16 / 41
16
その休日はラーフ曰く、セナからデートに誘われた日、だった。
セナ様がラーフを、エリアス城へ行こうと誘い、運転手として俺が随伴することになったのだ。昼頃に出発し、昼食としてセナ様が作って来てくれたバケットサンドを車内で食べた。優しいセナ様は俺の分も作ってくれて、更に、運転中でも食べやすいようにと小さく切ったものを用意してくれていたのだ。手渡しでバケットサンドを貰い、セナ様の優しさに浸っていると、バックミラーには殺意のこもった目で俺を見るラーフが映っていた。
エリアス城は見違えるほどに美しくなっていた。
ラーフが購入した時に様子を確認しているが、庭には草が無造作に生え、城内は煤だらけ。人の手を離れ、荒廃した状態となっていた。それが今では、庭は整えられ、城内は清潔な状態に保たれている。
「昔のままだ」
感嘆の声をあげたのはラーフだった。俺は二人がこの城で過ごした時のことをあまり知らない。俺はこの城には同行しなかったのだ。だが、ラーフが昔のままだと言うのであれば、きっとそうなのだろう。
「そう言ってもらえると、凄く嬉しい。父さんと二人で、頑張って掃除したんだ」
「二人で? 言ってくれたら手伝ったのに」
「ううん、そこまでお願い出来ないよ」
驚くべきことに、フィルリア親子がこの城をここまでの状態にしたのだった。当然、強い魔力を持つ二人のことだから、大いに魔法を使って効率よく清掃をしたのだろうが、それでもこの広い城をたった二人でというのは驚嘆に値する。
「ラーフを招待出来るようにするのが目標だったんだ」
はにかむように、セナ様が微笑んだ。ラーフがその笑みに悶絶しているのが、背中を見ているだけでも伝わってくる。
「またここに来ることが出来て嬉しいよ。ありがとう、セナ」
「こちらこそ、本当にありがとう」
こっちも見て、といってセナ様がラーフの手を取って歩き出す。セナ様は、ただ単に自分の頑張った結果を見てもらいたいだけなのだろうが、ラーフは手を握ってもらえたことの嬉しさで体温が上がり、耳まで赤くなっていた。変なところで純情なのだ、この男は。
セナ様の導きに従って中庭に向かう。噴水には水が無く、花も一切植えられていなかったが、芝生は丁寧に手入れされていた。冬が近づいているために、冷たい風が吹き抜ける。
「ここでよくセナに膝枕してもらったよな」
「ラーフは、ちょっとした傷でも、すぐ治してって膝枕をねだってた」
「傷はどうでも良かったんだよ。ただセナに膝枕してもらいたかっただけ」
「だろうなとは思ってた」
二人で向かい合ってくすくすと笑っている。とてもいい雰囲気だ。二人の手は繋いだままで、セナ様は城内へ導いた。エントランスホールを抜けて階段を上がる。二階の奥の部屋。そこは子供部屋だった。家具の全てが小さくて、可愛らしい。部屋の中の、更に奥にあるその部屋は寝室のようで、小さなベッドが二つ並んでいる。セナ様とラーフが懐かしそうにそのベッドを見た。
「驚いた。このベッド、こんなに小さかったんだな」
「びっくりするだろ? 俺もこの前掃除しながら驚いてた。……昔は、ひとつのベッドで二人寝れたのにな」
「試してみる?」
「ベッドが壊れるよ」
またしても笑い合っている。どうやら、ここはかつての二人の寝室であるようだ。話を聞くに、ラーフとセナ様はひとつのベッドで寝ていたらしい。小さな部屋には、二人の思い出がたくさん詰まっているようで、二人の口からは次々に思い出話が出てくる。そんな二人はとても幸せそうな顔をしていて、眺めている俺も幸せな気持ちになる。
その後も、セナ様の案内で色々な場所を巡った。
歩き回った果てに、リビングルームへとたどり着く。そのリビングルームには大きな暖炉があった。それに火をつけようとセナ様が魔法を紡ぐが、それよりも先にラーフが灯した。魔術師にはそれぞれ属性があり、水の属性を持つセナ様より火の属性を持つラーフの方が火を発生させるのは得意だった。ラーフに、ありがとう、と言いセナ様が言いラーフは、どういたしまして、と返す。
暖炉と対峙する形で置かれているソファに腰を下ろす。セナ様とラーフは随分密着していた。俺は少し離れた一人掛けのソファに座る。暖炉の中では火が爆ぜてパチパチと音を立てた。
「セナはこの暖炉を怖がったよな」
「大きすぎるんだよ。簡単に人が入れちゃうじゃないか」
「でも俺は、ここでセナと一緒に炎をぼうっと見てるのが好きだった」
「それは……俺も好きだった」
何でこの二人、付き合ってないんだろう。思わずそんな感想が浮かんでくる。ラーフはセナ様にぞっこんだし、セナ様だってラーフを憎からず思っているはず。もう付き合ってしまえばいいのに。男同士だということをすっかり忘れて、俺は無責任にもそんなことを思っていた。
「ラーフがここの所有者を俺にしてくれたけど、当然ここはラーフのものだ。人が住めるレベルに修復したから、いつでも好きに使って」
「セナ、この城は俺とセナのものだよ。俺はセナとしかここには来ない。セナと二人で過ごす場所にしたい」
「……たまには父さんも連れてきて良いか?」
「それはもちろん」
「ラーフも、お父さんを連れてきたらいい」
「あの人はいいよ」
ラーフは苦笑いをして流した。ラーフと御当主様は不仲な訳ではないし、反発している訳でもない。ただ、似過ぎているのだろう。所謂、同族嫌悪というやつだ。出来ることなら一緒にいたくない、とラーフは思っているようだった。
「セナ。ここはユギラからも近いし、これからはもっと頻繁に来れるよ。週末はここで過ごすのも良いと思わない?」
「確かに。良いアイディアだ」
二人は未来の話をしている。ユギラ大学校に進学した後の話を。二人が同じ未来を語っているということが、なんだか嬉しくて堪らなかった。
「ラーフの誕生日の前に、ここに連れてこれて良かった」
「素晴らしいプレゼントだよ」
「こんなのプレゼントって言わないだろ。……何か欲しいものないの?」
「セナがそばにいてくれるなら、それで十分」
「……またそういうこと言ってはぐらかす」
「本心なんだけどなぁ」
ラーフの言葉は、確かに本心だった。嘘偽りの一切ない本心。ただ、それがしっかりとセナ様には届いていないようで歯がゆくなる。せっかく今、いい雰囲気なんだから思ってること全部言えばいいのに、と己の主人に心の中で不満を漏らした。
「セナに渡したいものがあるんだ」
そう言って、ラーフはソファの前に置かれたローテーブルに触れる。そこで魔法を紡ぎ、移動魔法を展開した。ローテーブルの上に現われたのは、移動手段として乗ってきた車に置いておいた木箱だった。俺のような平凡な魔法使いだったら、魔法式を紡ぐのに一、二分はかかるものをラーフはものの数秒でやってのけた。やはり血が濃いというのは、単純な尺度として魔法使いの力の強さを表わす。
ラーフ以上に濃い血を持つセナ様もこれくらい簡単にやってのけるのだろう。特にラーフの魔法には驚いていなかった。けれど、突然現れた木箱に視線は釘付けだ。
「仕立てあがったんだよ」
木箱を開け、中に入っていたイブニングコートを見せる。その木箱の中には、一式が揃っていた。全てにラーフの指示が込められているものたちだ。庶民が吊るしで買う安物とは全く異なっている。不思議なことに、きらきらと輝いているように見えた。驚きのあまり、セナ様は言葉を失って、口に手を当てている。
「……こんな立派なもの、もらっていいのか?」
「勿論。セナのためのものだ。セナに受け取ってもらえないと困るよ」
少し冗談めかして、ラーフは軽く言う。セナ様の目は涙ぐんでいて、今にも泣いてしまいそうなのを必死で堪えているように見えた。己の服すら、まともに新調出来ないであろうセナ様の状況から考えれば、随分と過ぎたものもを贈ってもらったと感じていることだろう。
「ありがとう、ラーフ」
「せっかくだから着てみてよ」
「あぁ、分かった」
快く了承したセナ様は、その場でいきなりニットのセーターを勢いよく脱いだ。白い肌が晒されて、俺もその上半身を見てしまう。ぎょっとしたのは俺とラーフだった。
「ちょっと待って!」
慌ててラーフがセナ様のセーターを下ろす。突然のことにセナ様も驚いていた。この場の全員が驚いている。
「セナ、ここで脱ぐの?」
「え? あ、ごめん。流石にまずいか。じゃあちょっと外で着替えてくる」
「いやいや俺たちが外に出てるから、セナはここで着替えて。着替え終わったら呼んで」
あろうことか、セナ様は自分が外へ行くなどと言い出した。外がどこを差すのかは分からないが、別室にしろ、廊下にしろ、暖炉の前であるここよりは寒いはずだ。そんな場所で裸に近い恰好になろうなどと。そんなことをラーフが許すわけもなかった。俺の首根っこを掴みながらラーフが外へ出る。やはり廊下は肌寒かった。
「せっかくセナ様の裸が見れるチャンスだったのに」
「こんなタイミングで見たら、抱きたくなるに決まってるだろ」
「そういうとこ、なんていうか真面目だよなぁ」
「真面目なんじゃない。セナに嫌われたくないだけだ」
自分の想いを遂げたとしても、それで嫌われては意味が無いのだとラーフは言う。セナ様から求められて、両想いになってからでないと、怖くて何も出来ないのだそうだ。
「……溺愛だなぁ」
「当然だろう」
なぜか偉そうに威張られた。寒さに耐える俺の横で、平然としているラーフ。よくよく見れば、魔法を展開して体の表面温度を上げていた。ずるいやつだ。
「ラーフ、着替えたよ」
扉の向こうから声がして、俺たちは入室する。そこには小さな紳士が立っていた。ラーフは駆け寄り、セナ様を間近で鑑賞する。くるくると周囲を回って、舐め回すかの如く入念に見ていた。
「とても可愛らしいよ、セナ」
「可愛い? 格好いいだろ!」
自身への評価に不満を漏らすセナ様が、ふいと顔を逸らす。だが、俺もラーフの評は正しいと思うのだ。セナ様は、とても可愛らしい。何故なのかは全く分からないが、不思議なことに、男装している女に見えるのだ。
「セナが誕生日会に来てくれるなんて、本当に嬉しいなぁ。本当は二人きりのパーティにしたいくらいだよ」
「シェイナ家の次期当主が何言ってるんだよ。みんなにお祝いしてもらってこその誕生日会だろ」
ちゃっかりとセナ様の腰の後ろに手を回して、抱き寄せている。そんな二人が笑いながら額をつけあうものだから、キスでもするのかと見ているこちらがドキドキしてしまった。
「来週が楽しみだな」
ラーフの誕生日会は来週に迫っていた。
セナ様がラーフを、エリアス城へ行こうと誘い、運転手として俺が随伴することになったのだ。昼頃に出発し、昼食としてセナ様が作って来てくれたバケットサンドを車内で食べた。優しいセナ様は俺の分も作ってくれて、更に、運転中でも食べやすいようにと小さく切ったものを用意してくれていたのだ。手渡しでバケットサンドを貰い、セナ様の優しさに浸っていると、バックミラーには殺意のこもった目で俺を見るラーフが映っていた。
エリアス城は見違えるほどに美しくなっていた。
ラーフが購入した時に様子を確認しているが、庭には草が無造作に生え、城内は煤だらけ。人の手を離れ、荒廃した状態となっていた。それが今では、庭は整えられ、城内は清潔な状態に保たれている。
「昔のままだ」
感嘆の声をあげたのはラーフだった。俺は二人がこの城で過ごした時のことをあまり知らない。俺はこの城には同行しなかったのだ。だが、ラーフが昔のままだと言うのであれば、きっとそうなのだろう。
「そう言ってもらえると、凄く嬉しい。父さんと二人で、頑張って掃除したんだ」
「二人で? 言ってくれたら手伝ったのに」
「ううん、そこまでお願い出来ないよ」
驚くべきことに、フィルリア親子がこの城をここまでの状態にしたのだった。当然、強い魔力を持つ二人のことだから、大いに魔法を使って効率よく清掃をしたのだろうが、それでもこの広い城をたった二人でというのは驚嘆に値する。
「ラーフを招待出来るようにするのが目標だったんだ」
はにかむように、セナ様が微笑んだ。ラーフがその笑みに悶絶しているのが、背中を見ているだけでも伝わってくる。
「またここに来ることが出来て嬉しいよ。ありがとう、セナ」
「こちらこそ、本当にありがとう」
こっちも見て、といってセナ様がラーフの手を取って歩き出す。セナ様は、ただ単に自分の頑張った結果を見てもらいたいだけなのだろうが、ラーフは手を握ってもらえたことの嬉しさで体温が上がり、耳まで赤くなっていた。変なところで純情なのだ、この男は。
セナ様の導きに従って中庭に向かう。噴水には水が無く、花も一切植えられていなかったが、芝生は丁寧に手入れされていた。冬が近づいているために、冷たい風が吹き抜ける。
「ここでよくセナに膝枕してもらったよな」
「ラーフは、ちょっとした傷でも、すぐ治してって膝枕をねだってた」
「傷はどうでも良かったんだよ。ただセナに膝枕してもらいたかっただけ」
「だろうなとは思ってた」
二人で向かい合ってくすくすと笑っている。とてもいい雰囲気だ。二人の手は繋いだままで、セナ様は城内へ導いた。エントランスホールを抜けて階段を上がる。二階の奥の部屋。そこは子供部屋だった。家具の全てが小さくて、可愛らしい。部屋の中の、更に奥にあるその部屋は寝室のようで、小さなベッドが二つ並んでいる。セナ様とラーフが懐かしそうにそのベッドを見た。
「驚いた。このベッド、こんなに小さかったんだな」
「びっくりするだろ? 俺もこの前掃除しながら驚いてた。……昔は、ひとつのベッドで二人寝れたのにな」
「試してみる?」
「ベッドが壊れるよ」
またしても笑い合っている。どうやら、ここはかつての二人の寝室であるようだ。話を聞くに、ラーフとセナ様はひとつのベッドで寝ていたらしい。小さな部屋には、二人の思い出がたくさん詰まっているようで、二人の口からは次々に思い出話が出てくる。そんな二人はとても幸せそうな顔をしていて、眺めている俺も幸せな気持ちになる。
その後も、セナ様の案内で色々な場所を巡った。
歩き回った果てに、リビングルームへとたどり着く。そのリビングルームには大きな暖炉があった。それに火をつけようとセナ様が魔法を紡ぐが、それよりも先にラーフが灯した。魔術師にはそれぞれ属性があり、水の属性を持つセナ様より火の属性を持つラーフの方が火を発生させるのは得意だった。ラーフに、ありがとう、と言いセナ様が言いラーフは、どういたしまして、と返す。
暖炉と対峙する形で置かれているソファに腰を下ろす。セナ様とラーフは随分密着していた。俺は少し離れた一人掛けのソファに座る。暖炉の中では火が爆ぜてパチパチと音を立てた。
「セナはこの暖炉を怖がったよな」
「大きすぎるんだよ。簡単に人が入れちゃうじゃないか」
「でも俺は、ここでセナと一緒に炎をぼうっと見てるのが好きだった」
「それは……俺も好きだった」
何でこの二人、付き合ってないんだろう。思わずそんな感想が浮かんでくる。ラーフはセナ様にぞっこんだし、セナ様だってラーフを憎からず思っているはず。もう付き合ってしまえばいいのに。男同士だということをすっかり忘れて、俺は無責任にもそんなことを思っていた。
「ラーフがここの所有者を俺にしてくれたけど、当然ここはラーフのものだ。人が住めるレベルに修復したから、いつでも好きに使って」
「セナ、この城は俺とセナのものだよ。俺はセナとしかここには来ない。セナと二人で過ごす場所にしたい」
「……たまには父さんも連れてきて良いか?」
「それはもちろん」
「ラーフも、お父さんを連れてきたらいい」
「あの人はいいよ」
ラーフは苦笑いをして流した。ラーフと御当主様は不仲な訳ではないし、反発している訳でもない。ただ、似過ぎているのだろう。所謂、同族嫌悪というやつだ。出来ることなら一緒にいたくない、とラーフは思っているようだった。
「セナ。ここはユギラからも近いし、これからはもっと頻繁に来れるよ。週末はここで過ごすのも良いと思わない?」
「確かに。良いアイディアだ」
二人は未来の話をしている。ユギラ大学校に進学した後の話を。二人が同じ未来を語っているということが、なんだか嬉しくて堪らなかった。
「ラーフの誕生日の前に、ここに連れてこれて良かった」
「素晴らしいプレゼントだよ」
「こんなのプレゼントって言わないだろ。……何か欲しいものないの?」
「セナがそばにいてくれるなら、それで十分」
「……またそういうこと言ってはぐらかす」
「本心なんだけどなぁ」
ラーフの言葉は、確かに本心だった。嘘偽りの一切ない本心。ただ、それがしっかりとセナ様には届いていないようで歯がゆくなる。せっかく今、いい雰囲気なんだから思ってること全部言えばいいのに、と己の主人に心の中で不満を漏らした。
「セナに渡したいものがあるんだ」
そう言って、ラーフはソファの前に置かれたローテーブルに触れる。そこで魔法を紡ぎ、移動魔法を展開した。ローテーブルの上に現われたのは、移動手段として乗ってきた車に置いておいた木箱だった。俺のような平凡な魔法使いだったら、魔法式を紡ぐのに一、二分はかかるものをラーフはものの数秒でやってのけた。やはり血が濃いというのは、単純な尺度として魔法使いの力の強さを表わす。
ラーフ以上に濃い血を持つセナ様もこれくらい簡単にやってのけるのだろう。特にラーフの魔法には驚いていなかった。けれど、突然現れた木箱に視線は釘付けだ。
「仕立てあがったんだよ」
木箱を開け、中に入っていたイブニングコートを見せる。その木箱の中には、一式が揃っていた。全てにラーフの指示が込められているものたちだ。庶民が吊るしで買う安物とは全く異なっている。不思議なことに、きらきらと輝いているように見えた。驚きのあまり、セナ様は言葉を失って、口に手を当てている。
「……こんな立派なもの、もらっていいのか?」
「勿論。セナのためのものだ。セナに受け取ってもらえないと困るよ」
少し冗談めかして、ラーフは軽く言う。セナ様の目は涙ぐんでいて、今にも泣いてしまいそうなのを必死で堪えているように見えた。己の服すら、まともに新調出来ないであろうセナ様の状況から考えれば、随分と過ぎたものもを贈ってもらったと感じていることだろう。
「ありがとう、ラーフ」
「せっかくだから着てみてよ」
「あぁ、分かった」
快く了承したセナ様は、その場でいきなりニットのセーターを勢いよく脱いだ。白い肌が晒されて、俺もその上半身を見てしまう。ぎょっとしたのは俺とラーフだった。
「ちょっと待って!」
慌ててラーフがセナ様のセーターを下ろす。突然のことにセナ様も驚いていた。この場の全員が驚いている。
「セナ、ここで脱ぐの?」
「え? あ、ごめん。流石にまずいか。じゃあちょっと外で着替えてくる」
「いやいや俺たちが外に出てるから、セナはここで着替えて。着替え終わったら呼んで」
あろうことか、セナ様は自分が外へ行くなどと言い出した。外がどこを差すのかは分からないが、別室にしろ、廊下にしろ、暖炉の前であるここよりは寒いはずだ。そんな場所で裸に近い恰好になろうなどと。そんなことをラーフが許すわけもなかった。俺の首根っこを掴みながらラーフが外へ出る。やはり廊下は肌寒かった。
「せっかくセナ様の裸が見れるチャンスだったのに」
「こんなタイミングで見たら、抱きたくなるに決まってるだろ」
「そういうとこ、なんていうか真面目だよなぁ」
「真面目なんじゃない。セナに嫌われたくないだけだ」
自分の想いを遂げたとしても、それで嫌われては意味が無いのだとラーフは言う。セナ様から求められて、両想いになってからでないと、怖くて何も出来ないのだそうだ。
「……溺愛だなぁ」
「当然だろう」
なぜか偉そうに威張られた。寒さに耐える俺の横で、平然としているラーフ。よくよく見れば、魔法を展開して体の表面温度を上げていた。ずるいやつだ。
「ラーフ、着替えたよ」
扉の向こうから声がして、俺たちは入室する。そこには小さな紳士が立っていた。ラーフは駆け寄り、セナ様を間近で鑑賞する。くるくると周囲を回って、舐め回すかの如く入念に見ていた。
「とても可愛らしいよ、セナ」
「可愛い? 格好いいだろ!」
自身への評価に不満を漏らすセナ様が、ふいと顔を逸らす。だが、俺もラーフの評は正しいと思うのだ。セナ様は、とても可愛らしい。何故なのかは全く分からないが、不思議なことに、男装している女に見えるのだ。
「セナが誕生日会に来てくれるなんて、本当に嬉しいなぁ。本当は二人きりのパーティにしたいくらいだよ」
「シェイナ家の次期当主が何言ってるんだよ。みんなにお祝いしてもらってこその誕生日会だろ」
ちゃっかりとセナ様の腰の後ろに手を回して、抱き寄せている。そんな二人が笑いながら額をつけあうものだから、キスでもするのかと見ているこちらがドキドキしてしまった。
「来週が楽しみだな」
ラーフの誕生日会は来週に迫っていた。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜
一優璃 /Ninomae Yuuri
BL
異世界での記憶を胸に、元の世界へ戻った真白。
けれど、彼を待っていたのは
あの日とはまるで違う姿の幼馴染・朔(さく)だった。
「よかった。真白……ずっと待ってた」
――なんで僕をいじめていた奴が、こんなに泣いているんだ?
失われた時間。
言葉にできなかった想い。
不器用にすれ違ってきたふたりの心が、再び重なり始める。
「真白が生きてるなら、それだけでいい」
異世界で強くなった真白と、不器用に愛を抱えた朔の物語。
※第二章…異世界での成長編
※第三章…真白と朔、再会と恋の物語
【完結】お願いします。探さないでください。
香澄京耶
BL
【3/19追記】番外編含め二部投稿・完結いたしました。 二部はルカ奮闘回となります。
----
幼馴染の勇者レオンに執着されている男、ルカ。
勢いで身体の関係を持ってしまったルカは、手紙を残して村を逃げ出した。
「お願いします。探さないでください。」
そう書き置きを残して。
だが勇者は諦めない。
逃げる商人と、執着する元勇者。
幼馴染ふたりのラブコメディ。
世界を救った勇者×村の商人
※画像はAI生成です。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。毎日18時50分公開予定です
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。