リポグラム短編集~『あい』を失った女~

石河 翠

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あなたに愛の『こくはく』を

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 やりなおしの機会きかいあたえられてから、一体いったいどれだけの時間じかんぎたのでしょうか。また今日きょう仕損しそんじて息絶いきたえたわたしに、天使てんしさまがちいさなためいきをもらしました。

「どうしたらいいのだろう。ただ、きみてんのぼってほしいだけなのに」
一瞬いっしゅんですから、んでもいたみなどありませんのよ。おになさらずとも大丈夫だいじょうぶですから」

 そのまま嗚咽おえつらす天使てんしさま。ぽろぽろとなみだをあふれさせる天使てんしさまときたら、本当ほんとうにお綺麗きれいなのです。けれど、なみだとともに生気せいきちているようにえるのがにかかります。ぎんかみもなんだかすっかりむらさきまってしまったよう。

 あら、天使てんしさまに不敬ふけいでしたわ。きよらかでだれたいしても平等びょうどう方々かたがたが、わたしひとりに肩入かたいれするわけありませんもの。ああ、わたし間抜まぬけでおろかだから、天使てんしさまのおのぞみをかなえられないのでしょうか。

天使てんしさま、どうぞおなげきにならないで。次回じかいかならず、希望通きぼうどおりの結末けつまつむかえてみせますわ。だれもがしあわせになる素敵すてき未来みらいです。だから元気げんきして」
「わたしがわるかったんだ。もうやりなおしなんてやめよう」

 天使てんしさまったら、冗談じょうだんでしょう? やりなおさないと、魔王まおうまれてしまうのでしょう? やりなおしをあきらめてしまったら、その時点じてん天使てんしさまとおわかれなのでしょう? そんなのさびしすぎますもの。

たのむ、どうかゆるしてほしい」
ゆるせとわれても、最初さいしょから感謝かんしゃしかありませんのに」

 けっしてとしをとらない天使てんしさまだというのに、なぜだか年老としおいてみえます。どうにもおつかれみたい。だから、いまめました。今日きょうですべてをわりにしましょう。

「かわいそうな天使てんしさま。わたしが、大切たいせつなかたをかなしませるとでも?」
「どうしてもあいしているかれわすれられないと?」
「おかしな天使てんしさま。わたしきなひとなんてまっていますのに」

 となりにいられるだけでしあわせだとおもっていたのに。どうしてかしら。無性むしょうにあなたをきずつけたいの。

 いっそわたし一緒いっしょに、世界せかいからえていただけないかしら。そんなかなわぬのぞみをいだき、ほほえて天使てんしさまをせます。

「おいしたときからずっとおしたいしておりました」
「……なにをって」
わたしきなひとを勘違かんちがいされたままなんていやなのです。天使てんしさま……いいえ、司祭しさいさま。さあおのぞみどおり、おしまいでしてよ」

 返事へんじたずに、天使てんしさまがびていたけんげました。

 あらいやだ、わたしうのもなんですが、天使てんしさまったらぼんやりしすぎですわ。

つんだ! ローラ!」

 とびきりの笑顔えがおのまま、けんみずからのむねつらぬきました。

 ああ、なんて素敵すてきなおかおをしていらっしゃるの。それだけでわたし一等いっとうしあわせですわ。

 禁忌きんきとされる自死じしえらんだせいでしょうか。突然とつぜん世界せかい暗転あんてんし、雷鳴らいめいがとどろきました。まるで天使てんしさまがわたしなげいているみたい。まさか、だってあなたがわりをのぞんだのに。

 ああ、かなうならそのんでみたかった。いとしいひと、さようなら。
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