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第七章・記憶喪失。19

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 無事に退院して通常通りに大学に通っている。神崎さんとの関係は。
 いつもの通りに大学から浅草まで帰ると、その足で喫茶店『KANZAKI 』に向かう。するとまたドアに貼り紙が貼ってあった。

『浅草の名物は雷おこし。なら、もう一つは何?』

 また定番のこの喫茶店のルールだ!
 えっと……浅草には名物がたくさんある。雷おこしは、もちろん定番だろう。
 それ以外だと目の前で茹でて、きな粉をたくさんまぶしてくれるきびだんご。
 あげまんじゅうも中身がこしあんで生地のザクザク感とほっこりする味で人気が高い。しかし神崎さんのことだ。
 雷おこしとおなじぐらい定番を要求してくるだろう。だとしたら……。
 答えが分かると慌てて店の中に入った。
カランと鈴の音が鳴るとコーヒーのいい香りがしてきた。

「問題の答えは?」

 中央のカウンター席になっているキッチンで、そう質問してくるのは神崎さんだった。

「答えは、人形焼きです! 定番の名物」

 人形焼きは雷門の提灯で五重の塔、ハトの3種類ある。
 こしあん(ハト)を割ったもので、冷めてももちろん美味しいし、浅草の名物だ!
 俺は、ハッキリとそう答えると周りの常連客。
と言っても3人ぐらいだが、その人達がおーと言いながら拍手をしてくれた。
 どうやら正解だったみたいだ。
 ホッと胸を撫で下ろすと神崎さんは、クスッと笑ってきた。

「よし、時間も間に合ったようだな。立花」

「毎回勘弁してくださいよ~この質問」

 毎度ながら何故従業員まで? と思ってしまう。
 呆れながらため息を吐くと神崎さんは、クスクスと笑いながらコーヒーを淹れていた。

「まあ、怒るな。後でお前の好きなカレーライスをまかないで出してやるから」

「えっ? マジですか。じゃあ、カツカレーにして下さい」

「分かった、分かった。ほら、早く着替えてこい」

「はーい」

 俺は、喜びながら奥にある休憩スペースに向かった。
 いつもと変わらない日常。でも嫌ではなかった。
俺にとったら当たり前で楽しい日常だったからだ。
 赤薔薇会の件は、まだ終わった訳ではない。これからも常に付きまとい俺は、怯えることになるだろう。
 でも、何故だろうか。神崎さんと一緒ならどんな混乱でも乗り越えていけそうな気がした。
 それぐらい不思議で魅力的なオーナーだった。


                                                                                    


                      END

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