死を回避するために筋トレをすることにした侯爵令嬢は、学園のパーフェクトな王子さまとして男爵令嬢な美男子を慈しむ。

石河 翠

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 夢の中では女子生徒から爪弾きにされていた彼女を、今回学園に溶け込ませたのもまたアントニアだった。

「やあダナ嬢、また会えたね」

 入学後、学園の階段内で初めてすれ違ったダナに声をかけると、彼女は顔を真っ青にさせた。ところが彼女は、夢の中のアントニアのことを覚えていたわけではないらしい。ただひたすら、自分から離れてくれと必死に叫ぶだけだ。

「いやあ、ダメですう」
「ダナ嬢、どうしました?」
「お願いですう、離れてくださいい。もう、これ以上、誰も巻き込みたくないんですう。きゃあ」
「危ない!」

 不思議なほど奇妙なタイミングで足をもつれさせ階段から転落しかけたたダナを、アントニアは片手で軽々と支えてみせた。もちろん一緒に床に転がり落ちるような無様な真似はしない。ところが、ダナは目を大きく見開いて震えていた。

「嘘……」
「大丈夫ですか? あなたを守るために、筋肉を鍛えていたかいがありました」
「……呪いに打ち勝てるなんて、そんなことできるはずがない。ここで男子生徒に出会ったら、好感度上昇のためのイベントが必ず発生するって母さんが」
「その言葉遣いに、先ほどてのひらに当たった感触。ダナ嬢、まさかあなたは……」
「え、どこか触られていた? やっぱりラッキースケベ成功? でもこのひと、まともそうだし……」

 ぽろぽろと涙を流すダナをそっと抱きしめると、アントニアは自分の選択が正しかったことを知った。

(大丈夫、もうあなたをひとりで泣かせるようなことはしません)

「安心してください。未来は変えられます」
「でも、どうやって?」
「成功の秘訣は筋肉を鍛えることです」
「筋肉? えっと、自分は母から体型を損なうような運動は禁止されていて……」
「『ただ細いだけ』が女性らしさを意味するのではありません。健康的でしなやかに動き、人生を楽しめる美しさこそ、女性の魅力。お母さまの認識を一緒に変えてみませんか」
「でも、母はとても頑固で……」
「大丈夫です。あなたはひとりではありません。私がついています。あなたの相棒として」

 それ以来、アントニアはダナを守るようにそばに立ち続けている。

「今日も元気そうで何よりです。あなたの笑顔を見るたびに、私は生きていてよかったと心から思います」
「いいえ、こちらこそアントニアさまのおかげで、ひととしてまっとうな生活を送らせてもらっておりますのに」
「あなたの喜びは、私の喜び」
「いけません、アントニアさま。これから授業だというのに、離れがたくなってしまいます」
「いちゃつきたいなら、俺がいないところでやってくれるかな? あてつけなの? なんなの?」

 毎朝行われる感動の再会は、苦虫を噛み潰したような王太子に苦言を呈されるまで続く。

「まあ、殿下ったらまたアントニアさまとダナさまの仲に口出しして。本当にみっともない」
「ええ、まったくですわ。あのように無粋な方ですから、婚約者のひとりもおできになりませんのよ」
「ごく自然な形で、俺のことをこき下ろすのもやめてくれないかな!」

 アントニアとダナの隣で、イグネイシャスはさめざめと泣いた。
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