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11 フアナの登場

 静寂の部屋の中にコンコンコンとノックの音が飛び込んできた。

「はい!」

 その瞬間、オレは弾かれたように返事をして椅子から立ち上がった。

 ドアが、開く!

 ついにその時が訪れたのだ!

「失礼します」

 最初に姿を現したのは、協同組合の職員のエルフさんだった。エルフさんに他意はないが、少し拍子抜けした気分だ。

「ん」

 続いて姿を現したのは――――ッ!

 エルフさんの胸辺りまでしかない小さな人影。陽光を浴びて光り輝く銀色の髪。大きな三角のトラ耳! ちょっと眠たそうな赤い瞳。華奢な体を包む民族的な衣装の奥からは銀色の尻尾が見えている!

 夢にまで見たフアナだ! オレは今、フアナと同じ空間にいる!

 それだけでもう絶頂してしまいそうなくらい嬉しい。

「フアナ様、こちらが青の星香草を見つけたバルタザール様です」

 急いで来たのか、フアナは肩で息をしていた。なんだか甘い香りがここまで漂ってくるみたいだ。空気が甘いぜ!

「ん。ばるたざーる? ありがとう」

 フアナがぺこりと頭を下げた。もうめちゃくちゃキュートだ! ムービー! ムービーにして保存したい! なんでオレの目にはムービー機能がないんだ! こうなったら、ムービーの魔法を開発するしかない!?

「あの、バルタザール様?」
「はっ!?」

 エルフさんに声をかけられて、オレは呼吸を再開する。

 しまった。フアナのあまりのかわいらしさに動きどころか呼吸まで止めていた。

「お、オレがバルタザールだ。キミがフアナでいいのか?」

 自分でもわざとらしいなと思いながら、オレはフアナに問いかける。

 オレはゲームを通してフアナについてもいろいろ知ってるけど、フアナにとっては初めましてだからな。

 それに、オレもフアナについて知ってるとは言っても、それはゲームを通して情報を知っているだけ。本物のフアナとは初めましてだ。

「ん。フアナ」

 フアナはコクリと頷いた。この小さな女の子みたいな言動がかわいいんだよなぁ。

 悶えそうになる体をなんとか押し止めて、なんとか頷くことで返す。

「…………」
「…………」

 どどど、どうしよう? 会話が止まっちゃった!?

 さっきまでいろいろ話したいことがいっぱいあったのに、いざフアナを目の前にすると、全部吹き飛んでしまった!

 絞り出せ! なんとか会話を絞り出せ!

「あ、青の星香草が必要ってことは、誰か病気なのか?」

 くっ! 白々しいな、オレ! そんなこと知ってるってのに!

「ん。親父、病気……」

 フアナがシュンと俯いてしまった。

 そう。フアナの父親は虎族の族長なのだが、病に倒れているのである。そのため、フアナは破格の条件を出して青の星香草を求めたのだ。

「そうか。治るといいな……」
「ん……」

 どうしよう? 暗い雰囲気になってしまった。話題を変えないと……。

 うーん、なにか話題……話題……。

 話題を探して脳内を右往左往していると、ノックの音が聞こえた。

「フアナ様、お薬が完成したとのことです!」
「!」

 シュンと萎れていたフアナの耳と尻尾がピンッと立ち上がった。

「いく!」
「フアナ!」

 今にも部屋を飛び出そうとするフアナに慌てて声をかけた。

「なに?」

 今にも走り出したくてうずうずした様子のフアナが振り返る。

「オレも付いて行っていいか?」
「ん」

 フアナはコクリと頷くと走り出した。速い。

 オレはフアナを追って走り出す。

 フアナは協同組合のカウンターで薬を受け取ると、一目散に駆けていくところだった。

「すばしっこいな」

 オレはフアナ追って駆け出し、すぐに彼女の横に並んだ。

 たしかにフアナは速い。だが、ラスボスをナメてもらっては困る。

「ッ!?」

 フアナは、オレが横に並んで走り出すと、少し驚いたような顔をしていた。

「これから村に帰るのか?」
「ん。こっち」

 その時、フアナは樹上都市ウリンソンの端から地面に向けてジャンプした。

 たしかに階段を降りるよりも早いだろうけど、無茶するなぁ。

 オレもフアナに続いてジャンプして、木の枝を掴んで一回転しながら、そのまま木の枝から枝に飛び移って移動を開始した。

 フアナがこれだけ急いでいる理由。それは一刻も早く父親を病から救いたいだけではない。実は青の星香草は、摘んでから少しずつ薬効成分が劣化していくのだ。それは薬に加工した今も同じである。少しでも早く父親に薬を飲ませないといけないことを知っているのだ。

 まるで本物のトラのように森を疾走するフアナ。その姿を見ながら、オレは感慨にふける。

 フアナは表情が乏しくて、いつも何を考えているのかわからないようなボーと顔をしているが、それは彼女の表面上の一部分に過ぎない。本当の彼女は、肉親や仲間のためならいつでも身を投げ出せるほど情の深い子だ。

 他にもいろいろ理由はあるけど、だからこそ、オレはフアナを好きになったし、フアナが人生の最推しになった。

 フアナと同じ世界に生きている。それだけで間違いなくオレの幸せなのだ。
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