地味女は、変わりたい~告白するために必死で自分磨きをしましたが、相手はありのままの自分をすでに受け入れてくれていました~

石河 翠

文字の大きさ
4 / 4

(4)

しおりを挟む
 そして、いよいよ訪れた決戦の日。私は、上から下までぴっちりきめて、職場に来ていた。

 終業の鐘が鳴ると同時に、彼のもとへ走り込む。お昼休みのうちに、退勤後に時間を取ってほしい旨は伝えていたから、彼がいぶかしむこともなかった。また、職場の飲み会の幹事を一緒にしてくれと頼み込まれるとでも思っているのかもしれない。

 夕焼けが綺麗に見える窓辺で、私は彼に頭を下げた。私がこの職場を逃げ出さずに済んだのは、彼がいてくれたお陰だったから。

「あなたのことがずっと好きでした! ごめんなさい、迷惑になることはわかっていたので言うつもりはなかったのですが、田舎に帰ることになって。だから、どうぞ伝えさせてください。一緒に働いてくれて、本当にありがとうございました。これからもどうぞお元気で!」
「……えっ、ちょっと!」

 告白というか、退職の挨拶になってしまったが致し方ない。これが、今の自分でできる精一杯の告白だ。脳内で言い訳をすると、回れ右をして、そのまま私は逃げ出した。

 慌てたような声が後ろから聞こえるけれど、返事を聞くなんて無理だ。緊張で心臓がつぶれてしまう。

「おい、待てっ」
「ひえっ」

 このまま店長さんのいるサロンに行こうと思ったら、相手が猛ダッシュで追いかけてきた。何だこれ。めちゃくちゃ怖い。

「ぎゃー、すみません! 私なんかが気軽に声をかけたりして! どうか許してください」
「許すとか許さないとかの問題じゃない」
「ひいいい、ごめんなざい、だずげでっ」
「だから、ひとの話を聞けといつも言ってるだろうが!」
  
 涙目で走り続けるが、彼のスピードは落ちない。むしろ、ふたりの距離は縮まっているような……。どうやら彼は、店長さんと同じくらい足が長いようなのだ。ちくしょう、コンパスの違いにどうやって挑めと!

 でも、私にもまだ勝機はある。お店まであと少し。中に入ったら、そのまま鍵を閉めてしまえばいい。

「よっしゃ、勝ったぞ!」
「勝ったって、何がだ!」
「わーん、負けたー。店長さん、ごめんなさいー」
「なんだ、お前、ようやっと気づいたか?」
「へ?」
「だから、今、店長さんって呼んだだろう」
「はあ、ここは店長さんのお店なので」
「バカだバカだとは思っていたが、まだ気がつかないのか」

 その言葉とともに、彼が髪をかきあげる。長い前髪の下からのぞいたのは、見慣れた麗しいかんばせ。きらきらと流れる汗が美しい。私の顔は、たぶん化粧崩れでひどいことになっていると思うけれど。

「店長さん? 私、まさか告白する相手を間違えましたか? え、練習?」
「ちげえよ。平日の昼間は、お前と同じ職場で働いてるの。夜と土日は、サロン経営」
「なんだか、昼職と夜職の掛け持ちみたいですね」
「言い方を考えろ」
「い、いはひ、いはひれふ」

 頬を思いきりひっぱられ、慌てて謝る。どういうことだ、これ。まさか、もしかして。

「じゃあ、私が好きになったのは……」
「そう、俺だ」

 ドヤ顔で決めポーズをしている店長さん。ちょっと、説明してください。

「ど、どうしてサロンを経営しているのに、あんな普通の仕事もしているんですか?こっちの方が儲かりますよね?」
「俺は、この顔に近寄ってくる女が苦手でな」
「でも、美容サロンをやっているんだから、見た目の大事さはご存知ですよね?」
「だからこそだ。お綺麗なつらの下で、腹黒いことを考えている連中なんて見飽きたさ」
「だから、顔を隠して働いていた?」
「ああいう格好で働いていても、見下さずに接してくれる人間は貴重だからね」
「じゃあ、なんで私をお客として受け入れてくれたんですか?」
「お前のことを好きだったからだよ」
「へ」
「どんくさくて、要領が悪くて、そのくせ一生懸命で。どんなに馬鹿にされてもにこにこしていて」
「それは馬鹿にされていることに、すぐに気がつかないだけです。家に帰って、腹を立てることもあります」
「でも、仕事に来る前にまたその腹が立ったことを忘れるだろ?」
「そうですね。だから、また家に帰ってひとりで怒ってます」
「そんな、バカなお前が好きだよ」
「またバカって言いましたね!」
「何度でも言うさ。ポジティブかと思いきや結構ネガティブで、そのくせ頑張り屋。そんなお前だから、俺は好きになったんだ」

 もしかしたら私は、私自身にずっと怒っていたのかもしれない。何が起きても、『こんな自分だから、適当に扱われても仕方がない』と思っていた自分に。

 素敵な告白をされたその時、私のお腹がぐうと鳴った。

「このタイミングで!」
「だが、それがお前らしい」
「仕方がないじゃないですか。緊張しすぎて、朝も昼も食べられなかったんです」
「じゃあ、これから食事とするか」
「失恋パーティーじゃないですよね?」
「当然だろ、お前のご両親へ挨拶に行かないといけないんだ。その辺りの調整も一緒にするからな」
「胃が痛くなってきました」
「気合で乗り越えろ」
「無理です~」
「お前ならできるよ」

 好きなひとにふさわしい自分になりたいと努力していたら、相手がその頑張りを見てくれていた。その幸せを噛み締めながら、私は大好きなひとの腕に抱きついてみた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?

石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。 本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。 ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。 本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。 大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします

水都 ミナト
恋愛
 伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。  事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。  かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。  そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。  クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが… ★全7話★ ※なろう様、カクヨム様でも公開中です。

潜入捜査中の少女騎士は、悩める相棒の恋心に気がつかない。~男のふりをしているのに、メイド服を着て捜査とかどうしたらいいんですか。~

石河 翠
恋愛
平民の孤児でありながら、騎士団に所属するフィンリー。そのフィンリーには、大きな秘密があった。実は女であることを隠して、男として働いているのだ。 騎士団には女性も所属している。そのため性別変更は簡単にできるのだが、彼女にはどうしてもそれができない理由があった。友人であり、片思いの相手であり、何より大切な相棒でもあるローガンと離れたくなかったのだ。 女性にモテるローガンだが、誰かひとりに肩入れすることはない。自分が女であるとわかれば、彼は自分を相棒としてふさわしくないと認識するだろう。 そう考えたフィンリーは相棒として隣に立つことを望んでいたのだが、ある日厄介な任務を受けることになる。それは、男として暮らしているフィンリーが、メイドとして潜入捜査を行うというものだった。 正体と恋心がバレないように必死に男らしく振る舞おうとするフィンリーだったが、捜査相手にさらわれてしまい……。 男として振る舞うちょっと鈍感なヒロインと、彼女を大切に思うあまり煙草が手放せなくなってしまったヒーローのお話。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、相内充希さまに作成していただきました。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜ ※AI不使用です。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...