地味女は、変わりたい~告白するために必死で自分磨きをしましたが、相手はありのままの自分をすでに受け入れてくれていました~

石河 翠

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 私が恋をしたひとは、とても素敵なひとだ。誰かの悪口を言うこともないし、いつも黙々と仕事をこなす。愛想はないけれど、信頼感は抜群にある。それに何より。

「他の男性と違ってどんな女性にも一律塩対応なので、逆に安心できちゃうんです」
「信頼できるといえるのか、それは」
「美人かどうかで、残業の有無や給料の査定、利用者からのクレームの度合いが変わってくることを目の当たりにしてくると、大事ですね」
「目が怖い」

 見目麗しい店長さんは知らないかもしれないが、顔の良し悪しで仕事の評価が変わる。それが女の日常なのだ。

「どんな女性にも一律塩対応なら、別に美人にならなくてもいいのでは?」
「でも私、この間、見ちゃったんです。彼が、職場の女性に告白されるのを」
「一応モテるということか」
「『あんたみたいに根暗でぱっとしない男に付き合ってあげるって言ってるんだから、感謝しなさいよね。あたしの行動に口出ししないって約束できるなら、結婚してあげてもいいけど? あんた、給料だけは良いし』って」
「はああああ?」

 店長さんがすっとんきょうな声を上げる。イケメンを前にした女性の振る舞いと、そうではない男性の前での振る舞いには天と地ほどの差があるのだ。やはり、女の世界は怖い。

「ちなみに告白していた女性は美人ではありますが、うちで一番職歴の長い、大きいお姉さまでした」
「物は言いようだな……」

 それ以上、言ってはいけない。女性は死ぬまでお姉さんなのだ。

「ですから、私は思ったのです。今のままの私が告白しても、きっと彼にはまた同じような、痛い底辺女が湧いたとしか思ってもらえないにちがいないと」
「なぜそうなる」
「私の話を聞いてもらうためにも、私は私自身の商品価値を上げなくてはならないのです」
「いや、だから……」
「結局どんなに言葉を尽くしたところで、ブスはブスじゃないですか。私、はっきり言われたことありますよ。『首から下はまあ我慢できるとして、顔がダメ』って」
「おい、それは!」
「いいんです。事実ですから。でも、事実だからこそ、好きなひとに嫌な気持ちをさせたくないんです。せめて、人並みの見た目で告白したい。嫌悪感を持たれたくないんです」

 きっぱりと言い切れば、店長さんは眉をしかめた。しまった、依頼の方法を間違えたかな?

「……はあ、わかった。この依頼、引き受けよう」
「やった、ありがとうございます!」
「ただし、依頼を達成するための手段はこちらが選ぶ。口答えは無しだ」
「喜んで!」
「なんだか無性に腹が立つな」

 そこから、美人になるための修行もといレッスンが始まった。

「この服の中なら、何を選ぶ?」
「これかな?」
「理由は?」
「こういう色が最近流行ってるって聞いたので」
「流行っているのは間違いないが、それが似合うかどうかはまた別の話だ」
「つまり、似合わない?」
「膨張色で強調されたむちむちの二の腕を、そこらへんで振り回したければ好きにすればいい」
「はい、やめます!」

 なるほど、先日買ったサーモンピンクの洋服を着ると、職場で誰とも目が合わない理由がよくわかった。

「髪型はなぜこれに?」
「朝起きて、最短でできる髪型がこれだからです」
「髪を短くしないのは、貴族女性に根強い淑女のたしなみのようなこだわりがあったわけではないのか……」
「髪を短くすると寝癖ではねちゃいますからね。出勤ギリギリまで寝ていたいので、手間がかからない髪型がいいんです」
「美人になることを目指すなら、手間がかかる髪型に変わるが」
「告白するまでの短期間なら頑張れます!」
「継続しろ」
「無理ですっ」

 世の中のおしゃれなひとは、朝から必ず髪を洗っているのだろうか? 首をかしげつつ、髪をくしけずる。

「姿勢が悪い」
「これでも真面目に立ってるんです」
「腹を引っ込めろ。あごを引け。肩を引いて、胸を張る。こら、尻をつきだすな」
「これは、本当に人間に可能なポーズですか?」
「お前の姿勢は、気が抜け過ぎなんだ」
「ダメです、死んでしまいます」

 私は人間としての歩き方を理解しないまま生きてきたらしい。神さま、せめてそれくらいは生まれる前に個々の脳内に叩き込んでおいてください。

「日頃の食事の中身を書き出せ」
「はい」
「なんだ、これは!」
「いや、自分ひとりだと思うと、食事を作るのも億劫で。外食した方が安上がりですし、つい」
「外食が悪いとは言っていない。バランスが悪いんだ」
「……ごめんなさい。本当は料理、得意じゃないんです……」
「だったら、なおのことバランスよく食べるコツを覚えるんだ」

 そう言いながら、今日も店長さんは私に食事を振る舞ってくれる。イケメンで美的センスがあり、料理も得意。やはり私とは違う種族の生き物に違いない。

「あれ、特に運動をやらなくても痩せていますよ?」
「いかに姿勢が悪かったかがうかがえるな」
「試着してみる服が何でも似合いすぎて、怖いです」
「散財に気をつけろ」
「何だか本当に綺麗になったような?」
「お前は、美容サロンをなんだと思っている?」
「返す言葉もありません」

 今日も毒舌が冴え渡る店長さん。それなのに、職場のあのひとの隣みたいに居心地がいいのはなぜだろう。
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