10 / 29

10 ドキドキ

しおりを挟む
 青の星香草を手に入れたオレは、さっそくウリンソンに戻ってきた。

 まだ日が昇った直後だからみんな寝ているかと思ったのだが、ウリンソンは朝早くから活気に満ちていた。

 ウリンソンの樹上都市にはいくつも即席の屋台が立てられ、朝食が売られている。朝日がキラキラと輝く木漏れ日の街は、混然としたおいしそうな匂いに包まれていた。

 オレは一刻も早く協同組合にクエストの完了を報告したいのをグッと堪え、初日にエルフさんに教えられた宿屋に行く。

 宿で適当な個室を取り、たらいと布を貸してもらったら、やることは一つだ。

「クリエイトウォーター」

 たらいに温水を溜めたら、服を脱いで体を拭いていく。本当は風呂に入りたいところだが、ウリンソンには風呂がないらしい。落ち着いたら風呂を作るのはありだな。

 たらいのぬるま湯に頭を突っ込み、手持ちの石鹸で洗っていく。

「おほお! 気持ちいい!」

 思わず声が出るほど気持ちよかった。文化的な生活は一週間ぶりだからね。仕方ないね。

 これから人生の最推しであるフアナちゃんに会うんだ。抜かりなく隅々まで綺麗にする。

「こんな感じかな」

 体を洗い終えたオレは、温風の魔法を使って髪を乾かしていく。

 さっきの水を創る魔法や温風の魔法は、ゲームでは登場しなかった魔法だ。ゲームだと、魔法は攻撃手段って感じだったからな。だが、バルタザールの記憶には、いろいろとオレの知らない便利な魔法が記憶されていた。

「それって、オレの知らない魔法があるってことだよな」

 オレの持つゲームの知識の正しさは証明されたが、それだけがすべてじゃないということだろう。

 むくり、とこの世界のことをすべて知りたいという欲求が首をもたげる。

 だが、そんなものはすぐに霧散した。

「オレにとってフアナちゃんがすべてだからね。世界なんてどうでもいい」

 やろうと思えば、オレは世界征服だってできる。オレを倒せるフェリシエンヌだって、今はまだレベル1のか弱い少女でしかない。

 たとえば、今ここでフェリシエンヌを殺してしまえば、オレが倒される未来もなくなる。

 その場合、オレの知らない別の脅威が現れるかもしれないが、まぁ、それは置いておこう。

 ランゲンバッハ帝国に戻って国を支配し、世界に君臨する。そんなことだって可能だ。

 だが、それのどこが面白いのだろうか?

 オレはべつに世界を支配したいとか、人の上に立ちたいとは思わない。

 だって、面倒くさそうじゃん? 世界を支配するのって。

「よし! こんなところだな!」

 髪を乾かし終えたオレは、さっそく収納魔法から新しい服を出して着替える。石鹸で洗ったから髪がキシキシするが、これはトリートメントがないので仕方がない。油を塗るという手段もあるが、あれあんまり好きじゃないんだよなぁ。ベタベタして。

 すべての準備を終えたオレは、ルンルン気分で宿屋を出た。

 たどり着いた協同組合は、なんだか大盛況だった。みんな真剣な顔をしてクエストが貼られたクエストボードを見てクエストを吟味しているようだ。

「これとかどうだ?」
「うーん……。報酬がなぁ」
「それは俺が先に目を付けてたんだ!」
「先に取ったもん勝ちだね!」

 前に来た時は、クエストボードの前には一人もいなかったのだが、時間帯によって何か違うのだろうか?

「まあ、いいか」

 オレは盛り上がっているクエストボードを通り過ぎて、カウンターに並んだ。エルフさんがにっこりと笑ってオレを迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。今日はどうなさいましたか?」

 オレは収納魔法を展開すると、青の星香草を取り出した。

「それはッ!?」
「クエストの完了報告に来た。この通り、青の星香草を持ってきた」
「か、かしこまりました。すぐに依頼人に連絡いたします! 念のためこちらで処置しても問題ないでしょうか?」
「ああ、頼む。依頼人に会うことは可能だろうか?」
「はい。おそらく、依頼人の方もお会いしたがると思います。お部屋をご用意いたします」
「ああ、ありがとう」

 こうしてオレは協同組合の個室に通された。今頃、協同組合の手配で青の星香草を薬に調合している頃だろう。

 そして、ついにフアナちゃんに会える時が近づいてきてるんだな。もうドキドキだ。まだ朝食を食べていないので腹が減っているはずなのだが、まったく空腹を感じない。

 代わりに感じるのは、胸がギュッと締め付けられるような感覚だ。冷汗まで出てきた。

 これは恋だな。そうに決まっている。

 オレの大好きなゲームである『姫騎士のリベリオン』。登場キャラはどれもたしかに推しと呼べるほど大好きだが、フアナに関しては格が違う。

 これまでオレが触れてきたすべての中でのダントツ一番の推し。

 最推しなんてレベルじゃない。もう人生の推しとでもいうべき存在だ。

 そんなフアナとこれから会うことになる。

 オレの心臓は大丈夫なのだろうか? 破裂したりしないよな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...