4 / 7
(4)
しおりを挟む
そんなある日のこと。トレイシーは再びサロンに呼び出された。珍しく考え込んだ様子のイーディスを前に、小さく首を傾げる。
「今回はどのようなご用件でしょうか。ここ最近、立て続けにイーディスさまのご友人の婚約者さまたちに接触しています。もし調査をするということであれば、少し間を空けたほうが成功率が上がると思うのですが……」
「そうね。ただ今回はあえてこのまま近づいてほしいの」
「理由をお伺いしても?」
「相手があなたのことを『おもしれー女』として認識しているからよ」
ちっとも嬉しくない状況だが、顔をしかめることはない。その手の評判は慣れっこなのだ。
「私の評判を理解した上で接触を図ってきているのであれば、変な小細工をする必要はなさそうですし、こちらも楽しませてもらうつもりです。ところで、調査するお相手は?」
「わたくしの婚約者よ」
「殿下、ですか?」
イーディスの婚約者である第一王子が王太子として見なされているのは、公爵家が後ろ盾になっているからだ。彼女が別の男性に乗り換えるというのであれば、政治バランスは大きく変化する。イーディスの父親である宰相は、政界の変化を望んでいるのだろうか。
「イーディスさま、まさか国を乗っ取るおつもりですか?」
「あなた、わたくしのことを一体なんだと思っているのかしら」
「策略謀略大好き、優しげな顔でえげつない作戦がお得意な頭脳派美女ですが」
「一応、褒めてくれているつもりなのね」
「美形は、男性も女性も目の保養です!」
「幸せそうで何よりだわ」
調査対象が王太子ということで、さすがのトレイシーも考えてしまった。趣味と実益を兼ねるとは言え、命あっての物種である。
「あら、殿下の顔は好みじゃない?」
「いくら極上でも、興味本意でちょっかいをかけるにはリスクが大きすぎます。そもそも王太子殿下は資質に問題ありというわけではないのですよね」
「完璧過ぎて怖いくらいよ。人形王子の名前は伊達じゃないわ。ねえお願い、わたくしは王太子の人間らしさが見たいの。悪いようにはしないから」
「……承知しました」
ここまでイーディスが食い下がるのであれば、引く気は無いのだろう。トレイシーは渋々イーディスの指示に従うことにする。
髪色と美形が好きという発言からおバカに見られがちだが、最低限の常識は持っているトレイシーは、何事も起きないように密かに神に祈りを捧げた。
「今回はどのようなご用件でしょうか。ここ最近、立て続けにイーディスさまのご友人の婚約者さまたちに接触しています。もし調査をするということであれば、少し間を空けたほうが成功率が上がると思うのですが……」
「そうね。ただ今回はあえてこのまま近づいてほしいの」
「理由をお伺いしても?」
「相手があなたのことを『おもしれー女』として認識しているからよ」
ちっとも嬉しくない状況だが、顔をしかめることはない。その手の評判は慣れっこなのだ。
「私の評判を理解した上で接触を図ってきているのであれば、変な小細工をする必要はなさそうですし、こちらも楽しませてもらうつもりです。ところで、調査するお相手は?」
「わたくしの婚約者よ」
「殿下、ですか?」
イーディスの婚約者である第一王子が王太子として見なされているのは、公爵家が後ろ盾になっているからだ。彼女が別の男性に乗り換えるというのであれば、政治バランスは大きく変化する。イーディスの父親である宰相は、政界の変化を望んでいるのだろうか。
「イーディスさま、まさか国を乗っ取るおつもりですか?」
「あなた、わたくしのことを一体なんだと思っているのかしら」
「策略謀略大好き、優しげな顔でえげつない作戦がお得意な頭脳派美女ですが」
「一応、褒めてくれているつもりなのね」
「美形は、男性も女性も目の保養です!」
「幸せそうで何よりだわ」
調査対象が王太子ということで、さすがのトレイシーも考えてしまった。趣味と実益を兼ねるとは言え、命あっての物種である。
「あら、殿下の顔は好みじゃない?」
「いくら極上でも、興味本意でちょっかいをかけるにはリスクが大きすぎます。そもそも王太子殿下は資質に問題ありというわけではないのですよね」
「完璧過ぎて怖いくらいよ。人形王子の名前は伊達じゃないわ。ねえお願い、わたくしは王太子の人間らしさが見たいの。悪いようにはしないから」
「……承知しました」
ここまでイーディスが食い下がるのであれば、引く気は無いのだろう。トレイシーは渋々イーディスの指示に従うことにする。
髪色と美形が好きという発言からおバカに見られがちだが、最低限の常識は持っているトレイシーは、何事も起きないように密かに神に祈りを捧げた。
24
あなたにおすすめの小説
化け物公爵と転生令嬢の事情 〜不遇からの逆転〜
長船凪
恋愛
人の心の声が聞こえる化け物公爵と、その公爵に嫁がされる貴族令嬢のお話。
家では貴族としての素養と言える魔法が使えないせいで不遇な少女ウィステリア。
家門の恥とされる上に支度金欲しさにあっさりとクズ家族により公爵家に売られる。
ウィステリアは異世界から事故死し、憑依転生した元女子高生。
普通の貴族女性とは違う感覚と知識を持っていた。
そんな彼女の心の声を聞いた化け物公爵は初めての感覚に戸惑い、いつしか愛する事になる。
本作はダブル主人公となっておりますのでわりと
視点が切り替わります。
カクヨム先行。なろうでも公開予定です。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで
有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。
辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。
公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。
元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される
夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。
さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。
目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。
優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。
一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。
しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。
閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。
黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、
妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。
ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。
だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。
新たに当主となった継子は言う。
外へ出れば君は利用され奪われる、と。
それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、
私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。
短いお話です。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる