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どうしてラーフは、俺にあんなことをしたんだろう。
対価だと言っていたけれど、どうしてあの口付けが城の対価になり得るんだろう。ラーフは俺をどう思ってるんだ。俺をどうしたいんだ。
あの口付けのあと、本当にラーフは父から城を買っていた。そして、その権利を全て俺に譲渡するという書類も合せて送ってきたのだ。父は困惑しつつも、有難いと喜んでいて、俺はどんな顔をすればいいのか分からなかった。
ラーフは、幼馴染だ。
大切な、幼馴染だ。可能ならいつまでも対等に、彼の横で胸を張って歩きたかった。大貴族と没落貴族、などと比較されずに並び立つ存在として共にいたかった。
大切だから、ずっと傍にいたい。けど、どうしてもコンプレックスを刺激されてしまう。それが嫌で、俺はラーフのそばを離れたのだ。
「……なんて弱虫だ」
自分を守るために、距離を置いたんだ。周囲の視線や評価なんて気にせずにいられたら良かったのに、俺はそれらが気になって仕方がない。そんな自分が大嫌いだった。
足を止める。いつの間にか、学校のグラウンド前まで来てしまったようだ。学校のグラウンドは、常に闘性魔術師たちが我が物顔で使用している。武器と武器がぶつかり合う音や怒号が響き渡って、とても喧しい場所だ。
普段は喧騒を避けてグラウンドには近づかないのに、今日はぼうっと歩いていたせいでこんな場所に来てしまった。
案の定、グラウンドでは闘性魔法が展開され随分と賑やかなことになっている。その中心に、俺はラーフを見つけてしまった。
握る槍に火炎系の魔法を纏わせて、対峙者を槍と炎で追い詰める。ラーフの魔法は、周囲の魔法使いたちと比べて威力が段違いに上だった。彼はとても優秀な闘性魔術師になることだろう。
戦いが終わり、ラーフが勝った。
直後、見守っていた観衆たちが一気にラーフを取り囲む。女子生徒たちは、目に見えてラーフにアピールをしていた。ラーフの周りには、男にしても女にしても美しい者が多い。皆、ラーフの所有物になりたいのだ。
俺にあんなことしなくても、相手なんてやまほどいるのに。どうしてこんな陰気な俺などにかまうのか。胸が苦しくなる。ラーフのそばに駆け寄っていく自信もないくせに、いちいちこんなことで傷つくなんて、矛盾していた。
一人の女子生徒が、ラーフの腕に抱き着いた。豊満な胸を強調してラーフに押し付けている。これ以上は見ていられなかった。何故だか苦しくて、悔しい。
俺は、あの口付けひとつで頭が可笑しくなるほど悩んでいるのに、ラーフにとってはそんなもの些細なことなのだ。
身を翻して歩き出す。こんなところに来るんじゃなかった。一刻も早く立ち去ろう。必死になって足を動かし、校舎の方へと戻る。芝生を踏み荒らす勢いで、素早く歩いた。
「セナ」
名を呼ばれて、思わず体が止まる。一瞬、ラーフがそこにいるのかと思った。けれど、彼ではなかった。そんな期待をした自分を恥じる。
「……教授」
「ずいぶんと穏やかじゃない歩き方だね。どうかしたいのかい?」
「あ、いえ……えっと、なんでもないです」
一体どんな風に歩いていたのか、考えたくもない。きっと無様な姿だったのだろう。
「いつも冷静で落ち着いているセナが、そんな風になるということは、何かあったのかな?」
「俺、そんなに冷静でも落ち着いてもいないですよ。結構カッとなりやすいし」
「そうなのか。それは知らなかった。私の前ではいつも、良い子になってくれていたのかな」
そんな風に優しく微笑まれてしまうと、どうしたらいいのか分からなくなる。困って見下ろした先には、薄い板ようなものが。見慣れないそれは何だろう。その謎の物体は、教授の手の中にあった。
「教授、その手に持たれているものはなんですか?」
「これかい? これはスマートフォンだよ」
「すまーとほん?」
「非魔法使いが作り出した道具だ」
どうぞ、といって差し出される。渡されても、どうしたらいいのか分からない。上から見たり下から見たりしていると、教授に笑われてしまった。
「若い子ほど、魔法使いでも科学製品を持っているのに、セナは持たないんだね」
「持たないというか……持てないというか。我が家には科学製品を買う余裕がないんです」
「じゃあ、伝統的な古式ゆかしき魔法を使って生活を送ってるのかい?」
「はい、テレビも電話も無いし、そのすまーとほんというものも知りません」
「なるほどね。これがあると、いつでも連絡が取り合えて便利だよ」
「電話に似たものなんですね」
「電話の機能を備えた、手紙のようなものかな」
全く分からない。戸惑っていると教授が少しばかり手ほどきをしてくれた。メール、というものを知り、インターネットを経由してどんな知識でも得られると教えてくれた。
俄然興味が湧くが、月々の使用料とやらが必要で、その額を聞いて驚いた。そのお金をすまーとほんに使うくらいなら、父に豪勢な料理を振る舞ってやりたい。
「そんなに欲しいなら、私が買ってあげようか」
「え!? え、あ、いえ、大丈夫です。そんな高価なもの、頂けないです」
「卒業祝いということにすればいい。卒業後も、私はセナと連絡が取りたいしね」
「卒業祝いといっても……それに、連絡は手紙でも十分だと思うし……」
使いこなせるか分からない高度な道具を、高い金額を支払ってプレゼントされることに抵抗がある。言葉を濁す俺を見て、教授が小さく笑った。
「まあ、無理強いはしないよ」
「せっかくのご厚意なのに、すみません。……あまり高価な頂きものをすると、いつも戸惑うんです。俺は、何も返せないから」
「見返りが欲しくて、私はプレゼントしようと思ったわけではないよ。スマートフォンを興味深そうに見ているセナが可愛かったから、買ってあげたいと思っただけだ」
頭を撫でられる。その手は幼い子供の頭を撫でるようで、なんだか恥ずかしくなった。
見返りはいらないと教授は言うが、そう言われても心苦しくなるのだ。何事にも対価が必要と考えてしまう面倒な自分が嫌いだった。自分の嫌なところばかりが目につく。
「さて、彼にすごく睨まれてるから私はもう行くよ。ではね」
そう言って教授が背後を指差す。そこには、確かに教授を睨みながらこちらに来るラーフがいた。教授と入れ替わるようにやってきたラーフは、昨日あんなことがあったということ忘れているか、いつも通りのラーフだった。
「セナ、あの教授と一緒にいると危、」
「ラーフも、すまーとほん、持ってるのか?」
「え? スマホ? 持ってるけど」
「……ふーん」
ラーフの言葉を切って、尋ねる。若い子の方が持っている、という教授の言葉は正しいようだ。
「なんでスマホ? 急にどうしたの? セナ、スマホ持ってないよね?」
「確かに持ってないけど、なんでお前が知ってるんだ」
「セナのことなら何でも知ってる」
「……適当なこと言って」
「本当なんだけどなぁ」
俺のことをなんでも知ってるというのなら、今のこの俺の心のもやもやも知っているのか、と問いただしたくなる。
「さっき、俺のこと見ててくれたよね。グラウンドでさ」
「別にラーフを見てたわけじゃない」
「そう? 俺はセナの視線を感じたけど」
「自意識過剰」
別に、ラーフのことを見ていたわけじゃない。ぼうっと歩いて、たどり着いた先にラーフがいて、なんとなくラーフを含めたその風景を見ていただけだ。断じて、ラーフだけを見ていたわけではない。
「セナが見ててくれるって思ったら、いつもの何倍の力が出たよ。セナの応援のおかげだ」
「だから、見てないって言っただろ。……ラーフを応援する人はたくさんいたんだから、俺の応援のおかげじゃない。俺は応援なんてしてない」
「周りに誰がいようが、関係ない。俺にとっては、セナだけが特別だから」
「特別って……なんだよそれ」
「特別は、特別だよ」
「……特別だから、昨日、あんなことしたのか」
情けないことに、少しばかり声が震えた。けれど、聞きたいことを聞いてやったぞ、と誇らしい気持ちにもなる。
「そうだよ。セナが特別だから、セナを誰にも渡したくなかった。キスだって、したかったからしたんだ」
「したかったからって……俺の気持ちを無視するなよ」
「嫌だった?」
「嫌っていうか……、その……怖かった」
あまりにも急な出来事で、身動きも取れなくて、そんなことをするラーフも怖かった。俯くと、ラーフが俺の体をそっと抱きしめてくる。大きな体にすっぽりと包まれて、驚くほどに居心地が良い。
「怖がらせて、本当にごめんね」
「……謝らなくていい」
「俺のこと、許してくれる?」
一度だけ頷く。すると、ラーフの腕に込められた力が強くなる。抱きつぶされるのではないか、と思うほどの力だった。苦しい、と抗議すれば即座に腕の力は弱まる。
「こっちこそ、……城のこと、ありがとう」
「あれくらい全然いいよ。セナが、俺との思い出も大切にしてくれてて、すっごく嬉しかった」
「……大切なんだ。あの城で過ごした時間が、凄く大切なんだ。ラーフと対等でいれたあの日々が、俺の心の支えになってるんだ」
「今だって対等だろ」
「……対等なもんか。全然違う」
どこが対等だって言うんだ。ラーフは本心で言っているようだけれど、俺からすれば嫌味を言われているようにしか聞こえない。
ふん、と顔を横に逸らすと、その頬にラーフが指を突き刺してきた。やめろ、と言って睨んでも、可愛いなぁ、と返ってくる。ラーフは頭が可笑しいのかもしれない。
「……あぁ、でもそうだね。対等じゃないかも」
とうとう、ラーフが現実を見た。そうだ。俺たちはもう対等ではない。事実であっても、ラーフ本人に言われると少しばかり悲しくなる。どこまでも自分勝手なことを言っている自覚はあった。
「俺は、セナが大切すぎてセナに逆らえないから、俺の方が立場が弱いよね」
ラーフは頭が可笑しいのかもしれない、ではない。確実に頭が可笑しい。笑いながらそんなことを言ってのける幼馴染に、俺は返す言葉が見つからなかった。
対価だと言っていたけれど、どうしてあの口付けが城の対価になり得るんだろう。ラーフは俺をどう思ってるんだ。俺をどうしたいんだ。
あの口付けのあと、本当にラーフは父から城を買っていた。そして、その権利を全て俺に譲渡するという書類も合せて送ってきたのだ。父は困惑しつつも、有難いと喜んでいて、俺はどんな顔をすればいいのか分からなかった。
ラーフは、幼馴染だ。
大切な、幼馴染だ。可能ならいつまでも対等に、彼の横で胸を張って歩きたかった。大貴族と没落貴族、などと比較されずに並び立つ存在として共にいたかった。
大切だから、ずっと傍にいたい。けど、どうしてもコンプレックスを刺激されてしまう。それが嫌で、俺はラーフのそばを離れたのだ。
「……なんて弱虫だ」
自分を守るために、距離を置いたんだ。周囲の視線や評価なんて気にせずにいられたら良かったのに、俺はそれらが気になって仕方がない。そんな自分が大嫌いだった。
足を止める。いつの間にか、学校のグラウンド前まで来てしまったようだ。学校のグラウンドは、常に闘性魔術師たちが我が物顔で使用している。武器と武器がぶつかり合う音や怒号が響き渡って、とても喧しい場所だ。
普段は喧騒を避けてグラウンドには近づかないのに、今日はぼうっと歩いていたせいでこんな場所に来てしまった。
案の定、グラウンドでは闘性魔法が展開され随分と賑やかなことになっている。その中心に、俺はラーフを見つけてしまった。
握る槍に火炎系の魔法を纏わせて、対峙者を槍と炎で追い詰める。ラーフの魔法は、周囲の魔法使いたちと比べて威力が段違いに上だった。彼はとても優秀な闘性魔術師になることだろう。
戦いが終わり、ラーフが勝った。
直後、見守っていた観衆たちが一気にラーフを取り囲む。女子生徒たちは、目に見えてラーフにアピールをしていた。ラーフの周りには、男にしても女にしても美しい者が多い。皆、ラーフの所有物になりたいのだ。
俺にあんなことしなくても、相手なんてやまほどいるのに。どうしてこんな陰気な俺などにかまうのか。胸が苦しくなる。ラーフのそばに駆け寄っていく自信もないくせに、いちいちこんなことで傷つくなんて、矛盾していた。
一人の女子生徒が、ラーフの腕に抱き着いた。豊満な胸を強調してラーフに押し付けている。これ以上は見ていられなかった。何故だか苦しくて、悔しい。
俺は、あの口付けひとつで頭が可笑しくなるほど悩んでいるのに、ラーフにとってはそんなもの些細なことなのだ。
身を翻して歩き出す。こんなところに来るんじゃなかった。一刻も早く立ち去ろう。必死になって足を動かし、校舎の方へと戻る。芝生を踏み荒らす勢いで、素早く歩いた。
「セナ」
名を呼ばれて、思わず体が止まる。一瞬、ラーフがそこにいるのかと思った。けれど、彼ではなかった。そんな期待をした自分を恥じる。
「……教授」
「ずいぶんと穏やかじゃない歩き方だね。どうかしたいのかい?」
「あ、いえ……えっと、なんでもないです」
一体どんな風に歩いていたのか、考えたくもない。きっと無様な姿だったのだろう。
「いつも冷静で落ち着いているセナが、そんな風になるということは、何かあったのかな?」
「俺、そんなに冷静でも落ち着いてもいないですよ。結構カッとなりやすいし」
「そうなのか。それは知らなかった。私の前ではいつも、良い子になってくれていたのかな」
そんな風に優しく微笑まれてしまうと、どうしたらいいのか分からなくなる。困って見下ろした先には、薄い板ようなものが。見慣れないそれは何だろう。その謎の物体は、教授の手の中にあった。
「教授、その手に持たれているものはなんですか?」
「これかい? これはスマートフォンだよ」
「すまーとほん?」
「非魔法使いが作り出した道具だ」
どうぞ、といって差し出される。渡されても、どうしたらいいのか分からない。上から見たり下から見たりしていると、教授に笑われてしまった。
「若い子ほど、魔法使いでも科学製品を持っているのに、セナは持たないんだね」
「持たないというか……持てないというか。我が家には科学製品を買う余裕がないんです」
「じゃあ、伝統的な古式ゆかしき魔法を使って生活を送ってるのかい?」
「はい、テレビも電話も無いし、そのすまーとほんというものも知りません」
「なるほどね。これがあると、いつでも連絡が取り合えて便利だよ」
「電話に似たものなんですね」
「電話の機能を備えた、手紙のようなものかな」
全く分からない。戸惑っていると教授が少しばかり手ほどきをしてくれた。メール、というものを知り、インターネットを経由してどんな知識でも得られると教えてくれた。
俄然興味が湧くが、月々の使用料とやらが必要で、その額を聞いて驚いた。そのお金をすまーとほんに使うくらいなら、父に豪勢な料理を振る舞ってやりたい。
「そんなに欲しいなら、私が買ってあげようか」
「え!? え、あ、いえ、大丈夫です。そんな高価なもの、頂けないです」
「卒業祝いということにすればいい。卒業後も、私はセナと連絡が取りたいしね」
「卒業祝いといっても……それに、連絡は手紙でも十分だと思うし……」
使いこなせるか分からない高度な道具を、高い金額を支払ってプレゼントされることに抵抗がある。言葉を濁す俺を見て、教授が小さく笑った。
「まあ、無理強いはしないよ」
「せっかくのご厚意なのに、すみません。……あまり高価な頂きものをすると、いつも戸惑うんです。俺は、何も返せないから」
「見返りが欲しくて、私はプレゼントしようと思ったわけではないよ。スマートフォンを興味深そうに見ているセナが可愛かったから、買ってあげたいと思っただけだ」
頭を撫でられる。その手は幼い子供の頭を撫でるようで、なんだか恥ずかしくなった。
見返りはいらないと教授は言うが、そう言われても心苦しくなるのだ。何事にも対価が必要と考えてしまう面倒な自分が嫌いだった。自分の嫌なところばかりが目につく。
「さて、彼にすごく睨まれてるから私はもう行くよ。ではね」
そう言って教授が背後を指差す。そこには、確かに教授を睨みながらこちらに来るラーフがいた。教授と入れ替わるようにやってきたラーフは、昨日あんなことがあったということ忘れているか、いつも通りのラーフだった。
「セナ、あの教授と一緒にいると危、」
「ラーフも、すまーとほん、持ってるのか?」
「え? スマホ? 持ってるけど」
「……ふーん」
ラーフの言葉を切って、尋ねる。若い子の方が持っている、という教授の言葉は正しいようだ。
「なんでスマホ? 急にどうしたの? セナ、スマホ持ってないよね?」
「確かに持ってないけど、なんでお前が知ってるんだ」
「セナのことなら何でも知ってる」
「……適当なこと言って」
「本当なんだけどなぁ」
俺のことをなんでも知ってるというのなら、今のこの俺の心のもやもやも知っているのか、と問いただしたくなる。
「さっき、俺のこと見ててくれたよね。グラウンドでさ」
「別にラーフを見てたわけじゃない」
「そう? 俺はセナの視線を感じたけど」
「自意識過剰」
別に、ラーフのことを見ていたわけじゃない。ぼうっと歩いて、たどり着いた先にラーフがいて、なんとなくラーフを含めたその風景を見ていただけだ。断じて、ラーフだけを見ていたわけではない。
「セナが見ててくれるって思ったら、いつもの何倍の力が出たよ。セナの応援のおかげだ」
「だから、見てないって言っただろ。……ラーフを応援する人はたくさんいたんだから、俺の応援のおかげじゃない。俺は応援なんてしてない」
「周りに誰がいようが、関係ない。俺にとっては、セナだけが特別だから」
「特別って……なんだよそれ」
「特別は、特別だよ」
「……特別だから、昨日、あんなことしたのか」
情けないことに、少しばかり声が震えた。けれど、聞きたいことを聞いてやったぞ、と誇らしい気持ちにもなる。
「そうだよ。セナが特別だから、セナを誰にも渡したくなかった。キスだって、したかったからしたんだ」
「したかったからって……俺の気持ちを無視するなよ」
「嫌だった?」
「嫌っていうか……、その……怖かった」
あまりにも急な出来事で、身動きも取れなくて、そんなことをするラーフも怖かった。俯くと、ラーフが俺の体をそっと抱きしめてくる。大きな体にすっぽりと包まれて、驚くほどに居心地が良い。
「怖がらせて、本当にごめんね」
「……謝らなくていい」
「俺のこと、許してくれる?」
一度だけ頷く。すると、ラーフの腕に込められた力が強くなる。抱きつぶされるのではないか、と思うほどの力だった。苦しい、と抗議すれば即座に腕の力は弱まる。
「こっちこそ、……城のこと、ありがとう」
「あれくらい全然いいよ。セナが、俺との思い出も大切にしてくれてて、すっごく嬉しかった」
「……大切なんだ。あの城で過ごした時間が、凄く大切なんだ。ラーフと対等でいれたあの日々が、俺の心の支えになってるんだ」
「今だって対等だろ」
「……対等なもんか。全然違う」
どこが対等だって言うんだ。ラーフは本心で言っているようだけれど、俺からすれば嫌味を言われているようにしか聞こえない。
ふん、と顔を横に逸らすと、その頬にラーフが指を突き刺してきた。やめろ、と言って睨んでも、可愛いなぁ、と返ってくる。ラーフは頭が可笑しいのかもしれない。
「……あぁ、でもそうだね。対等じゃないかも」
とうとう、ラーフが現実を見た。そうだ。俺たちはもう対等ではない。事実であっても、ラーフ本人に言われると少しばかり悲しくなる。どこまでも自分勝手なことを言っている自覚はあった。
「俺は、セナが大切すぎてセナに逆らえないから、俺の方が立場が弱いよね」
ラーフは頭が可笑しいのかもしれない、ではない。確実に頭が可笑しい。笑いながらそんなことを言ってのける幼馴染に、俺は返す言葉が見つからなかった。
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