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(6)椿-6

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 自宅に戻ると、玄関の前には何やら紙袋に入った荷物が置かれていた。田舎あるある、差出人のないお裾分けかもしれない。一体中身はなんだろうと思いながら開けてみると、そこに入っていたのは五島うどんだった。ご丁寧にスープまで入っている。

 五島うどんは、一般的なうどんよりもかなり細い。表面に椿油が塗ってあるためか、つるつるしていて、とてもコシがある。スープは乾燥させた飛び魚でとられていて、実は私の好物だったりする。

 お礼を持ってくるなんて、律儀なあやかしもいたものだ。椿を届けた数日後、ちょうど顔をあわせた宅配便のお兄さんにお伺いしたところ、あの後椿を受け取った叔父さんは、お医者さまも驚くほどの回復力を見せたのだという。

『まるで、椿から命を分けてもらったかのようだと言われたそうですよ。甥御さんも、叔父さんが自分より若くなった気さえするとおっしゃるくらいで』
『あははは、不思議ですよね。世の中にはそういうことも、あるのかもしれませんねえ?』

 ……それは気のせいじゃなく、そういうことなんだろうなあ。あのときの返事が棒読みになっていなかったかだけが心配である。

 なにはともあれ報酬をもらえるのはやっぱり嬉しい。簡単に食べられるものならなおさらだ。お届けものは届いて当たり前、失敗すれば理不尽にも祟られることもありうるお届けものやさんなんてものをやっていると、このお礼は涙が出るほど嬉しかった。

 寒さで冷え切った身体がほんのりと暖かくなったような気がする。よし、今夜は早速このおうどんをいただくことにしよう。おすそ分けでもらったままのねぎが役に立つときが来た!

 あやかしからもらったものを食べて大丈夫なのかなんて聞かないでほしい。当たり前のようにあやかしとやりとりをしていると、きちんとパッケージされた市販品なら小躍りして即、食べてしまうくらいの感覚になってしまうのだから。

 台所に行き、ステンレスの両手鍋でお湯を沸かそうとして少し考えた。今夜は特に冷える。それならばせっかくなので、「地獄炊き」で食べることにしよう。

 祖母の家は、昔から鍋が多い。こんなに鍋ばかりいらないだろうと思っていたが、まさか役に立つとは。

 取り出した鉄鍋にお湯を沸かす。その間に粉末のスープを溶かして、つゆを作る。ありがとう、飛び魚さん。どうしてあなたたちがこんなに美味しいのかわからないけれど、やっぱりうどんには、よね!

 ねぎを切り、しょうがをすりおろす。かつお節も用意して、それぞれ薬味用に小さな皿に移しておいた。味変用の生卵を別皿に準備して溶いてしまえば、夕飯はもう眼の前だ。

 茹で上がったうどんは、お湯を切らずに鉄鍋に入れたまま食卓へ運ぶ。

 これで、五島名物「地獄炊き」の完成だ。

 あつあつのうどんを火傷しないように気をつけながら箸ですくい、つゆをつけて一気に食べる。

「あふいっ、でも美味しい~」

 シンプルにあごだしのつゆだけでもいいけれど、薬味を入れたり、卵につけるのもまたたまらない。

 はしゃぐ声が静まり返った家の中に響く。どうしてだろう、この美味しさを宅配便のお兄さんにも伝えたくなる。今度お会いしたら、きちんと椿をお渡しできたことを伝えてお礼を言おうと思った。
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