どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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『わたし』と『わたくし』から産まれた『私』





 目を開けたわたくしのがんぜんには青味がかった黒の景色が広がっておりました。
 よやみのような、けれど決して不安を呼び起こさせないあたたかな空間。
 あたたかいまどろみの中にいるような安心にわたくしのけいかいしんがわくはずもなく。
 わたくしはただこころしずかにただずみ時を待ちます。
 そうすればわたくしをここにみちびいた方が来るのだと分かっていますから。
 
『少しは警戒するもんだと思うんだけどなぁ』

 後ろから聞こえてきた声にわたくしはそれでも声の主をおそれる事なくゆったりとしたどうさでふりむく。
 『声』の主はお母さまより若い女性の方でした。
 わたくしが見た事がないようないしょうを身にまとい【闇の女神】のかごを受けたかのように黒色のかみとひとみを持った女性。
 けれどわたくしはふしんかんを抱く事も無く、むしろなつかしい気持ちをいだきました。
 目の前の女性は今までわたくしの心のおくからわたくしを見守って下さっていた方。
 うたがう事はわたくしをうたがう事に等しい方。
 ……もう一人のわたくしなのですから。

『そっかぁ。『わたし』は賢いなぁ。……ん? これだと自画自賛っぽいかな?』
「そうですわね。なれど仕方ありませんわ。だって貴方様は『わたくし』なのですから」

 わたくしの言葉に『彼女』はほほえむ。
 まるで正解だと言うように。
 ようしは違いますし、共通点もございません。
 けれどわたくしには分かるのです。
 目の前の『女性』がもう一人のわたくしだと。 

『正確に言えば貴方がわたしという前世を持って居るって感じかな? けどまだ全然思い出してないんでしょ?』

 そう言って『彼女』は指をならし大きな水かがみのようなものを発生させました。
 水かがみの中では景色が移り変わっていきます。
 わたくしにとって初めて見るのに懐かしい場所が本をめくるような速度で移り変わっていきました。

 <地球>
 <日本>
 <高層ビルが並び立つ街並み>

 どれもわたくしならば見た事も無い光景だと言うのに、わたしくの中にするすると入っていきます。
 それは『地球』という『わたし』が産まれ生きた世界のちしきでした。
 地球のちしきが一通り変わった後、今度は『わたし』の生きていた一生が再び同じ速度で移り変わっていきました。

 <一般家庭に生まれて愛情を注がれ育っていくわたし>
 <小学校、中学校、高校、大学と成長し学び、友人を作り、恋をして大人になっていく>
 
 それは新しい知しきを取り込むのではありません。
 わたくしは今『前世』を思い出しているのです。
 死に際は思い出せません。
 けれどそれは『彼女』なりの気づかいなのでしょう。
 死の記憶などいりませんものね。
 『わたし』の一生の後はわたくしにとっても重要な知しきでした。
  
 <娯楽に溢れた世界で嵌まったゲーム>

 それはわたくしの世界と酷似した世界がモチーフのゲームに関しての知しきでした。
 ……『彼女』の楽しみ方は多分本筋から外れているので大変役に立つとは言い難いと思いますけれどね。
 『彼女』の死後、今度はわたくしの一生が流れていく。
 とはいえわたくしはまだ五年しか生きていないので圧倒的な量が違いますけれどね。
 最後はこうなる直前の出来事が流れて水鏡は消えていきました。

 沢山の情報が流れて『わたくし』と『わたし』が溶け合っていく。
 
 『わたくし』の悩みを見て『わたし』は笑って「やり返してしまえ」と言っています。
 『わたし』の悩みを見て『わたくし』は貴方こそやりかしてしまえば良かったのにと笑いました。
 
 そんな他愛もない話をしていく中でわたくしは『彼女』の知識の全てを思い出しました。
 そうなると『わたくし』よりも『わたし』の自我の方が成熟している分強く、意識も其方に引きずられます。
 けれどそれは当たり前の事。
 『わたくし』が消えるのではありません。
 『わたし』に全てを明け渡した訳でもありません。
 勿論『わたし』が全てを『わたくし』に渡した訳でもありません。
 ただ『わたくし』と『わたし』が溶け合い『私』になるだけの事なのです。
 
『全てを思い出しても貴方は貴方。ディルアマート王国の公爵令嬢・キースダーリエ=ディック=ラーズシュタイン。そうでしょ?』
「ええ。そうですわね。わたくしは『貴女』の知識全てを思い出してもわたくしである事には変わり在りませんわ。ねぇ『名も無きわたくし』さん?」
『ははっ! そう! わたしは何の奇跡か転生しても残留思念のように残った『名も無き存在』……『わたし』の記憶の媒体って所かな? 貴女に全てを渡し消えゆく存在って言ってもいいかもね?』

 どこか悲しげな『彼女』の表情にわたくしは「違いますわ!」と咄嗟に反論する。
 淑女としては少々はしたない行為だったかもしれません。
 けれど反論せずにはいられませんでした。
 だって『彼女』は一番大事な事を忘れているのですもの。

「いいえ。違いますわ。『貴女』と『わたくし』は溶け合い『私』になるのですわ。……あら? そうなると生まれ変わるって事になるのかしら?」

 最後には首を傾げるわたくしに『彼女』は最初驚いた顔をしていましたが、最後には大きな声を立てて笑いだしてしまいました。
 少々はしたないですわよ『わたし』?

『そうだったね! 『わたし』は消えるんじゃない。『私』になるだけだったんだね!』
「ええ。わたくし達は生まれ変わるのですわ。奇跡は終わりません。『私』が生きている限り」
『うんうん。そうだったね。じゃあわたしは『私』の中で『わたし』の一生を楽しむ事にするよ』
「ある意味で『わたくし』もそうなりますけれどね」
『あはっ。『私』は大変だね。『わたし』と『わたくし』の両方の意志を受け取って生きていくんだからさ!』
「けれど問題はありませんわ。だって『わたし』であり『わたくし』でもあるのですから」

 わたくしの中に流れ込んでくる『わたし』の最後の知識と記憶。
 全てが溶け合い『私』になる。
 これからの一生が楽しみで仕方無い『私』に『わたくし』と『わたし』が笑ったような気がした。

『じゃあ、一応これでお別れかな。――頑張ってね『キースダーリエ』」
「ええ、ご機嫌よう。わたくしを見守ってくれた『姿無き友人』――『地球という世界を生きた名も無きわたし』」

 別れの挨拶をした『私』は再び意識が真っ白になっていく。
 けれど今度は暖かく優しい微睡みの中に意識が溶け込んでいく。
 そして段々光りが強くなり、目の前の『彼女』が消え『私』の意識は完全に白に消えていった。
 ……最後にしていた『わたし』の苦笑いが少しだけ気になったんだけれどね。





『Shule Aroon――人生という道中に幸多からん事を。平坦な道では決してないけれど貴女は貴女らしく生きてね』

 『わたし』に少しだけ別の人が重なった気がした。
 とはいえ、それを確認する機会が来たらこまるんだけれどね……だってこの空間に来る事は決して良い事ではないのだから。
 けれど重なった影も『私』を優しく見守ってくれている気がした。
 だって『彼女』は最後にこう言っていたから……――

『――頑張ってね【神様の愛し子-イトシゴ-】』

 ――……ってね?







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