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(わざわざ手伝ったことをアピールするなんてみっともない。資料はそっと置いておけばいい。そう美結は話していたのに、自分が手伝ったことにしていたということ?)
ちらりと見た親友は、驚くほど優しくて綺麗な顔をしていた。
(ああ、ここにはいられない)
これ以上ここにいたら、自分はきっと取り乱してしまう。「親友」に言ってはいけない言葉を叩きつけることになる。蓋をしていた醜い気持ちが噴き出してしまうのが恐ろしくて、葵は急いでコーヒーを飲み干した。
「ちょっと用事を思い出してしまったの。先に帰るわ」
「ごめんなさいね、あなたも彼のことが好きだったって知ってたのに。わたしも彼のことを好きになってしまったの。大事なあなただからこそ、嘘はつきたくなかったのよ」
「……ううん、気にしないで」
(どうして、今それを言うの。彼の前で言う必要はあったの?)
一瞬、頭に血が上り、恥ずかしさで顔が赤く染まったような気がした。
葵の話を何一つ覚えていてくれない方が、よっぽどマシだった。美結は、葵が彼を好きだったことをわかっていたのか。その上で、付き合っていた恋人から葵の想いびとに乗り換えたなんて、知りたくなかった。
「良ければ、彼に頼んで誰か葵に紹介してもらおうか?」
あたかも葵のためと言わんばかりの提案に、指先が震えた。彼女は、男性陣に葵のことをなんと伝えるのだろう。自分の恋人に横恋慕して、失恋した可哀想な女の子を慰めてあげて。そんな風に、話のネタにするのだろうか。
(……あんまりだわ)
「……大丈夫。ありがとう」
頭にのぼっていたはずの血が、今度は一瞬で引くのがわかった。思いやりという名の施しに胸がえぐられる。
それでも、葵には怒鳴ることなどできなかった。どうせ葵が怒ったところで、彼女の気持ちは伝わらない。ちょっとしたことで怒る彼女が悪いのだと、馬鹿にされたり、笑われたり。それなら全部飲み込んでしまった方がマシだ。
「どうぞごゆっくり」
「え、ちょっと、葵。やだあ、怒ってるの?」
「ううん、大丈夫だから」
そう、葵は彼らに怒ってなどいない。何より悔しいのは、どれだけ馬鹿にされても言い返せない自分自身なのだから。
ふたりの顔を直視できないまま、席を立つ。葵は自分のぶんの支払いを済ませすると、早足で店を後にした。
ちらりと見た親友は、驚くほど優しくて綺麗な顔をしていた。
(ああ、ここにはいられない)
これ以上ここにいたら、自分はきっと取り乱してしまう。「親友」に言ってはいけない言葉を叩きつけることになる。蓋をしていた醜い気持ちが噴き出してしまうのが恐ろしくて、葵は急いでコーヒーを飲み干した。
「ちょっと用事を思い出してしまったの。先に帰るわ」
「ごめんなさいね、あなたも彼のことが好きだったって知ってたのに。わたしも彼のことを好きになってしまったの。大事なあなただからこそ、嘘はつきたくなかったのよ」
「……ううん、気にしないで」
(どうして、今それを言うの。彼の前で言う必要はあったの?)
一瞬、頭に血が上り、恥ずかしさで顔が赤く染まったような気がした。
葵の話を何一つ覚えていてくれない方が、よっぽどマシだった。美結は、葵が彼を好きだったことをわかっていたのか。その上で、付き合っていた恋人から葵の想いびとに乗り換えたなんて、知りたくなかった。
「良ければ、彼に頼んで誰か葵に紹介してもらおうか?」
あたかも葵のためと言わんばかりの提案に、指先が震えた。彼女は、男性陣に葵のことをなんと伝えるのだろう。自分の恋人に横恋慕して、失恋した可哀想な女の子を慰めてあげて。そんな風に、話のネタにするのだろうか。
(……あんまりだわ)
「……大丈夫。ありがとう」
頭にのぼっていたはずの血が、今度は一瞬で引くのがわかった。思いやりという名の施しに胸がえぐられる。
それでも、葵には怒鳴ることなどできなかった。どうせ葵が怒ったところで、彼女の気持ちは伝わらない。ちょっとしたことで怒る彼女が悪いのだと、馬鹿にされたり、笑われたり。それなら全部飲み込んでしまった方がマシだ。
「どうぞごゆっくり」
「え、ちょっと、葵。やだあ、怒ってるの?」
「ううん、大丈夫だから」
そう、葵は彼らに怒ってなどいない。何より悔しいのは、どれだけ馬鹿にされても言い返せない自分自身なのだから。
ふたりの顔を直視できないまま、席を立つ。葵は自分のぶんの支払いを済ませすると、早足で店を後にした。
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