【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)

文字の大きさ
78 / 124

078 一刺し

しおりを挟む
「GURURURURURURURU!」

 小山のように白銀の巨狼が、赤い歯茎が見えるほど、その大きな牙を剥き出しにして唸っている。鼻の頭にはシワが寄り、その上に鎮座する赤の瞳は、怒りを湛えて鋭い眼差しをジゼルに向けていた。

 巨大な白狼の左前脚の前部からは、今ももうもうと白い煙がたなびいている。ダンジョンのモンスターは、血の代わりに煙が出る。どういう理屈でそうなるのかは分からないが、剣で斬りつけても、剣に血糊が付かない点は嬉しいところだな。討伐すると白い煙となって消えるし、普通の動物とは違うということだろう。

 白狼の左前脚から上がるあの煙の量。ジゼルはなかなかの深手を白狼に負わせたな。しかし、その代償に白狼から強く恨まれてしまったようだ。

「こっちを見なさい!」

 エレオノールもジゼルに白狼の注意が向いていることに気が付いたのだろう。剣で盾を打ち鳴らし、白狼の注意を引こうとしているが、効果がない。白狼の獰猛な視線はジゼルを向いたままだ。

 こういうことは、実はよくあることだ。タンクというのは、防御能力は高いが、攻撃能力は低い。モンスターの注意が、攻撃能力の高いアタッカーに貼り付いてしまうのだ。

 モンスターにとっては、より危険な相手に注意を払うのは当然のことだろう。そこをどう解消するかは、タンクの力量にかかっている。エレオノールは、白狼の注意を自身に引き戻し、ジゼルをフリーに動かせることはできるか?

「そっちが来ないのならば、こちらから行きますっ!」

 エレオノールが、ガチャガチャと鎧を揺らして白狼へと突撃していく。そうだ、エレオノール。まずは、接近して間合いに入るのが大事だ。自分が相手にとって脅威と映るように、自分の剣が届く範囲へ迫ることは、基本である。

 先程は危ないところだったというのに、再び強敵へと立ち向かうエレオノール。その勇気は称賛されるべきものだ。駆けるエレオノールの足取りに乱れはなく、速い。恐怖は感じているだろう。だが、それを表に出すことはない。

「強い子だ」
「やぁああああああああああ!」

 オレの呟きを掻き消すような、エレオノールの再びのウォークライ。しかし、白狼はエレオノールに視線を向けることはない。あんなに憎々しげに睨んでいたジゼルからも視線を外し、天を仰ぎ見るように、背筋を逸らして上を見上げる。あの姿はッ!

「イザベル、魔法の準備! くるぞ!」
「トロワル、ストーンショット準備! 急ぎなさい!」
「収納!」

 イザベルが精霊魔法を行使するのを横目に、オレは収納空間を前方に展開する。狙いは、白狼の足元だ。しかし、まだ射撃はしない。時はまだ満ちてはいない。

 時は――――。

「AOHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!」

 突如として、耳を塞ぎたくなるほどの大声量が、空間を震わせる。白狼によるハウリングだ。これだけでも音波攻撃になりそうなほどの威力を秘めているが、その真価はそこではない。

「AOHOOOOOOOOOOOOON!」
「AOHOOOOOOOOOOOOOOOOOON!」
「AOHOOOOOOOOOOOOOOOON!」
「AOHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!」
「AOHOOOOOOOOOOOOOOOOOON!」

 まるで白狼のハウリングに呼応するように、白銀のオオカミたちが、白狼の足元から現れる。まるで空気からしみ出したかのような、異様な出現方法だ。これこそが、白狼のハウリングの真価。白狼はハウリングにより、三度も仲間のオオカミたちを召喚できるのだ。

 召喚されたオオカミたちの数は五体。まるで、今までの戦闘がムダになってしまったかのような光景。

 ダダダダダダダダダダダダッ!!!

「放ちなさい! ストーンショットッ!」

 ティウンッ!!!

 空気を連続で切り裂くような射撃音が響き、イザベルの精霊魔法ストーンショットが爆音を上げる。生み出されるのは、嵐のような圧倒的な暴力だ。瞬く間に、召喚された五体のオオカミたちが千切れ跳び、白い煙となり果てる。

「ふぅ……」

 オレはその光景に満足げに息を吐き出した。今までヘヴィークロスボウで一発ずつ大事に撃っていたのが、バカバカしく思えるほどの破壊力だ。

「まぁ、裏では一発ずつ溜めてるんだけどよ」

 事前に大量のボルトをヘヴィークロスボウで発射するという地道な作業が必要とはいえ、これだけの有用性を前にしたら、全てが些事だ。

「………」

 あまりにも衝撃的な光景だったのか、白狼が言葉もなく身を硬直させていた。たしかに、レベル3ダンジョンには過剰な破壊力だったからな。驚くのも無理はない。

 しかし、体を硬直させたのは間違いだったな。

「GYAGA!?」

 静止していた白狼から、まるで悲鳴のような大声が上がった。よく見ると、白銀の巨狼の右の横腹に、一瞬だけ小柄な黒い人影が写ったのが見えた。

 白狼が身をよじるようにして暴れ出す。まるで痛みにのたうち回っているかのようだ。それを証明するかように、白狼の右腹からどっぷりと濃く白い煙が上がっていた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...