【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
72 / 124

072 斥候

しおりを挟む
「いいか、クロエ。あの大きなオオカミが、このダンジョンのボスだ」
「うん……」

 オレとクロエは、息を呑んで静かに茂みの隙間から様子を窺っていた。オレたちの視線の先に居るのは、草の絨毯にその身を横たえた巨大な白銀のオオカミだ。まるでスケール感が狂ったかのように現実味の無い光景。周りにいるオオカミたちと比べると、三倍は大きな巨体をしている。人間など、一口で呑み込んでしまいそうだ。

 アレこそが、この『白狼の森林』におけるボスモンスターだ。

「フッ……フッ……フッ……」

 緊張しているのか、クロエの呼吸が荒い。その黒い瞳は、零れ落ちそうなほど見開かれ、ボスを凝視している。これではボスにこちらの存在を気付かれてしまうな。オレは、片手でクロエの視線を遮ると、クロエが驚いたように体をビクリッと震わせた。

 驚いたように目を瞠るクロエもかわいいなぁー。

 ついつい緩んでしまいそうな頬を意識して引き締めて、口を開く。

「クロエ、真正面から見るな。勘付かれる。見る時は、視界の端で見るようにするんだ」
「はい……」

 獣型のモンスターは、特に視線や気配に敏感だ。十分な注意が要る。

「ボスの存在は確認できたな」
「うんっ」

 オレとクロエはパーティを離れ、偵察にやってきたのだ。クロエ単身で行かせるのはどうも心配で、無理を言って付いて来たが……付いて来て正解だったかもしれんな。

「偵察ってのは危険な行為だ」

 モンスターのうようよ居るダンジョンの中を、仲間から離れて単身で移動するのだ。そこには当然、大きな危険が付きまとう。

「だから、なるべく慎重に、そして手短に済ませるんだ。決して焦らずな。焦りは毒だ」
「はいっ」

 クロエが頷くのを確認すると、オレたちはゆっくりと忍び足でその場を後にする。中腰になり、辺りを警戒しながらゆっくりと歩くのは、なかなか辛いものがある。だが、手を抜くことはできない。クロエが見ているからな。

「クロエ、ボスの周りに居たオオカミの数を覚えているか?」
「え? えぇーっと……」
「五体だ。これも重要な情報だぜ? 見落とすなよ」
「はい……」

 クロエの瞳が、悔しさを滲ませて伏せられる。普段のクロエなら、こんな初歩的なミスはしなかっただろう。初めてのレベル3ダンジョンの空気がそうさせるのか、クロエはひどく緊張しているようだ。

「あ゛ぁー……」

 ボスの居場所からそこそこ離れ、いい加減にもういいだろうと腰を起こす。背筋を逸らし、腰を叩くと、口から自然とおじさんくさい声が漏れてしまった。まだまだ若いつもりだが、オレも確実におじさん化が進んでいるのだろう。嫌な事実だ。

「クロエ、帰り道は覚えているか?」
「うんっ!」

 クロエは、今度は元気に頷いてみせる。自信があるようだ。さすがクロエだな。頼もしい。

「じゃあ、クロエに先導を任せる」
「うんっ。こっち」

 オレも帰り道くらいは覚えているが、敢えてクロエに先導を任せる。クロエを疑うわけじゃねぇが、これも一種の試験みたいなものだ。パーティメンバーの待機している場所への帰り道も分からなくなるような奴は、斥候として致命的だ。ダンジョンで迷子になるなんて、死んだも同然だからな。

「こっち」

 クロエの先導に従って、木々の迷路を進んでいく。クロエは迷いや考える様子も見せず、スムーズにオレを導いてみせた。

 木々や草花で織りなされる自然の迷宮は、似たような景色ばかりだ。その見た目に騙されず、頭の中に正確な地図を作る必要がある。こればかりは慣れが必要だが、クロエはできているようだ。

 このあたりは斥候には必要不可欠な技術だからと、クロエに叩き込んだ。まだクロエの中で技術は生きているようだな。そのことにオレは安堵する。

 クロエに紙に書いた迷路を解かせて、経路を暗記させるという家でも手軽にできる方法だったが、これは案外いい訓練になったのかもしれない。今度から斥候を育てる時は、必須の訓練にしてみよう。ダンジョンで迷子になって死んでしまう初心者斥候というのは、そこそこ居るらしいしな……。

「え……?」

 もうすぐで『五花の夢』の待機地点に辿り着くという所で、クロエが小さく困惑の声を上げて立ち止まる。もうすぐ傍まで来ているというのに、道が分からなくなったのか?

 これは再教育が必要かもな。そんなことを暢気に考えていたオレを、クロエは弾かれたように見上げた。焦燥感を帯びた真剣な顔をしている。なにがあった?

「叔父さん! エルたち戦ってる!」
「なに!?」

 エレオノールたちが戦っている? モンスターに襲われたか。

 オレの耳には、それらしい音は聞こえない。戦闘となれば、多少大きな音や声が聞こえるものだが……。

 オレには感じ取れない。だが、クロエは戦闘の気配を感じ取ったらしい。耳がいいのか? なんにせよ、クロエの言葉を信じるならば、エレオノールたちがマズい。

「急ぐぞ!」
「うんっ!」

 オレとクロエが抜けた今、『五花の夢』はエレオノール、イザベル、ジゼル、リディの四人しか居ない。『白狼の森林』のモンスターは、だいたい5,6体でパーティを組んでいる。もし、本当に戦闘が行われているならば、エレオノールたちは数的劣勢を強いられているはずだ。

「クソッ!」

 オレは悪態をつきながらクロエと共に駆ける。

 頼むから、無事でいてくれ……ッ!
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...