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第4章 終幕戦編

第78話 助太刀は生徒が

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【キラナside】

 キュールという人の遺物を使用して、一瞬で学園の寮にまで来てしまった。この学園には自身も在学していたことがある。筆記試験等の成績は学年でも最上位に位置していたが、めっきり戦闘は苦手だった。そうは言っても、平均以上は戦える。だが、やはりこの国に混在している化け物の様な力を持つ者達には敵わない。

「キラナ様、戦闘位置はここからどの方向へどれくらいでしょうか?それさえ分かるのならば私一人で行って参りますが………」
「す、すみません………如何せん学園を経由してくるとは思っていなかったから具体的には言えないです。ですが、道を見ながらであれば分かると思います」
「そうですか………」

 クライトさんが思案している。何だか申し訳なくなってしまう。

 自身の方が年齢も地位も上ではあるのだが、何せこちらは頼んでいる立場。あの屋敷を出る前にこのキュールという人から聞いたが、どうやらメアもクライトさんに頼んで何かして貰っていたらしい。
 王国辺境の魔人軍勢の滅却だったか、普通は我々王国直属の騎士団が処理すべき案件なのだが………それが叶わず、一貴族に負担を集中させてしまうという明らかなるこちら側の不手際も重なって更にお願いするのが申し訳ないのだ。

「………もし御無礼でなければなのですが、私がキラナ様を背負いながら移動するというのはどうでしょうか?」
「………ええっと、背負って?」
「はい。言葉の通り、私がキラナ様を背負って戦地まで足を運びます。戦地が見えてきた時点で、キラナ様を降ろし私一人で戦地に赴きます」
「だ、だけれども………疲れてしまわないですか?」
「それはご心配なく。私、体力には自信ありますから」
「それなら………頼みます」

 俗に言うおんぶというものをしてもらう。人生で一度もこんなことはされたことが無いし、ましてや自身よりも年齢も身長も低い人にされるなんて思ってもいなかった。羞恥心が湧き出て来るが、今はそんなことを気にしている暇はない。

「それじゃあ、行きます!あ、キュールは先に帰ってても大丈夫だよ!!!」
「は、はい!」

 クライトさんはキュールという人に何か手合図を伝えて、別れを告げる。

 窓を開け放って、クライトさんが自身を背負いながら………飛び出る。

「えっ」
「しょっと」

 何事も無いように着地する。いやいや、今の五階だったけれど………?

「それじゃあ、案内してください!少し高い所から行くので!!!」
「は、はい。うわっ!?」

 高い所から飛び降りたかと思えば、今度は屋根の上に瞬時に飛び乗る。上下差が激し過ぎて正直ちょっと酔ってしまいそうだ。だけれど、自身がこんなことでへばっていたら示しが付かない。

「ええっと、左です!左斜め前方向にずっと進んでいただければ大丈夫です!!!」
「そうですか?あ、それじゃあ場所教えて貰ったのでここで降りられますか?」
「えっと………今の現状を知りたいので、近くまで連れて行ってもらえませんか?」
「勿論です。少し速いですけれど………申し訳ないです!」

 次の瞬間、自身が数秒前に言った事を深く後悔した。



 何分か経ち、戦場の様子が鮮明に見えるようになってきた。それは良いのだが………移動が速すぎて正直もう酔っている。空気抵抗が凄くて、呼吸すらままならない。背負ってもらっている自身でさえこうなのだから、自身を背負いながら前でもろに抵抗を食らっているクライトさんの負担はとてつもないものだろう。でも、何食わぬ顔で息も乱れていない。本当に何者なんだ………

「よしっ!ここで良いですよね?」
「あ、あぁ………ありがとうございます………」

 戦場がもう肉眼で広い範囲をしっかりと認識できる位置に来てから、クライトさんは自身を降ろす。何もしていないのに、へとへとになってしまっている自身が情けないような気もするが、これで息一つ乱れていないクライトさんなら………という希望も湧いてくる。

「それじゃあ………行ってきます」
「この国を、お願いしますッ!!!!!」

 クライトさんに土下座をする。色んな思いが籠っている。今日初めて土下座をしたけれど不思議と嫌な気持ちはしなかった。単に余裕が無かっただけかもしれないが。

「任せてください!!!」

 クライトさんは頼もしい笑顔で自身の願いを聞き入れて颯爽と戦場に入っていった。後ろ姿が、誰よりも頼もしく思える。

 自身がクライトさんに頼む前に依頼したSランク冒険者の人達は今頃どうなっているだろうか?戦えているだろうか?トップクラスの実力を持つ個の集団だから、よっぽどの事が無い限りは負けないはずだが………

 この戦争は無事に幕を下ろすのだろうか。どんな過程でも良い。自身が恥をかいたって、大切な人が死んだって、現実を割り切るしかない。結果が………全てだ。

☆★☆★☆

【ニーナside】

「ふぅぅッ!!!」
「ぐっ………フンッ!!!」
「チッ………膠着状態だな………」 

 ヒット&アウェイの戦法を取っているが、決定打が無い。攻撃しても肌か筋肉か分からないが体表面がかなり固く剣で傷をつけるのも一苦労な上に、着けたとしてもすぐに回復されてしまう。
 その上に、属性効果をも使ってきている。今の所使われたのは〈嫉妬〉と〈傲慢〉だ。私は敵による属性効果発動下での戦闘は慣れているため、さほど支障は無かったが………かなり効果が強めに来た気がする。〈嫉妬〉は目が歪むほどの眩暈がしたし、〈傲慢〉は体に重圧がのしかかったような気分になった。

「強いな、お前は」
「………化け物も褒めることがあるんだな」
「なんだと思っているんだ。勿論あるに決まっておろうが」

 互いに決め手に欠けている。魔人側も属性効果を耐えられると思っていなかったのか、私に対して最初に比べて慎重な立ち周りをするようになった。だがそれは私から見ても同じで、いつもなら攻撃の指導からコンボ的に技がつながる型があるはずだったのだが………いかんせん謎の返り血を操る技を積極的にしかけて来る為、迂闊に次の技に繋ぐことが出来ない。

「誰か………勝つためには、やはり誰かが居る」

 近くで倒れているストライクはもう駄目だ。かなり深い傷痕が目立つ。こんな傷を負ったら、私でも立つことすらまともに出来るか怪しい。筋繊維が切れていたら体が思うように動かないなんて誰だって分かる原理だろう。

 こんな状態になってからでは遅い。チームとして連携を取る必要はないけれど、この魔人に勝つためにはもっと戦力が必要だ。私が冒険者の任務でワイバーンを倒した時よりも遥かにしんどい。

「こちら敵の大将らしき魔人と戦闘中!誰か、戦える人は居ないか!!!援軍を求める!!!」

 胸元に着いた超小型の通信機で恐らく休憩中であろう同じ教師達に援助を求める。返答は求めない、そんな余裕を持っていることは出来ない。

 誰か、早急に来てくれ………!!!!!

「あ、ニーナ先生?」
「来てくれたのかっ?随分早い………」

 魔人との距離に注意しつつ、声の下方向に振り向く。そこには、同じ仲間である教師の一人………ではなく、非常に見知った私の生徒が居た。

「………っ!!!クライト、どうしてここに………!!!」

 どう考えてもおかしい。まず第一にここは魔人軍の中でもかなり奥の方で、普通なら楽に突破できるところじゃない。第二にそもそも何故Sランク冒険者でもない生徒が居るのか。これは遊びではない、

「なんでって………呼ばれましたから」
「っ!クライト、ふざけてないで今すぐ逃げろ!!!そこに倒れているのが誰か分かるか!?幾ら学園戦技祭でストライクに勝ったとはいえ、ここは生徒が立ち入って勝てるような場所じゃない!!!」
「おい、今………クライト、と言ったか?」
「………なんだ?」

 今まで交戦中だった魔人が急に興味を示してくる。クライトという言葉に反応したようだけれど………一体何故?

「御前がそのクライトだな?ほぉう?………強いな、そこの倒れている冒険者よりも」
「………」

 魔人がクライトの隅から隅までを睥睨する。クライトもクライトで、魔人の色々な箇所を見つめ分析しているみたい………何?どういう事だ?

「御前、我が何度か送った一小隊を一人で全滅させたんだとな。実に素晴らしい。勿論、我の計画にとっては目の上の腫物状態ではあったが。この憎きヨーダン王国を取り囲む上で、制圧できなかったのはお前の統治する『レンメル領』だけだ」
「………統治、レンメル領………クライト、もしかして領主になっていたのか?」
「あぁ、はい。一応領主になりました」

 領主になって忙しい傍ら、魔人の小隊を一人で全滅させたと………なるほどな。

 それが本当の事ならば、我々教師陣に匹敵する強さをクライトは持っている。

「まぁ、全滅させたって言ってもクレジアントの助けもありながらですけれどね」
「………クレジアント、その名も聞く。御前等………厄介な連中だ。」
「それはどの口が言ってるんだか」
「刺客も送り込んだというのに、奴等五人も難なく倒して見せるか」

 二人が何のことを言っているのか、さっぱり分からない。だけれど、兎に角クライトが魔人相手にも同目を張れるという事は恐らく紛れもない事実であるのだろう。

「難なく、では無かったけれどね。僕自身では一人しか倒してないし」
「フンッ、詰まらない御託は結構!!!結局ここに生きて存在しているという事は彼奴等を倒したという事!!!ならば、我と戦え。二人まとめてかかってこい!!!」
「………ニーナ先生。一緒に戦いましょう」
「………いけるのか?」

 クライトの顔を見る。その表情は自信に満ち溢れていた。

「………分かった。クライトが毎朝欠かさずに鍛錬してきたのは見てきたし、学園戦技祭でも優勝していたな。今までの集大成………先生に見せてくれ」
「はい!!!」

 掛け声も合図も無しに同時に地を踏み抜く。



 小さく頼れる仲間が合流して、戦闘再開だ。


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