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(20)夫の親友は今も私が好きらしい-3
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「でもかつてあなたの妻として不幸せな人生を送ってきたからこそ、この世界に転生し、大切な夫に出会うことができたことは事実です。その点についてだけはお礼を言いますわ。あなたのことは今の私から見ても不誠実だと思うし、きっと前世の私も許すことはないと思いますが、今の夫に出会うために必要な試練だったのだと思って忘れることにします。これで私たちの縁も終わりですわ」
「本当に反省しているんだ。もう決して、君を不幸にしないと誓う。だから、わたしではなくあんな男を選ぶなんて言わないでくれ」
「お話になりませんわね。天上におわす女神さまもきっとがっかりされていることでしょう。これ以上口を開けば、約束を違えたとして天罰が下るのではありませんこと? さあ、夫を返してくださいませ」
「いやだ、理沙、愛しているんだ」
「あなたの口からその言葉だけは聞きたくないわ!」
魔法は使える。この男に夫がいいようになぶられないようにするため、術式だって仕込んできている。それでも急にすがられそうになって、動揺した。痴話げんかで上級貴族を殺してはまずい。そう頭ではわかっているのに、加減ができずに術式を叩きこみそうになる。
「ベスに触るな」
「!」
「大丈夫、ベス。落ち着いて。君ならちゃんと術式を制御できるから」
焦る私と懇願するゴkbリー卿の間に立ちふさがったのは、屋敷に逃げ込んでずっと隠れていたはずの夫だった。
***
「もう、やめてくれ。この話は終わりにしよう。僕の勘違いで、話をこじらせてしまったことは謝る。けれどベスが嫌がっている以上、僕はベスと離婚することはない。君とベスの仲を応援することもできない」
体格の良いゴkbリー卿を前にして、私を庇う夫は足を震わせている。もともと、やせっぽちで体力のない夫だ。体格に恵まれていて、貴族のたしなみ以上の剣技をふるうことのできるらしいゴドフリー卿に立ち向かうのは、勇気のいることだろう。
何より夫は、親友であるゴkbリー卿のことを本当に好ましく思っていた。そんな大事な友人に、実は好きな女を手に入れるための踏み台にされていただけだと言われて傷つかないはずがない。それでも夫は、ゴkbリー卿に恨み言を言わずに自分の非を認めて頭を下げている。これでゴkbリー卿が引いてくれれば。けれど、彼は最後の悪あがきを続けるつもりのようだ。
「理沙、本当にこの男でいいのかい。金もなく、あなたに好意を伝えることすらできない。嫉妬に苦しみ、あげくに妻が心を寄せているかもしれない男の屋敷に逃げ込む臆病者だよ」
「真面目でいつも一生懸命で、それなのに不器用で生きるのが下手くそ。嫉妬に苦しむほど、私のことを愛しているのに、私が幸せになれるように自分の心を押し殺そうとしてしまう優しい旦那さまのことが愛おしいですわ。お金なら私が稼ぎますし、旦那さまは臆病者で結構ですわ。私が旦那さまを守りますもの。あなたはご存じないかもしれませんが、私、強いのですよ」
夫が焼くヤキモチに、くすぐったいような心地よさを覚えたと言ったら私はひどい人間だということになるのだろうか。まあ、別にひどい女だと言われてもかまいはしないけれど、ゴkbリー卿には私の夫を責める権利はないはずだ。転生する前の世界で小耳にはさんでいたが、かつてこの男が浮気を繰り返したのは、動揺する私を見たかったからという低俗極まりない理由だったはずなので。
それに夫が守ってくれたのは私だけれど、ある意味命を守られたのはゴkbリー卿のほうなのだと彼はまだ気が付かないのか。あのとき夫が壁になっていなければ、確実にゴkbリー卿は死んでいただろう。そうなれば、火竜さまに跡形もなく遺体を燃やしてもらって証拠を隠滅するしかなかったはずだ。
「理沙、あなたは変わってしまったね。ああ、あなたをそんな風に強く冷たい鉄の女に変えてしまったのはわたしか」
「私は理沙ではなくエリザベスですし、あなたに変えられてなんておりませんわ。私を情熱的で生命力にあふれる女にしてくれたのは、私の愛しい今世の旦那さま」
ゴkbリー卿が悔し気に唇を噛む。
「本当に愛していたんだ」
「その言葉に嘘はないのでしょう。でももう遅いのです。それは私にではなく、かつての私に伝えるべき言葉でしたわね、ゴキブリー卿」
「やはりわたしのことをゴキブリと呼んでいたのだな」
「だって私、あなたのこと嫌いですもの」
「ああ、あなたと言葉を交わすことができるのなら、罵られていても心地よいような気がしてきたよ。その軽蔑したような眼差しでさえも、愛おしい」
「……やはり禍根はここで完全に絶つべきだったのかしら」
「違う、これは言葉のあやで」
ゴkbリー卿は、勘違いダメンズから変態へとランクアップしたらしい。私は彼が死なない程度に重力魔法をかける。私たちがこの屋敷から出ていくまでの間は、おとなしくしておいていただこう。私のおでこにキスを落としながら、夫が告げる。この状態で見せつけているつもりはないらしい。天然鬼畜である。変態がNTRに目覚めていないとよいのだが。
「ゴドフリー。諦めてくれ。ベスが君のものにはなることはないよ。僕は、ベスの手を汚させるつもりはない。今後は僕との戦いになる。友人だった相手とはいえ、どんな汚い手を使ってでも僕は勝つよ」
「これ以上しつこくされるようなら、決闘で物理的に決着をつけるつもりでしたのに。そんなにあの男の命が惜しい?」
「僕はね、君が僕以外のことを考えるだけでヤキモチを焼いてしまうんだ。だから、ゴドフリーのことなんて見ないで、僕のことだけを考えていてほしい」
夫の真意は本当に私のことを独占したいからなのか。それとも親友だった男への最後の情けなのか。それでも私の関心を引こうと、ベッド以外では聞くことのできない甘い言葉を捧げられるのは意外と悪くないものだ。
あざと可愛く、かつ困ったような顔をする夫に免じて、夫の元親友にハンカチを叩きつけるのはやめておくことにした。
「本当に反省しているんだ。もう決して、君を不幸にしないと誓う。だから、わたしではなくあんな男を選ぶなんて言わないでくれ」
「お話になりませんわね。天上におわす女神さまもきっとがっかりされていることでしょう。これ以上口を開けば、約束を違えたとして天罰が下るのではありませんこと? さあ、夫を返してくださいませ」
「いやだ、理沙、愛しているんだ」
「あなたの口からその言葉だけは聞きたくないわ!」
魔法は使える。この男に夫がいいようになぶられないようにするため、術式だって仕込んできている。それでも急にすがられそうになって、動揺した。痴話げんかで上級貴族を殺してはまずい。そう頭ではわかっているのに、加減ができずに術式を叩きこみそうになる。
「ベスに触るな」
「!」
「大丈夫、ベス。落ち着いて。君ならちゃんと術式を制御できるから」
焦る私と懇願するゴkbリー卿の間に立ちふさがったのは、屋敷に逃げ込んでずっと隠れていたはずの夫だった。
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「もう、やめてくれ。この話は終わりにしよう。僕の勘違いで、話をこじらせてしまったことは謝る。けれどベスが嫌がっている以上、僕はベスと離婚することはない。君とベスの仲を応援することもできない」
体格の良いゴkbリー卿を前にして、私を庇う夫は足を震わせている。もともと、やせっぽちで体力のない夫だ。体格に恵まれていて、貴族のたしなみ以上の剣技をふるうことのできるらしいゴドフリー卿に立ち向かうのは、勇気のいることだろう。
何より夫は、親友であるゴkbリー卿のことを本当に好ましく思っていた。そんな大事な友人に、実は好きな女を手に入れるための踏み台にされていただけだと言われて傷つかないはずがない。それでも夫は、ゴkbリー卿に恨み言を言わずに自分の非を認めて頭を下げている。これでゴkbリー卿が引いてくれれば。けれど、彼は最後の悪あがきを続けるつもりのようだ。
「理沙、本当にこの男でいいのかい。金もなく、あなたに好意を伝えることすらできない。嫉妬に苦しみ、あげくに妻が心を寄せているかもしれない男の屋敷に逃げ込む臆病者だよ」
「真面目でいつも一生懸命で、それなのに不器用で生きるのが下手くそ。嫉妬に苦しむほど、私のことを愛しているのに、私が幸せになれるように自分の心を押し殺そうとしてしまう優しい旦那さまのことが愛おしいですわ。お金なら私が稼ぎますし、旦那さまは臆病者で結構ですわ。私が旦那さまを守りますもの。あなたはご存じないかもしれませんが、私、強いのですよ」
夫が焼くヤキモチに、くすぐったいような心地よさを覚えたと言ったら私はひどい人間だということになるのだろうか。まあ、別にひどい女だと言われてもかまいはしないけれど、ゴkbリー卿には私の夫を責める権利はないはずだ。転生する前の世界で小耳にはさんでいたが、かつてこの男が浮気を繰り返したのは、動揺する私を見たかったからという低俗極まりない理由だったはずなので。
それに夫が守ってくれたのは私だけれど、ある意味命を守られたのはゴkbリー卿のほうなのだと彼はまだ気が付かないのか。あのとき夫が壁になっていなければ、確実にゴkbリー卿は死んでいただろう。そうなれば、火竜さまに跡形もなく遺体を燃やしてもらって証拠を隠滅するしかなかったはずだ。
「理沙、あなたは変わってしまったね。ああ、あなたをそんな風に強く冷たい鉄の女に変えてしまったのはわたしか」
「私は理沙ではなくエリザベスですし、あなたに変えられてなんておりませんわ。私を情熱的で生命力にあふれる女にしてくれたのは、私の愛しい今世の旦那さま」
ゴkbリー卿が悔し気に唇を噛む。
「本当に愛していたんだ」
「その言葉に嘘はないのでしょう。でももう遅いのです。それは私にではなく、かつての私に伝えるべき言葉でしたわね、ゴキブリー卿」
「やはりわたしのことをゴキブリと呼んでいたのだな」
「だって私、あなたのこと嫌いですもの」
「ああ、あなたと言葉を交わすことができるのなら、罵られていても心地よいような気がしてきたよ。その軽蔑したような眼差しでさえも、愛おしい」
「……やはり禍根はここで完全に絶つべきだったのかしら」
「違う、これは言葉のあやで」
ゴkbリー卿は、勘違いダメンズから変態へとランクアップしたらしい。私は彼が死なない程度に重力魔法をかける。私たちがこの屋敷から出ていくまでの間は、おとなしくしておいていただこう。私のおでこにキスを落としながら、夫が告げる。この状態で見せつけているつもりはないらしい。天然鬼畜である。変態がNTRに目覚めていないとよいのだが。
「ゴドフリー。諦めてくれ。ベスが君のものにはなることはないよ。僕は、ベスの手を汚させるつもりはない。今後は僕との戦いになる。友人だった相手とはいえ、どんな汚い手を使ってでも僕は勝つよ」
「これ以上しつこくされるようなら、決闘で物理的に決着をつけるつもりでしたのに。そんなにあの男の命が惜しい?」
「僕はね、君が僕以外のことを考えるだけでヤキモチを焼いてしまうんだ。だから、ゴドフリーのことなんて見ないで、僕のことだけを考えていてほしい」
夫の真意は本当に私のことを独占したいからなのか。それとも親友だった男への最後の情けなのか。それでも私の関心を引こうと、ベッド以外では聞くことのできない甘い言葉を捧げられるのは意外と悪くないものだ。
あざと可愛く、かつ困ったような顔をする夫に免じて、夫の元親友にハンカチを叩きつけるのはやめておくことにした。
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