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第4章 終幕戦編

第92話 フィナーレには全てを添えて

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「おいおい?逃げてばかりではどのみち意味が無いぞ」
「くっ………!!!ふぅっ!!!」
「無駄だ。クライト、今の御前では我を倒すことは出来ない。御前は負けたんだよ」
「負けてなんて………」

 負けては無い。でも、絶対に僕たちの力では今のギュルリアを倒すことはできない。体の硬さ、魔力の多さ、体のエネルギー消費効率、体格、身体能力。ほぼ全ての事に置いて負けている。勿論、人数でも僕達人間側が明らかに少ない。

「勝てるとでも?」
「………」

 そんなの、分からない。ストライク先輩とナヴァール先生も、ギュルリアの急所ばかりを狙い僕が死なない様にサポートをしてくれている程で、ダメージは与えられていない。それはギルバードも同じだ。ギュルリアがかなり警戒しているようで、しつこく上空に高火力の魔法を撃って翼竜を散開させている。

「クライト………御前の事は我が世界征服した後にでも文献に遺してやろう。『人間にも一人の優秀な戦士が居た』とな。それを打ち倒し、我が世界征服を達成したと」
「………黙って!」
「おっと、逆鱗に触れてしまったようだな?怒り狂った勇敢な戦士は果たしてどんな行動をとってくれるんだ?」

 こいつ、煽って来る。本来こんな軽口を叩けるタイプだったのか………

 気にしたら負けだ。それは精神的な面だけではない。身体的にも意識が戦闘に集中できなかったら、対応が出来ずに押し切られて終了だ。

「なぁ………もう、抗うなよ」
「………くっ」
「それでもまだ抗うというのなら………」

 何か来る!!!

 僕の足元に魔素障壁を張り、小爆発を起こして緊急離脱する。まだ、切り札はある。それを使える隙がギュルリアに出来るまで………何としてでも耐えないといけない。今ギュルリアの攻撃が当たっていたら………



「何を安心している?」
「っ!!!〈寛容〉1式!!!ぐっ………!!!」
「フン、悪運の強い奴だ。が」
「がぁっ!!!うぅぅ………」
「もう、御前は勝てるまいよ。〈寛容〉1式の効果が切れた瞬間から………御前の自然治癒では間に合わない程の深い傷が幾箇所も刻み込まれる」

 ………くそっ

 ギュルリアの言う通りだ。〈寛容〉1式の効果が切れてしまったら、じわじわと持続的にダメージを受け続けてしまう。今………致命傷となり得る傷を本来七箇所程負ったはずだった。〈寛容〉1式を発動させることが出来たのは幸いだったけれど………依然状況は変わらないどころか、悪化してしまった。

「………う、ぅぅぅ!!!」
「効果が切れたようだな。潮時だ」

 あ、これはまずい。

 思ったよりも、一個一個の傷が深い。慢性的にかなりの痛みが永遠に襲ってくる。だから、活発な動きが全く持って出来ない。目の前にはギュルリア、これは………

「楽しかったさ。今までの人生で一番だ。去らば………クライト」

 ストライク先輩とナヴァール先生が飛び出して、魔法と衝撃波をギュルリアの目や粘膜に当てに行く。しかしそんなものは焼け石に水と言わんばかりに、今日かされて並の攻撃では聞かなくなったギュルリアはまったく気にしていない様子だ。
 多分、僕が近くにいて最大出力が出せないのだろう。出力を強めたら、僕の頸が吹き飛ぶ。無論、今の状況でも吹き飛びそうなわけだけれど。

「………ここまで、か」

 妙に俯瞰した視点になる。死ぬと分かっている時ってこんなにも冷静でいられるものなのか。でももしかしたら、僕が痛みで脳が覚醒しているだけかもしれない。

 あぁ、皆に迷惑かけるな………

 眩い光が目前に広がる。ここは………夢?そうかもしれない。戦場に、光等差し込むはずが無いのだから。

 ガキィィィィィイイイン!!!!!

「うわぁぁああ!!!!!ま、マリスタン!!!」
「これでも堪えてる方だってばっ!!!」
多層土壁ミルフィーユウォールもどんどん削られていってる!」
「く、クライト!怪我、大丈夫ですか?か、回復します!」|

 ………違う、夢じゃない。

「うぅぅ………」
「クライト、一旦安静にしていてください」

 急速に傷が癒えていく感覚が分かる。それと同時に、痛みをごまかすために朦朧となっていた意識が現実へ手繰り寄せられる。鮮明になった視界に、スタグリアンとマリスタンがギュルリアの猛攻をどうにかこうにか流して防いでいるのが飛び込んでくる。

「っ!二人とも………!!!」
「駄目です!クライト、あの二人を信じてください。まだ、傷が癒え切っていません………それにしてもどれだけ深い傷を負ったんですか?最高速度で治療していても、一向に傷が閉じません」
「ごめんなさい………」

 そうキュールが軽く悪態をつくものの、あれだけ深く負ったはずの傷痕の端の方がどんどんと収縮してきている。あまりにも早い、キュールにはいつも助けれられてばかりだ。

「あっ!」
「スタグリアン!!!」
「っ………!!!」

 悲鳴にも近い声がした。

 スタグリアンとギュルリアの動きがスローモーションのように見える。

「スタグリアン!横受け身で離脱し………」
「させぬよ」

 此方の行動などお見通しとでも言うように、僕の口にした離脱経路は即座に魔法が放たれて進路の妨害がされる。
 スタグリアンは逃げることができない。僕が剣を投げても間に合うか?いや、間に合わない………!

「クライトからと思っていたが、別にお前でも………良い!!!」

 ギャルリアが手に握りしめる剣が振り下ろされる。

「─────!!!」

 コツン

「なっ!!!」

 ギャルリアの振り下ろした切先はスタグリアンを切り裂くことはなく、代わりとでも言うように地面に亀裂を残した。



 クレジアントだった。



「ほらやっぱり、ボクは隠れてたほうがいいって言ったでしょ?」
「助かった!クレジアント!」
「チッ………鬱陶しい!!!」

 クレジアントは死角に隠れていたそうで、連戦していたギュルリアは気づかなかったらしい。ギュルリアとクレジアントの筋肉量の差は明白だけど、剣の腹を正確に叩いて軌道を逸らしたみたいだ。

「〈節制〉2式、〈救恤〉2式、〈勤勉〉2式!!!」

 クレジアントが広範囲型の美徳属性効果を発動してくれる。

「クライト、もう大丈夫です!」
「ありがとうキュール!」
「〈純潔〉2式!」

 〈純潔〉2式。美徳属性唯一の常時発動型〈純潔〉1式の広範囲付与であり、一定時間持続。その効果が切れた後は再使用までに持続時間の5倍の時間待機しなければならない。効果は初めて受ける攻撃方法は無効化出来る。しかし、自身が攻撃と認識出来るものでなければ無効化することは無い。

 今度はユーリアが発動してくれたようだ。なら………

「〈寛容〉2式!」

 残りの美徳属性効果を発動させる。他の属性効果が使えなくなってしまう〈謙譲〉2式は使うことができないけれど、疲労している事除けば僕たちは今までで一番強い状態だ。

 あぁ、でも一つ忘れてた。

「〈慈悲〉1式」

 これが今のギュルリアにどこまで有効かは分からないけれど、やって置いて損は無いだろう。

「ほう?成程………それならば」

 ギュルリアの方も、大罪属性を全ては発動させて来る。全てに対処しきるのは無謀な事だけれど、取捨選択をしながらあある程度の属性効果をあしらう。僕の〈寛容〉の効果がギュルリアの〈強欲〉に剝がされてしまうものの、スタグリアンが代わりに発動してくれたようだ。

「お前達は我に勝てないさ!!!」
「皆、多分………最後だよ!!!」
「「「「「「「勝とう!!!!!」」」」」」」

 戦闘は、未だ終わらない。



 けれど。



 戦闘の終わりは見えてきた。それが僕たちが勝つ未来なのか、はたまた負けてしまう未来なのかは、まだ分からない。

 分かる必要は、無い。今に結末は出るのだから。
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