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カルロはおかしな男だった。
明らかに高位貴族の令嬢である自分を見て面倒くさそうな態度をとりながら、結局のところ彼女のことを突き放しはしない。
アンジェラは当然とばかりにカルロに自分の世話を命じたが、家名を出せない時点で苦しい立場にあることは途中から気が付いていた。自分が公爵令嬢として扱われるのは、あくまで祖父や父がいるから。だから、家出をしてきた事実を告げた時点で、アンジェラは放り出されてもおかしくなかったのだ。
そうさせないために、アンジェラは無理矢理魔力で誓約を結んだのだけれど、それはかなり乱暴な行為だった。いくら誓約を結んだとはいえ、嫌われても憎まれても仕方のない行いだ。けれど、カルロはなんだかんだ言いながらアンジェラの面倒を見てくれていた。
今になって考えてみれば当たり前のことだけれど、アンジェラの常識は他の人の常識とはまったく異なっていた。アンジェラにとっての当たり前は他人にとっての非常識で、アンジェラは無意識のうちに相手が自分に合わせるべきだと思っていたことを、カルロはことごとく覆していった。
役立たずの幼い子どもの手伝いにも根気よく付き合ってくれた。本当は、カルロがひとりで作業をした方が早いはずなのに、わざわざ倍以上の時間をかけてアンジェラにやり方を教えてくれた。
ひとに命令することに慣れ切っていたアンジェラに、自分が動くことの大切さを教えてくれたのもカルロだ。自分がおつかいに出て初めて、誰かの意図を理解することの難しさを知った。思い込みで行動して、こっぴどく叱られたこともある。おかげで今までの自分の、周囲の人間の扱い方や叱り方を反省することができた。
(公爵令嬢ではない、ただの自分を見てほしいなんて思いながら、私は自分勝手に公爵家の威光を使おうとしていたのね)
もしかしたら自分は、自分が思っているほど素晴らしい人間ではないのかもしれない。公爵家では、生きているだけで褒め称えられた。自分の容姿に、貴族らしい動作、ダンスも得意だし、教養もある。けれど、それだけでは何の意味もないということを知ってしまった。淑女教育を完璧にこなすだけでは、人心把握することはできないと思い知らされた。
「ねえ、カルロ。私ってもしかして、何もできない?」
「まあ、そうだな。商会で働く見習いに比べれば、何もできないな」
「そんな」
「だが、子どもならそういうものではないのか。もともと商会の出であればいざ知らず、君は貴族のご令嬢なのだろう。ならば、君は君なりに頑張っている」
「カルロは、何もできない私を邪魔だと思わないの?」
「そもそも勝手に家に転がり来ておいて、何を今さら」
「だって、本気で私のお世話ができることは名誉なことだと思っていたのだもの」
思わず恥ずかしくなって、涙目になってカルロを睨みつければよしよしと頭を撫でられた。
「もう、子ども扱いしないでって言っているでしょう」
「怖い夢を見たから、一緒に寝てと頼んできたくせに」
「それはそうだけれど!」
「いくら姪っ子扱いしているとはいえ、さすがに一緒の寝台には寝られないからな。まったく、あんな斬新な態勢で寝たのは実家を出てから初めてだ」
失敗をしても怒らず、呆れず、近くで見守ってくれるカルロの存在は、アンジェラにとって新鮮だった。公爵令嬢として完璧を求められてきたアンジェラのことを、ただの子ども……正確には彼の姪っ子と同様の扱いをしてくれる。それがとても嬉しくて、けれど時々、なぜか姪っ子扱いされるのが悔しくて、不思議な気持ちになっていた。その気持ちの名前に気が付いた時には、別れの時だったのだけれど。
明らかに高位貴族の令嬢である自分を見て面倒くさそうな態度をとりながら、結局のところ彼女のことを突き放しはしない。
アンジェラは当然とばかりにカルロに自分の世話を命じたが、家名を出せない時点で苦しい立場にあることは途中から気が付いていた。自分が公爵令嬢として扱われるのは、あくまで祖父や父がいるから。だから、家出をしてきた事実を告げた時点で、アンジェラは放り出されてもおかしくなかったのだ。
そうさせないために、アンジェラは無理矢理魔力で誓約を結んだのだけれど、それはかなり乱暴な行為だった。いくら誓約を結んだとはいえ、嫌われても憎まれても仕方のない行いだ。けれど、カルロはなんだかんだ言いながらアンジェラの面倒を見てくれていた。
今になって考えてみれば当たり前のことだけれど、アンジェラの常識は他の人の常識とはまったく異なっていた。アンジェラにとっての当たり前は他人にとっての非常識で、アンジェラは無意識のうちに相手が自分に合わせるべきだと思っていたことを、カルロはことごとく覆していった。
役立たずの幼い子どもの手伝いにも根気よく付き合ってくれた。本当は、カルロがひとりで作業をした方が早いはずなのに、わざわざ倍以上の時間をかけてアンジェラにやり方を教えてくれた。
ひとに命令することに慣れ切っていたアンジェラに、自分が動くことの大切さを教えてくれたのもカルロだ。自分がおつかいに出て初めて、誰かの意図を理解することの難しさを知った。思い込みで行動して、こっぴどく叱られたこともある。おかげで今までの自分の、周囲の人間の扱い方や叱り方を反省することができた。
(公爵令嬢ではない、ただの自分を見てほしいなんて思いながら、私は自分勝手に公爵家の威光を使おうとしていたのね)
もしかしたら自分は、自分が思っているほど素晴らしい人間ではないのかもしれない。公爵家では、生きているだけで褒め称えられた。自分の容姿に、貴族らしい動作、ダンスも得意だし、教養もある。けれど、それだけでは何の意味もないということを知ってしまった。淑女教育を完璧にこなすだけでは、人心把握することはできないと思い知らされた。
「ねえ、カルロ。私ってもしかして、何もできない?」
「まあ、そうだな。商会で働く見習いに比べれば、何もできないな」
「そんな」
「だが、子どもならそういうものではないのか。もともと商会の出であればいざ知らず、君は貴族のご令嬢なのだろう。ならば、君は君なりに頑張っている」
「カルロは、何もできない私を邪魔だと思わないの?」
「そもそも勝手に家に転がり来ておいて、何を今さら」
「だって、本気で私のお世話ができることは名誉なことだと思っていたのだもの」
思わず恥ずかしくなって、涙目になってカルロを睨みつければよしよしと頭を撫でられた。
「もう、子ども扱いしないでって言っているでしょう」
「怖い夢を見たから、一緒に寝てと頼んできたくせに」
「それはそうだけれど!」
「いくら姪っ子扱いしているとはいえ、さすがに一緒の寝台には寝られないからな。まったく、あんな斬新な態勢で寝たのは実家を出てから初めてだ」
失敗をしても怒らず、呆れず、近くで見守ってくれるカルロの存在は、アンジェラにとって新鮮だった。公爵令嬢として完璧を求められてきたアンジェラのことを、ただの子ども……正確には彼の姪っ子と同様の扱いをしてくれる。それがとても嬉しくて、けれど時々、なぜか姪っ子扱いされるのが悔しくて、不思議な気持ちになっていた。その気持ちの名前に気が付いた時には、別れの時だったのだけれど。
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