じゃあ、迎えに行きましょ! ジゼル、案内頼める?」
「りょっ!」
ジゼルが笑顔でクロエの問いに、手を胸にあてて兵士の敬礼を真似してみせる。なんとも軽い調子の少女だが、大丈夫だろうか?
「んじゃ、いこいこ。善は急げってねー」
オレたちはジゼルに導かれるようにボロアパートを後にした。
強く叩くと壊れてしまいそうなほどボロボロなドアをクロエは遠慮なく叩く。意外としっかりしているのか、装飾も無いタダの木の板のようなドアは、硬い音を響かせた。
「はーいー」
中からまだ年若い少女の声が聞こえてくる。どうやら、本当にこんなボロアパートに住んでいるようだ。由々しき事態だな。クロエに友だちを選ぶように言いたくはないが、ここの住人とは関係を見つめ直さなくてはならないだろう。
「だれー?」
目の前のドアが開くと、小柄な人影が現れる。
「やっほージゼル」
「こんにちは、ジゼル」
「おぉー! クロクロにエルエルじゃん! やっほー!」
姿を現したのは、クロエよりも小さい少女だった。燃えるような赤い髪のポニーテール。大きな緑の瞳がキラリと意志の強そうな光を放っている。非常に活発な印象を受けた。
ジゼルの服は、少しきつそうなくらいのパツパツのミニスカートワンピース姿だ。言っちゃなんだが、小さい服を無理やり着てる感じだな。ワンピースにも繕った跡があるし、財政的に苦労しているのが分かる。なぜか、腰にベルトを巻いて剣を佩いているが、その剣も安物だ。
剣を佩いているのは予想外だったな。剣は安いものでもけっこうな金が必要になる。こんな所に住んでいる少女が持っているのは、少し予想外だった。
「およ? そっちのおじさんだれー?」
ジゼルと呼ばれた少女が、緑の瞳を大きく開いてオレを見つめる。見ているだけで好奇心の大きさを感じさせるワクワクした雰囲気を感じる瞳だった。
「ジゼル、こっちはアベル叔父さん。あたしの叔父さんよ。叔父さん、こっちはジゼル」
もうちょっと説明があってもいいのだがな。
オレはクロエの紹介に苦笑いをかみ殺して笑顔を浮かべる。
「アベルだ」
「あーしがジゼルだよっ! よろしくね、アベるんっ!」
「ほぅ」
まさか会って一発目であだ名呼びしてくるとは思わなかった。このジゼルという少女、面白いな。
「よろしく、ジゼル」
オレはジゼルに右手を伸ばすと、ジゼルは躊躇うことなくオレの手を取って握手した。やはり気が強い女の子だ。
オレは握手をしたままジゼルと見つめ合う。ジゼルはオレから目を逸らさない。やはりこの少女、気が強いようだ。剣を佩いているのだから、おそらく剣で戦うのだろう。前衛には、これぐらい気の強い奴の方がいい。
この少女は伸びるな。
そんな直感を感じていると、オレとジゼルの握り合った手に、軽く手刀が落とされる。
「もうっ! 2人ともなに見つめ合ってるのよ! ほらっ! 離した離した!」
クロエが、オレとジゼルの間に入るようにして割って入ったのだ。
「なーにクロクロ、妬いてるのー?」
「そんなんじゃないったら! もうっ!」
ジゼルのからかうような声に、クロエがふんすっ! と鼻息荒く言い返す。クロエも本気で怒っているわけではない。ただの少女同士の戯れだろう。怒った顔のクロエもかわいい。
「もう、ジゼルったら」
軽く息を吐いて、クロエの怒り顔が微笑みに変わる。少なくとも、このジゼルという少女とは冗談を言い合えるほど仲が良いことが分かった。これは、引き離すのは難しそうだな。無理をすれば、クロエに嫌われてしまう。そんなことは耐えられない。
「さて、どうするか……」
オレは小さな呟きを口の中で転がし、思案にふける。クロエが離れたくないのなら、無理に引き離すのは難しい。別の手段が必要だ。
「手が無いわけではないが……」
オレの期待に応えてくれるかどうかが疑問だが、いくつか手段を考えておこう。
「イザベルとリディはどうしたのでしょう? 外出中ですか?」
「そだよー。王都の外にお出かけしてるー」
エレオノールの問いかけに、ジゼルはなぜかつま先立ちをして、くるりと一回転して答える。軸のブレがない綺麗な一回転だ。体幹の強さが分かる。しかし、このジゼルという少女、頭は大丈夫だろうか? なぜ回ったんだ?
「いつ頃帰ってくるのか聞いていませんか?」
「聞いてないなー。たぶん、夜には帰ってくるだろうけどー」
察するに、このボロアパートに三人で暮らしているのだろう。そして、同居人の二人が外出中のようだ。いつ戻ってくるかは不明。
この狭いボロアパートに三人で暮らしているとは……。よほど金銭的に苦労していると思われる。
ジゼルには磨けば光るものを感じたが、残り二人はどうだろうか?
できれば、オレの期待以上の資質を持っていてほしいものだ。
「どうするクロエ? また明日にするか?」
パーティメンバーとの顔合わせは明日に持ち越すか。クロエに訊いてみる。
「うーん……。できれば早い方がいいのよねー。ジゼル、イザベルたちの居場所は分かる?」
「うんっ。たぶんあそこだと思うよー」
「じゃあ、迎えに行きましょ! ジゼル、案内頼める?」
「りょっ!」
ジゼルが笑顔でクロエの問いに、手を胸にあてて兵士の敬礼を真似してみせる。なんとも軽い調子の少女だが、大丈夫だろうか?
「んじゃ、いこいこ。善は急げってねー」
オレたちはジゼルに導かれるようにボロアパートを後にした。
278
あなたにおすすめの小説
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる