異世界転生で伝説の冒険者になるも弱点は”妹”なんです

龍巳 照人

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現世編 序章 終わりの始まり

1話 兄妹愛?

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 とある学園の、なんの変哲もない日常・・・

 少し裕福な家庭で育った双子の兄妹。物心ついたころから仲睦まじい兄妹愛を育んできた。少なくとも妹はそう認識しているらしい。

 俺の名は草薙蓮。妹のおかげで彼女すら作れない、悲しい17年を過ごしきた可哀そうな青年だ。だからだろうか? 非日常的なものに憧れてしまったのは。

 内には秘めているが俺は異世界に憧れている。妹に振り回されて少し心がすさんでいた頃、異世界アニメに感動しハマってしまった。
 今では異世界もののアニメ・漫画・小説は何よりも好物になっている。いつか行ってみたい。非現実的で絶対に叶うことはないが心が成長した今でも諦めることはできなかった。

 キーンコーンカーンコーン…

「お兄様!」
 授業終了のチャイムが鳴るやらすぐさま凛が俺のもとに向かい声をかけてきた。双子の妹・凛。普段はとても優しく佇まいも優雅で奇麗な黒髪ストレートロングな髪型。美しく可愛さもある顔立ち。
 文武両道で容姿端麗、常に兄を立てる事を忘れない本当にできた自慢の妹である。だが、あくまでも普通であるならば、だ。

 聞きなれた声に嫌な予感がし俺は恐る恐る返事をした。 

「ど、どうした?凛」
 もしかしたら少し顔がこわばっていたかもしれない。だが、凛はそんな表情を浮かべているかもしれないのに、気にせず嬉しそうに微笑みながら話しかけてきた。

「お兄様。次は体育の時間です」
「そうだね」
 俺は焦りを見せないよう普通に相槌を返す。

「ですので、一緒にお着替えに参りましょう!」
「・・・はい?」
 俺は突拍子もない妹の発言で思考が停止した。そしてそれを聞いていたクラスメイトはこちらに注目し、更衣室に向かおうとしていた女子たちは足を止め俺たちに注目する。

 唖然とした俺は数秒間放心状態に陥ったのだが、すぐ我に返り言葉を発した。

「い・・・いや凛さん、突然何を言い出すんだい?」
 我に返っても動揺は続いており、まともな返答ができなかった。

「ですから、体操着に着替えに行くのです。私とお兄様とで」
少々、興奮気味にさえずる妹。

 突然血迷ったことを言い出した妹に対して、普段はクールな装いをしている俺もさすがに狼狽えてしまう。だが、周囲の目もあるので冷静に話そうと心掛けた。

「どうして一緒に着替えるんだ?俺はこの教室で、凛は女子更衣室で着替えるのが普通だろう」

 周囲もウンウンと頷いている一方、凛に好意を持つ隠れファンの男子どもが怒りと嫉妬でとち狂いかけていた。

「おのれ蓮め!いくら兄妹でも我らが麗しき凛様と一緒にお着替えするなど、断じて許さんぞー」
「身の程わきまえろ!」
「俺と替われ!」
『最後に言った奴は、あとで校舎裏だな』
 少しダークになった俺。

 そして、蓮に密かに好意を持つ女子も小声で照れながらつぶやいていた。

「それなら、私も蓮君と一緒に着替えたいな」
「ちょっと、麻美! 急に何言い出すの!」
「そうよ! もし、凛に聞かれたら殺されるわよ!」
 そう、蓮にちょっかい出す命知らずな女子がいようものなら、なりふり構わず標的を消しにかかる兄大好きな妹であるのは、もはや誰もが周知している。だから、麻美のような密かに想いを寄せる女子は少なからずいる。

 そうこうしているうちに、どんどん騒がしくなり収拾がつかなくなってきた。しかし、そんなブーイングやら黄色い悲鳴が聞こえているにもかかわらず、凛は耳も傾ける事もなくさらに追い打ちをかけてくる。

「何を言っているのです、お兄様。それは他人同士での事。私たち仲睦まじい兄妹には関係のない話です」
 暴走モードに突入するカウントダウンのかけ声が聞こえたような気がした。

「私とお兄様が、そのような他人同士がするような事をできるとお思いですか!」
 興奮気味にさえずる妹。
「お、おい凛。落ち着け」
 なだめようとするが、手遅れ感がハンパない。

「ええ、できないですとも!」
 対処法が思いつかない。

「ハァ・・ハァ・・・ええ、できないですともぉ!!」
 爆発した。

 〖〖 暴走モード突入 〗〗

 目は光り(瞳孔はハートマーク)、何やら背後にただならぬオーラを纏う妹。

「やっぱりかー!」
 これは、まじでヤバいと認識した俺は、椅子から立ち上がり必死に止めにいこうと暴走する妹に向けて手を掲げた。

『ガシッ!』
 しかし、手をつかまれたのは妹ではなく俺だった。暴走モードに突入した妹は恐ろしいほど身体能力が向上し常人では歯が立たないほどである。

「さぁ、行きますよ!」
 引きずられながら必死に抵抗するも圧倒的な力の差で振りほどけない情けない俺。

「おい! 離せ凛!」
「ラン♪ ラン♪ ラーン♪・・・ぐふふふ」
 うかれて聞かぬ妹。

 妹よ…よだれが垂れているぞ。いったい何を妄想しているんだ

 本気でどうにかしなければ自分の貞操が危ういと思った俺は、最終手段を試みることにした。恥ずかしいが背に腹は代えられぬ。

「愛する妹よ。とても大事な話がある。返答次第では今後の俺たちの関係が大きく左右するほどの話だ」
 言ったはいいが、やっぱり恥ずかしくて顔が真っ赤に染めあがってしまう。

 そう言い放った瞬間、浮かれ歩く凛の歩みがピタりと止まる。

「何ですか?お兄様…はっ!も、もしかして、愛の告白!?」
 ベタだなおい。

『ドキドキ…キャーどうしよう胸の鼓動がおさまらない。なに? なんなの? 何を言おうとしているのお兄様。しかもお兄様、真剣でお顔が赤く汗ばんでいる。これはもう幸せな予感しかない!』
 もはや、幸せ絶頂期な感覚にとらわれていた凛は違う意味で失神寸前だった。そして、喧騒していたクラスメイトもいつのまにか無言になり蓮の言葉を待っていた。

 何やら妹様はいたく勘違いをされているようだが、ここは兄らしくビシッと言ってやろう。

「凛・・・今、この手を離さないと、金輪際お前と添い寝をしないし、ご飯も作ってやらないぞ!」
 そんな愛を駄々洩れにしている妹に対して冷静にかつ冷酷に容赦ない言葉を放つ妹想い?の俺だった。

「・・・・・・・・」
 どこか禍々しいオーラが弱まり、言葉に言い表せないほどの表情で硬直していた。

「お…お…お、にぃ、さ、ま?」
 まるで生まれたての、言語能力を覚えたてのようなロボットになっていた。

「な..何を、言って…いるの、です?ほ…本気、ですか?お、おぉ、お兄様」
 声はうわずき握られていた手は異様なほどに汗ばみ、顔も血の気がなくなり青ざめガタガタと震えている。

「俺がお前に対してこれまで嘘を言ったことがあるか?」
「あ、ありま、せんけど…でも、どうして、急に、そのような、ことを…おっしゃるの、ですか?」
 
そのとき、俺の腕を捕まえていた凛の手が離れた。この時を待っていた俺は凛の問答に答えることなく、素早く右手を天に掲げる。

「チェストォォォ!!」
 教室中に響き渡る大きい声で叫ぶ。

 凛の脳天に、躊躇なく全力で手刀を振り下ろした。

「へぶぉヴぁァァ」
 静まり返る中、女の子が声に出してはいけない音声が教室中に響き渡った。そして、あまりの衝撃で気を失い鼻と口から聖水を垂れ流し、力なく崩れていく凛だった。

 俺は倒れて怪我をしないよう、崩れいく凛をそっと優しく抱き上げつぶやいた。

「すまない凛。このまま押し問答しても、お前はいつものように自分のご都合主義で解釈していくのが分かっていたから、動揺させ力技で対処した」

 凛を介抱している中、クラスメイト達は何一つ言葉も出ず唖然としていた。だがそこに、一人の女子が近づいてきた。凛の友達の【葛西 祥子】だった。

「あの・・・蓮君、凛ちゃん大丈夫なの?」
「葛西さん・・・あぁ、大丈夫だよ。いつものことだから」

 俺は葛西さんに向けて満面な笑顔で答えた。すると教室の奥の方でバタッバタッっと何かが倒れる音がした。が、気にしないでおこう。

「そう、それなら良いんだけど」
 困惑しながらも、凛の様子を心配そうに伺っていた。

「葛西さん、悪いのだけど凛を頼めるかな。5分ほどで目が覚めるだろうから、そのまま更衣室に連れて行ってくれると助かる」
「うん、わかった。ごめん、美紗も手伝って」
「はいはい、いつもながらほんとおバカな子だねぇ」

 呆れがちに手伝いに来たこの【小森 美紗】も凛の仲の良い友達である。席が凛の前後だったことで仲が良くなったという。

 聖水を垂れ流しながら、友達二人に介抱され更衣室に連れていかれる凛。

「やれやれ」
 いい加減兄離れしてくれないかと思い悩んでいたが、そう思うのはもう何回目だろうか。数えるのも面倒になっていた俺は、心のどこかで諦めていた。
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