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「……セナを泣かせた」
ラーフの帰宅後、俺は何度その言葉を聞いたことだろう。ベッドにうつ伏せになって、呻くような声を上げるラーフを見た。こんな情けない姿だけを見せられれば、この人物が世に名高いシェイナ家の次期当主だとは、誰も思わないだろう。
「お前の指示通りにしておいたぞ。あの田舎の城を買って、そのままセナ様を所有者にしておいた。これでいいんだろ」
「あぁ、それでいい」
学校から帰ってきたと思ったらすぐに、エリアス城を買ってこい、と必死の形相で言われ、俺は何事かと思った。事情を聞けば、セナ様がエリアス城を守るため身売りのようなことをしていたから、なんとしてでも阻止したいのだという。セナ様の行動には驚いたが、それ以上にラーフの勢いに驚かされた。
田舎の、しかも大した価値もない城を買うだなんて。ラーフ個人で動かせる資産でも余裕をもって購入出来る額ではあったが、それにしても勿体ない。ラーフ本人がそれで納得しているなら別にいいのだが、あまりにも高額な無駄遣いだ。
「……にしても、性転換してまで自分を売ろうとするなんて。セナ様も相当切羽詰まってんだな」
「セナが女の子になって、他の男に犯されるなんて想像しただけで……、……怒りで頭が可笑しくなる」
「じゃあ、女の子になったセナ様とラーフが結婚したらいいんじゃないか? そしたら全て解決だろ?」
それは予てから俺が望んでいたことだ。セナ様にしか興味のないラーフと、家を守りたいセナ様が結婚したら双方が幸せじゃないか。
「……性転換魔術は体にかかる負担が大きいんだ。大抵は寿命を縮める結果になってる。そんな危険なことをセナにさせる気はない」
「そっか、そういうものなのか」
いくら魔法とはいえ、なんでも思う通りにはいかないらしい。俺の幸せ計画は頓挫した。しかし、そのような魔法の仔細を知っているところを見ると、どうやらラーフ自身も幸せ計画を夢見た時期があるように思える。それもそうだろう。セナ様が女であったら、ラーフの慕情は成就しやすい。
「落ち込んでばっかいるなよ。そもそも、お前が無理やりキスなんかするからセナ様は泣いたんだろ。自業自得だ」
「……別に落ち込んでなんかない」
「嘘つけ」
「……セナのたどたどしい口付けが、凄く可愛かった」
「良かったじゃないか。つまり、セナ様はファーストキスだったんだろ」
「たぶんな。というか絶対そうだ。俺はずっとセナを見守ってきたが、セナが誰かとそういったことをするような状況はひとつもなかった」
「それは見守るっていうか、九割九分ストーカーだよ」
落ち込んで陰鬱としていたラーフが、いつもの調子を取り戻しつつある。ベッドの上から降りて、ソファに腰かけた。
「セナの、あの初心な感じが最高で、そのまま襲いそうだった」
「それだけは絶対にやめろよ。その手の醜聞だけは駄目だぞ」
「お前に言われなくても分かってる。そもそも、セナを傷付けるようなことを俺がするわけがない」
「セナ様は今回のことで傷ついてるかもしれないけどな」
俺の言葉で、再びラーフは俯いてしまう。しまった、とは思ったが、こればかりは言わなければならない。急に無理やり口付けされるなんて、相手の受け取り方によっては完全なる犯罪だ。自分が好意を抱いていたとしても、相手が拒めばそれは暴力になり果てる。
「……ラーフ、お前、セナ様とどうなりたいんだよ」
「ずっと一緒にいたい」
「そういう幼稚なことじゃなくて」
「別に幼稚でもなんでもない。それが俺の一番の願いなんだ。一緒にいるっていう形が友達でもいいし、恋人でもいいし、家族でもいい。何でもいいから、セナと一緒にいたい」
「……シェイナ家のことは、どうするんだ」
「俺は家に興味がない。たまたま俺が長男に生まれただけで、当主としての才覚とかはないと思う。この家は他の誰かが継げばいい」
「お前なぁ」
才覚がないと本人は言うが、それは違う。ラーフは才能に溢れ、人を惹き付ける力を持っている。それは、当主という上に立つ者には必要な素質だった。ラーフを置いて他にこの家を率いていける者などいない。
「……明日、セナに謝ろう。怒られても、殴られてもいいから許してもらいたい」
「元気出せって。シェイナ家の次期当主がそんな弱腰なこと言うなよ」
ラーフの帰宅後、俺は何度その言葉を聞いたことだろう。ベッドにうつ伏せになって、呻くような声を上げるラーフを見た。こんな情けない姿だけを見せられれば、この人物が世に名高いシェイナ家の次期当主だとは、誰も思わないだろう。
「お前の指示通りにしておいたぞ。あの田舎の城を買って、そのままセナ様を所有者にしておいた。これでいいんだろ」
「あぁ、それでいい」
学校から帰ってきたと思ったらすぐに、エリアス城を買ってこい、と必死の形相で言われ、俺は何事かと思った。事情を聞けば、セナ様がエリアス城を守るため身売りのようなことをしていたから、なんとしてでも阻止したいのだという。セナ様の行動には驚いたが、それ以上にラーフの勢いに驚かされた。
田舎の、しかも大した価値もない城を買うだなんて。ラーフ個人で動かせる資産でも余裕をもって購入出来る額ではあったが、それにしても勿体ない。ラーフ本人がそれで納得しているなら別にいいのだが、あまりにも高額な無駄遣いだ。
「……にしても、性転換してまで自分を売ろうとするなんて。セナ様も相当切羽詰まってんだな」
「セナが女の子になって、他の男に犯されるなんて想像しただけで……、……怒りで頭が可笑しくなる」
「じゃあ、女の子になったセナ様とラーフが結婚したらいいんじゃないか? そしたら全て解決だろ?」
それは予てから俺が望んでいたことだ。セナ様にしか興味のないラーフと、家を守りたいセナ様が結婚したら双方が幸せじゃないか。
「……性転換魔術は体にかかる負担が大きいんだ。大抵は寿命を縮める結果になってる。そんな危険なことをセナにさせる気はない」
「そっか、そういうものなのか」
いくら魔法とはいえ、なんでも思う通りにはいかないらしい。俺の幸せ計画は頓挫した。しかし、そのような魔法の仔細を知っているところを見ると、どうやらラーフ自身も幸せ計画を夢見た時期があるように思える。それもそうだろう。セナ様が女であったら、ラーフの慕情は成就しやすい。
「落ち込んでばっかいるなよ。そもそも、お前が無理やりキスなんかするからセナ様は泣いたんだろ。自業自得だ」
「……別に落ち込んでなんかない」
「嘘つけ」
「……セナのたどたどしい口付けが、凄く可愛かった」
「良かったじゃないか。つまり、セナ様はファーストキスだったんだろ」
「たぶんな。というか絶対そうだ。俺はずっとセナを見守ってきたが、セナが誰かとそういったことをするような状況はひとつもなかった」
「それは見守るっていうか、九割九分ストーカーだよ」
落ち込んで陰鬱としていたラーフが、いつもの調子を取り戻しつつある。ベッドの上から降りて、ソファに腰かけた。
「セナの、あの初心な感じが最高で、そのまま襲いそうだった」
「それだけは絶対にやめろよ。その手の醜聞だけは駄目だぞ」
「お前に言われなくても分かってる。そもそも、セナを傷付けるようなことを俺がするわけがない」
「セナ様は今回のことで傷ついてるかもしれないけどな」
俺の言葉で、再びラーフは俯いてしまう。しまった、とは思ったが、こればかりは言わなければならない。急に無理やり口付けされるなんて、相手の受け取り方によっては完全なる犯罪だ。自分が好意を抱いていたとしても、相手が拒めばそれは暴力になり果てる。
「……ラーフ、お前、セナ様とどうなりたいんだよ」
「ずっと一緒にいたい」
「そういう幼稚なことじゃなくて」
「別に幼稚でもなんでもない。それが俺の一番の願いなんだ。一緒にいるっていう形が友達でもいいし、恋人でもいいし、家族でもいい。何でもいいから、セナと一緒にいたい」
「……シェイナ家のことは、どうするんだ」
「俺は家に興味がない。たまたま俺が長男に生まれただけで、当主としての才覚とかはないと思う。この家は他の誰かが継げばいい」
「お前なぁ」
才覚がないと本人は言うが、それは違う。ラーフは才能に溢れ、人を惹き付ける力を持っている。それは、当主という上に立つ者には必要な素質だった。ラーフを置いて他にこの家を率いていける者などいない。
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