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ソファで眠り出してしまったセナを抱えて、ベッドへと連れて行く。そっと下して、シーツをかけた。胸は穏やかに上下している。寝息も健やかだった。
「セナ様、落ち着いたか」
頃合いを見計らい、ロキが静かに入室してきた。俺はベッドを離れ、ソファに戻る。ロキは暖炉に新たな薪を入れていた。セナが眠るこの部屋は、常に温かくしておかなければならない。水の属性を持つ者たちは皆総じて冷え性なのだ。
「あぁ、疲れてたんだろう。もう寝てる」
「そっか」
ロキも安堵の表情をしている。ロキにとっても、今日は忙しい一日となった。一日の最後の仕事は、セナに不埒なことをしようとしていた男を逮捕し、警察に引き渡しに行くことだった。ちゃんと痛めつけたのか、という俺の問いに対し、両手両足の骨を折った、と答える。少し足りない気がするが、及第点としておいた。
「お前、セナの下着を用意しておかなかったらしいな」
シャワールームにセナのバスローブを用意したのはロキだった。だが、ロキは下着の用意を怠っていたのだ。睨めば、びくりとロキの肩が震える。
「いや、セナ様のサイズの予備が無かったんだって!」
「……下を何もつけてないって気付いて、危うく勃ちそうだった」
横に座ったセナの太腿が見えて、俺は戸惑った。局部すら見えてしまいそうで、必死に視線を外したのだ。だが、ロキの言い分も分かる。セナはあまりにも体が小さくて、大柄な闘性魔術師だらけの我が家には、セナのサイズの衣類は用意がないのだ。
ソファから腰を上げて暖炉の傍を離れる。部屋の隅に置かれたベッドに向かった。小さくて可愛らしいセナが、俺の大きなベッドの中央で丸くなって眠っている。猫のような仕草で、とても可愛らしい。
「セナが俺のベッドで寝てるなんて……、信じられない」
「何時間でも見てられそうだな、お前」
「実際、見ていられる」
起こさないように気を付けながら、そっと頬に触れた。温かい。寒くはないようだ。肩が少し出ていたので、シーツを掛け直す。なんて穏やかな気持ちだろうか。
あまりじろじろと見ていて、視線を感じ取ってセナが起きてしまっても困るので、俺は静かにソファに戻る。ソファとベッドのそばを何度も行き来していた。まったくもって落ち着けない。幸福な気持ちが溢れて、なかなか眠気がやってこないのだ。一時はどうなるかと思ったが、結果的には良い誕生日となりそうだった。
「セナ様からの贈り物のクッキー、食べるか?」
「あぁ、そうだな」
ロキが気を利かせ、そんな提案を口にする。そういえば、誕生日会からずっと何も食べていなかった。空腹を意識すると、途端に腹が減って来るから不思議だ。ロキがセナのクッキーを持ってきて、紅茶を添える。鼻腔を良い香りがくすぐった。
星形のクッキーを一口含む。サクサクとしていて香ばしい。噛むたびに、香りが広がった。甘い匂いを発する薬草の類だろう。この匂いは、よくセナから発せられているものだった。
「美味い」
こんなに美味なものを、俺よりも先に食べていたアラウド教授に改めて腹が立つ。だが、量は俺の方が多い。幼稚な比較だが、それでも勝っているところがあって単純に嬉しい。
「セナは本当に料理が上手だな」
「俺も一枚食べたいんですけど」
「これは俺への贈り物だぞ、なんでお前に食べる権利があるんだ」
「器の小さい男だな」
「なんとでも言えば良い」
籠の中には、大量に星型のクッキーが入っているのだが、その中にひとつだけハート型のものがあることに気付いた。ハートをつかむ。ただひとつしかないそれは、まるでセナの真心であるかのように思える。自然と頬が緩んだ。こんなに可愛らしいサプライズに蕩けてしまわない男がいるのだろうか。
「こういうところが、細やかで可愛らしい」
「セナ様の淑やかさは、世の中の女性たちが裸足で逃げ出すレベルだな」
「有象無象とセナを比較することが、まず間違っている」
それから、何個かクッキーを食べた。もったいなくて一度にたくさんは食べられない。けれど、食べてしまわなければ腐ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。数日中に全てを口に入れねば。
「……んぅ」
ベッドの方から小さな声が聞こえて、慌てて駆け寄る。セナは目を開いてぼうっとしていた。意識がはっきりしていないようだ。虚ろな目で俺を見る。何度か瞬きしていた。
「セナ、起きたのか?」
「……お腹すいた」
どうやら空腹で目が覚めたようだった。起き上がろうとするセナを手伝うと、セナはベッドの上に座り込む。バスローブが着崩れていて、胸が晒されていた。驚くほどに白い肌に、薄桃色の突起が二つ。清らかな処女だって、こんなに綺麗な色はしていない。無防備に晒されるそれに、思わず俺は釘づけになっていた。
その甘やかな胸に口付けをしていいのなら、今すぐにでもそうしたい。下半身に熱が集まり出していることに気付いて、目を逸らした。必死になって平静を取り戻す。頭の中で難解な魔法式について必死に考察をしてみた。
「セナからの贈り物だが、作ってくれたクッキーを一緒に食べるか?」
「食べる」
バスローブの前を閉じ、装いを正してから手を引いて歩き出す。まだ頭の半分が寝ているのか、少し足取りがふらふらとしていた。セナが転ばないように、ゆっくりと進む。そしてソファの上に座らせた。
「セナ様、何か飲まれますか?」
「じゃあ……ココアを」
「畏まりました」
ロキは、従者然とした態度でセナに接し、セナが望んだココアのために部屋を出る。そしてすぐに戻ってきた。目の前に差し出されたココアのマグを両手で掴んで、ふぅふぅと息を吐きながらそっと口を付ける。その動作がどうにも愛らしい。
二人でクッキーを食べて、俺は感想を伝えた。セナは嬉しそうに笑っていた。クッキーを作るのは簡単なのだと、セナが作り方を教えてくれたのだが、俺にはどのあたりが簡単なのかさえ分からなかった。
「……ラーフはまだ寝ないのか?」
「もう少ししたら寝るよ」
「ベッド、占領してごめん」
「他にもベッドはあるし、気にしないで」
この部屋以外にも、客間はいくつもあるし、寝る場所には困らない。セナに気を遣わせないようにそう言ったのだが、セナは少しばかりむくれた顔になった。一体なにがそうさせたのか分からなくて、俺は焦る。
「一緒のベッドで寝ればいいだろ」
まさかの言葉だった。恥ずかしそうに顔を赤らめながら、それでいて不服そうに視線を逸らしつつ、セナはそんな言葉を口にしたのだ。俺のベッドは確かに大きいが、二人で並んで寝るにはやや狭い。二人で引っ付いて寝れば、眠れないこともないだろうが。
「昔みたいに、一緒に寝ればいい」
「……俺が言ったことの意味って、ちゃんと伝わってる?」
「俺を愛してるって言ったことの意味?」
「うん」
「……分かってるつもり」
「じゃあ、俺を試してるの? 俺が、無理やり抱くような男かどうかの確認?」
愛していると告げた男に、一緒に寝ようと言うなんて。もしかして、誘われているのかと思った。だが、違う。セナの言葉は、単純な同衾。幼い子供がするような添い寝のことだ。ならば、俺を試しているとしか思えない。俺の理性の度合いを計ろうとしているのだと、俺はそう考えた。
「違うよ」
セナは緩く首を左右に振って否定した。紫の瞳が暖炉の焔を眺めて、きらきらと輝いている。宝石のように美しくて、その瞳に見入ってしまった。
「俺自身を試してる」
「セナを?」
「そう。ラーフをどう思ってるのか、ちゃんと理解したくて」
隣で眠って、なんとも思わないのならば、それはただの親愛だと言うのだ。友情よりも少しばかり強いもの。けれど、愛欲は伴わない健全なものだ。それしか抱けないならラーフの想いには応えられないのだと思う、とセナは言う。
「ラーフは、俺を……抱きたいんだよね?」
「そうだよ」
俺は即座に返答し、セナを驚かせた。けれど、セナがそこまで理解を深めてくれていることに喜びを抱く。セナの言う通り、俺はセナを抱きしめたくて、キスしたくて、その体に触れたくて、己の熱を埋め込みたいのだ。
「俺だってもちろん、ラーフのことが好きだけど、ラーフに求められてるものと同じ感情を返せるのか、確認したいんだ」
神妙な面持ちでセナはそう言って、俺の手を引きながらベッドに向かった。俺は視線をロキに送る。その意味を察したロキは、部屋を出て行った。つまり、二人きりにしろ、という意味でロキを見たのだ。
二人でベッドに入って、小さなセナの体を俺が抱きしめる。鼻先をセナの頭に押し付けて、セナの匂いを嗅いだ。良い香りがする。セナは俺の胸にぴったりと顔を付けて、心音を聞いているようだった。体中が熱くなる。愛おしさが押し寄せてきた。
「……分かりそう?」
「少し時間がかかるかも」
「それでいいよ。焦って答えを出さないで。あ、それと。俺の下半身が硬くなっても、何もしないから怖がらないでね」
「分かった」
くすくすとセナは笑っていたが、俺は笑えない。実際にもう、下半身が硬度を持ち始めている。こういったことに疎いセナが俺のものに驚いて、もう嫌だ、なんて言われたら俺は立ち直れなくなる。そのために、先に断っておいたのだ。
「ねぇ……ラーフ」
「うん?」
セナが顔を上げて俺を見ていた。その目は少しばかり潤んでいて、妙に艶っぽい。そんな瞳で見つめられたら、こちらの身がもたないな、などと思いながらも俺もセナをじっと見つめ返した。
「あの……、魔力が欲しい……って言ったら、怒る?」
あまりの可愛らしい言い方に悶絶した。魔力が欲しい、などと言ってはいるが、それは、キスがしたい、という言葉と同義だった。魔力は血を分けることでも、性交によってでも譲渡が可能だが、この場合で言えば、セナは口付けによる魔力の譲渡を望んでいるのだ。
「怒らないよ」
怒る理由がない。確かに、セナは体力的にも精神的にも消耗が大きく、著しく魔力も落ちているだろうが、セナほどの濃い血を持つ者であれば一晩眠れば何もかもが回復しているだろう。それなのに魔力が欲しい、などといって口付けをせがむセナを、俺が怒れるとでも思っているのだろうか。
「でも、いいの? セナ、俺とそういうことしても平気?」
「……うん」
恥ずかしそうに頷くセナを、今すぐ組み敷きたい凶暴な欲に駆られるが、なんとかその気持ちを撲殺して抑え込む。
「ラーフとのキスは、気持ち良くて好き」
これ以上、この唇に言葉を紡がせてはいけないと思った。無自覚に俺を煽って困らせる。俺はセナの唇を塞いで、舌先を絡めさせた。セナもおずおずと舌で俺に触れる。俺とセナの間を魔力が通っていくのを感じた。
幼い子供などが、魔力の低下などに陥った場合に、こうして口付けを交わし状態を好転させることがあるが、幼子ではこんな下半身にくるようなキスはしない。
「俺も、セナとするキスが凄く好きだよ」
「もう一回、したいな」
「何度でも。セナが望むのなら」
俺たちは眠るまで、微笑みながらベッドに潜って、何度もキスをした。
「セナ様、落ち着いたか」
頃合いを見計らい、ロキが静かに入室してきた。俺はベッドを離れ、ソファに戻る。ロキは暖炉に新たな薪を入れていた。セナが眠るこの部屋は、常に温かくしておかなければならない。水の属性を持つ者たちは皆総じて冷え性なのだ。
「あぁ、疲れてたんだろう。もう寝てる」
「そっか」
ロキも安堵の表情をしている。ロキにとっても、今日は忙しい一日となった。一日の最後の仕事は、セナに不埒なことをしようとしていた男を逮捕し、警察に引き渡しに行くことだった。ちゃんと痛めつけたのか、という俺の問いに対し、両手両足の骨を折った、と答える。少し足りない気がするが、及第点としておいた。
「お前、セナの下着を用意しておかなかったらしいな」
シャワールームにセナのバスローブを用意したのはロキだった。だが、ロキは下着の用意を怠っていたのだ。睨めば、びくりとロキの肩が震える。
「いや、セナ様のサイズの予備が無かったんだって!」
「……下を何もつけてないって気付いて、危うく勃ちそうだった」
横に座ったセナの太腿が見えて、俺は戸惑った。局部すら見えてしまいそうで、必死に視線を外したのだ。だが、ロキの言い分も分かる。セナはあまりにも体が小さくて、大柄な闘性魔術師だらけの我が家には、セナのサイズの衣類は用意がないのだ。
ソファから腰を上げて暖炉の傍を離れる。部屋の隅に置かれたベッドに向かった。小さくて可愛らしいセナが、俺の大きなベッドの中央で丸くなって眠っている。猫のような仕草で、とても可愛らしい。
「セナが俺のベッドで寝てるなんて……、信じられない」
「何時間でも見てられそうだな、お前」
「実際、見ていられる」
起こさないように気を付けながら、そっと頬に触れた。温かい。寒くはないようだ。肩が少し出ていたので、シーツを掛け直す。なんて穏やかな気持ちだろうか。
あまりじろじろと見ていて、視線を感じ取ってセナが起きてしまっても困るので、俺は静かにソファに戻る。ソファとベッドのそばを何度も行き来していた。まったくもって落ち着けない。幸福な気持ちが溢れて、なかなか眠気がやってこないのだ。一時はどうなるかと思ったが、結果的には良い誕生日となりそうだった。
「セナ様からの贈り物のクッキー、食べるか?」
「あぁ、そうだな」
ロキが気を利かせ、そんな提案を口にする。そういえば、誕生日会からずっと何も食べていなかった。空腹を意識すると、途端に腹が減って来るから不思議だ。ロキがセナのクッキーを持ってきて、紅茶を添える。鼻腔を良い香りがくすぐった。
星形のクッキーを一口含む。サクサクとしていて香ばしい。噛むたびに、香りが広がった。甘い匂いを発する薬草の類だろう。この匂いは、よくセナから発せられているものだった。
「美味い」
こんなに美味なものを、俺よりも先に食べていたアラウド教授に改めて腹が立つ。だが、量は俺の方が多い。幼稚な比較だが、それでも勝っているところがあって単純に嬉しい。
「セナは本当に料理が上手だな」
「俺も一枚食べたいんですけど」
「これは俺への贈り物だぞ、なんでお前に食べる権利があるんだ」
「器の小さい男だな」
「なんとでも言えば良い」
籠の中には、大量に星型のクッキーが入っているのだが、その中にひとつだけハート型のものがあることに気付いた。ハートをつかむ。ただひとつしかないそれは、まるでセナの真心であるかのように思える。自然と頬が緩んだ。こんなに可愛らしいサプライズに蕩けてしまわない男がいるのだろうか。
「こういうところが、細やかで可愛らしい」
「セナ様の淑やかさは、世の中の女性たちが裸足で逃げ出すレベルだな」
「有象無象とセナを比較することが、まず間違っている」
それから、何個かクッキーを食べた。もったいなくて一度にたくさんは食べられない。けれど、食べてしまわなければ腐ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。数日中に全てを口に入れねば。
「……んぅ」
ベッドの方から小さな声が聞こえて、慌てて駆け寄る。セナは目を開いてぼうっとしていた。意識がはっきりしていないようだ。虚ろな目で俺を見る。何度か瞬きしていた。
「セナ、起きたのか?」
「……お腹すいた」
どうやら空腹で目が覚めたようだった。起き上がろうとするセナを手伝うと、セナはベッドの上に座り込む。バスローブが着崩れていて、胸が晒されていた。驚くほどに白い肌に、薄桃色の突起が二つ。清らかな処女だって、こんなに綺麗な色はしていない。無防備に晒されるそれに、思わず俺は釘づけになっていた。
その甘やかな胸に口付けをしていいのなら、今すぐにでもそうしたい。下半身に熱が集まり出していることに気付いて、目を逸らした。必死になって平静を取り戻す。頭の中で難解な魔法式について必死に考察をしてみた。
「セナからの贈り物だが、作ってくれたクッキーを一緒に食べるか?」
「食べる」
バスローブの前を閉じ、装いを正してから手を引いて歩き出す。まだ頭の半分が寝ているのか、少し足取りがふらふらとしていた。セナが転ばないように、ゆっくりと進む。そしてソファの上に座らせた。
「セナ様、何か飲まれますか?」
「じゃあ……ココアを」
「畏まりました」
ロキは、従者然とした態度でセナに接し、セナが望んだココアのために部屋を出る。そしてすぐに戻ってきた。目の前に差し出されたココアのマグを両手で掴んで、ふぅふぅと息を吐きながらそっと口を付ける。その動作がどうにも愛らしい。
二人でクッキーを食べて、俺は感想を伝えた。セナは嬉しそうに笑っていた。クッキーを作るのは簡単なのだと、セナが作り方を教えてくれたのだが、俺にはどのあたりが簡単なのかさえ分からなかった。
「……ラーフはまだ寝ないのか?」
「もう少ししたら寝るよ」
「ベッド、占領してごめん」
「他にもベッドはあるし、気にしないで」
この部屋以外にも、客間はいくつもあるし、寝る場所には困らない。セナに気を遣わせないようにそう言ったのだが、セナは少しばかりむくれた顔になった。一体なにがそうさせたのか分からなくて、俺は焦る。
「一緒のベッドで寝ればいいだろ」
まさかの言葉だった。恥ずかしそうに顔を赤らめながら、それでいて不服そうに視線を逸らしつつ、セナはそんな言葉を口にしたのだ。俺のベッドは確かに大きいが、二人で並んで寝るにはやや狭い。二人で引っ付いて寝れば、眠れないこともないだろうが。
「昔みたいに、一緒に寝ればいい」
「……俺が言ったことの意味って、ちゃんと伝わってる?」
「俺を愛してるって言ったことの意味?」
「うん」
「……分かってるつもり」
「じゃあ、俺を試してるの? 俺が、無理やり抱くような男かどうかの確認?」
愛していると告げた男に、一緒に寝ようと言うなんて。もしかして、誘われているのかと思った。だが、違う。セナの言葉は、単純な同衾。幼い子供がするような添い寝のことだ。ならば、俺を試しているとしか思えない。俺の理性の度合いを計ろうとしているのだと、俺はそう考えた。
「違うよ」
セナは緩く首を左右に振って否定した。紫の瞳が暖炉の焔を眺めて、きらきらと輝いている。宝石のように美しくて、その瞳に見入ってしまった。
「俺自身を試してる」
「セナを?」
「そう。ラーフをどう思ってるのか、ちゃんと理解したくて」
隣で眠って、なんとも思わないのならば、それはただの親愛だと言うのだ。友情よりも少しばかり強いもの。けれど、愛欲は伴わない健全なものだ。それしか抱けないならラーフの想いには応えられないのだと思う、とセナは言う。
「ラーフは、俺を……抱きたいんだよね?」
「そうだよ」
俺は即座に返答し、セナを驚かせた。けれど、セナがそこまで理解を深めてくれていることに喜びを抱く。セナの言う通り、俺はセナを抱きしめたくて、キスしたくて、その体に触れたくて、己の熱を埋め込みたいのだ。
「俺だってもちろん、ラーフのことが好きだけど、ラーフに求められてるものと同じ感情を返せるのか、確認したいんだ」
神妙な面持ちでセナはそう言って、俺の手を引きながらベッドに向かった。俺は視線をロキに送る。その意味を察したロキは、部屋を出て行った。つまり、二人きりにしろ、という意味でロキを見たのだ。
二人でベッドに入って、小さなセナの体を俺が抱きしめる。鼻先をセナの頭に押し付けて、セナの匂いを嗅いだ。良い香りがする。セナは俺の胸にぴったりと顔を付けて、心音を聞いているようだった。体中が熱くなる。愛おしさが押し寄せてきた。
「……分かりそう?」
「少し時間がかかるかも」
「それでいいよ。焦って答えを出さないで。あ、それと。俺の下半身が硬くなっても、何もしないから怖がらないでね」
「分かった」
くすくすとセナは笑っていたが、俺は笑えない。実際にもう、下半身が硬度を持ち始めている。こういったことに疎いセナが俺のものに驚いて、もう嫌だ、なんて言われたら俺は立ち直れなくなる。そのために、先に断っておいたのだ。
「ねぇ……ラーフ」
「うん?」
セナが顔を上げて俺を見ていた。その目は少しばかり潤んでいて、妙に艶っぽい。そんな瞳で見つめられたら、こちらの身がもたないな、などと思いながらも俺もセナをじっと見つめ返した。
「あの……、魔力が欲しい……って言ったら、怒る?」
あまりの可愛らしい言い方に悶絶した。魔力が欲しい、などと言ってはいるが、それは、キスがしたい、という言葉と同義だった。魔力は血を分けることでも、性交によってでも譲渡が可能だが、この場合で言えば、セナは口付けによる魔力の譲渡を望んでいるのだ。
「怒らないよ」
怒る理由がない。確かに、セナは体力的にも精神的にも消耗が大きく、著しく魔力も落ちているだろうが、セナほどの濃い血を持つ者であれば一晩眠れば何もかもが回復しているだろう。それなのに魔力が欲しい、などといって口付けをせがむセナを、俺が怒れるとでも思っているのだろうか。
「でも、いいの? セナ、俺とそういうことしても平気?」
「……うん」
恥ずかしそうに頷くセナを、今すぐ組み敷きたい凶暴な欲に駆られるが、なんとかその気持ちを撲殺して抑え込む。
「ラーフとのキスは、気持ち良くて好き」
これ以上、この唇に言葉を紡がせてはいけないと思った。無自覚に俺を煽って困らせる。俺はセナの唇を塞いで、舌先を絡めさせた。セナもおずおずと舌で俺に触れる。俺とセナの間を魔力が通っていくのを感じた。
幼い子供などが、魔力の低下などに陥った場合に、こうして口付けを交わし状態を好転させることがあるが、幼子ではこんな下半身にくるようなキスはしない。
「俺も、セナとするキスが凄く好きだよ」
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