神の使いと呼ばれた男【僕は元地球人だった気がしないでもない】

ろっこつ

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黄金 1

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 冒険者ギルドの受付に座るハウンダーの男。
 狼が服を着て、そのまま二足歩行を始めたような種族の彼の名を、グモイと言う。
 いつも気さくな受付としての彼の評判は、冒険者の中でも良く、顔見知りの連中以外からも慕われていた。
 だが、今の彼は少々困った顔をしている。
 理由は目の前に立つ女への対応だ。
 この女には、初登録の時にも手を焼いた記憶があり、彼はその時の事を良く覚えていた。
 上半身を覆うような、使い込まれ少しくたびれ所々解れた黒くフードの付いたケープを羽織り、その中に着ている服装も黒を基調とし、所々帯の様なもので動きやすく絞られた、一言でいえば黒装束だ。
 髪は黒、後頭部で一つに束ね背中へ垂らし、口元を隠すようにグレーのスカーフを首に巻いている。
 切れ長で無表情、どことなく眠たそうにも見える目、オセニアラ東方系特有のエキゾチックなその顔立ちは、その冷たく表情の読み取れない視線さえなければ、端正で整った顔立ちでもある。

「えーっと…。オーダーを受けに来たって事かな? なら前回と同じくそこの張り紙をですね…」

 女の名前はセラ。一度は戦争捕虜となったが、その腕を買われ、王国からの恩赦で釈放された後、一時的では有るが保護観察対象となる。
 彼女はその動向を監視下に置かれた、言わば王国にとっての要注意人物でもある。
 彼女の性格は少々難が有り、城からギルドへ申し送りされた書簡の中に、医務官の見立てで注意書きが書かれていた。

 セラは幼少期の成長過程に問題と難あり。
 そう医務官に勝手に記されて申し送りされたこの女。
 精神治療は神官が行う修行の様なもので、最初は意味も理解出来ずセラは十日に一度ほどのペースで教会にも通って居た。
 こういった行動も全て管理された状況下で城へ報告されていて、セラは自分の措かれた立場は理解し、その義務を真面目に果たしながら、エルダニアの冒険者として真っ当な生活を送ろうと努力していた。

 日蔭者だった彼女は、アメイジア大陸の主要三ヶ国のうち、生まれ故郷のオセニアラ、そして仕事を求め渡ったイギストからも追放される状になり、残るレジアで生きてゆくしかない。
 生まれ故郷もにも戻れず、全ての後ろ盾を失った今、ある日を境にして彼女は一般の冒険者になる為の努力を彼女はしていた。
 そんな彼女を知ってか知らずか、無碍に扱う事の出来ない性格のグモイは、困りながらも出来るだけ丁寧にその意思を汲みろうと、彼もまた、奮闘している。

「これは依頼主が書く書面で、依頼を受けるならこっちではないんですよ」

 ふりふりと何度も首を横に振る黒装束。

「パーティーの募集かな? それならこっちの書式に…」

 グモイが言い終わる前に、その書式の上に手に持つ注文書を素早く被せ、ビシッと指をさす黒装束。
 その行動に一瞬言葉を失い、犬顔に驚きの表情を浮かべるグモイ。
 それを死んだ魚のような無表の無い目で見下ろすセラ。


「………」



「う~ん…これは注文書だから、冒険者はこっちを使う事はあまり無いんだけどなぁ…」

 表情は死んでいるが身体は正直と言うべきか、トントントントンと注文書を苛立ったように指先でつつく彼女の後ろ、ちょうどギルドの入り口に見知った顔が現れる。

 グモイは思わず顔を綻ばせ、嬉しそうに尻尾を振ってしまった。
 彼の表情の変化を察したセラはその視線の方向に目を遣ると、そこに入って来たのは彼女も知る人物、ナオヤとヴィータだ。

「やあ、グモイ。それにセラも居たか」

 訳あって懐事情の問題を解決するため、ギルドへ仕事を探しにやって来た。
     後ろへ控えるヴィータは監視役の様なものだった。
 ナオヤは受付の前に立つセラとグモイを見付け、軽く声をかけた。

「こちらの女性とお知合いなんですか?」

「………」

「ん? ああ、前の任務で一緒の任地だったし、いろいろと… セラが、どうかしたのか?」

「良かった。ちょっと説明に困ってまして」

 そう言ってチラリとセラを見るグモイ。彼女の方は相変わらず希薄な表情のまま、勢い良く手に持った注文書を、今度はナオヤへ押しつけて来た。

「ん? これは?」

「オーダーの注文書」

 横からヴィータもその書面を覗き込むように言った。

「それは文字通り注文書なんですが、オーダーを受けるものではないので、何を目的としてるか解らないんですよ、セラさんはその…言葉が不自由みたいですし、それに色々制約がかかっているようなので」

「ふーん… 」

 彼女のコミュニケーション能力に難が有るのは、ナオヤ自身も理解していた。
 そして目の前の彼女、セラは何かを、無表情では有るが必死に訴えて居るようでもある。

 一度彼女には危険な所を助けられた借りも有るナオヤは、知らぬふりをして立ち去る事もないと、ここは一つ助け船を出す事にした。

「注文書か」

 コクリと頷くセラ。

「お前は文字の読めない僕と同じ位ハンデがあるな」

 再び頷く彼女。

「ってことは…」

「仕事を依頼したいのではないか?」

「だから無理なんですけどね」

 横からヴィータが補足に入った。その言葉に何度も頷く彼女。

「冒険者が依頼を他の冒険者へする事も出来るのか?」

「そう言う事だったんだ…。それは一般の人なら出来ますけど、ただセラさんの場合、台帳にも書いてますが、保護観察の身分なので、基本的に受注しか出来ない筈なんですよ」

「だそうだ、何を依頼したいんだ?」

 彼女は、何度も押し付け合ってクシャクシャになりかけた注文書の依頼地の欄に、拙い文字で何かを書き、文字を間違ってしまったのか、それを塗りつぶし、考え、思い出しながら『テト南東』と書いた。

「テトの東と言えば…、ああ、僕等が初めて出逢って戦った?   あの場所だなぁ」

 眠そうな、それでいて表情のない能面な目でナオヤを睨む彼女。
 その表情のまま一つ頷き、懐の巾着から金貨を一つ取り出した。
 その金貨はレジアの刻印の金貨ではなく、他の国で流通している事を示す見た事もない模様が入っている。

「見たこと無い金貨だ」

「それはイギストの金貨ですよ、金の含有量はレジアと同等で、大抵は潰されてレジア金貨に変わるので、稀ですが、この国でも多少は流通してます」

 グモイの補足があった。その話が終わるのを待ってセラは金貨を指差した。

「この金貨が?」

 セラは両手を広げジェスチャーをし始めた。それを見ながらナオヤが探り探り、代弁するように答える。

「テト東に? マジで…? あるの…? 沢山!?」

 何度も首肯するセラ。

「マジかよ! やったなッ!」

 今度はヴィータが話し始めた。

「自分の手柄みたいな言い方ですけど」

「彼女は捕虜になる前は傭兵としてイギスト側に雇われていたな、その時の報酬がその金貨なのではないか?」

「なるほど、つまり、セラは前の雇い主から貰った報酬をテトの東に置いて来ている? それを取りにテトへ行きたい、だがレジアの保護観察がある身分でテトへは行けないから、依頼をしたいって事か」

 そうだと言わんばかりのセラの首肯。ここでやっとセラの訴えを、グモイ含めナオヤ達も理解する事が出来た。

「グモイ、コレどうにか出来ないのか?」

「そうですねぇ…   ナオヤさんが依頼をして、セラさんがそのオーダーを受ける形にすれば可能ですね。この場合依頼の内容を護衛とかにすれば、セラさんはナオヤさんの護衛として動く事が出来ると思いますよ、ただ、ギルドを通す形になるので、依頼主は保障金を預け、手数料と税を納める事になりますけど」

 ナオヤは、セラの無表情な目がそこでキラリと光ったように見えた、だが取分け金貨が沢山と言う事を否定する雰囲気も無い事が打算的にクリティカルで、彼の期待度を膨らませてしまうのだった。
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