3 / 47
1.お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?
(3)
しおりを挟む
「まったく、宰相は頭が固くて困る。彼には俺のような若くて柔軟な思考ができないのだ」
「さようでございますか」
「宰相の奴め、南国との交流を何が何でも阻止したいようだ。あちらとの交易路が開ければ、これまで以上に豊かになることは明らかだろうに」
「殿下、こちらの書類に誤りがありましたので訂正いたしました。ご確認をお願いいたします」
「お前は本当につまらない女だな。俺は同じ王ならば、剣王として有名な曾祖父のようになりたいが。はあ、今後書類のやりとりは文官に任せておく。お前がその身体で無聊を慰めてくれるというのであれば、こちらに来るのもやぶさかではない」
書類をレイラの前に放り投げると、王太子は部屋を出ていく。おおかた、憂さ晴らしにメリッサの元に出かけたのだろう。王太子の脳みそが下半身に移ってしまったらしいことを密かに嘆いた。
「それでね、あたしは乙女ゲーム世界のヒロインとして転生したってわけ」
「……はあ、なるほど」
「本当はね、あんたは悪役令嬢として処刑されるのよ。でも、それって可哀想じゃない。だから、あたしの代わりに仕事をする条件で、この離宮に置いてあげているってわけ。西国との間で魔獣が発生したりだとか、東国近くの川が氾濫して飢饉が発生したりもするけれど、王都は問題ないし」
「こちらの書類にサインをお願いします。お時間があるのであれば、全項目に目を通していただきたいところですが」
「なんであたしがそこまでしなくちゃいけないのよ。それはあんたの仕事でしょ。でもまあ、名前を書くのは大事よね。それは日本でもそうだったし」
行儀悪く足をばたつかせながら、メリッサは不満を爆発させた。愛玩動物だって不機嫌にもなる。けれど主人には見せられないから、レイラに聞いてほしいのだそうだ。
「レイラ、聞いてちょうだい。あの子ったら、わたくしに向かって癒しの力しか能がない役立たずの母親なんて言ったのよ。その上、自分の父親に向かって、さっさと譲位してほしいだなんて。どうしてあんな風に育ってしまったのかしら」
「さあ、私には何とも」
「あなたは、いつもそうやって粛々と仕事をこなすのね。あなたはあの娘のことが嫌ではないの? わたくしには耐えられないわ。わたくし以外の女が妻になるなんて。後継ぎはひとりしか生まれなかったけれど、わたくしは幸せだったと思っているのよ」
「王妃殿下、宰相閣下からお預かりしている書類です」
「頼り切っているわたくしが言うのも申し訳ないけれど、なんだかとても寂しい生き方ね。本当に惨めだわ」
レイラの部屋には、常に誰かがやってくる。彼女に仕事を押し付けるために。あるいは彼女に愚痴を言うために。離宮にひとりで隔離されている彼女は、不満を持つ高貴な人々にとってあまりにも都合が良すぎる存在だった。
「さようでございますか」
「宰相の奴め、南国との交流を何が何でも阻止したいようだ。あちらとの交易路が開ければ、これまで以上に豊かになることは明らかだろうに」
「殿下、こちらの書類に誤りがありましたので訂正いたしました。ご確認をお願いいたします」
「お前は本当につまらない女だな。俺は同じ王ならば、剣王として有名な曾祖父のようになりたいが。はあ、今後書類のやりとりは文官に任せておく。お前がその身体で無聊を慰めてくれるというのであれば、こちらに来るのもやぶさかではない」
書類をレイラの前に放り投げると、王太子は部屋を出ていく。おおかた、憂さ晴らしにメリッサの元に出かけたのだろう。王太子の脳みそが下半身に移ってしまったらしいことを密かに嘆いた。
「それでね、あたしは乙女ゲーム世界のヒロインとして転生したってわけ」
「……はあ、なるほど」
「本当はね、あんたは悪役令嬢として処刑されるのよ。でも、それって可哀想じゃない。だから、あたしの代わりに仕事をする条件で、この離宮に置いてあげているってわけ。西国との間で魔獣が発生したりだとか、東国近くの川が氾濫して飢饉が発生したりもするけれど、王都は問題ないし」
「こちらの書類にサインをお願いします。お時間があるのであれば、全項目に目を通していただきたいところですが」
「なんであたしがそこまでしなくちゃいけないのよ。それはあんたの仕事でしょ。でもまあ、名前を書くのは大事よね。それは日本でもそうだったし」
行儀悪く足をばたつかせながら、メリッサは不満を爆発させた。愛玩動物だって不機嫌にもなる。けれど主人には見せられないから、レイラに聞いてほしいのだそうだ。
「レイラ、聞いてちょうだい。あの子ったら、わたくしに向かって癒しの力しか能がない役立たずの母親なんて言ったのよ。その上、自分の父親に向かって、さっさと譲位してほしいだなんて。どうしてあんな風に育ってしまったのかしら」
「さあ、私には何とも」
「あなたは、いつもそうやって粛々と仕事をこなすのね。あなたはあの娘のことが嫌ではないの? わたくしには耐えられないわ。わたくし以外の女が妻になるなんて。後継ぎはひとりしか生まれなかったけれど、わたくしは幸せだったと思っているのよ」
「王妃殿下、宰相閣下からお預かりしている書類です」
「頼り切っているわたくしが言うのも申し訳ないけれど、なんだかとても寂しい生き方ね。本当に惨めだわ」
レイラの部屋には、常に誰かがやってくる。彼女に仕事を押し付けるために。あるいは彼女に愚痴を言うために。離宮にひとりで隔離されている彼女は、不満を持つ高貴な人々にとってあまりにも都合が良すぎる存在だった。
162
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の小夜曲
緑谷めい
恋愛
私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
次期王妃な悪女はひたむかない
三屋城衣智子
恋愛
公爵家の娘であるウルム=シュテールは、幼い時に見初められ王太子の婚約者となる。
王妃による厳しすぎる妃教育、育もうとした王太子との関係性は最初こそ良かったものの、月日と共に狂いだす。
色々なことが積み重なってもなお、彼女はなんとかしようと努力を続けていた。
しかし、学校入学と共に王太子に忍び寄る女の子の影が。
約束だけは違えまいと思いながら過ごす中、学校の図書室である男子生徒と出会い、仲良くなる。
束の間の安息。
けれど、数多の悪意に襲われついにウルムは心が折れてしまい――。
想いはねじれながらすれ違い、交錯する。
異世界四角恋愛ストーリー。
なろうにも投稿しています。
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる