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弾丸
しおりを挟む「お… っけぃっ…と、足もやってくれる?」
「畏まりました」
「使者殿は」
「その使者殿ってやめてくんないかな」
「もッ! 申し訳… 有りません…ッ」
どこかでダークエルフェンが弓を放ち、ゴブリンを仕留める。
「言い方がきついです。ナオヤさん」
「あ、うん、ごめんだけど…」
背中を掻き毟るナオヤ。
「いえ、此方こそ、申しわけありません… ナオヤ… 殿?」
「うん、ヴィータ、ふともも」
「失禁している」
「だから言うなよ… 血圧どう? モニターこっちに」
「安定してきた、いいぞ」
・・・ピュンッ・・・
どこかで弓の飛ぶ音が聞こえる。
「これで手足固めちゃうか取り敢えず、イーノイさん青い缶です!」
「ほいー!」
言うが早いかヴィータの背中から青い色をした缶を取り出し、ナオヤの手元へ放る。
アンリの手足をくるんでいる毛布にその缶のふたを開けの中身の液体を掛けると、じわじわと侵食し、その内万遍無く締め付ける様に収縮し始め、簡易のギプスとなった。
ヴィータの胸に空いたモニターの心電図と脈の強さを見ながらナオヤは笑顔になり、女の耳元へ口を寄せ何事か囁いている。
・・・ギイィィイイエェェ!!・・・
かなり近い所でゴブリンの鳴声がが木霊する。
「ちっきしょ。ヴィータそのまま頼むわ」
ナオヤは手にはめた薄いゴム手袋を強引に剥ぎ取り、胸のストラップに挟めてあったグローブを取り、嵌め、太腿のレッグプラットフォームからハンドガンを抜き出した。
スライドを勢いよく人差し指と親指で引いて薄いガラス板の様な光学照準器を銃を乱暴に振って遠心力で立ち上げる。
同時に暗闇の中赤いレーザーポインターが直線の奇跡を伸ばす。
ナオヤは肘を曲げ腕を直角に掌を上げると、それを大きく、まっすぐに2回振り降ろす。
「この方向だけを狙えッ! 集まってきているぞッ!!」
・・・シュン… ピュンシュン… ・・・
言うが早いかすべて急所に突き刺さる鏃が連続で飛ぶ。
よく見ると、うぞうぞと地を這うようにゴブリンとオークが集まって来ている。
・・・バスッバスン!… ぴゅン バスッバスッ! シュン! バスッゥ! ピュンピュンッ… バキゥッ!!・・・
ナオヤの癖でもあるウィーバースタンスに構えたハンドガンの発砲音と、黒エルフェン達の矢が空を切る音が混ざり合い響く。
するとスライドが引けたまま戻らなくなる。
そのハンドガンの照準器を乱暴に畳み、スライドを2度3度と引っ張り戻すと、そのままホルスターに投げ込む様に収める。
・・・ピュンピュンッ… ひゅるルル… ・・・
トストスと鏃がゴブリンに突き刺さる音が、子気味良く木霊する洞窟内。
両脇からは、後ろから見ると背が高く存在感のあるエルフェンの背中が大振りの曲盾を構え、槍を水平に持ち隊を成して進んでゴブリン達を突き立てては中央へと誘導してゆく。
ナオヤは背中に追いやる様に括っていたスリングベルトを引き、脇の下からアサルトライフルを抜き出すように構え、頬付けに顔を乗せ、ゴーグルを下ろしてみる先の光学照準器には、くっきりとゴブリンの影が映し出される様に投影される。
エイムの中心は小さなドット、その下には残段数が23と表示されている、親指でレバーを弾く様に連射に切り替え、短く一度引き金を引く。
・・・ガァンッ!!・・・
何人かのダークエルフェンの首が反応して引っ込む。
・・・ガガァン!ガァン!!ァン… ガガガァンッ!!… グァンガァン!!ゥウン… ・・・
短く指切りをしてヘキサゴンに光り噴射するマズルフラッシュの度、強装弾から発生する音は空間を反響し、耳を劈く轟音になる。
薄っすら光りつつ軌跡を残し跳ぶ弾丸は、確実にゴブリン、またはオークの頭部や胸部に吸い込まれ、ある者は部位ごと身体が消し飛び、ある者は錐揉みする様に身体を飛び散らせ倒れる。
耳の効くエルフェンには堪らないようで、何人かは目を見開いてお互いの耳が壊れていないか確認しあっている。
ナオヤは、立膝の姿勢のまま右へ左へと激しく銃口を向けその筒先を光らせ真ん中へ追い立てる様に弾丸を撃ち出す。
槍を投げて仕留めようとした獲物を、強装弾に横取られたダークエルフェンが振り返って抗議したそうにしていたが、それにも構わず弾丸はゴブリンを次々と倒してゆく。
そして真ん中に集まったゴブリン達をダークエルフェン達の弓が集中して倒す連携が、自然と構成されつつあった。
銃口を上げると同時にトリガーから指を放し、その指で操作レバーを押すとマガジンが落ちる。
すとんと掌に収まったそれを腰のダンプポーチに無造作に突っ込み、胸のプレートキャリアから小指で新しいマガジンを引き抜くとクルリと器用に回し確かめる様に視線を落とす。
マガジンに嵌っている弾頭は赤くペイントされており、マガジンにも赤いテープが巻かれているのを見たナオヤがうんざりした様に呟いた。
「フラグって…」
そのままガチャリとレシーバーに嵌め込み、セレクターを単発に変え、銃身をカバーするソフトスキンのエジェクションポートについている空薬莢の入ったバッグを毟り取り、覗き込む様に見と、バッグの中身の空薬莢もダンプポーチに突っ込み、全部入れる。
ポーチから熱を持った空薬莢が発する硝煙が上がるが紐を引っ張り口を閉め、空気を抜く様に何度か上から叩く。
スライドを引くとエジェクションポートを覆う様にバッグを装着し、ゆっくりとストックに頬を乗せて息を吐くと一度、引き金を引いた。
・・・ガァンッ!! ボフンッ・・・
「おおぉ…」
ダークエルフェンから響きが沸く。
・・・ガァンッ!ボン… ガァンッ!ボフスッガァン!!ボボフ・・・
通常弾、または強装弾より少し遅めの曳光弾がゴブリンに当たると、小さな閃光を伴って身体の半分程を弾き飛ばしていく。
・・・もおぉぉぉおおおぉおぉおぉぉぉぉ・・・
「うわ、出たよッ 巨大な的ッ!!」
一つ目巨人だ。
すぐに巨人の身体目掛けフラグメンデーションの弾丸が列を成す様に殺到すると、体表の筋肉で数度閃光し影を作り、炸裂して肉の花を咲かせ、そこから血の蜜をだらだらと流し垂らしている。
10発程をサイクロプスの膝、跪いたら頭と肩へ。
肉を抉り、骨を突き出す様にしてシルエットを醜く崩し、頽れる一つ目巨人。
残弾で周りのゴブリンの集団に弾丸を撃ち込むと、スライドがカチンと固定された。
下に捨てる様に銃を放るとスリングベルトで背中へシュルリと巻き込まれ、バックパック右脇部分に銃口を下に収まる。
反対側の腰には、これまた銃口を下に掛けられているエアバーストグレネードランチャM25が固定されたプラ制のバックルが、これに手を掛け外し、銃身を引き寄せる。
グリップを握りトリガーの少し上にあるセレクターレバーでスイッチを入れると、流線型になだらかに縁取られたレーザーレンジファインダーの中がぼんやりと光り、モニター画面の様にサーモ表示とドット、それに各目標物までの距離情報までついて表示された。
逆手にした左手でスライドを引き、ストックを抱きしめる様に肩を縮め、引き付けるように狙いを定めて引き金を引く。
・・・ビュシュンッ パァーン…・・・
弾速は決して早くないが、空中で炸裂した25ミリの弾頭は全方位に極小さな針をばら撒く、はじけ飛んだそれはゴブリンの肌に無数の血穴を穿ちそこから赤黒い液体をじわりと流す。
外れた弾球は岩肌に当たり、火花を散らし派手に弾け飛ぶ。
1発で4~5匹のゴブリンと、オークが倒れる。
・・・ビュシュン! パー! ビンュシュパーン! ン! ビュシュン!!… パーンッ!!・・・
1秒間に3発発射された弾丸は目標物と最適な距離を計測して炸裂する。
3つ程マガジンを替えたところで岩肌はゴブリンの肉片でギトギトと光っていた。
「キリがないぞこれ…」
「集まりました?」
「うわおっ!!」
いつの間にか後ろに現れ、ナオヤの肩に顎を乗せたイーノイに、声を裏返し驚いてしまったナオヤ。
肩越しに感じる彼女の胸の感触、以前に抱き絞められた時、顔面に感じた幸せの象徴は柔らかく温かく懐かしく、そして奥ゆかしい、そんな何時までも埋もれて居たい良い香りの感覚が甦り、前を向いて固まったままだ。
「びっくりしますか?」
斜め後ろの突起した岩の上に立ち、ナオヤの肩の上で顔を傾げ横目に顔を見ながら、小さなお尻を突き出すような恰好で耳元で囁くイーノイ。
「しますわッ!」
むふ~んと満足した様に目を瞑り、含む様に笑みを湛えたイーノイが、やあっと出番が回って来たかと後ろ手に伸びをすると尻尾がピーンと天を指す。
「ん~~…ん」
一頻り伸びると、イーノイは2度3度深呼吸をし精神を整える。
先程は片手からだった魔磁力の線が、今度は両手から、フワリフワリと2重3重に立ち昇る。
線でもあり幕の様でもある魔力線が、空間を掌握する様に一周する、それには緑色の光の粒子が残光として残り、それが過ぎた後に気圧と温度が下がると、水分の雲が何処からともなく宙空に沸き起こる。
すると、何故か岩場をヌメヌメと照らしていた湿気が急速に無くなり、岩肌が乾いてゆく。
そしてその雲がシュルシュルと渦を巻いた時にナオヤはゴーグルを上げた。
イーノイは小さな突端の岩場に直立で立ち、肩を怒らせ両手を伸ばした格好で、その魔力線を繊細な指先の動きで操っている。
ナオヤは真横で形成される竜巻に象られた真空のチューブ、その太さを見て、それに沿って起こりうる稲妻に備え、目を伏せる様に下を向くと、イーノイと自分のプレートキャリアに微細な放電現象を見て更に顔を顰めてしまう。
「にゃいッ…」
・・・ボヴっヴシュ!!・・・
「うおぉぉぉっ!」
大きな響が黒エルフェン達から巻き起こる。
一面を黒焦げにするイーノイの眩い雷撃。
形を数度変えて一瞬で全面を舐める様に伸びた電撃の腕が、粗一帯のゴブリン達を消し炭に変えていた。
辺りは蒸発したゴブリンやオークの血飛沫が蒸気になり、むせ返るような煙や靄が立ち込めているが、酸素ボンベをイーノイに占領され、喉元から持ち上げたスカーフをバラクラバの上から押し充てて凌ぐナオヤがいた。
後ろではイーノイが酸素発生機から加給される酸素を咥える様に吸い込んでいた。
「フゥ…シュコー ふう…シュコー フゥ…シュパー うフゥ…スパー」
「やっべぇこれ… 凄いわマジで」
口元を抑えナオヤがくぐもった声で言った。
「なんという複雑な法則と術… そして威力… テスカ族の神髄を見たり…」
フィオレが目を丸くして慄いている。
「そしてあの筒…」
「ヴィータ」
「こっちは安定している、運び出そう」
応援ありがとうございます!
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