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034 基礎
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「ねーえー? まーだー?」
「もう少しだ」
歩くのが面倒になったのか、不貞腐れるように言うジゼルに答える。まぁジゼルの気持ちも分からなくはない。昨日から歩き通しだからな。
オレたち『五花の夢』は、王都を東に進むこと1日の距離にある自然豊かな山の中へと分け入っていた。先頭を歩くオレは、片手に持った剣で木の枝や蔦を斬り払い、道を確保しながら歩く。たしかもうそろそろ見えてくるはずだが……。
「ふんっ」
気合を込めて右手に持つ剣を振り、木の枝葉を打ち払うと、目の前が急に明るくなった。やっと辿り着いたか。
前方に見えるのは、崖にぽっかりと開いた横穴の洞窟だ。パッと見る限りでは、とてもダンジョンの入り口に見えない貧相な見た目だが、低レベルのダンジョンなんてどこも似たようなものだろう。
ここが天然の洞窟ではなく、神の試練であるダンジョンである証として、通称ダンジョン石と呼ばれる特別な石の台座が鎮座している。
「着いたぞ。少し休憩してからダンジョンに入ろう」
「やっとー? もう疲れちゃったよー」
「そうね。休憩というのは賛成よ」
慣れない山歩きで余計に体力を消耗したのか、ジゼルとイザベルをはじめ、5人の少女たちが疲れた様子で地べたに腰を下ろす。山の中はもふもふの腐葉土に足を取られるからな。普段以上に体力を消耗する。一応オレが先頭に立って腐葉土を踏み固めたつもりだったんだが、それでも5人の体力にはきつかったようだ。
「冒険者は足が命だぜ? これから鍛えていかないとな」
「うへー……」
オレの言葉にジゼルたちが眉を寄せて嫌な顔をしていた。まぁ、体力作りってのは、大切だがひたすらに地味な訓練だからな。少女たちや新人冒険者たちが嫌がるのも分からんでもない。しかし、いざという時に役立つのは、驚異的な身体能力ではなく、地道に培われた体力だ。体力がなければ、どんなにすごい体術を持っていたとしても、無になる。
オレは、座り込む少女たちに背を向けて、洞穴の入り口にある石の台座へと近づいていく。
「ふむ。今このダンジョンに挑戦しているパーティは0だな。これなら思いっきり暴れてもいいだろう」
オレは目の前の台座に安置された丸い水晶玉に手をかざしてダンジョンの情報を読み取っていく。どういう原理かはまるで分からんが、この水晶玉に手をかざすと、ダンジョンの情報が頭の中に入ってくる。
と言っても、あくまで表層的な情報だがな。ダンジョンの情報を集めるなら、実際にダンジョンに行った奴から情報を買うのが一番いい。それでも、百聞は一見に如かずなんて言葉もあるがな。やはり、自分で体験しないと見えてこないものというものはある。
まぁダンジョン石から得られる情報なんてのは、本当に極僅かだ。それでも、オレたち冒険者がこのダンジョン石から情報を探るのは、他の冒険者パーティの有無が分かるからだろう。予め他の冒険者パーティが居ると知っているだけで、避けられるトラブルは多いのだ。
「んじゃ、休憩ついでにもう一度このダンジョンについて説明しておこう」
オレは未だにへたり込んでいる少女たちに向かって口を開く。
「えー、またー?」
「こういうのは、耳にタコができるくらい聞いておいて損はねぇぞ」
文句を言うジゼルを黙らせて、オレはこのダンジョンについて説明し始める。
「このダンジョンは、『ゴブリンの巣穴』。ダンジョンレベルはレベル2。オーソドックスな洞窟型のダンジョンだ。トラップの類は無し。出現するモンスターは……」
「もう何回も聞いたわ。ゴブリンでしょ? ダンジョンの名前になっているくらいだもの」
「んっ……」
オレの言葉を遮ってイザベルが声を上げ、それに同意するようにリディが頷くのが見えた。イザベルやリディ、そして他のメンバーにも、あまり緊張感というものが無い。もう二度もレベル2ダンジョンを攻略しているという余裕の表れだろうか。オレにはそれが危ういものに見えた。
「油断するなよ。ここはお前たちが攻略してきた他のレベルダンジョンとは一味違うぞ。トラップが無い分、モンスターが強い。一応レベル2のダンジョンだが、モンスターの強さはレベル3と遜色ないぞ。今までと同じだと思ってたら、痛い目に遭うぜ」
オレの言葉に少しは真剣さを取り戻したのか、5人の少女たちの目がオレを真っすぐに見つめてくる。いい傾向だ。
「ゴブリンたちの打たれ強さと武具には注意が必要だが、特に注意が必要なのは、飛び道具だな。弓を持ってるゴブリンには要注意だ」
おそらく、モンスターが飛び道具を使って攻撃してくるなんて『五花の夢』のメンバーにとっては初めての体験だろう。他にも、ゴブリンたちは粗末な剣や槍などの武器で武装している。武器によって間合いが違ってくるし、対応も違ってくる。そのあたりを上手く順応できればいいんだがな。
オレがなぜ次の攻略するダンジョンにここ『ゴブリンの巣穴』にしたかと言えば、飛び道具をはじめ、様々な武器を使うゴブリンが現れるからだ。ここで修業すれば、様々な武器に対応できるようになる。勝手に戦闘の基礎が身に付いていく。
昔は修業目的のパーティがいくつか来てたんだが……深く生い茂った山道を見る限り、最近はあまり人が来ないようだな……。基礎が大事なんだが……。
まぁ、それも仕方ないのかもしれない。『ゴブリンの巣穴』は、確かに修行にはもってこいだが、その稼ぎとなると、レベル2ダンジョンの中でも微妙だ。その日暮らしがやっとの初心者冒険者には、なかなか来れないダンジョンだろう。
「さて、こんなところか。もうしばらく休憩したら潜るぞー」
「「「はーい」」」
「分かったわ」
「んっ……」
『五花の夢』のメンバーたちが頷くのを見て、オレも休憩するべく地面に腰を下ろした。
「もう少しだ」
歩くのが面倒になったのか、不貞腐れるように言うジゼルに答える。まぁジゼルの気持ちも分からなくはない。昨日から歩き通しだからな。
オレたち『五花の夢』は、王都を東に進むこと1日の距離にある自然豊かな山の中へと分け入っていた。先頭を歩くオレは、片手に持った剣で木の枝や蔦を斬り払い、道を確保しながら歩く。たしかもうそろそろ見えてくるはずだが……。
「ふんっ」
気合を込めて右手に持つ剣を振り、木の枝葉を打ち払うと、目の前が急に明るくなった。やっと辿り着いたか。
前方に見えるのは、崖にぽっかりと開いた横穴の洞窟だ。パッと見る限りでは、とてもダンジョンの入り口に見えない貧相な見た目だが、低レベルのダンジョンなんてどこも似たようなものだろう。
ここが天然の洞窟ではなく、神の試練であるダンジョンである証として、通称ダンジョン石と呼ばれる特別な石の台座が鎮座している。
「着いたぞ。少し休憩してからダンジョンに入ろう」
「やっとー? もう疲れちゃったよー」
「そうね。休憩というのは賛成よ」
慣れない山歩きで余計に体力を消耗したのか、ジゼルとイザベルをはじめ、5人の少女たちが疲れた様子で地べたに腰を下ろす。山の中はもふもふの腐葉土に足を取られるからな。普段以上に体力を消耗する。一応オレが先頭に立って腐葉土を踏み固めたつもりだったんだが、それでも5人の体力にはきつかったようだ。
「冒険者は足が命だぜ? これから鍛えていかないとな」
「うへー……」
オレの言葉にジゼルたちが眉を寄せて嫌な顔をしていた。まぁ、体力作りってのは、大切だがひたすらに地味な訓練だからな。少女たちや新人冒険者たちが嫌がるのも分からんでもない。しかし、いざという時に役立つのは、驚異的な身体能力ではなく、地道に培われた体力だ。体力がなければ、どんなにすごい体術を持っていたとしても、無になる。
オレは、座り込む少女たちに背を向けて、洞穴の入り口にある石の台座へと近づいていく。
「ふむ。今このダンジョンに挑戦しているパーティは0だな。これなら思いっきり暴れてもいいだろう」
オレは目の前の台座に安置された丸い水晶玉に手をかざしてダンジョンの情報を読み取っていく。どういう原理かはまるで分からんが、この水晶玉に手をかざすと、ダンジョンの情報が頭の中に入ってくる。
と言っても、あくまで表層的な情報だがな。ダンジョンの情報を集めるなら、実際にダンジョンに行った奴から情報を買うのが一番いい。それでも、百聞は一見に如かずなんて言葉もあるがな。やはり、自分で体験しないと見えてこないものというものはある。
まぁダンジョン石から得られる情報なんてのは、本当に極僅かだ。それでも、オレたち冒険者がこのダンジョン石から情報を探るのは、他の冒険者パーティの有無が分かるからだろう。予め他の冒険者パーティが居ると知っているだけで、避けられるトラブルは多いのだ。
「んじゃ、休憩ついでにもう一度このダンジョンについて説明しておこう」
オレは未だにへたり込んでいる少女たちに向かって口を開く。
「えー、またー?」
「こういうのは、耳にタコができるくらい聞いておいて損はねぇぞ」
文句を言うジゼルを黙らせて、オレはこのダンジョンについて説明し始める。
「このダンジョンは、『ゴブリンの巣穴』。ダンジョンレベルはレベル2。オーソドックスな洞窟型のダンジョンだ。トラップの類は無し。出現するモンスターは……」
「もう何回も聞いたわ。ゴブリンでしょ? ダンジョンの名前になっているくらいだもの」
「んっ……」
オレの言葉を遮ってイザベルが声を上げ、それに同意するようにリディが頷くのが見えた。イザベルやリディ、そして他のメンバーにも、あまり緊張感というものが無い。もう二度もレベル2ダンジョンを攻略しているという余裕の表れだろうか。オレにはそれが危ういものに見えた。
「油断するなよ。ここはお前たちが攻略してきた他のレベルダンジョンとは一味違うぞ。トラップが無い分、モンスターが強い。一応レベル2のダンジョンだが、モンスターの強さはレベル3と遜色ないぞ。今までと同じだと思ってたら、痛い目に遭うぜ」
オレの言葉に少しは真剣さを取り戻したのか、5人の少女たちの目がオレを真っすぐに見つめてくる。いい傾向だ。
「ゴブリンたちの打たれ強さと武具には注意が必要だが、特に注意が必要なのは、飛び道具だな。弓を持ってるゴブリンには要注意だ」
おそらく、モンスターが飛び道具を使って攻撃してくるなんて『五花の夢』のメンバーにとっては初めての体験だろう。他にも、ゴブリンたちは粗末な剣や槍などの武器で武装している。武器によって間合いが違ってくるし、対応も違ってくる。そのあたりを上手く順応できればいいんだがな。
オレがなぜ次の攻略するダンジョンにここ『ゴブリンの巣穴』にしたかと言えば、飛び道具をはじめ、様々な武器を使うゴブリンが現れるからだ。ここで修業すれば、様々な武器に対応できるようになる。勝手に戦闘の基礎が身に付いていく。
昔は修業目的のパーティがいくつか来てたんだが……深く生い茂った山道を見る限り、最近はあまり人が来ないようだな……。基礎が大事なんだが……。
まぁ、それも仕方ないのかもしれない。『ゴブリンの巣穴』は、確かに修行にはもってこいだが、その稼ぎとなると、レベル2ダンジョンの中でも微妙だ。その日暮らしがやっとの初心者冒険者には、なかなか来れないダンジョンだろう。
「さて、こんなところか。もうしばらく休憩したら潜るぞー」
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